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喜多八のネター「膝栗毛」のネタ帳などより。

 柳家喜多八のネタを、自分のブログの記事などで振り返っていた。

 いろんなネタを楽しませてもらったし、そのマクラも楽しかったことを思い出す。

 ちなみに、持っている音源は、フジポッドお台場寄席から入手していた『欠伸指南』『代書屋』『旅行日記』の三席。
 通勤の電車の中で携帯音楽プレーヤーで聴いていたが、この中では、『欠伸指南』が良いなぁ。

 この音源では、最初にあの人の声を聴くことになる・・・今では、懐かしい、という思い。

 喪失感が郷愁に移行するには、それ相応の時間が必要だろう。

 居残り会仲間は、皆さん喜多八のファンだったので、結構、落ち込んでいるのが、メールのやりとりで伝わってくる。

 喜多八という噺家は、他の噺家さんとの落語会で、存在感を発揮した。
 入船亭扇遊、瀧川鯉昇との睦会、そして、柳家喬太郎、三遊亭歌武蔵との落語教育委員会は、多くの固定客も動員した、人気落語会だったように思う。

 私は、鯉昇との座間での二人会を、何度か聴くことができた。
 きっと、仲がいいんだ、あの二人(^^)

 もちろん、独演会も多かったと思うが、なんといっても、喜多八が大きく飛躍するきっかけになったのは、博品館劇場での<喜多八膝栗毛>だろう。

 平成19年から東京音協主催で始まり、その後、担当されていた方が独立された「いがぐみ」の主催に替わった。

 三年前、2013(平成25)年5月8日の会で、受付で過去のネタ一覧表を配ってくれた。
2013年5月9日のブログ

 平成19年5月29日の会から、平成25年2月28日の会までの23回について、開口一番や色物さんなども含むネタ一覧である。

 その「ネタ帳」を元に、喜多八のネタだけを並べてみたい。
 なお、それぞれの回には、たとえば「春之巻」とか「秋之陣」というお題がついているのだが、開催日のみを記載することにする。

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平成19年 5月29日 粗忽の釘 子別れ
平成19年 7月17日 いかけ屋 おすわどん お化け長屋
平成19年10月10日 片棒 茄子娘 品川心中
平成20年 2月 1日 近日息子 棒鱈 厩火事
平成20年 4月30日 たけのこ 宮戸川 景清
平成20年 7月29日 船徳 かんしゃく 鰻の幇間
平成20年 9月16日 咄家の夢 盃の殿様 廿四考
平成21年 2月25日 長短 がまの油 文七元結
平成21年 5月21日 だくだく 将棋の殿様 百川
平成21年 7月17日 夕涼み 欠伸指南 千両みかん
平成21年10月14日 もぐら泥 目黒の秋刀魚 明烏 *終演後に還暦の誕生祝あり
平成22年 3月 8日 鈴ヶ森 お見立て 二番煎じ
平成22年 7月28日 ラヴレター 小言念仏 らくだ
平成22年 9月14日 旅行日記 ぞめき 井戸の茶碗
平成23年 1月12日 代書屋 やかんなめ お直し
平成23年 4月11日 蜘蛛駕籠 仏の遊び 笠碁
平成23年 7月13日 へっつい幽霊 寝床 三味線栗毛
平成23年11月 7日 長屋の算術 付き馬 死神
平成24年 1月31日 弥次郎 味噌蔵 五人廻し
平成24年 5月16日 長命 宿屋の仇討 鼠穴
平成24年 8月23日 粗忽長屋 青菜 乳房榎-おせき口説-
平成24年11月20日 黄金の大黒 一つ穴 火事息子
平成25年 2月28日 替り目 夢金 小言幸兵衛
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 ネタが豊富だったことを、再認識する。
 私にとってこの会の最後となった平成25年の5月8日は、唖の釣り、三人旅-びっこ馬-、猫の災難、だった。

 ちなみに、私は平成23年の11月の会が、この会に行った最初。
 翌年は、5月、8月、11月、と結構行ったなぁ。

 特定の噺家さんを、結構続けて聴いていた時期で、雲助も相当行ったし、ブログを書く前は、小朝の会などにもよく行った。

 この<膝栗毛>の元になる独演会があったらしい。
 居残り会の常連I女史は、いつも元気に歌舞伎、能、狂言、落語、旅行と八面六臂の方だが、まだ、喪失感にさいなまされているようだ。
 I女史は、この会が始まるきっかけになったと察する平成18年9月26日から三日連続の独演会にもいらっしゃったらしい。
 喜多八がよく使った科白を借りるなら、「昨日今日の喜多八ファンじゃない」のだ。

 I女史から、2006年の会のネタや出演者などをメールで教えていただいた。
 喜多八、三日通しのトリネタは、「吉原百人斬り」を元にした歌舞伎を題材にした噺。

 初 日 五人廻し
     籠釣瓶花街酔醒(かごつるべ さとのえいざめ)(上)
 二日目 宿屋の富
     籠釣瓶花街酔醒(中)
 三日目 首提灯
     籠釣瓶花街酔醒(下)

 初日のゲストが小朝、二日目は志の輔、そして楽日は師匠の小三治だったとのこと。

 この独演会で博品館を満席にしたことで、翌年から四季に一度づつの「膝栗毛」が始まったのだろう。

 あらためて「膝栗毛」のネタや、他の落語会、寄席の高座の記録を読み返すと、喜多八が他の追随を許さないと思う演目や、彼ならでは、というネタがたくさんあったなぁ、と思う。

 泥棒ネタの『鈴ヶ森』『もぐら泥』は、当代随一だったのではなかろうか。
 私が最後に聴いた『やかんなめ』も、決して師匠にヒケをとらなかったと思う。
 『鋳掛屋』は、文化放送の「かもめ亭」で白酒との二人会で聴いたが、大いに笑った。
 また、好みはあるだろうが、無言の芸や科白のフェイドアウトが巧妙だった『長命(短命)』も、私は好きだった。
 泥棒ネタ、若旦那ネタ、廓噺などに加え、長講の人情噺、怪談噺にも挑めば、寄席に相応しい滑稽噺、独自のネタと言ってよいのだろう、『夕涼み』(上方の『遊山船』が元)や『ぞめき』(『三人兄弟』が元)などもある。

 <膝栗毛>のプログラムでお馴染みの本田久作による新作『仏の遊び』は、2013年に中野で開催された三三との二人会で聴いたが、その年のマイベスト十席に入れるかどうかを最後まで迷った見事な高座だった。

 志ん生のネタにあったことが後で分かった『長屋の算術』は、初めて聴く噺だった。あのネタ、誰かが継いでくれるのだろうか。


 私が年末に選んでいるマイベスト十席では、2010年に『船徳』と2012年に『付き馬』を選んでいる。

 2010年9月28日の国立演芸場での「睦会」(当時は東京音協主催)の『船徳』について、こう書いていた。
2010年9月28日のブログ

喜多八(18:49-19:24)
この人のこの噺は初めて。珍しく“病弱ネタ”のマクラはなく、「噺には旬というものがあって、まだ大丈夫かと思っていたら急に気候も変わって・・・これまでに二三回かけたのがちょうどいい練習になって、そろそろちょうどいい出来になっているだろうと・・・」という前口上で本編へ。口上通りの結構な喜多八『船徳』だった。特に、徳が船頭として悪戦苦闘する中で“切れ”かかるところが、この人らしい味。持ち味も口調も違うが先代の馬生師匠の音源を思い出した。船の二人の客が石垣を登る前でサゲたが、違和感はない。こういう噺を聞くと、この人の持つ底力のようなものを感じる。

 2012年の『付き馬』は、7月4日に開催された「柳好十八番~四代目春風亭柳好トリビュート~ 」の高座だ。あら、こちらも国立演芸場だ。
2012年7月5日のブログ

 あの会は、全体として、実に良かった。

 喜多八の高座については、こんなことを書いていた。
柳家喜多八『付き馬』 (19:15-19:47)
 やや恥ずかしがりながら、「落語をやらせていただきます。」で始めた。楽屋に川崎の師匠のお嬢さんが来られていて、了解をいただいたらしい。「虚弱体質を装ったのは、実は川崎の師匠を真似した」とのこと。これ初めて聞いた。座談会でも裏付けられたが、喜多八は、よほど好きだったのだなぁ、先代柳好が。
 9分のマクラから、これまた、ちょうど会場に来る間に聴いていたネタ。しかし、構成や語り口、スピード感など、すべからく喜多八の噺であり、それがまた頗る結構だった。本編は二十分程度だったが、牛太郎相手に一方的にしゃべくりまくり、「若さがないねぇ」などと小言を言い続ける男が、吉原から仲見世~田原町まで、「湯屋」-「食堂」-「早桶屋」への場面展開が見事だった。早桶屋の主に、独特の大声で「おじさ~ん」と叫ぶ場面も楽しいし、牛太郎が「図抜け大一番小判型」を背負う姿でも笑わせる。短いネタに川崎の師匠への思いを込め凝縮された高座、今年のマイベスト十席候補としたい。これだけ明るいこの噺を初めて聞いた。喜多八の真骨頂である。

 この“明るい”『付き馬』の“源(みなもと)”を、翌年聴く僥倖に巡り合った。
 師匠、小三治のこの噺だ。
 神奈川県民ホールで2013年月25日に開催された「県民ホール寄席 300回記念 柳家小三治独演会」の『付き馬』の、なんとも楽しかったこと。
2013年9月26日のブログ

 あの高座により、喜多八は間違いなく小三治の弟子だ、などと思ったような気がする。

 だから、忘れてはいけないのが、「マクラ」だ(^^)

 昨年のマイベスト十席で、初めて「まくら大賞」を贈呈したのが、2015年1月10日「ざま昼席落語会」、鯉昇との二人会における『親子酒』のマクラだ。
2015年1月11日のブログ
 最近は、何かと野暮用があってこの会に行けていないのだが、たぶん、パイプ椅子を隅々まで並べた380名というあの日の大入りの記録は、破られていないのではなかろうか。

 せっかくなので(?)、その時の記事から、「まくら大賞」となった、「正しい立飲み(かぶと)の作法」を再び引用。

「かぶと」(酒屋の立飲み)での本寸法の飲み方を満員の客席に情熱的に披露。
 せっかくなので、記録しておきたい。
 (1)前提条件
  分厚いガラスの角ばったグラスに注がれた酒がこぼれて、ガラスの受け皿に
  こぼれている
 (2)グラスを持つ左手とつまみの右手  
  グラスを持つのは左手でなくてはならない。右手はつまみを持つために必要。
  つまみがなくて、右手の指をしゃぶってでも五合は飲める。
  喜多八殿下は、右手の指は風呂に入っても洗わない。
 (3)グラスの底
  こぼれて受け皿にある酒がグラスの底についているのを、皿の端で切って
  から、飲む。
 (4)受け皿にこぼれた酒の処置
  グラスから酒を飲み、減った量と受け皿にこぼれている量が同じになった
  ところで、皿の酒をグラスに注ぐ。早くても、遅くても、いけない。
 (5)持ったグラス
  一度左手で持ったグラスは、飲み終わるまで下に下ろさない
 (6)つまみ
  酒屋の口が斜めに向いたガラス瓶に入ったアタリメや豆で飲むが、
  先輩たちは、がま口の中にアタリメが入っており、他の客にも配る。
  食べると、十円玉の緑青の味がする
 (7)酒は二杯まで
  一軒のかぶとでは二杯まで。もっと飲みたければ別の店へ行くのが礼儀

 どうです。なんと深~いものが、“かぶと”の作法にはあるのです^^

 こんなことは、学校では教えない。
 焼き鳥の正しい食べ方、なんてぇのも寄席のマクラでよく聴いたなぁ。

 そうそう、喜多八はマクラで寄席のことを、数少ない「大人の遊び場」と表現していたが、まさに、彼は、数少ない大人の噺家さん、だったと思う。

 あぁ、あの高座が、もう見られない、聴けない・・・・・・。

 振り返ることで、そして、いろんな方のブログなどを拝見して新たな発見をすることで、その存在の大きさが、ズシンズシンと腹の底に伝わってくるようだ。
 
 私はせいぜい「昨日今日」の喜多八ファンなのだが、訃報を聞いて以来、出囃子「梅の栄」が耳の奥で鳴り響いている。

Commented by saheizi-inokori at 2016-05-25 23:40
あれ、口を持っていくんじゃなかったっけ。
喜多八に叱られそうです。
今日の落語研究会会場には喜多八の大きな写真が三枚かざられていました。
メールで送ったら帰ってきちゃったなあ。
Commented by YOO at 2016-05-26 01:01 x
私も寄席で聞いた、「やかんなめ」「鈴ケ森」「夢の酒」がたまりませんでした。
またいつでも聞けると思っていたのに・・・。
Commented by kogotokoubei at 2016-05-26 01:04
>佐平次さんへ

口を持っていく・・・んだったかな?

写真の送り先の件は、別途ご連絡します^^
Commented by kogotokoubei at 2016-05-26 01:13
>YOOさんへ

数年前にも危機を脱しましたから、今回も、と祈っていましたが残念です。
日が経つにつれて、ますます、寂しくなります。
得がたい噺家さんでした。
Commented by nansemi at 2016-05-26 22:22 x
4月神楽坂での喜多八師匠の姿が目に焼き付いたままです。
会場入りして主催者らしき人に手を貸してもらいながら
エレベーターに乗り込んだその姿。
家内とともに絶句してしまいました。
その1時間後には高座の上の元気な喜多八師匠でしたが...。
今年に入ってからの覚悟を感じさせた姿勢を思うと言葉に詰まります。
私以上にファンである家内に喜多八師匠の話をすると
今でも涙ぐむので「やかんなめ」や「棒鱈」のCDを
聴けるようになるにはもう少し時間がかかりそうです。

喜多八師匠の思い出をひとつ。
一年前に10日間で三度「うどんや」を聴いたことがありました。
最初は寄席の浅い出番でした。
途中で切るのかと思いましたが、最後まできっちりやりきりました。
二度目は翌日の博品館での膝栗毛。 
前日はこの日のためのおさらいだったんでしょう。
三度目は一週間後の地方での独演会。
さすがにまたか~と思いましたが、意外にもこの日が一番いい出来でした。
いくらか冗長さを感じた前二回とは違い、
しっとりとした中にもメリハリのある噺になっていました。
同じ演者で同じ噺なのに、印象がかなり違いました。
三度目の「うどんや」、また聴きたかったなぁ。
Commented by kogotokoubei at 2016-05-27 12:14
>nansemiさんへ

コメントありがとうございます。
神楽坂の会、私は行けませんでしたが、居残り会仲間の佐平次さんとYさんのお二人も行かれたようです。
会場入りの、舞台裏の姿に出遭われたのですね・・・・・・。
「今年に入ってからの覚悟」という印象、まったく同感です。

奥様の心中、お察しします。
音源を聴くことのできる私は、せいぜい「昨日今日」の喜多八ファン、ということでしょう。

「うどんや」ですか。
きっと、師匠譲りで結構な高座だったことでしょう。

いろんなことを書いているブログですが、今後も気軽にお立ち寄りください。

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by kogotokoubei | 2016-05-25 21:47 | 落語家 | Trackback | Comments(6)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛