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ざま昼席落語会 瀧川鯉昇・柳家喜多八 ハーモニーホール座間 1月10日

通算185回の会。1月はこの二人会が恒例になってきた。

 昨年9月以来だ。あの時は圓太郎の『算段の平兵衛』に感心した。実は、昨年のマイベスト十席選出で、最後まで露の新治の『胴乱の幸助』とともに選出するかどうか迷った高座だった。そして、昨年4月には、雲助の『夜鷹蕎麦屋』が印象に残る。

 2時開演なので、少し余裕をもったつもりで相武台前から歩き、会場近くのラーメン屋さんで腹ごしらえをして、1時20分頃に会場に行くと、今まで経験したことのない行列。
 この落語会は木戸銭が安い(当日でも800円、前売り700円、私が持っている回数券なら一枚600円)のだが、自由席なので、こういうことになる。

 終演後に係りの方にお聞きしたら、380人、過去最高の入りだった。

 いつもよりたくさん並べられたパイプ椅子。結構前の方の真ん中当たりに、なんとか席を確保。
 開演時には、なんとも言えない熱気に包まれていた。

 過去最高の入りとなった会、次のような構成だった。

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(開口一番 柳亭市助『道具屋』)
瀧川鯉昇   『武助馬』
柳家喜多八 マクラ「正しい酒の飲み方」&『親子酒』
(仲入り)
柳家喜多八 『短命』
瀧川鯉昇  『御神酒徳利』
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柳亭市助『道具屋』 (15分 *14;00~)
 兄弟子が二ツ目になり、レギュラー的な状態。頭を刈っているのだろうが、ややトラ刈り風^^
 わさびおろし、ひょろびき、などを含む筋で、しっかりした高座。与太郎の道具屋にやって来た老人が、途中で与太郎に怒る時に老人風の口調から少し離れた以外は、前座とは思えない高座。

瀧川鯉昇『武助馬』 (30分)
 
出身地の浜松からノーベル賞受賞者が出たことなどのマクラの中に、桃太郎の話があったが、これは可笑しかった。歌舞伎『平家女護島』の二段目「鬼界が島の段」の俊漢のネタなどを含め12分ほどのマクラの後で十八番の噺。
 武助が玉三郎の弟子になった時の名が玉しゃぶろうというは、NHKなら自粛ものだろう。満員の客席を前に、軽くマクラと得意ネタで一席目をこなしたのが、あの二席目への序章に過ぎなかったことを。この時の私はまだ分かっておらず、「また、武助馬か・・・・・・」と思いながら聴いていた。

柳家喜多八 「正しい酒の飲み方」&『親子酒』 (38分)
 とにかく、25分のマクラが絶品だった。初席でへべれけで高座に上がる、という話は先日の白酒のマクラと共通する内容だが、そこからが喜多八の真骨頂。これは、他のマクラとは一線を画した立派な“ネタ”である。
 「かぶと」(酒屋の立飲み)での本寸法の飲み方を満員の客席に情熱的に披露。
 せっかくなので、記録しておきたい。
 (1)前提条件
  分厚いガラスの角ばったグラスに注がれた酒がこぼれて、ガラスの受け皿に
  こぼれている
 (2)グラスを持つ左手とつまみの右手  
  グラスを持つのは左手でなくてはならない。右手はつまみを持つために必要。
  つまみがなくて、右手の指をしゃぶってでも五合は飲める。
  喜多八殿下は、右手の指は風呂に入っても洗わない。
 (3)グラスの底
  こぼれて受け皿にある酒がグラスの底についているのを、皿の端で切って
  から、飲む。
 (4)受け皿にこぼれた酒の処置
  グラスから酒を飲み、減った量と受け皿にこぼれている量が同じになった
  ところで、皿の酒をグラスに注ぐ。早くても、遅くても、いけない。
 (5)持ったグラス
  一度左手で持ったグラスは、飲み終わるまで下に下ろさない
 (6)つまみ
  酒屋の口が斜めに向いたガラス瓶に入ったアタリメや豆で飲むが、
  先輩たちは、がま口の中にアタリメが入っており、他の客にも配る。
  食べると、十円玉の緑青の味がする
 (7)酒は二杯まで
  一軒のかぶとでは二杯まで。もっと飲みたければ別の店へ行くのが礼儀

 どうです。なんと深~いものが、“かぶと”の作法にはあるのです^^
 途中で仕草をしながら、「後ろの席の方、見えてます!?」などと合いの手を入れながらの熱演。
 この後、焼き鳥の正しい食べ方などの指導(?)の後に本編へ。親子の、破壊的な酔い方も楽しかったが、なんと言っても「正しい酒の飲み方」である。
 マクラとして考えるか、一つのネタとするかは後で考えるとして、何らかの賞に値する高座だった。

柳家喜多八『短命』 (20分)
 仲入り後、同じ着物で再登場。この二人会では、恒例^^
 私自身は何度も聴いているネタだが、会場には初めてのお客さんが多かったらしく、隠居と八五郎の無言の掛け合いで大いに沸く。
 以前にも書いたことがあるが、この人のこの噺の特徴は大きく二つ。
 (1)のいる・こいる漫才のような、だんだん聞こえなくなる科白のリフレーン
  私が好きな“のいる・こいる”の昭和こいるによる、「しょうがない、しょうがない、
  しょうがない・・・・・・」というリフレーンを髣髴とさせる八五郎のセリフが、
  だんだんフェイドアウトしていく演出が可笑しい。
  マクラで「昔の噺家は、最初は口だけ動かして、ほとんど聞こえないように
  語り始め、客を緊張させる」と伏線を張っている。
 (2)いわゆるジェスチャーのみのサイレントな会話の描写
  隠居が伊勢屋の婿が短命な理由を婉曲かつ小さな声で八五郎に説明
  しようとして、次第にサイレントなジェスチャーだけになると、八五郎も
  仕草だけで対応する場面が、しばらく続く。
  これこそ、生の高座でしか味わえない楽しさである。
 
 最近、若手もよく演じるネタなのだが、年相応ということと独特の演出で、群を抜いていると思う。

瀧川鯉昇『御神酒徳利』 (47分 *~16:44)
 運のいい人は駅に行くとちょうど電車が来て・・・・・・というマクラも含め、三木助版を踏まえたこの噺になった時、私は、この会場で一昨年1月のこの人の『芝浜』のマクラや、その前年2月、今松の『子別れ』が“通し”だと分かった時のような、ちょっとした震えを感じた。
 この人のこの噺は、2009年の6月に県民ホール寄席の独演会で初めて聴いた。
2009年6月25日のブログ
 この噺で有名なのは圓生が昭和天皇の御前でご披露したことだが、その時の所要時間が約45分と言われる。2009年の鯉昇もマクラを除くとその位だった。今回はほとんどマクラなしで、ほぼ同じ時間。
 元ネタ上方の『占い八百屋』を三代目小さんが東京へ移し、柳家では今も継承されている。しかし、昨年11月の落語研究会で小満んは、柳家の型ではなく、この日の鯉昇と同じ、主役が二番番頭善六の型。
 鯉昇が演じた型は、上方から東京に来た五代目馬生から圓生が教わり伝えたと言われている。鯉昇が誰に稽古してもらったかは・・・分からない。しかし、これが、頗る結構なのだ。
 日本橋馬喰町の旅籠刈豆屋吉左衛門で働く通い番頭の善六が、師走十三日の煤はきの日に、台所にあった家宝の御神酒徳利が用心が悪いからと水瓶に沈めたことを忘れてしまってから、この長い噺の幕が開く。
 長さを感じさせない見事な高座。女房の知恵で自分の失態を「算盤占い」の先生として失地を挽回したのもつかの間、たまたまその日泊まっていた鴻池善右衛門の支配人の耳に入り、神奈川宿の騒動を経て、大阪まで出向き、「生涯に三度」だけ効くという“八卦”の旅となる。これこそ、ハッケヨイヨイ、なのだ^^
 鯉昇は、圓生→三木助と伝承されてきた型を基本的には崩さず、程よく楽しいクスグリを挟む。
 たとえば、刈豆屋主人から善六が、鴻池の娘が“ぶらぶら病”であり、大阪へ行ってその病について占って欲しいと言われた後の、「お嬢様が水瓶に中にいるんですか?」が、なんとも可笑しい。
 神奈川宿新羽屋での騒動。宿で薩摩の侍が巾着を盗まれたという話を横で聞いていた善六が、“こりゃぁ、お鉢が回ってくるな”と腹を固めていたような受け答えの後、「ところで、その巾着、誰が盗ったの?」と聞く一言の、なんとも楽しいこと。
 大阪では神奈川宿の新羽稲荷が夢枕に現れて、そのお告げによって無事に鴻池の娘の病は治り、その後は京大阪を巡って江戸へ。江戸までの言い立ても見事。語り口の、なんとも奇麗なこと。座間のことも無理なく挟んだ。
 サゲは書かないが、なるほど、である。
 380名、満員御礼と言える会場のお客さんに、見事な高座を披露してくれた。もちろん、今年のマイベスト十席候補である。


 帰る時に確認したのだが、この会場(小ホール)の最大席数は410席、通常は306席。
 この日の380席の凄さが分かろうというものだ。

 これだけの集客があったので、今後混むことを考えあまりブログに書かないほうがいいかなと思ったが、それほど拙ブログが影響するわけはない^^

 見事な二人会。マクラの喜多八、そして明確な語り口の鯉昇の会は、実に結構だった。

 ちなみに、2月14日は、扇遊・ひな太郎の二人会。これまた渋い顔合わせだ。

 ざまの歴史ある地域落語、噺家さんが、この会で手抜きをしたように感じたことは一度もない。
 それにしても、お客さんの入りは、凄かったなぁ。その笑いの反応も実に良かった。来年度の回数券を、また買うことになりそうである。
Commented by 佐平次 at 2015-01-12 11:03 x
受け皿からコップにつぐタイミングはなかなか難しいのです。
入りきらずに受け皿を持ったままコップをすするなど醜いものです。
ほんとうはコップをクイッと一気にやって、とんと置いたあと受け皿を一気、あたりが理想なのかも。

Commented by 小言幸兵衛 at 2015-01-12 11:27 x
なるほど、いろいろ流儀があるのですね^^
かぶとなんてぇ懐かしいものも、どんどん無くなってしまいましたね。
とにかく、喜多八が、楽しそうに、また情熱的に語ってくれました。
鯉昇が、あのネタで締めなければ、完全に持っていかれた、そんなマクラでした。

Commented by 喜洛庵上々 at 2015-01-13 10:50 x
いい会だった様ですね。羨ましい。
次回も素敵な顔付けですなぁ、ひな太郎師、扇遊師とは。

Commented by 小言幸兵衛 at 2015-01-13 12:09 x
非常に結構な会でした。
会場での案内によると、今年は、睦会の三人で大ホールでの開催もあるようですが、私は小ホールでの通常の会の方が好きです。
かつて、南大沢で地域落語会があり、ブログを書く前に何度か行きましたが、手作り感のある良い会でした。
この会、ほどよい入りで長続きして欲しいと思います。
できるだけ、昼食は会場近くで食べ、少しでも座間の方にお返ししているつもりです^^

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by kogotokoubei | 2015-01-11 16:38 | 落語会 | Trackback | Comments(4)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛