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テキヤの符牒など-ふたたび『浮世断語』より。


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三遊亭金馬 『浮世断語』

 三代目三遊亭金馬の『浮世断語』を引用して符牒のことを書いたが、同じ章にテキヤの符牒のこともあったので、寅さん大好きな私は、ぜひ紹介したくなった次第。

 テキヤさん、縁日やさんの符牒にはおもしろいのがある。
 口上をつけて売るのを「三寸」とも「タンカバイ」ともいう。タンカは、浪花節の対話もタンカというが、辞苑には「啖呵=勢い鋭く歯切れのよいことば。江戸っ子弁でまくしたてる、路傍にたって大声にて口上をいう」としてある。「バイ」は商売、「三寸」は舌三寸で売るという意味もあるが、障子の桟のような物を並べて、その上へ品物を乗せるともいう。
 縁日で売る飴やさんを俗に「コロビ」、飴を「ネキ」、作ることを「デッチル」、つまり「ネキデッチ」
 ゴム風船を「チカ」、紐をつけて上げる、つまり「アゲチカ」、おなじ風船でも水のなかへ入れて釣らせるのは「ボン釣り」
 金魚釣りは「赤タンポ」
 「ナキバイ」、これは「サクラ」といって仲間が二、三人いる。
「よいナメ棒だ。このナタはいくらだい、俺は床屋の職人だぞ」
 うそばっかり、これも同じ仲間のサクラである。ナメ棒もナタも剃刀のことである。
 ぼくはテキヤさんのタンカを聞いて歩くのは大好きで、うまいのがあって思わず聞き惚れる。
 浅草公園で俄雨にあって、見ると蝙蝠傘をタタキ売りしている。前は大勢人が立っているので、後ろから、
「その傘一本下さいな」
 というと、その男が振り向いて、
「ああ師匠、この傘はシケモノだ、デッチモノだ、セコモノだからお止しなさい」
 と符牒をいう。よく考えてみると、この男は前に咄家の前座をやっていた男である。「シケモノ」と「セコモノ」は悪い品、「デッチモノ」はこしらえ物というわけだ。

 子供の頃、縁日が大好きだった。
 私の故郷では、「蝦蟇の油」売りではなく「ハブ液」売りのオジサンがよく来ていて、飽きずに日がな一日見ていた記憶がある。
 袋に入ったハブが、いつ登場するかを待っていたのだ(^^)
 屋台では型抜きにはまったこともあったなぁ。
 あのソース焼きそばや味噌おでんが美味しかったのも、縁日という場所のせいだったのだろう。

 「ナキバイ」「サクラ」のことからは、「男はつらいよ」で、寅次郎と関敬六扮するポンシュウとの掛け合いを思い出す。

 寅とポンシュウといえば、今週土曜BSジャパンの寅さんは、あの傑作「口笛を吹く寅次郎」である。
BSジャパンのサイトの該当ページ

 この作品にタンカバイは登場しない。しかし、松村達雄扮する住職が二日酔いで檀家の法事に行けなくなり、寅が納所坊主(-なっしょぼうず-寺の会計や庶務をする人、あるいは下級の坊主のこと)に化けての見事な和尚ぶりが、実に可笑しいのだ。

 なんとか読経を誤魔化した後の科白が、「天に軌道があるごとく、人それぞれに運命の星というものを持っております」なんてぇんだから、これは、タンカバイです(^^)

 住職役の松村達雄の演技も実に良い。二代目おいちゃんの時はプレッシャーもあっただろうが、肩の荷を下ろしたような印象。

 なお、以前の記事で、この作品のロケの後、和尚の衣装のままの渥美清と関敬六が仏具屋さんを訪れたという逸話を、小林信彦著『おかしな男 渥美清』から紹介しているので、ご興味のある方はご覧のほどを。
2015年6月21日のブログ

 符牒のことで、あえて一言。
 私は、その商売や芸能の伝統や歴史を知る一貫として符牒を知ることが楽しいのであって、通ぶって使おうと思っているわけではない。
 たとえば寿司屋で、他の客が「アガリ」や「ガリ」「ムラサキ」、そしてお勘定の際に「オアイソ」などと言うのを耳にすると、その客を睨みつけたくなる。
 あくまでも符牒は、その世界の人たちが使う言葉であり、素人が使ったら、寅さんじゃないが「それを言っちゃぁ、おしまいよ!」なのだ。

 そういう客こそ、「セコイ」「キンチャン」なのである。


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by kogotokoubei | 2015-08-18 12:19 | 落語の本 | Trackback | Comments(0)

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