素人なりに、落語の稽古と本番の大きな違いについて思うこと。
2014年 12月 08日
夕食後はカラオケ、そして一つの部屋に集まっての宴会。さまざまな話題の後、余興として、恒例(?)の私の落語を二席。五月に仲間の一人からリクエストのあった『三方一両損』は、いわばネタ出しとして決まっていたが、もう一席を何にしようか迷った末に、『たらちね』をご披露。
実は、この仲間の前では、数年前から年二回の合宿で各二席づつ披露しており、同じネタは選びたくなかった。
ちなみに、これまでのネタは次の通り。
道灌・金明竹・寿限無・牛ほめ・替り目・小言念仏・千早ふる・代書屋・高砂や・居酒屋・うどん屋・雑排・厩火事・買い物ブギ・看板のピン・天災・目黒のさんま・紙入れ・元犬・持参金
そして、今回が、三方一両損、たらちね、だった。
今、思い返すと最初の頃は、前座ばなしを必死に覚えて、とにかく科白を言うことに集中していた。金明竹の、謎の上方人(?)の言い立てについては、道具七品の説明を書いた資料まで作って、一席の後に皆に配ったりした。
牛ほめの、家の普請に関する言葉の説明や、「天角、地眼、一黒、鹿頭、耳少、歯合」の意味なども資料を作って配付したなぁ。
最初の頃は、前座ばなしの科白を覚えていることに、皆は感心したかもしれないが、落語の本来の楽しさを味わえる高座とは、決して言えなかったように思う。
三度目くらいから、前座ばなしの言い立て中心のネタから脱皮(?)し、自分が好きなネタを選ぶようにした。とはいえ、素人なので、長講の人情噺などは出来っこない。寄席で演じられることの多い短い滑稽噺が中心である。そして、五代目小さんの言葉として残されている、登場人物の‘料簡’になる、を肝に銘じた。
『替り目』は、大好きなネタ。特に志ん生のこの噺が好きだ。苦労をかけたりん夫人に、とてもまともには照れて言えない感謝の気持ちを、落語の中で語っていると思うからである。
私は、この噺の中の女房を自分の連れ合いと想定して稽古した。私も、現実には面と向かってはネタの中にあるようなことは、言えないのだよ^^
酒でも飲まなければ本音を言えない男という登場人物の気持ちへの感情移入は、それほど難しくないように思ったが、それもそのはず、自分もそうだからなのだ。
志ん生は「元帳」と別題があるように途中まででサゲるのだが、私は、ネタの由来が分かるように本来のサゲまで演じた。宴会の余興であるから、すでに酒も入っている。だから、酔っ払いを演じるのに苦労はない^^
結構、この『替り目』が仲間の評判が良かった。そのあたりから、内容を覚えるだけでなく、いかに感情移入できるかが、その高座の出来不出来を大きく左右することが分かってきた。
『うどん屋』も、結構仲間の評判が良かったネタ。あの時は、田園都市線の某駅にある立ち食い蕎麦屋で、直前の三日間続けてうどんを食べて、演技を練習したものだ。また、Youtubeの小三治の高座は、実に参考になった。
酔っ払いのネタばかりか、とお叱り(?)がありそうなので、仲間の評判の良かった噺として、他に『千早ふる』『厩火事』『目黒のさんま』『元犬』『持参金』などもあげておこう。
さて、今回の二席はどうだったか。
実は、11月にあった大学の同期会で、この二席を練習のつもりで演じていた。年に一度の同期会でも、三年前から余興で落語をしていたのであった。
そして、同期会では、『三方一両損』の江戸っ子の啖呵を上手くやろうと気負って、しくじった。参考にしたのは、八代目三笑亭可楽の音源だが、とにかくスピード感があって、リズミカル。しかし、同期会の失敗の後、可楽と同じように演じようとしても、ど素人には無理とあきらめ、できるだけ、大工の吉五郎、左官の金太郎の料簡になり、ゆっくりでもいいからやってみようと思い臨んで、今回はまぁまぁの出来だったと思う。扇辰が、可楽が説明するお白洲の様子を割愛して、すぐに大岡越前守を登場させて演じていることを「落語者」の録画を見て気づき、「正面を見ますとさや型の襖、右手に公用人、左手に目安方、縁の下にはつくばいの同心衆~」の部分を思い切って割愛したのも良かったのだと思う。実は、この部分で同期会で言いよどんでしまったのだった^^
『たらちね』は八代目春風亭柳枝の音源を元に練習した。五代目小さんとどっちにしようかと思ったが、柳枝の方が自分には合いそうだったし、この人は大好きなのである。
マクラで、恐惶謹言、よって件のごとし、という昔の手紙の結語を説明してサゲまで演じた。大学の同期会では、女房のあの言い立てを八五郎がなぞる際、途中からお経のようにしようとして、あまりうまくできなかったので、土曜日はお経風にするのをやめて演じた。途中でサゲるなら、あの場面でお経風にするのは大事だが、本来のサゲまであるので、必ずしも必要がないと思ったのである。もちろん、自分の芸が未熟だから、でもある。全体として、結構自分でも良くできたと思う。茶漬けを食べる稽古の、「こっちは、ざーくざく、がっちゃがっちゃの、ばーりばり、あっちが、さーくさーく、ちんちろりんの、ぽーりぽり」で、笑いが起きたのが、何より嬉しかった。
今回は、近い時期で一度人前で演じたことが、二度目の内容に、どれだけ重要かを実感した。
『三方一両損』で江戸っ子の啖呵を見事に演じようと気負ったり、『たらちね』で、女房の言い立てをお経風に八五郎になぞらせて笑いをとろう、などという色気があって失敗した一回目を反省し、修正することができたのである。
これは、道でぶつぶつ言いながら稽古しているだけでは矯正しようがなく、やはり人前で恥をかいて初めて身に付くことなのだと、痛感した次第だ。
何度か、二ツ目さんが自分達の芸を披露する場が少ないこと、そして、神田連雀亭のような場所が重要なことを書いてきた。素人ながら自分の体験で、つくづく、落語家さんの上達のために寄席が重要であると思ったなぁ。とにかく、人前で演じて、たくさん失敗し、恥をかくことこそが、落語の上達の道なのだと思う。
稽古をすることはもちろん重要だが、人前で披露する本番を数多く経験することこそ、上達することに不可欠なのだと思う。それによって、料簡の方も磨かれていくのだろう。
さて、次回はどんなネタにしようか。大学の同期会では、人情噺も聴かせろ、とリクエストがあった。困ったものだ^^
着々とアマチュア噺家の道を歩まれていますね。
何を隠そう私も以前は色々な噺を必死で覚えて人前で語ったこともありました。
誰もいない場所では平気で出来ても、実際はその一割も出来ないと思い知らされました。その点でもお見事だと思います。
私の小説の作り方は落語の稽古みたいに、プロットを最初に考えたら、歩きながら、お風呂に浸かりながらブツブツと口述します。後でそれをPCに打ち込むのですが、その点で落語の稽古をしたのが生きています。
そのうち社会人のコンテストに出てみたら如何でしょうか?
小説もコンテストに出して色々な方からコメントを戴くととても参考になります(^^)
柳枝師の「たらちね」はあの声と、言い方が特別にマッチしていて、私も大好きです。サゲもキチンと決まって気持ち良いです。
あくまで、気の合った仲間との宴会での余興でして、それ以上の場で演じようなどとは、毛頭思っておりません。
あるとすれば、数年後に、ボランティアで出来る位にはなりたいと思っていますが、コンテストなど、とんでもございません。
酔っ払いや長屋の夫婦の噺が好きなので、そういうネタは結構自分でもやりやすいのでしょうね。
でも、そろそろネタ選びに苦しみだしておりま^^