噺の話

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あらためて、落語の別題について。

先日の柳家小満んの会の三席のうち、トリネタは『八五郎出世』と題して演じられた。
 もちろん、『妾馬』である。
 小満んは、珍しく本来のサゲまで演じたので、まさに『妾馬』で良いと思った。
 
 『八五郎出世』という題は、六代目円生が使ってから流行るようになったと察するが、内容を表現しているとは思うが、この題を使うことがどうも腑に落ちない。
 
 同じ落語でも、別な演題を持つ噺がいくつかある。私は、内容に相応しい別題がつけられた理由も分からないではないが、本来の題名を残してほしい、と思っている。

 ずいぶん前になるが、このことについて記事を書いたことがある。今でも同じ思いなので、一部内容が重複することになるが、ご勘弁のほどを。
2009年2月17日のブログ

 『寝床』の別題として『素人義太夫』や『素人浄瑠璃』がある。『妾馬』には、『八五郎出世』という別題がある。
 私は、それぞれ『寝床』、『妾馬』であって欲しいと思う。

 本来は長い噺だが、サゲが現代では分かりにくい、とか内容が今ひとつつまらないなどの理由で、一部分のみが演じられるようになり別題を持つ噺としては、『宮戸川』、『妾馬』、『おせつ徳三郎』などがあげられるだろう。
 
 『宮戸川』は、ほとんど前半しか演じられず、別名『お花半七なれそめ』とも言われる。
 『妾馬』は、題にある馬が登場するサゲまではほとんど演じられず、『八五郎出世』という別名を用いることが多くなった。。
 『おせつ徳三郎』は、前半を『花見小僧』、後半を『刀屋』と言う。どちらも今日では滅多に聞くことはなくなったが、五代目小さんによる前半、志ん生や志ん朝による後半は、なかなか味わいがある。

 この中では、『おせつ徳三郎』だけが異質かもしれない。なぜならば、前半と後半のそれぞれが単独の噺として独立した存在と言えるからである。
 実は、来年3月18日に再開される関内の小満んの会のネタ出しに、『花見小僧』と『刀屋』が書かれていた。『おせつ徳三郎-通し-』ですぜ!

 『宮戸川』と『妾馬』は、通しで演じることはあり得ても、後半のみ独立させて演ずることはないだろう。
 
 確かに、『宮戸川』の前半の舞台に、「宮戸川」は登場しない。
 しかし、このお題が残ることで、その題である理由を知りたいという思いになるはず。また、「通し」で聴きたい、という興味も湧く。今年6月に聴いた五街道雲助の『宮戸川-通し-』は、良かったなぁ。

 また、『妾馬』の前半だけでは、この演題は意味不明である。
 内容に即して言えば『八五郎出世』のほうがふさわしいのかもしれない。

 しかし、私は本来の題のままにして欲しいと思うのだ。

 それは、題目の由来を知ろうとすることで、その噺が成立した社会的背景や庶民の生活、文化などへ好奇心が広がるからである。

 「なぜこの噺で『宮戸川』なんだ?」、「どうして『妾馬』なの?」、という疑問が起こり、その謎(?)を自分で解くことで、噺を聴く時の味わいも増すと思うのだ。

 他のネタでは、『寝床』で別題が使われることがある。
 サゲまで演じない場合に、『素人義太夫』や『素人浄瑠璃』とすることがある。

 十八番にしていた噺家で有名なのは八代目桂文楽だが、途中でサゲるとはいえ志ん生のこの噺も捨て難い。

 この噺の題は、「寝床」という言葉に特定の意味を持たせたほどの力がある。

 「うちの社長のカラオケ好きにも困ったね。無理矢理付き合わされて聞かされる身にもなって欲しい。ありゃぁ寝床だよ。」という表現ができるのだ。
 落語の演題がある現象を見事に言い表すまでになったのである。
 「下手の横好き」=「寝床」、なのである。
 ただし、今日では、「下手の横好き」という言葉でさえ聞かれなくなった。だからこそ、「寝床」という言葉を遺して欲しいと思う。

 志ん生が文楽と違って通しで演じなくても、あくまでも『寝床』でよいと思う。

 正岡容がこの噺を語った文章が、矢野誠一著『落語手帖』で紹介されている

この「寝床」という言葉は最も一般によく浸透されていて、「巧いかいあいつの小唄?」「駄目、寝床だよ」といった具合に旺(さかん)に流用されています。なかでいちばん天晴れだったのは亡くなった四代目小さんで、この『寝床』のマクラでしたが、「あそこの家の奥さんのコロッケは寝床だ」と申しました。コロッケに寝床とは対照の妙を極めていて実に奇抜ではありませんか。


 よほどこの奥さんは、自分自身ではコロッケづくりが上手いと思っていて来客の度に作るのだろう、と想像できるじゃないですか。出された客も、迷惑だろうなぁ。
 あっ、私自身も友人の前で、たまに酒の勢いで落語を披露したりするが、まさに「寝床」である。被害者の皆さん、ごめんなさい。

 将来、もしほとんど前半しか『寝床』が演じられないようになり、『素人義太夫』という演題が当たり前になった時、「ありゃぁ寝床だね!」という表現自体が失われることになっては寂しいじゃないですか。
(そんなことを思うのが私だけなら、なおさら寂しいのだけど・・・・・・。)
 
 『妾馬』にしても、「妾」という言葉を大事にする(?)意味で、『八五郎出世』には替えないでもらいたいと思う。

 たしかに、「妾」という言葉、日常的な会話として使われることが少なくなった。代わりに「愛人」などという言葉が使われるのだろう。しかし、妾と愛人とは、まったく別なのである。
 そして、落語の世界で「妾」の存在は大きいのだ。
 『悋気の独楽』『悋気の火の玉』『権助提灯』『権助魚』はもちろんだし、7月の小満んの会で初めて聴いた『有馬のおふじ』だって、「落語でブッダ」で紹介され、今年1月に記事でも書いた上方落語の『お文さん』だって、妾が重要を役割を果たしている。
2014年7月18日のブログ
2014年1月15日のブログ

 上方では、お妾さんのことを、「お手かけさん」と言うらしい。なるほど、である。

 かつては、それ相応の旦那が妾を持つことに、本妻は実に寛容だった。妻妾同衾の場合すらあった。
 だから、愛人とは、似て非なる存在なのだ。「妾」という言葉を使うことで、本妻がその存在を許した時代の風俗、あるいは文化を推しはかることができる。
(なぜか、このへん力んでいるのは、自分が妾を囲うだけの力も金もないからか^^)

 そんなに演題に執着しなくても、と思われるかもしれないが、私は結構気になるなぁ。
 滅びつつある‘言葉’への哀愁、ということもある。

 しかし、自分を冷静に見つめると(?)、それは私の助平根性からくる発想なのかもしれないなぁ。
 妾を囲う甲斐性はなくても、今後、落語初心者の若い女性と一緒に落語会に行く機会があり、その後にお茶でも(あるいはお酒でも)飲む場で、「どうして『寝床』なの?」とか、「なぜ『妾馬』っていうの?」などと聞かれた時に、待ってましたとばかり、「それはね・・・」と、知ったかぶりで教えてあげたいだけなのかもしれない。

 それじゃ、まるで「やかん」だ・・・・・・あっ、この言葉も死語になりつつある・・・。
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Commented by 笑組・ゆたか at 2014-11-21 22:55 x
仰る通り『妾』と『愛人』って
な~んか違いますよね…
ボクの感覚で申し上げますと
妾=プロ
愛人=パート
って感じがいたします。
知り合いに所謂『妾の子』がいますが
お父さんが亡くなった時に
お母さんと葬儀に行ったらしいんですが、
お母さんは門の前で立ち止まって
「お前たちは子供なんだから側へ行ってお別れしておいで。お母さんは奥様に申し訳ないからここからお別れさせて頂くから。」
って言って一歩も中へ入らなかったそうです。
プロですよね…
『愛人』って葬儀にも行かなそう。
そんな感じがいたします。

『てかけ』って上方の言い方なんですね!
『鬼龍院花子の生涯』で岩下志麻さんが
「おまんらてかけは道具やき!」
って仰ってたのでてっきり
ヤ○ザ用語だと思ってました!

長々とすみませんでした。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-11-22 10:13 x
お久し振りです。

 妾=プロ
 愛人=パート

という分類は、なるほどと思います。

 語源としては、
 「めかけ」=目にかけて愛する者
 「てかけ」=手をかけて愛する者
 と説明されていますが、ゆたかさんの説明のほうが、分かりやすい^^

 越後にいた時、ある料理屋で本妻と妾とが仲良く店をきりもりし、旦那と川の字になって寝ているという店がありました。まさに「妻妾同衾」です。

 どんどん、昔の言葉が消えていく中、落語という芸能の継承は、実に重要だと思います。
 漫才もね!

Commented by 佐平次 at 2014-11-22 11:17 x
「替り目」もわからないでしょうね。
そもそも落語の題名は楽屋のネタ帳用のメモみたいなものだったということをどこかで読みました。
メモであっても誰が読んでも分かるようにしなくちゃいけないから出鱈目でイイということにはならないのは当然ですが。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-11-22 12:00 x
そうですね。
最初は、楽屋の記録としての名付けだったようです。
「替り目」の前半を寄席でやり、「酔っ払い」と称してさがる噺家さんがいますが、あまり感心しません。
職業にしても、鋳掛け屋、しじみ売り、水屋の富、浮世床、などが貴重ですね。
ぜひ、そういった噺を残して欲しいと思います。

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by kogotokoubei | 2014-11-21 06:52 | 落語のネタ | Comments(4)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛