噺の話

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落語協会、来春の十人同時真打昇進で思うこと。

落語協会のサイトで、来年の真打昇進者について発表があった。
落語協会サイトの該当ページ

平成27年春 新真打昇進決定
2015年 春 (三月下席より)

三遊亭司(歌司門下)、柳家喬之進(さん喬門下)、三升家う勝(小勝門下)、柳家麟太郎(小里ん門下)、
入船亭遊一(扇遊門下)、金原亭馬治(馬生門下)、金原亭馬吉(馬生門下)、柳家さん弥(さん喬門下)、
柳家右太楼(権太楼門下)、三遊亭ぬう生(圓丈門下)

以上、10名が真打に昇進することが決定しました。


 見事に香盤通り。

 真打昇進披露興行が各寄席で十日間なので、昇進させる人数は、一人だけ抜擢する以外では、二人、五人、そして十人であると主任を均等に割り振ることができる。
 なぜ、来年二人でも五人でもなく、十人同時になったのか。
 まず、二人ではなかった理由。察するにある二人だけを選ぶというほど際立った人が、この十人以外も含めていなかった、ということだろう。私もそう思う。

 では、なぜ五人ではなく十人か。

 協会のサイトにある芸人紹介の内容からそれぞれの入門と二ツ目昇進時期を並べてみる。
落語協会サイトの芸人紹介のページ
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三遊亭司:平成10(1998)年5月三木助に入門→平成13年3月より歌司門下、平成15(2003)年5月二ツ目。
柳家喬之進:平成12(2000)年1月入門、平成15(2003)年10月二ツ目。
三升家う勝:平成12(2000)年1月入門、平成15(2003)年10月二ツ目。
柳家麟太郎:平成11(1999)年4月入門→平成12年4月より前座、平成15(2003)年10月二ツ目。
入船亭遊一:平成11(1999)年12月入門→平成12年6月より前座、平成15(2003)年11月二ツ目。
金原亭馬治:平成12(2000)年4月入門→7月より前座、平成15(2003)年11月二ツ目。
金原亭馬吉:平成12(2000)年4月入門→7月より前座、平成15(2003)年11月二ツ目。
柳家 さん弥:平成12(2000)年7月入門→平成12年11月より前座、平成16(2004)年7月二ツ目。
柳家 右太楼 :平成12(2000)年11月入門→平成16(2004)年7月二ツ目。
三遊亭 ぬう生:平成13(2001)年2月入門→平成16(2004)年11月二ツ目。
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  ご覧のように、五人目遊一、六人目の馬治、七人目馬吉の三人が同じ平成15年11月の二ツ目昇進で、香盤順に五人づつに分けにくかったのが、十人同時の理由なのだろう。
 入門から来春の昇進まではほぼ15~16年、二ツ目からなら11~12年が目安。

 ちなみに、ぬう生に続く噺家さんは次の通り。

林家彦丸:平成13(2001)年入門→平成16(2004)年二ツ目。
月の家鏡太:平成13(2001)年6月入門→平成16(2004)年11月二ツ目。
林家たけ平:平成13年入門→平成14(2002)年6月より前座、平成17(2005)年5月二ツ目。

 彦丸は入門も二ツ目昇進時期も月の記載がないが、たぶん二ツ目昇進はぬう生、鏡太と同じ平成16年の11月なのだろう。ぬう生と彦丸、鏡太の間には入門時期、あるいは前座としての楽屋入り時期の違いで香盤の差があるはずだが、真打昇進において三人の間に境界が設けられた理由は、単に十人、という切れ目というだけのことかもしれない。
「は~い、先着十人までです・・・ここ、ぬう生さんまでね」と、彦丸の目の前で線を引かれた、ということか。


 会長が交代しても、そう大胆なことはできないだろう、とは思っていた。
 しかし、ほんのわずかながら、年功(年々)序列以外の施策を期待していた。
 前会長柳家小三治の人間国宝という朗報に比べ、この十人同時昇進のニュースには、私は素直に喜べない。
 本人達には朗報かもしれないが、会長交代、新役員体制による最初の大仕事が、これなのである。

 何度か書いてきたが、最近の定席寄席の全体的な出来栄えにおいては、必ずしも人数的に圧倒する落語協会の方が芸術協会(芸協)より上、とは言えない。数年前の末広亭席亭の芸協への小言以来、芸協は良い意味で緊張感を抱いて寄席に臨んでいるような気がする。宮治を代表として若手が元気で、伝統的に色物が充実している芸協に比べ、落語協会の寄席では、ネタをするだけの時間があるにも関わらず漫談でお茶を濁す噺家にがっかりすることも少なくない。

 そういう認識が、新会長、新役員にはあるのだろうか・・・・・・。

 もちろん、検討するための時間も必要だが、新体制だから、できることもあったはずだ。 

 私は、素人の気楽さで、こんなことを考えていた。
 真打昇進候補を三十人位に拡大し、昇進審査を兼ねた二ツ目落語会を、定席の余一会や別な会場を利用して公開番組として開催する。新役員によって分担して特別ゲストとして一席披露するとともに、楽屋あるいは会場で、その役員は二ツ目の高座をしっかり聴く。終演後はお客様の投票も実施し、後日の参考とする。全ての会が終了したら、役員が集まり審査をして昇進者を決める。そんな試みがあっても良かったのではなかろうか。その結果の十人同時昇進なら、文句はない。

 「落語協会真打昇進審査落語会」とか「市馬杯」とでもして、一回に五人で持ち時間20分、ゲストの一席と仲入りで二時間半ほどの落語会になる。組合せを変えて、できれば一人が三回参加できるようにして延べ18回。一人二回で12回の興行だ。

 在籍年数だけによる機械的な昇進ではない、という姿勢を打ち出せるし、若手にチャンスと緊張感を与えることのできる施策ではなかろうか。協会新体制の挨拶代わりにもなるし、副次的効果として中堅以上の噺家さんの気も引き締めることになれば言うことはない。もちろん、落語愛好家には楽しみが増えることになる。早朝や深夜の落語会に行くことができない人は、なかなか二ツ目さんの高座をまとめて聴く機会はないのだ。

 今のままでは、のほほんと16~17年も我慢すれば真打。しかし、それがあくまでスタートである、という心構えの薄い“師匠”を数多くつくるだけではなかろうか。

 私は、社会の縮図が落語界にもあるように思う。
 二ツ目が多いこと、大卒者が多く年齢も若くはないこと、入門希望者が多く前座修業を待つ“待機児童”(白酒が言っていた^^)も増えている、などの状況がある。後ろが詰まっているから前の扉を開けて順番に外に放り出しても、外に飛び出た人達が名目通り師匠としての基礎体力を持っていなければ、厳しい芸の社会で片隅に追いやられる人も少なくはないだろう。その年齢になって他の人生を選ぶことはなかなか容易いことではない。
 二ツ目の間に、まだ若いうちに、自分の人生について他の選択肢を検討する機会をつくることのほうが、その人にとっては有益かもしれない。
 現在の二ツ目という“踊り場”には、親掛かりの、食べるには困らない若者も少なくなかろう。その親御さんたちも、十年先には子供の面倒をみるどころではないかもしれない。少子化に伴う社会の縮図としての今の落語界を考えることも重要なのではないか。自然に去っていく若手もいるだろうが、勘違いや錯覚の結果、落語の世界に入ってしまった人にも、真打昇進という大きな過渡期に、自分を見つめ直す機会を与えるべきではなかろうか。

 そういうことも含め、来春の同時十人昇進は、決して当事者の彼らにとっても晴れがましいこととは思えないのだ。

 小三治の人間国宝認定が教えることは何か。それは、あくまで伝統ある古典落語の真髄を守って、現代風のくすぐりなどで無理に笑わせようなどとはしない噺が大事であること。そして、聴く者を高座で描かれる江戸や明治の庶民生活の舞台に笑いとともに自然に導いてくれる落語が大事だ、ということだろう。
 
 そういう噺家さんと将来も出会えるためにも、落語協会の今後の試みに注目したい。
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Commented by どぎー at 2014-07-20 09:30 x
私も素人の気楽さで。
ある程度の香盤順はしょうがないとは思いますが、あまりにも実力が足りない人は香盤上げないとか、真打昇進させず二つ目にとどまらせる、なんてのもアリなんじゃないかなぁ、と思います。
あとは、真打昇進するけど、その中で香盤下がるとか。
最後のは面子丸つぶれでさすがに酷すぎですね。
上手い例えではないですが、真打がスタートとは言っても、競馬のように、ゲートインするまでの道程も大変だ、として欲しいです。

長文失礼しました。

Commented by 佐平次 at 2014-07-20 10:51 x
昇進後、二年で資格審査会をやるなんてのも面白い?
客の投票で決めるのです。必ず一人は香盤を下げる。

Commented by ほめ・く at 2014-07-20 11:52 x
何だか在庫整理みたいで本人たちも喜び半分なのではないでしょうか。
「名ばかり真打」を量産するくらいなら、いっそ上方流に身分制度を廃止した方が良いとも思います。

Commented by らく at 2014-07-20 14:47 x
 勝ち負けがはっきりしている将棋の世界と比べるとよくわかります。あちらは半年のリーグ戦でだいたい14勝2敗ぐらいの実力者2名しか,プロになれません。しかも27歳を越えると退会です。入門者全員が15年で真打になれたら,全体の質が落ちるのは当たり前です。入門5,6年のうちで淘汰するシステムが必要だと思います。

Commented by のり at 2014-07-20 14:50 x
いつも楽しみに見させていただいてます。

10人真打ち! いいじゃないですか!(嫌味も含めて)
これでこそ、一人真打ちや、抜擢の値打ちが上がります。

Commented by U太 at 2014-07-20 16:40 x
本音としてはかつての圓生師匠のように認めた者のみ真打へ、というのが理想でしょうけど、組織の維持という面を考えるとそうもいかないというのが現実では。それ程内部の嫉妬・やっかみが大きいのでしょう、少し前に桃太郎師匠もマクラかブログで語っていましたが。
芸術協会の場合「落語ファン倶楽部一門名鑑」によると、後の会長・米丸師匠が二ツ目突き出しの末、数年で真打になった事により、相当辛酸を舐めさせられた、とあったので、現在のようなガチガチの年功序列主義になったものと。芸術協会の三笑亭夢吉さんなんかは実力からすれば単独昇進させてもおかしくは無い素材ですが、どうやら来年辺りに他四名と共に昇進、というのが濃厚。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-07-20 20:42 x
コメントありがとうございます。
おっしゃる通り、まだ昇進には時期尚早と思われる二ツ目さんもいるでしょう。
そういうご本人も納得するには、何らかの形での競技(コンペティション)の場が必要ではないかと思った次第です。
昇進した後には香盤をいじるのは非常に難しいですからね。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-07-20 20:45 x
「資格審査会」も、ありですね。
しかし、そうなると先輩真打の中にも審査すべき噺家さんがいそうです^^

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-07-20 20:51 x
私も、本人達だって決して素直には喜べないと思います。
こっちも十人の名前は、なかなか覚えられないですしね^^
ご指摘のように、「真打制度」自体を見直すよい機会かもしれません。
そういったことが議論されたとは思えず、非常に安易に決まったような気がしてなりません。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-07-20 21:02 x
なるほど、将棋の世界はそういう厳しさがあるのですね。
そうでしょうねぇ、あの世界でそう多くの棋士が食べていけるわけでもないでしょうから。
落語界だって、そんなに甘くないはずなのですがねぇ。
良い意味での共同体なら結構なのですが、甘え合う世界では、決して芸は磨かれないと思います。
今後どうなるのか、ある意味では落語愛好家の我々も厳しい目で見つめる必要があるように思います。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-07-20 21:11 x
なるほど、そういう考え方もありますね。
一之輔が際立っていたこと、文菊、志ん陽が抜きん出ていたことを再認識させる機会になることも間違いないでしょう。
残念なのは、新体制が、結局“新”であることを何ら示すことができなかったことです。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-07-20 21:21 x
お久し振りです。
夢吉、なかなか聴く機会をつくれないのですが、今年中には、と思っています。
その夢吉でもそういうことなのですか。
では宮治の抜擢も難しそうですねぇ。
たしかに、いろいろと背景にはあると思いますが、長い目で落語という芸能、落語家という芸人を考えることも二つの協会の役割かと思います。

興行的な要素を含む昇進審査落語会、私自身は良いアイデアだと思っているのですが^^

Commented by らく at 2014-07-21 06:32 x
興行的な要素を含む昇進審査落語会は,ある意味よいと思いますし,現に立川志らく一門では実施しています。ただ,全体的なことを考えると,落ちてしまった方がそのままという訳にはいかないので,入門後20年たてば真打昇進などの救済条件を必ずつけなければならないのです。結果,あまり上手でない人も真打になり,初めて聞いた人が,「ああ,落語ってつまらない」となるのではないでしょうか。勝ち負けをはっきりつけられないとはいえ,師匠や協会の中で,伝統芸の質を維持していく意味で,入門後5,6年あたりで,見きわめるシステムが必要というのは,そこにあります。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-07-21 06:54 x
なかなか難しい問題ですね。
入門後5,6年で見極めるシステムがあれば良いだろうということは、まったく同感です。
自分の力を客観的に知るために二ツ目バトル的な会を、もっと増やすという案もあるかもしれませんが、何かもっと指標化できる基準も必要かもしれませんね。
そう考えると、落語○○席、踊りに唄がいくつ、と立川流に近づいていくなぁ・・・・・・。
それもあり、と私は思っています。
市馬新会長なら立川流と遠くはないので、他流派の良いものも取り入れた昇進基準づくりなどもありえると思うのですが、先輩お歴々が取り巻く環境では、なかなかそうもいかないか。
本件、継続課題として、適宜書いていくつもりです。

Commented by at 2014-07-21 08:28 x
さん弥は地味ですが、師匠譲りのきちんとした高座で期待が持てます。
真打昇進の基準。
これは落語会の永遠の課題でしょうね。
何らかの審査と競争をというご主張は仰る通りだと思います。

たけ平が一人だけ選ばれたとしたら、抜擢になるんでしょうが・・・

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-07-21 09:30 x
さん弥は、私も好きです。
彼が、まとめて十人の一人ではなく、選ばれた五人の中に入っていたのなら、喜んで来年の披露目にも行きたいところなのですが・・・・・・。
基準づくりは難しいですが、何らかの通過儀礼は必要かと思います。

Commented by YOO at 2014-07-21 23:51 x
世間一般とは反対に、何故か昔は厳しかった落語の世界だけに終身雇用制(年功序列制?)が残ってしまったというのは皮肉な感じがします。
私もほめ・くさんと同意見です。芸人さんの世界こそ、自分の力で客を呼べる社会であってほしいと思います。
一之輔さんも文菊さんも二つ目の時から目当てにして落語会に行っていました。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-07-22 08:55 x
たしかに、皮肉ですね。
企業は終身雇用の良さをかなぐり捨てて、敬うべき職人さんの技や、先輩から後輩への伝承という日本企業文化の強味をかなぐり捨てています。
特にモノづくり企業は、そのしっぺ返しを、今受けているのです。
もし落語界の現状が、歴史の伝承、技術水準の維持、向上につながるのなら結構なのでしょうが、そうは思えません。
真打制度、おっしゃる通り、廃止という選択肢も含め検討すべき時期だと思います。

Commented by U太 at 2014-07-22 23:20 x
真打制度を廃止、という意見も有りますが、東西両方の協会に籍を置いている笑福亭鶴光師匠は逆に上方にもちゃんとした身分制度を、というスタンスですね。碌に落語家としての修行もしていないタレント落語家の温床になっているという理由で。
現に向こうの副会長も落語家としての下積みを殆ど経験していないのでは(松鶴師匠からは一つも噺を教わらなかったようで)。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-07-23 09:08 x
東京と上方の大きな違いは東京の四つの定席の存在でしょうね。
あの寄席の顔づけを考えるにあたって、前座、二ツ目、真打という区分はどうしても必要になるでしょう。
もし真打制度を廃止する場合は、寄席の番組をどう作るかということを席亭と相談しなくてはならないのですが、席亭側が受ける話ではないというのが現実でしょう。
また、真打昇進披露興行も、普段よりは稼げる目玉番組でしょうからね。

上方の副会長さんですか・・・あの方も高い木戸銭でお客さんに漫談を聞かせているようですね^^

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by kogotokoubei | 2014-07-20 00:36 | 真打 | Comments(20)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛