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雲助蔵出し ぞろぞろ 浅草見番 4月5日

一月に続いて浅草見番へ。
 浅草寺近くは、桜の花に誘われていつもよりも多くの人出だったが、浅草寺裏は、いつものような静けさ。

 少し早めに行って見番隣りの中華料理店で昼食。この店に二年前の四月に初めて来た時は、ちょうど平成中村座が開かれており、電話で勘三郎や橋之助の注文が来ていたことを思い出す。あの時のご夫婦は隠居され、現在は息子さんが腕をふるっている。メニューも少し増えたようだが、私は瓶ビールと竹の子(シナチク)ラーメンを奢った。

 そろそろ食べ終わりかけた時に、我らが居残り会のリーダーSさんが店に入ってきた。一時を少し過ぎたばかりだが、もう座席を確保して来られたとのこと。いつもは一時十五分頃の開場なのだが、少し早めたらしい。私も食べ終わって会場へ。前から四列目ほどで空いた座布団に本とプログラムを置いて、一階で一服。

 ほぼ120席(桟敷の座布団)が満員と思しき会場。構成は次のようだった。
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(開口一番 林家つる子『堀の内』)
入船亭小辰 『代脈』
五街道雲助 『花見の仇討』
(仲入り)
五街道雲助 『反対俥』
五街道雲助 『干物箱』
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林家つる子『堀の内』 (14分 *13:49~)
 一月の会は同門の先輩、なな子だった。なぜこの会で根岸の若手女流前座を開口一番にするのか、理由は分からない。
 それにしても、このネタでこれだけ笑えないことも珍しい。終演後の居残り会では、彼女の声が聞きづらいということで皆さんの思いは一致したが、基本的に、まだ大学のおちけん落語の域を出ていない。いくら海老名家で修業しても、それだけでは成長は難しいのではなかろうか。オジサン噺家からは楽屋が華やかになる、という理由で重宝されているのかもしれないが、本気で噺家になりたいのなら、どんどん他流試合で鍛えないといけないと思う。
 主催されているオフィス・エムズさんは正蔵の会も開催しているようなので、師匠からの依頼なのかもしれないが、他にも聴きたい前座さんはいるので、悩ましい。

入船亭小辰『代脈』 (17分)
 久し振りの小辰。このネタでは一之輔の高座が印象深いのだが、もしかすると彼に稽古してもらったかなぁ、と思わせる結構な高座だった。江戸・中橋の漢方医の尾台良玄の弟子銀南が、伊勢屋の娘の往診に行くのだが、銀南が笑いをとる演出として、一之輔と同様に羊羹が重要な要素となる。しかし、一之輔は、端っこの乾いて硬くなった部分をどう食べるか、という独特のクスグリだが、小辰は「羊羹を食べられるのも、残った羊羹を持ち帰れるのも番頭次第」ということを前半に強調し、番頭との会話の可笑しさで、落語通の多い会場を大いに沸かせた。
 表情にも以前よりはゆとりが出てきたように思う。こういう若手の成長を確認できる高座に出会うのが嬉しい。今後もこの人には期待したい。

五街道雲助『花見の仇討』 (38分)
 富士宮に行ったので狩宿の下馬桜を見に立寄ったが、まだ早すぎて蕾もなく、ほとんど人もいなかった、と苦笑。源頼朝が下馬した場所と言われている桜の名所だが、なるほどネットで開花情報を確認すると四月十日頃となっている。
 「花見の旬、ぜひお時間があればこの後で言問通りをまっすぐ言問橋を渡って隅田川の桜をながめ、よろしかったら私の氏神の牛嶋神社でお参りしていただき、その近くの馬石の家、には寄らなくても結構ですが・・・」などとマクラで紹介してくれた。
 その雲助お奨めの墨堤桜見散歩、居残り会の四人(よったり)は、居酒屋が店を開けるまでを利用して実行したのであった^^
 墨堤案内などのマクラ9分から本編へ。まさに旬の噺は実に楽しい高座。花見で周囲をあっと言わせる趣向として巡礼の兄弟が父の仇に上野で出会い、斬り合いになったところで六部役が仲裁に入って観客に趣向であることを明かす、という芝居なのだが、まず、巡礼兄弟役の金ちゃんと六ちゃんの対照的な個性が結構だった。稽古時点でも弟役の六ちゃんは科白を棒読みなのだが、これは本番でも解消されない。割り科白をギクシャクと続けながら、最後の決め言葉になる直前、二人で「ひのふのみ~」と調子を合わせて「尋常に、勝負、勝負~」と言う場面など、涙が出るほど笑った。仇討が始まって人垣ができ、後ろで見えない見物人たちのい掛け合いも妙に可笑しかった。
「なんですか?」「スリが捕まったらしいですよ」
「なんですか?」「女乞食のお産らしいですよ」
 は、聴いたことがあるが、
「なんですか?」「パンダがつるんでるんですよ」は、たぶん初めて聴いたと思う。この後で、雲助がちょっと照れた表情を見せたような気がする^^
 六部役の半公が、出かける途中で叔父さんに出会ってしまい、耳が遠いので趣向ではなく本当に六十六部に行こうとしていると勘違いして半公を止めようと家に連れて行かれる。頼りの叔母さんが不在。こうなりゃ叔父さんに酒を飲ませて寝かそうとしたが、逆に自分が酔っ払って寝込んでしまう場面は、ややもすると筋書きを知っているだけにだれる場合があるが、そのへんもすっきり無駄なく演じていた。
 他にも随所に笑いのツボをしっかり押さえ、雲助愛好家(?)で埋まった会場は沸き続けた。今年のマイベスト十席候補にすることを迷わない。
 この噺は、瀧亭鯉丈作『花暦八笑人』の第一篇「春の部」が原話とされ、四代目橘家圓蔵の『八笑人』と、上方の『桜の宮』を、三代目三遊亭圓馬が現在の型に作りかえたと言われる。三代目は小さんも東西交流において重要な役割を果たしたが、圓馬の存在も大きいと思う。しかし、圓馬を師と仰ぐ文楽はネタに持っていなかったなぁ。

五街道雲助『反対俥』~『干物箱』 (14分&29分 *~15:59)
 仲入り後、プログラムの前半と後半のネタを替えたことと、プログラムに書かれている『干物箱』に関係する噺を先に余興としてお話しする、と説明。
 二席目を聴くまで、なぜ『反対俥』が『干物箱』につながるのかは分からなかった。しかし、なんとも大爆笑の高座。
 上野の「ステンション」に急ぎたい男、最初に見つけた爺さんの車屋が「耳が遠いけど目は効く」と聞くと、「まるで志ん橋さんみたいな奴」、で笑った。客が「なんか生臭いね?」に、「朝は魚を俥に載せて運んでますもんで」、渡された毛布に「これも生臭いね?」には、「陸軍省払い下げで、陸軍では軍馬の世話役が使っていて馬の睾丸を包んでいた」というクスグリは初めて聞いたけど大笑い。師匠譲りなのだろうか。
 二人目の韋駄天のような俥屋の威勢の良さも凄かった。土管の並んだ道も飛び越えてしまう。若手が演じる場合もっとジャンプをするが、さすがにそれほど高くは飛び上がらないのだが、芸の力で高低を表現して見事。
 一息入れて、最近高座で足がつることがあって、先日は『百年目』で主人が小言を言う場面で足がつって困ったらしいが、六十六歳の『反対俥』で足がつらず、良かったと振り返った。
 さて三席目。吉原での遊びが過ぎて家の二階に“蟄居”させられた若旦那。父親から、三十分で帰るという約束で湯屋に行くことになる。源公の俥なら吉原まで行き帰りで三十分。でも、行って花魁に会って、すぐさよならだなぁ、という科白で『反対俥』とつながった。なるほど後から馬生の音源を聴いたら、源公の俥のことは師匠譲りの演出だ。
 また、寄席などでの場合は、自分の声色が上手い貸し本屋の善公のことは自らが思い出すのだが、雲助は幇間のような医者の藪井竹庵を登場させ、彼が若旦那に善公を教えるという設定。これは初めて聴いた。師匠も大師匠も私の持っている音源では竹庵は登場しない。
 運座(句会)に父親の代わりに行っていた若旦那が、まだ報告をしていないから聞かれるかもしれないと、巻頭の句「大原女や 今朝あらたまの 裾長し」と巻軸の「親の恩 夜降る雪に 音もせず」を善公に教えるのは古今亭伝統の型。だから、このネタは別名『大原女』と言うんだよね。
 善公が若旦那の二階の部屋に入ってからは、初代円遊が考え文楽が演じたような花魁の手紙の演出はない。その代わり、ではないが「いい火鉢だね、欅(けやき)だね。凄いね錫の薬缶だ。取っ手には瑪瑙(めのう)が入っているよ」という形容で、戸を開けるのも一苦労する善公の長屋との対比を鮮やかに物語っていた。こういった細かな情景描写が、重要なのだ。
 前半の爆笑『反対俥』と併せて、こちらも今年のマイベスト十席候補としたい。場合によっては、特別余興賞になるかもしれない。二年前の、あの『人情噺 火焔太鼓』のように^^


 終演後、お目当ての居酒屋が開くまでは約一時間余裕がある。居残り会リーダーのSさん先導の下、言問橋を渡って、墨堤散策である。
 池波正太郎『江戸切絵図散歩』を持参してルーペで眺めながら歩いた。あの本を紹介した際にも切絵図をお借りした「いい東京」のサイトから、「隅田川向島絵図」を拝借。
「いい東京」サイトの該当ページ

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 この図は北が下で南が上になっているのでご注意を。

 図の右上の端が吾妻橋(大川橋)、そのすぐ下の水戸屋敷(下屋敷)が、現在の隅田公園。その下に三囲(みめぐり)稲荷があって、言問橋を右(西)の浅草方面から渡った後、このあたりに出てくる。言問橋は関東大震災後に造られたので、江戸切絵図にあるはずもなく、三囲稲荷あたりの隅田川堤に、小さな文字で「竹屋ノ渡」とあるのだが、当時は橋はなく舟で渡った。

 墨堤を吾妻橋方面に歩いていくと、雲助の氏神、牛嶋神社があった。

 墨田区観光協会の「すみだ観光サイト」から写真と文章をご紹介。

「すみだ観光サイト」の該当ページ

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貞観年間(859~879)頃、慈覚大師が一草庵で素盞之雄命の権現である老翁に会い、牛御前と呼ぶようになったと伝えられ、かつては隅田公園に北側にあったのが公園の工事のため昭和7年に現在の場所に移りました。本所の総鎮守として知られ、9月15日には例大祭が催されています。境内の「撫牛」は自分の悪い部分と牛の同じ部分を撫でると病が治るという信仰で、肉体だけでなく心も治るという心身回癒の祈願物として有名。他にも本殿前には全国的に珍しい三輪鳥居(三つ鳥居)と「狛牛」があります。


 実は、牛嶋神社には、落語に縁の深いものがあった。
 
 江戸落語中興の祖、と言われた烏亭焉馬(うていえんば)が、自ら文化7(1810)年に建てた碑である。
 
 「いそかすは(がずば) 
     濡れまし(じ)物と夕立の 
        あとよりはるる 堪忍の虹  談洲楼烏亭焉馬」

 談洲楼とは五代目市川団十郎と義兄弟の縁を結んだ焉馬が名付けた狂歌名。

 雲助が氏神とする牛嶋神社、落語に大いに縁があったのだ。

 さて、墨堤桜見散策の後、ちょうど居酒屋の開店時間となり店に着いたら、なんと「本日貸切」との案内をお店の方が出しているところだった。「あら、貸切?!」とよったりが言っているのを店員さん耳にし、「何人ですか・・・四人・・・テーブル二席空いているので、どうぞ」と許してくれたのだよ。

 通されたテーブル席以外には、鮭の焼き物やら豆腐やら、日本旅館の朝食のような品が並ぶ。「はとバスか?」と思ったが、どうも人数の多さや料理の内容からはそぐわない。しばらくしたら、アジア系、タイかな(?)と思われる団体さんがやって来て、ものの三十分で食べ終わり、浅草見物の自由時間になったようだ。なるほどね。

 まぁ、こちらはリーダーSさん、I女史、M女史と四人で刺身やら牡蠣やら、丸干しやらを、いつものように注文して、ビールと燗酒で居残り会の開始である。
 雲助の三席の素晴らしい高座を振り返ることはもちろん、今後の予定の確認やら、SさんとIさんからは文楽の話題などもあれば、Mさんからは、私の兄弟ブログ「幸兵衛の小言」について、また同じブログにしたら、とのお言葉などなど。

 話は尽きなく、近くの某ホテル最上階のラウンジバーで、スカイツリーを見ながらの二次会。よって、昼の落語会とは言え、我が家に帰宅したのは、結構日付変更線には余裕のない時間であった。パソコンを見ることもなく、風呂に入って熟睡。今朝は、目覚ましを止めたのを覚えていない状態で寝坊し、恒例のテニスには一時間遅刻したのだった。

 テニスコートに向う途中で思い出した。牛嶋神社の撫牛、腰や足は撫でたのだが、頭を撫でるのを忘れていた・・・・・・。

 M女史の言葉もあって、「幸兵衛の小言」については、このブログに再統合はしませんが、ご案内はしばらくの間、トップに掲示したいと思います。 あちらもたまには更新しておりますので、よろしくお願いします。

 それにしても、雲助、どの噺も良かったなぁ!
Commented by 佐平次 at 2014-04-07 11:03 x
さすがの幸兵衛さんも酔いましたか^^。
極上の花見落語でしたね。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-04-07 11:26 x
つい飲みすぎました^^
それだけ話が弾みましたし、楽しい時間でした。
それにしても、I女史、M女史のタフなこと!

Commented by 彗風月 at 2014-04-07 13:18 x
雲師の浅草見番はやはり見逃せないですね。次回は参加できるかなあ。
先日、白酒師の花見の仇討を聴いたばかりですが、白酒演出ですと、金ちゃんと六ちゃんが決め台詞を言う直前、息を揃えるのに「いち、にのさん!」と言ってました。この、いちにのさん、という言い方に、とても幼い感じが出ていて堪りませんでした。あの噺は登場人物が多く、その棲み分けがキチンとできていないとぼやけてしまう難物だと思いますが、さすが雲師弟です。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-04-07 15:28 x
次回(七月五日)のチケットは、結構会場で売れていましたので、可能ならば早めに確保されてはいかがでしょうか。
ちなみに、Sさんも私も買いました^^
この会は、雲助師匠ご自身が楽しそうなので、こちらも楽しくなる、そんな高座と客との好循環の見本のような気がします。
『花見の仇討』のみならず、全三席が結構でした。
また、どこかでご一緒しましょう!

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by kogotokoubei | 2014-04-06 15:23 | 落語会 | Trackback | Comments(4)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛