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柳家小満んの会 関内ホール(小ホール) 3月18日

 昨年11月以来の、関内での小満んの会。
 ホールの改装のため1月の会がなかったため、今年最初の開催となった。改装により、一席目のマクラで小満んも話題にしていたが、椅子が新しく、少し大きくなったようにも思う。すわり心地は悪くない。
 ロビーのモニターで、林家扇兵衛の開口一番『牛ほめ』を眺めながら、コンビニで買ったおにぎりを食べ終わったところで、I女史がいらっしゃってご挨拶。開口一番が終ってから、一緒に会場へ。お客さんの入りは、五分から六分ほどか。自由席なので、どこでも座れるのはありがたいが、もう少し入ってもいいように思うなぁ。

 さて、ネタ出しされていた三席、順に感想などを記したい。

柳家小満ん 『樊會』 (27分 *18:47~)
 別名を『支那の野ざらし』。小満んの十八番の一つとは聞き及んでいたが、初めて聴く。また、先日記事を書いた野村無名庵『落語通談』の「落語名題総覧」496席にあるネタのうち、聴いたことのない噺の一つでもあったので、嬉しい限り。
 とにかく、地口が満載で楽しい噺。
 今日一般的に演じられる『野ざらし』は、原話を元に禅僧出身の二代目林家正蔵が改作したものを、‘鼻の円遊’と言われた初代三遊亭円遊が爆笑噺としたもの。この噺の原話は中国・明代の笑話本『笑府』にあって、最初の骨が楊貴妃。しかし、二つ目の骨が原話で張飛なのだが、この噺では樊會になる。原話のサゲは、やや下品な地口。上方の『骨つり』では、石川五右衛門が登場して原話に近いサゲが残っている。
 小満んは、項羽と劉邦が争っていた時代、劉邦の部下だった樊會が鴻門の会で主人劉邦を救った逸話を紹介。 
 受付で頂戴した可愛いプログラム(?)にある説明の一部を引用。

 樊會は漢初の武将で高祖劉邦に仕えて戦功を立て、鴻門の会では劉邦の危急を救い、劉邦が漢王に成るに及び舞陽侯に封ぜられた。
 劉邦が項羽との会談を敵地の鴻門の会で行った時、樊會は表に待たされていたにだが危機を察して中へ乗り込んで行ったのである。
  (中 略)
 ○鴻門の会食い逃げを高祖する
 樊會が大酒を飲んで項羽の度肝を抜いている間に、劉邦は厠へ立ちそのまま鴻門を脱した。
 ○鴻門が来ぬと鞘へは納まらず
 ○鴻門の帰り樊會くだを巻き
 安宅の関の弁慶さながらの働きをした樊會は、帰路でさぞ劉邦に管を捲いた事だろう。


 こういう資料や、マクラでの説明が、この会の手作り感と気配りを表している。
 マクラでは、サゲにつながる言葉「我が骸骨を乞う」についても説明。これは、辞職の言葉で、「身をささげて仕えた身だが、老いさらばえた骨だけは返して欲しい」、という意。それらの噺に必要なマクラ8分ほどで、本編へ。
 中国のお箪笥長屋の引出し横丁に住む二人が中心人物。通常の『野ざらし』でたとえると、尾形清十郎が聘珍樓、八五郎が崎陽軒。この名前からして、すでにシャレなのである。それも、地元横浜にちなんだ名づけが憎い^^
 釣り好きの聘珍樓が、太公望で有名な渭水で釣りをしたが坊主で、帰ろうとして馬嵬(ばかい)の浜で骸骨を見つけ、ふくべの紹興酒をかけて回向した、という筋書き。夜になって楊貴妃が聘珍樓を訪ねてきたのを隣の崎陽軒が壁に穴をあけて覗き見し、翌朝、「夕べの女はなんだ?」と尋ねる。我もと思う崎陽軒が馬嵬の浜へ。大きな骸骨を見つけて、ふくべから茅台酒(マオタイシュ)をかけ弔った。さて、夜、ピータンとザーサイで一杯やりながら待っていた崎陽軒を訪れたのは、なんと七尺あまりの大男、樊會。
 さすがに小満ん、中国の原話や、上方の『骨つり』などの下品なサゲではなく、「我れ骸骨を乞う」の言葉を使ってサゲた。やや下品な地口のサゲを替えたのは、品や粋を大事にすると思われるこの人ならではだろう。
 とにかく、演じている小満ん自身が楽しそうなのが良い。楊貴妃が聘珍樓の肩を叩く「トントコトントコトントントン」などの擬音も可笑しい。朝になるのを、「一番鳥が東天紅」や、「早朝もまな板も中華鍋もないよ」といった科白も実に楽しい。
 また、この噺は川柳や歴史の知識など、豊富な引き出しを持つ小満んの持ち味が存分に発揮された噺だった。渭水について太公望のことを引き合いにし、「覆水盆に返らず」ということわざが登場したりするのもこの人ならでは。
 小品ではあるが、原話に近づけながらも、独自の演出で楽しませてくれた高座、今年のマイベスト十席候補とする。

柳家小満ん 『花見小僧』 (31分)
 一度下がってから、再登場。『おせつ徳三郎』の上。仲入りを挟んでの通しになる。
 実は、小満んのこの噺の通しは、2012年3月、国立演芸場の独演会でも聴いている。
 その前年には、上を小満ん、下をさん喬による通しを、人形町らくだ亭で聴いていた。
2012年3月28日のブログ
2011年6月9日のブログ

 三年前の国立の会のブログを見ると、ほぼ同じような感想を今回も抱いているのが、当り前のようだが不思議でもある。
 マクラで披露される俳句や川柳が、この人の高座を聴く大きな楽しみ。
 「おそろしや 石垣壊す 猫の恋」(子規)や「ご破算に 願いましては またの恋」などで、恋の噺へ導く。
 まず、小網町の大店の主人と番頭との会話。見合い話を悉く断る娘おせつのことを愚痴る主人に、番頭が、店の徳三郎とおせつが「いい仲」ではないかとご注進。主人は、「徳三郎は十一の時から奉公しており、おせつとも仲がいいのは当たり前」と答え、番頭が呆れてしまう。「仲のいい」と「いい仲」の区別のつかない、ちょっととぼけた感じの主の姿が可笑しい。
 番頭の入れ知恵で、脅かして丁稚の定吉から去年の春の花見のことを聞き出そうということになり、主人が番頭に「仏壇を閉めておくれ。こんなところを御祖師様にお見せするわけにはいかない」の言葉で、『刀屋』のサゲにつながる仕込みをするあたりが、心憎い。
 そして、この噺の中心は主人と定吉との会話。二人目の師匠五代目小さん仕込みなのだろうが、師匠同様に、この場面が実に楽しい。長命寺の桜餅の由来を語り始める主人に、何度も「それから?」と後の話をうながす定吉の科白で、会場から笑いが起こる。この場面は、演じる小満んも楽しそうだ。
 『橋場の雪』にも登場する向島の料亭「植半」で、厠に行った後で手に水を汲んでくれる徳三郎に対しておせつが、「お嬢さんじゃなく、おせつと呼んでおくれ」と言い、徳が、「いえ、お嬢さんです」と返してから、「おせつだよ」「おじょうさんですよ」の掛け合いになる場面も、子供じみたじゃれ合いを演じる定吉の姿に、つい笑ってしまう。しかし、これを聞いて笑えないのが主人で、怒り心頭、定吉に約束していたはずの月に一度の宿りも小遣いもない、と言って部屋から追い出し、番頭が登場。番頭の知恵で徳三郎に暇を出すことに。その後の『刀屋』につながるあらすじを少し加えて、仲入りとなった。
 単独でも今年のマイベスト十席候補に値するが、『刀屋』を含む噺全体として一席と考えたい。
 この噺、あらためて考えると、この番頭がずいぶん悪い奴に思えてくる。若い二人の仲を取り持とうとする婆やと、何らかの対立関係にでもあるのだろうか^^

柳家小満ん 『刀屋』 (32分 *~20:39)
 近松の浄瑠璃により江戸で心中が流行ったことがあり、心中を扱った豊後節も一時中止令が出た、とマクラでふって本編へ。
 深川冬木の叔父・叔母の家で居候している徳三郎が、小網町のお店で今夜おせつに婿が来ると聞き、いわばパニック状態に。徳三郎、叔母の夫婦巾着-このへんの小道具もいいねぇ-から金をくすねて、日本橋村松町の刀屋へ。
 この刀屋の主人の造形で、この噺は印象が変わると思う。小満んの演じる刀屋の主人は、実に味のある大人だ。だから、あまり陰気な噺にはならない。
 「とにかく二人切れる刀を」という言葉や徳三郎の挙動から危険な匂いを察した主人が、三年前に道楽者の息子を勘当して寂しい思いをしていることもあり、息子に話すかのように徳三郎と対する。おせつと婿を斬ろうという思いは、この段階で徳の心からは消えていたはず。しかし、外が騒がしくなり、店にやって来た鳶の頭から、おせつが家を飛び出してと聴いて、ふたたび、徳の精神状態は混乱したことだろう。
 刀屋の主人が、人殺しをやめさせるつもりで、「大川に身を投げて、その女が後追いすれば、心中となってあの世で結ばれるじゃないか」、と言うのだが、この後の、「ドカンボコン、オツだろ」の科白が、実に可笑しい。
 二人が川に飛び込む前に、上の『花見小僧』で主人の言葉として仕込んでいた通り、南無阿弥陀仏ではなく法華のお題目を二人で唱えるので、実に元気な心中だ。
 あらためて聴いてみて、この噺は通しでやる場合、同じ噺家さんの方が二人で分担するよりも、噺全体に一本芯が通るような気がする。もちろん、小満んという芸達者が演じたからこそ、そう思えるのでもある。
 実に結構な『おせつ徳三郎』の通しだった。
 上・下を併せて通しの一席と考え、今年のマイベスト十席候補としたい。


 終演後は、我らがリーダー佐平次さん、いつも元気一杯なI女史、そしてブログへのコメントが縁で昨年から懇意にしていただいているKさんご夫婦との五人で、関内で四十年の歴史を誇る老舗で、久しぶりに居残り会。
 話題は、落語はもちろんのこと、最近誰かさんが忘れ物が多いことなど、など。美味しい肴と、楽しい話で盛り上がり、帰宅は、ちょうど日付変更線を越える頃であった。
 帰りの電車の中で、結構たくさんいろいろと食べたが、美味しいものはお腹にもたれないなぁ、そうか、小満んの会も、ほどよい時間と高座の後味の良さで、‘もたれない’のが良いのだなぁ、などど思いながら、ウトウトしていた。

 次回は5月18日(月)、ネタは『大師の杵』『転宅』『江戸の夢』。先のことだが、なんとか行くつもりだ。
Commented by 喜洛庵上々 at 2015-03-19 18:08 x
幸兵衛さん、昨晩はありがとう存じます。
私の方は今日一日なにやかやで、今しがたようやくup致しました。
充実した三席でしたね!
また大変愉快な居残り会、家内も大喜びしております。

Commented by 小言幸兵衛 at 2015-03-19 18:26 x
良かったですね、三席とも。
家族や地元の支援者の皆さんでつくる、実に暖かい感じの会で、今年は皆勤を狙います。

居残り会は、ずいぶん久しぶりです。
楽しかったですねぇ。
割り勘にしてしまいましたが、酒飲み派が得した感じで、反省しております。
次回、お返しします。

Commented by ほめ・く at 2015-03-20 11:34 x
談志が何かのマクラで、先代馬生に噺を習いに行ったら『支那の野ざらし』を教えてくれたが、面白くもなんとも無いと語っていました。幸兵衛さんの解説だと結構面白そうですね。
この日迷ったんですが、久々だったので桂ひな太郎が出る会に行ってしまいました。

Commented by 小言幸兵衛 at 2015-03-20 13:11 x
談志の感性に合わなかったんでしょうか?
小満んは、演じている自分の楽しそうで、その楽しさが客席にも伝わってきたように思います。

ひな太郎もいいですよね。

5月は、ぜひ関内へ!

Commented by 佐平次 at 2015-03-20 16:19 x
他では味わえない噺の味わい、素晴らしいですね。
さいごの一本が多すぎた、反省。

Commented by 小言幸兵衛 at 2015-03-20 16:31 x
この会は、今、私がもっとも好きな独演会です。
会場も改装され綺麗になり、居残り会の会場(?)も良し、です。
「あの一本が・・・・・・」、「あの一杯が・・・・・・」は、いつもの反省ですね、お互いに^^

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by kogotokoubei | 2015-03-19 06:56 | 寄席・落語会 | Trackback | Comments(6)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛