談志が語る五代目小さん—『談志絶倒 昭和落語家伝』より。
2014年 05月 16日
弟子による師匠回想では、すでに小三治の本を紹介したが、トリはやはりこの人だろう。

立川談志/写真田島謹之助『談志絶倒 昭和落語家伝』(大和書房)
談志の名著『談志絶倒 昭和落語家伝』から。談志を、優れた芸能評論家であり落語の好指南役と考えている私の推薦書。2007年9月の発行。だから、小さん没後五年の時。この本については以前に書いたことがある。2011年11月29日のブログ
田島謹之助さんの貴重な写真(昭和29年から30年の人形町末広の噺家さんの写真や八代目桂文治の自宅の写真など)とともに本書で談志が取り上げられているのは、掲載順に次の噺家さん達。
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六代目 三遊亭円生
三代目 春風亭柳好
三代目 桂三木助
八代目 桂文楽
六代目 春風亭柳橋
桂小文治
五代目 古今亭今輔
八代目 三笑亭可楽
四代目 三遊亭円馬
四代目 三遊亭円遊
二代目 桂枝太郎
七代目 春風亭小柳枝
昔々亭桃太郎
林家三平
十代目 金原亭馬生
三代目 柳家小せん
七代目 橘家円蔵
九代目 翁家さん馬
三遊亭百生
二代目 桂右女助
八代目 春風亭柳枝
八代目 林家正蔵
二代目 三遊亭円歌
八代目 桂文治
五代目 古今亭志ん生
五代目 柳家小さん
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これだけの顔ぶれのトリが、師匠小さん。。
掲載されている40歳の頃の若々しい小さんの写真が楽しい。結構、二枚目なのだ。
談志が小さんのお内儀さんの弔いの時のことを、次のように書いている。
小さん師匠より早く死んだが、小さん師匠より年上である。ちなみに、お内儀さんの葬儀の弔文は私が書き、私が読んだ。小さん師匠は感極まって泣いていたっけ。
「バカヤロウ、弟子に弔文を書かせる奴があるか」
という文句も出たそうだが、
「いいよなあ、お前がやる分には」
「いいですよ。ぐずぐず言う奴は、ロクな者(もん)じゃないですよ、師匠」
噺家は、師匠のお内儀さんをしくじらないことが重要、とはよく言われることだが、談志に弔文を書かせたということは、しくじるどころか、師匠夫婦には実に良い弟子だったということなのだろう。
お内儀さんが亡くなったのは昭和53年の12月。円生の脱退騒動のあった年である。小さんにとって激動の年の暮れに最愛の妻を失った時、あの騒動の仕掛け人であったとは言え、自分の元に戻ってくれた談志は可愛いかったに違いない。
紹介した文章の後に、こうある。
小さん師匠が、私にボソっと言った。
「昨夜(ゆんべ)、お前、タクシーに乗ったらよォ、その運転手がな、お前の悪口ばかりなんだよ。
“談志”はしょうがねえな。生意気だな、あいつな。師匠の弟子でしょ。だめだ、あれな、なんとかしねえと”
さんざっぱら言うんだ、お前のことを。しょうがねえから、降りるときに六百円余計にやっちゃったよ」
どうってことないんだけど、これ、小さん師匠が喋ると可笑しい。落語の「フラ」というが、えもいわれぬ面白さ。小さん師匠、フラのある芸人でした。
なかなかいい話だ。小さんの弟子を思うやさしさが伝わるし、談志が「フラ」という表現を師匠に使うところが、意外でもあるが、実は「フラ」という専門用語の本質はこういうことか、と思わないこともない。
この本の良さは、談志が田島さんの貴重な写真を元に昭和の名人たちを楽しそうに、そして愛情を込めて振り返っている姿が、自然体の文章で伝わるところだ。
そして、本書のトリで、実に素直に師匠小さんのことを回想している。だから、あの談志からは意外とも思える表現に出会える。(太字は管理人)
今だからいうが、その頃、あの頃、二人が喧嘩ァしてた頃、もし師匠が、
「オイ帰って来いよ。俺が頭を下げる」
と、もし言ったとしたら、家元は困ったろう。これで落語協会に帰らなきゃあ、日本教に反するものネ。世間が許さない。談志が日本中で叩かれ、潰される。
それを偶然か故意(わざと)か、師匠は言わなかった。
「あれはあれで、いいんだ」と言った。
師匠、済まねえ。師匠と弟子として、一番仲がよかったしネェ。
「孝行をしたい時には師匠なし」とでもいう思いが強かったからの“師匠、済まねえ”だったのだろうと思う。
談志は照れ屋だ。それは高座の後に時おり見せた照れ笑いで分かる。だから、立川流を創立した後も、自分から小さんとの関係にケジメをつけるため詫びに行くようなことはできなかっただろう。あるいは、師匠小さんは分かってくれているはず、という思い込み、甘えもあったはず。だからこそ、没後のこの言葉になった気がする。
今頃天国でこの師弟はどんな会話をしているのだろうか。きっと、他愛ない子供のような喧嘩をしながら、美味い酒を酌み交わしているのだろう。
そんな思いを抱きながら、五代目小さん十三回忌特別シリーズはお開きとさせていただきます。
小さん、偉大ですね。
ダラダラと書いた駄文にお付き合いいただき、ありがとうございます。
まだまだ、小さんのネタはありますが、ほどほどでお開きとします。
今回割愛した内容の中では、近いうちに扇橋の本から紹介するつもりです。
少しネタばらしをすると、扇橋の『麻のれん』は、誰に稽古をつけてもらったか、が中心の内容です^^
