噺の話

kogotokoub.exblog.jp
ブログトップ

五代目小さんの語る“狸の料簡”とは—山田洋次『真二つ』(新潮文庫)より。

e0337777_11121306.jpg

 山田洋次の落語作品集『真二つ』は、単行本で大和書房から昭和51年に発行され、平成6年発行の文庫版には、落語の他に著者と小さんとの対談なども収録されている。

 落語協会のサイトには、五代目小さんのプロフィールが残っており、山田洋次の新作『真二つ』で芸術祭奨励賞を受賞したことも記載されている。他の受賞歴と併せて引用する。
落語協会サイトの該当ページ

受賞歴
1962(昭和37)年12月 粗忽長屋」で芸術祭奨励賞
1967(昭和42)年12月 新作「真二つ」(山田洋次作)で芸術祭奨励賞
1972(昭和47)年01月 放送演芸大賞
1980(昭和55)年04月 紫綬褒章
1984(昭和59)年01月 放送演芸大賞功労賞
1985(昭和60)年11月 勲四等旭日小綬章
1986(昭和61)年04月 花王名人大賞功労賞
1986(昭和61)年 日本酒大賞
1987(昭和62)年03月 NHK放送文化賞
1989(平成1)年03月 浅草演芸大賞
1992(平成4)年05月 紀伊國屋賞(紀伊國屋60周年記念)
1993(平成5)年05月 ポーラ大賞
1995(平成7)年04月 重要無形文化財保持者(人間国宝)認定
1999(平成11)年10月 名誉都民に認定


 人間国宝の後で名誉都民、というのは、やや不思議な印象。それにしても、たくさんもらってますねぇ。
 
 旭日小綬章は、今春小三治が受賞したので、師弟そろっての受勲。

 さて、この『真二つ』という噺については別な機会に書くとして、この文庫に収録されている対談から引用したい。
 
 「銀座百点」の昭和46年十月号に掲載された内容から。

山田  師匠の“料簡”という言葉が、すごく含蓄があって、ぼくは好きですね。その人物の料簡にならなきゃ、ということをよくいわれてるけれども。
小さん 同じ隠居が出ても、みんな違いますからね。だから、そのものの人物の料簡になれてえことが、一番肝腎なことなんですよ。
山田  ぼくらの映画の仕事でも、意識的におかしくしようとして、結局嘘になって、なにもおかしくなくなることが多いです。その人間の立場に立って考えると、そんな変なことはいえるわけがない。しかし、こういう形であれば納得がいく。つまりリアリティーがあるのではないか、というようなことを検討しつくした上ではじめて滑稽になるわけです。意識的に無理におかしいことを言ったって、見ててちっともおかしくない。こういう性格の人物で、こういう状況にある、そのときに彼はどういう気持がするだろう。そこから考えていかなければいけないんじゃないかっていうことがあるんですね。じゃ、タヌキに扮するときにはどうする、タヌキの料簡というのは何だ、という話になって笑ったんだけれども。
小さん タヌキの料簡なんてえには、わからねえ。(笑)しかし、ああいうものがかりに口をきいたとすれば、言葉じりが消えるだろうとか、人間をちゃんと見つめちゃいられないだろう、目は、ひとつとこに置かずに、しょっちゅうキョロキョロするようにしなくちゃいけないとかね。化ける前は両手をそろえて置くとか、脇へ置くとか、人間に化けたときには、ひざへ置いてもいいというふうに、タヌキを分析するわけですね。タヌキの料簡になってみるんだよね。
山田  そうすると、観客も、なるほどタヌキならそう思うだろうと思って、そんな気持ちがしてくる。(笑)
小さん その心構えがなくてしゃべっていると、人間がしゃべっているんだか、化けたのがしゃべっているんだかわかんなくなっちゃう。(笑)


 この部分を読んで、「あぁ、タヌキの噺で、子狸が最初にやって来て消え入るようにしゃべるのは、演出のみならず、こういう“料簡”だったからか」、と合点がいった。
 そう言えば『狸の札』を『狸賽』と同様に『狸札』を表記するのを目にするが、あれはいつも気になる。「の」が必要だと思うがなぁ。最近タヌキの噺では『狸の札』ばかりで『狸の鯉』『狸の釜』などは滅多に聴かなくなった。結構タヌキのネタが難しいという証かもしれない。鯉や釜になるタヌキの料簡には、そう簡単にはなれない、ということなのだろう。

 さて、本書からもう一つご紹介。月刊誌「落語」の創刊号である昭和54年八月号での対談から。

小さん やっぱり落語ってえのはね、貧乏のね、下のほうの下級のほうの生活が結局落語の世界なんだよね。だから、そういう貧乏を本当に楽しいものに変えちまうってえのがね、これァ落語の世界ですよ。
 だからあんた、「噺家に金持たせんな」なんて席亭があってね、「噺家は貧乏じゃないといい芸が出来ねえ」なんてね。「噺家ァ金持たしちゃいけねえ」なん言(つ)った席亭がいたけど、本当にそうだ。
山田  しかし貧乏でくじけて駄目になっちゃどうしようもないわけですからね、それはどういうことなんだろうか。つまり、貧乏ででありながら人を笑わせることを一生懸命工夫して・・・・・・。本当に貧しい顔になっちゃったら、そういう顔をお客が見たって楽しくないわけですからね。
小さん だからねェ、その日食うものもなくなっても、どっかへ行きゃァ食わしてもらえるしね。また、たまたま金が入りゃァすぐそいで美味いものォ食うし、遊びにも行っちまう。で、あと、明日はなんにもなくっても、蒲団のなかィ入って一日寝てるっていうような、ね、そういうようなことが、昔の噺家の日常ですよ。たまたま酒があれば、「おう、この酒持って雪見酒に行こうじゃねえか」ッてんで、向島まで行くようなね、そいで、雪を見ながら酒を飲んでいるなんてえ・・・・・・。


 
 末広亭の十三回忌追善興行は、昼の部とは入替え制で木戸銭は当日3,500円、前売りで3,000円。十日間の特別興行の上がりが、さてどれだけ噺家さんの懐に入るのだろうか。協会に一括で支払われるのだろう。

 「噺家に金持たせんな」と言った席亭が誰かの詮索はしない。想像はつくけど。

 私はこの中席で客として木戸銭支払に貢献できないが、末広亭の特別興行のワリで、「これで五代目の供養で一杯やれるなぁ」と出演した噺家さんの酒代になるのなら、それも十三回忌特別興行の効用なのかもしれない。

 それにしても、政治家には修業もしないのにタヌキが大勢いるが、五代目小さんの言うタヌキの料簡には、そう簡単になれるものではないなぁ。
[PR]
Commented by シニア・ナビ事務局 at 2014-05-14 12:17 x
はじめまして。シニアナビ事務局と申します。
突然のコメントで申し訳ございません。

私たちはシニア向けのコミュニティサイト「シニア・ナビ」を運営しております。シニアナビはお持ちのブログ登録が出来き、シニアナビ内でこちらのブログを公開する事ができます。

メンバーにいつまでも楽しんで頂けるよう、また新しい趣味や生きがいをお探しの方に役立つサイトを目指して、日々、イベントなどを企画して発信しております。

こちらで日々書かれている素晴らしいブログをシニアナビでもご披露いただけないでしょうか? 私達は、皆様が書かれているブログを通してシニアの皆様にそれぞれの生活、趣味、生き方をお伝えし、ご自身の生活をより豊かなものにしていただきたいと考えています。ぜひご協力いただければと思います。

また、シニア・ナビに遊びに来ていただけると嬉しいです♪

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-05-14 13:24 x
お立寄りいただき、ありがとうございます。

貴サイトについては何ら知識がないものですから、少しサイトを拝見してからご連絡申し上げます。
できましたら管理人のみ閲覧のコメントでも結構ですので、メールアドレスをお知らせいただけると幸いです。

名前
URL
画像認証
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by kogotokoubei | 2014-05-13 07:48 | 落語家 | Comments(2)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛