噺の話

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志ん朝 大須の「まくら」 (4)『時そば』 1999年11月9日

このシリーズの4回目。
 

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『よってたかって古今亭志ん朝』(志ん朝一門、文春文庫)


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 *印が、初CD化のネタである。

 今回は、『時そば』のまくらにした。

 上にある、『よってたかって古今亭志ん朝』の巻末資料を元にした大須の公演日と演目の一覧表で確認できるように、最後の年、平成11(1999)年の初日の一席目を選んだ。

 なぜなら・・・実際にこの日の会に行かれた方から、貴重なコメントをいただいた。会場で写真を撮っていたお客さんに志ん朝が、やんわりと注意をしてくれた、とのこと。以前にこの音源を聞いていたのだが、私はそれを忘れていた。
 再度聞きなおして、「あっ、これか!」と思い出した次第。

 初出しのネタも貴重だが、まくらも非常に楽しいし、その場面の扱いも粋なのだ。

 亡くなる二年間で、やや体のことで愚痴っぽいことも語られる。
 聞いていて、少し辛くならないでもないが、あえて振り返りたい。


 ありがとうございます。うゥ-、今年で十回目でございます。十年続けるというのは、なかなか容易なこっちゃございませんでね。まぁそりゃぁそのゥ、お客様がたのおかげには違いないんです。ねぇ。またぁ、ここの社長ですとか、世話役さん、ねぇ、皆さんのおかげでございます。うゥ、あたしも褒めてやりたいなと自分で思っておりますが、うゥ、十年ひと昔ってぇますけどねぇ、昔始まったんですよ、これ、ねぇ。そん時はまだ若かったっすな。十年も経つとだんだんだんだん人間様子が変わってまいりましてね。うゥ、なんかこう、この頃、疲れて疲れてね。しょうがないですよ。うゥ、あの、どういうことを普段してるんですか、なんてなことを聞かれることがある。あんまり、なんかしなくなりました、っすね。道楽が減っちゃったン。なんか、あんまり、おもしろくいないんです。何をやっても。うゥ、まぁ、たとえば昔は、外国へ行くのが夢で、ねぇ、なんかお金が貯まって暇ができるってぇと、ひとつ、じゃあ外国へ行こう、なんということを考えてたんですが、行って帰って来るってえと、またすぐに行きたくなったもんです・・・今ちっとも、そんな気がない、ねぇ。一時ほんとにカメラなんかに懲ったことがありましてねぇ。前にもお話したかもしれませんけども、とにかく、旅へ行くなんてぇとねぇ、こっちの方にモノクロのフィルム入れたカメラと、こっちにカラーの方と、なんというんでね、重い思いをして行ったんですが、今もゥなんにも持ってかない。ねぇ。あっちこち歩きまわっていろいろ写真撮ったのが、まるで表を歩かない。いけないですね、こういうのは。いちばん自分で危険だなと思ってましたがね、あのゥ、通販で買ってうちに大きな椅子があるんですよ。テレビの前に置いてある。そりゃなんかスィッチを入れると、背中をワァーンと揉んでくれたりなんかする、ねぇ。で、朝起きて湯に入って、軽くこのビールの小瓶なんぞをグーッと飲んで、おまんまをいただいて、で、楊枝つかいながら、そぼテレビの前でもって、ボーッとしているのが、一番良かったんです。こりゃやっぱ危険ですなぁ。どうも調子がおかしいなぁと思って、やっぱりね、人間ドックにお入んなさいなんてなことを言われて、人間ドックに入って調べてもらったら、「血糖値が高いんだ、あぁた、ねぇ、だめですよ」なんてなこと言われてね、えぇ、「こういうことしちゃいけません、こういうことで、こういうことで、ああいうことで」、聞いているうちにだんだんだんだん気が重くなってくる。そりゃしょうがないですね、ちゃーんと注意をしてくださるんですから。そりゃ、ありがたいなと思わなければいけないんですけれども、酒、飲まないほうがいいたってねぇ、そりゃなかなかそうはいかないですよ。ねぇ。この商売は、毎日毎日寄席出てるってぇと、その都度、なんなんですから、ストレスがたまるんンすから。ねぇ。あっ、うけた、とか、うけなかっただとか、いろんなことになるもんでございます。ねぇ。その都度終わって、クッこんなになって、どうしたって飲みますよ、ねぇ。そりゃしょうがないン。だから、そんなこと言わないでくださいよって言ったんですけども、体悪くするよりゃそのほうがいいでしょ、ってなこと言われると、がっかりしちゃってね、ええ。

 体調は良くなかったことが、察せられる。

 この次に、問題の場面が登場。
 名前を呼んでいるので、ご常連さんか、スタッフの方なのかもしれない。
 ただし、名前はご本人の名誉のために、Kとする。

 そして後半、同期の仲間との会話、というのが頗る楽しい。昔は「酒」か「女」か、だったのは、今では・・・・・・。

 どうぞ・・・Kさん、Kさん、、向こう行った、どうもありがとうございます。そんなもんで十分でござんしょう。ねぇ、うウ、何枚撮ってもあんまり良くないですよ、最初の一枚が一番いいんだから。ありがとうございます、どうも、ねぇ。あたしゃ構わないンすよ、写真なんかしょっちゅう撮られてますから、他のお客さんが気になるんでね、ちょいとすいません、も、お休みしてください。はい、どうも。
 うゥ、もう写真撮られなくなったら、もうおしまいですけどね。ありがたいな、とは思っておりますが。
 うゥ、その、なんの話してんだか忘れちゃいました。ほんと、なんですねぇ、だんだんそのいろんなことが面倒くさくなって、それで、まぁ、高座へ上がって噺するなんというのも、だんだん面倒くさく・・・今だってほんとはやりたくないン。やりたくないけども、私はそういうところ、とても律儀ですから。これ、こういうような状態だと、立川談志だと、来ないよ。偉いねぇ、あの人は。感心しちゃいますよ。平気でストーンってんで来ないんですから。そいで騙されたお客が、またやったよあいつは、なんてんで喜んでるんですから。ちょっと変態の気味がありますかな。
 うゥ、もうとにかく、私どもの同期会というねぇ、会がありまして、鈴々舎馬風だとか林家こん平だとかね、今の文楽だとか、そのへんがみんな同じ時期に前座で修業をいたしました。ねぇ、みんなでもってひとつ会でもつくって、お互い励ましあおうじゃねぇかって、なんというんでね、年に一回づつ旅行に行くんですよ、ねぇ。みんな芸人ですから、若づくりにしてますよぉ。ねぇ。だけど、はっきり出てきちゃう、ねぇ。動きに現われる。なんかあると、すぐどっかにつかまりたがるン。もう、すぐ分かっちゃいますよ。ねぇ、楽屋で話してることだってねぇ、昔はもうたいへんですよたいがい決まってるン、こないだのコレどうしたい、なんてなこと言ってたんすが、今そういうこと言いません、どう血圧は・・・ねぇ、あウ、おめえ酒と女とどっちか取れって言ったらどっち取る、なんてなこと言ってたんですが、今そんなこと言いませんな、あゥ、おめぇ毛と歯とどっちが欲しい・・・両方欲しいですけどねぇ、なかなかうまくいかないもんっすよ、ねぇ。ほんとうにいろんなことがありますけども、しかしねぇ、こういう商売だからやってられるんですよぉ、ねぇ、のんきなもんですよ。それこそもウ無責任なことを言ってても大丈夫ですしねぇ、えぇ、あんまりしゃべってていきなり、表に出るとたんにブスッとやられたなんというような、そんな話は聞いたことがない。ねぇ。うゥ、だからほんとうにねぇ体にはいいはずなんです。いいはずなんですけど、甘え過ぎちゃって、だんだんだんだんあっちが痛ぇ、こっちが悪いなんてぇなことになってくるんでね。どうか一つ、皆様方の方こそ、お体気をつけていただいて、ほんとうに、体だいじにしてくださぁい、って人がいたけど、ねぇ、ほんとうにあのウしみじみそう思いますなァ、あの言葉を聞くってぇと、えぇ、やっぱり体は大事にしなきゃいけません。うウ、病院行ってごらんなさい、こんなに具合が悪い人いっぱいいるんだ、世の中に、と思いますよ、ねぇ。なかなか自分の順番が来なくってね、みんなイライラして待ってますが、慣れてる人は平気な顔して待ってますな、あぁ、あそこまでいくとたいしたもんでございますが。
 うゥ、まぁどっちに転んでも馬鹿なことを言っているという、この商売でございまして、あまりムキにならずに聞いていただきますよう、よろしくお願いをいたします。
 うゥ、召し上がりもの、ねぇ、よくあの江戸っ子は妙なことを自慢にいたしましてね、おらぁ蕎麦っくいだよ、なんてぇことを申しまして・・・・・・。

 写真を撮る人への、“大人の”のたしなめ方も結構だし、なにより同期の仲間との会話、という話が楽しい。

 このまくらを、「毛と歯」と称する落語愛好家の方もいらっしゃるはず^^

 今回は、これにて、お開き。

 さてさて、次回は何にしようかなぁ。結構、悩ませるのだよ、傑作が多くて。
 
 「毛と歯」、どっちも欲しいなぁ・・・・・・。要するに、どちらも風前のともしび状態なのである^^
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Commented by 櫻川梅一郎 at 2014-10-26 18:04 x
 志ん朝師のこの漫談、当初は「ヤマダゴイチ」とか思い思いの題がついていましたが、「男の勲章」に落ち着いたそうです。
 浅草演芸ホールのお盆興行の住吉踊りなど寄席の高座では何度も聴きました。
 志ん朝師が元気なころはシャレとか愉快なぼやきとして笑って聴いてました。でも、最期の年の住吉踊りのときは、げっそり痩せてしまって痛々しくて見るのが辛かったのを思い出しました…。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-10-26 21:01 x
生の高座経験のない私には、羨ましい限りです!

「男の勲章」という名も結構ですが、実際に山田吾一が登場する内容もありますので、それは「ヤマダゴイチ」でよいと思いますけどね。
とにかく、お客さんとの距離感の近~い雰囲気が、大須の音源から十分に伝わります。
寄席でもそうだったんでしょうねぇ、きっと。

Commented by 水カステラ at 2014-10-27 11:48 x
前略
どうも。以前この日の事をコメントさせていただいた者です。
私はこのCDを持っていないので活字を読ませていただいて「同期」の話や「毛と歯」の件を思い出しました。

三十年以上むかし、落語なんぞ全く興味が無かったのですが、当時入院していた祖母を母と見舞いに行った帰り、春風亭小朝の真打ち昇進披露興行(東宝名人会だったかな?)で観た志ん朝師の凄さに話芸の奥の深さを知りました。
今から思えば錚々たるメンバー(先代正蔵、先代三平、先代柳朝、志ん朝等々)でした。
そういった師匠方が新真打ちを祝福しながらも「未だ未だ若造に負ける訳にはいかねぇ」という迫力が漲っており、将に戦場の様な高座姿が強く印象に残って居ります。
とくに凄かったのが志ん朝師で、何も知らなかった私が隣の母に「この人凄いね」と言ったら母は「この人も凄いけどこの人のお父さんとお兄さんがまた良かったのよ」と言ってました。
先代三平師の顔色は土気色でしたが相変わらずのノリで楽しかったです。
亡くなられたのはそれから間もなくだったと思います。

いやー光陰矢の如しでありますが今は小朝師の弟子の圓太郎さんを注目しております。

                 草々

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-10-27 12:03 x
志ん朝の命日に書いた記事にいただいた水カステラさのコメントがどうしても気になり、音源を再度聴き直して、ようやく再発見した次第です。
「毛と歯」ですよ^^

写真を撮っていた方、高座から名前を呼んでいますので、ご常連か大須の支援者か、とにかくお知り合いのようですね。

小朝のことを触れているまくらもありますね。
そして、先代三平のこともいくつかのまくらで、落語界への貢献の高さを語っています。

お母さんは、相当な落語通でいらっしゃいますね。だから、水カステラさんの良い思い出として、いつまでも残っていらっしゃるのでしょう。

次回は、少し気長にお待ちください。
今週末は同期会での旅行で、私が彼らの前で落語を披露しなければならないもので^^

Commented by 南田神田 at 2018-10-24 19:57 x
志ん朝師匠の調べ物でここにたどり着いたので、今更ながらのコメントで申し訳ありません。
「Kさん」は、中日新聞の黒川部長(?)さんですね。当時は中日新聞夕刊に芸能コーナーを書いておられ顔の広い重鎮で、足立席亭とともに志ん朝師に出演交渉に行かれたかた。もちろん、志ん朝師の大須公演も宣伝されました。この時の写真も掲載された…ハズです。当時の足立席亭も「新聞に書いてくれなかったら、志ん朝が大須?ウソだろ、と思われただろう」とどこかに書いておられます。
小林信彦著「名人 志ん生そして志ん朝」にも登場しますね
Commented by kogotokoubei at 2018-10-25 08:52
>南田神田さんへ

お立ち寄りいただき、コメントまで頂戴し誠にありがとうございます。
そうでしたか。
大須の会が実現したのは、足立席亭を支えた人がいらっしゃったからなんですね。
今、12月のテニス合宿のネタ選びのために大須の音源をいくつか聴いていますが、やどれも、いいんですよね。
落語以外にもいろんなことを書いているブログですが、今後も気軽のお立ち寄りください。
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by kogotokoubei | 2014-10-25 08:29 | 志ん朝 大須の「まくら」 | Comments(6)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛