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噺の話

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『雛鍔』や雛祭りのこと-矢野誠一著『落語歳時記』より。

 4月19日が、旧暦(太陰太陽暦)の3月1日。1月から3月までが春、だから晩春。
 21日が旧暦三月三日、雛祭り。

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矢野誠一著『落語歳時記』(文春文庫)

 矢野誠一さんの『落語歳時記』は、文字通り座右の書。
 
 先日、池袋で円太郎の高座を楽しんだ春らしいネタ『雛鍔』。
 
 本書にこの噺に因んだなかなか興味深いことが書かれているので紹介したい。

 近松の浄瑠璃には、金にものをいわせる人間がちょくちょく出てくる。むろん悪役である。
 『冥土の飛脚』で亀屋忠兵衛が、新町の見世女郎梅川を身請けしようと御法度の封印切りを犯したのも、丹波屋八右衛門という金にものをいわす男の挑発にのってしまったからである。
 金にものをいわせるなどは、人間としてあまりほめたことではない。だが、できることなら金にものをいわされるよりも、ものをいわせる身分の側にまわりたい気持ちは、だれもがもっている。金にたいする欲求は、どんな人間にもあるのだ。
 その点、落語のほうは、
   江戸っ子の生まれそこなひ金をため
 で、みんなすましてしまうのが特徴だ。まことにうがったもので、金銭に淡白な江戸っ子の気質をよく描いている。とはいうものの、どうも一面、この川柳は金に縁のない江戸っ子のひがみのようにも受けとれる。なるほど、金というものは魔物で、これがためにさまざまな悲劇が生じ、人間性を失わせるなどの例は枚挙にいとまがない。かといってこれくらい、あればたのもしいものもほかにない。金はいくらあっても邪魔になるものではないのだ。『巨泉・前武のゲバゲバ90分』というテレビ番組にコントに、常田冨士男という珍なる役者が、
「金さえありゃ、貧乏なんて、ちっともつらかねえな」
 と一言つぶやくだけのギャグがあって、思わずふき出したものだが、考えてみれば、これほどの真理もない。
 貧乏人の側から見ると金持ちのやることは、ただあこがれの感情が先にたち、なんとかそうありたいと願うばかりだが、自分の身のほどを知らずに下手にそれを真似ると滑稽なことになる。そんな貧乏人の失敗ばなしでおなじみの落語に『青菜』とこの『雛鍔』があるのだが、その主人公がどういうわけか両方とも植木屋というのは単なる偶然だろうか。


 『雛鍔』という落語から連想することはいろいろあるだろうが、矢野さんは、短い文章で、近松の世界の“金”、そして落語的なるものの“金”について比較して描き出し、かつての良質なテレビ・バラエティ番組の懐かしい名言まで登場させる。

 雛祭りについて、次のように書かれている。

 雛祭りは三月三日、上巳の日。五節句のひとつである。もともとは、中国から伝来したといわれるが、民間に定着したのは、元禄、享保以降で、十一代将軍家斉に女児が多かったことなどから、文化、文政には最盛期だったといわれる。
 人形は、内裏雛を中心に、三人官女、五人囃子、矢大臣、三人使丁。ほかに、屏風、雪洞、左近の橘、さらに調度品として、重箱、箪笥、長持ち、挟箱、鏡台、書棚、机、御所車などをごたごたとかざる。そして、菱餅に白酒。


 雪洞(ぼんぼり)なんて漢字は、なかなか書けないね。
 御所車と聞くと、『こんにゃく問答』でお馴染みの寺の符牒を思い出す。「中に君(黄身)がおわす」で、玉子のことだ。

 今時、これだけ揃った立派な雛段を飾る家は、そう多くはないだろうなぁ。
 もちろん、それは江戸の昔も同じで、長屋暮らしの植木屋では、三段飾りも無理だろう。

 だからこそ、穴あき銭を見たお屋敷の若様が、「丸くって、真ん中に四角な穴があいて、表には字があって裏には波がある。え?これは一体なんだろう?・・・あっ、お雛様の刀の鍔だ」と言うのを聞いた植木屋は、何かというと「小遣いおくれ」「おあし、おくれ」とせがむ息子と対比し、「ふ~っ」っと、ため息をつくのだ。

 しかし、「くらべたところで、しょうがねぇ」と諦めが早いのも江戸っ子のとりえ。

「金さえありゃ、貧乏なんて、ちっともつらかねえな」という常田冨士男の一言は、まるで江戸っ子の科白ではないかと思わせる。
 ゲバゲバや、もっと遡ってシャボン玉ホリデーなど、テレビで良質のバラエティ番組があったことも、この本を読んで思い出した。
 ああいう番組には、落語の世界に相通ずるものがあったように思う。

 その名も植木等が父親役、石橋エータローの母親、そこに旦那役のハナ肇が訪ねているところへ、子役の谷啓が穴あき銭を持って「こんなもん、拾った! こんなもん、拾った!」と帰ってくる場面を想像してしまった^^
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by kogotokoubei | 2015-04-18 07:16 | 落語の本 | Comments(0)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛