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噺の話

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みなと毎月落語会 古今亭菊之丞独演会 麻布区民ホール 1月21日

地下鉄六本木駅から歩いてロアビルのある六本木五丁目の信号を右に曲がってしばらくすると、会場である麻布区民センターがある。ホールは地下一階で、客席数約240。
 この会場には、なんと四年ぶり。その時も菊之丞、そして当時の菊六との兄弟会だった。菊之丞の『山崎屋』が良かったことを、なんとなく覚えている(脳細胞が日々激減している。だからブログに書くのだ)。2010年1月29日のブログ

 地元の常連さんと思われるお客さんを中心にほぼ九分の入りだった。

 構成は次の通り。
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(開口一番 立川志らら『壺算』)
古今亭菊之丞 『居残り佐平次』
(仲入り)
古今亭菊之丞 『士族の鰻』(『素人鰻』)
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立川志らら『壺算』 (18分 *19:00~)
 港区の落語会のほとんどに立川企画が運営に協力しているようなので、開口一番は志らくの弟子のこの人。ネタは2008年のNHK新人演芸大賞で演じたものだったが、さすがに6年前より出来は良い。真打昇進を弟弟子の志ら乃に抜かれたが、昇進も近いような好印象の高座だった。

古今亭菊之丞『居残り佐平次』 (45分)
 昨日まで鈴本の昼の部の主任で、昨日はNHK朝ドラ「ごちそうさん」の出演者(男性)が楽屋を訪ねてくれたらしい。父親が落語のCDを与えてくれた子供時分からの落語ファンとのことで、最初に聴いたのが志ん朝の『三枚起請』とのこと。菊之丞は「恐れ入りました」と頭を下げたらしい^^
 同じ番組に出演している他の俳優に落語(『棒鱈』)を番組の企画で稽古した縁でメル友になったらしいが、あの番組の出演者は落語愛好家が多いらしい。非常に結構なことだ(?)。
 今年の初仕事である帝国ホテルの正月落語会出演時の逸話なども含むマクラを約6分、本編に関わるマクラが約3分なので、噺自体は35分位だったろうか、想定外の大ネタは嬉しかった。
 現実世界のマクラから廓の客の上・中・下をふって、一気に品川遊郭に連れて行ってくれた。佐平次も妓夫太郎の若い衆も結構。印象的だったのは、霞(かすみ)おいらんの“いい人”である勝っあんの部屋に刺身の下地(実際は蕎麦つゆ)を持って場をとりもつ場面。勝っあんに会いたい霞姐さんが、さみしそうに三味線を手に都々逸で心情を吐露する場面を披露。
「浮名立ちゃ それも困るが 世間の人に 知らせないのも 惜しい仲」と、ほどよい色気で聴かせる。こういう艶っぽさは、中堅の噺家さんの中でも際立っている。

 あえて注文をつけるなら、二つ。
 一つは佐平次が居続けた翌日、若い衆が「勘定、勘定」と迫るのを、昨夜の四人が今夜裏を返しに来る、と騙す場面の科白が、今一つリズミカルではなかった。人によって微妙に表現は違うが、志ん朝版を元に書くなら、こんな感じの科白だ。 (志ん朝は佐平次以外は三人だが、菊之丞は四人としていたので、四人としておく)
「今三時、過ぎた、そう四時、五時ともなるとここいらあたりも小暗くなって、あっちこっちから下足札をまく音がしたり、壁をトントン叩いて鼠なきの声がするよ、坂の上からいせいのいい俥が四台、俥の像ッ鼻をトーンと突くってえと、俥からおりてくるのがゆうべの四人(よったり)だ。あそびをして裏を返さないのはお客の恥、なじみをつけさせないのはおいらんの腕のにぶいぐらいは心得ている輩だよ。昨日縞を着ていたのが今日は無地、無地だったのが絣を・・・・・・」といった科白は、もう少しだけスピード感が欲しい。菊之丞には申し訳ないが、どうしても志ん朝と比べてしまう。
 もう一つは、サゲ前の部分で、主人に自分の正体(もちろん、嘘)を明かす場面の名科白のこと。これは、初代の柳家小せんによる演出だが、白浪五人男の忠信利平の科白を真似て挟むのだ。
「がきの折から手癖が悪く、抜参りからぐれ出して・・・盗んだ金の罪科は、蹴抜の塔の二重三重、重なる悪事に高飛びなし・・・」 ここで主人が「聞いたような文句だね」で歌舞伎を知っているお客さんから、ドッと笑いが起こる。
 菊之丞は前半だけだったのだが、やはり省略せず聴きたいところだ。これは廓ばなしの名人、初代小せんへの敬意を表わす場面でもあると思う。

 しかし、これらも私のわがままに近い要望とも言える。全体的には、まったくダレることのない結構な高座だった。

古今亭菊之丞『士族の鰻』(『素人鰻』) (32分 *~20:48)
 自分の酒癖の悪さを披露する、やや自虐的なマクラから本編へ。
 結論から書くと、非常に結構な高座。菊之丞の実力を再確認させてくれた。とにかく神田川の金がいい。
 明治維新になり新政府から下された奉還金を元に士族が鰻屋を始めるわけだが、料理は腕のいい金に頼るしかない。しかし、この男は酒乱であって、飲んでしくじってばかりいる。しかし、今度は酒を断って旦那(中村)を助けるというので、迎えた開業式の夜。主人の友人で金も馴染みの麻布の旦那(会場の地元^^)が、「開業式は特別だ、三杯だけ飲むのを許す」と酒をふるまったから、さぁ大変。
 一杯目は一気に飲み干し、二杯、そして三杯と飲みながら、金の表情がみるみる変わる。丹精な表情の菊之丞が、顔をしわくちゃにしながら演じる金の独演会が始まる。
 麻布の旦那に、以前に水戸藩邸の前で門番と酒で口論になり紐で縛り上げられていたところを助けてもらった、という思い出話をしている当りまでは、麻布の旦那も、言葉を挟まないにしても「(あぁ、そんなこともあったなぁ)程度で聞いていだろう。しかし、仲居のお花に追加の徳利を持ってこさせて手酌で四杯目を飲むあたりから、金の声が大きくなる。吉原に一緒に行った時の逸話を披露するあたりから「こら、良さないか」と主人がたしなめるのだが、「なにを」と食ってかかる始末。最後には「出て行け!」と主人に言われ「こんな店、いてやるもんか」と飛び出す。
 翌朝、吉原から付き馬を連れて帰る金、「なにもおぼてねえんです。気が付いたら、横に女が寝ていた」と詫びる。金がいなくれは店が開けない弱みの主人、吉原の付けを払い、店を開けることができたのだが、夜になって情け心を出して寝酒を出してやると、もういけない。べろんべろんになった金を見て、ふたたび「出て行け!」となる。
 サゲの仕草も結構だったが、とにかく金が酔って暴言を吐くまでの場面が秀逸だった。若旦那、幇間、そして女性を演じることには定評のあるところだげ、菊之丞の酔っぱらいも、いい。実践で練習しているのかな^^
 過去の音源では桂文楽が図抜けていて、菊之丞も文楽版が下敷きにあるように思うが、私は三笑亭可楽のこの噺も好きだ。だから、あえて可楽と同じ『士族の鰻』の演題にしている。
 江戸の世では職人を下に見ていた武士の中村や麻布の旦那が、店のオーナーとしての権威はありながらも、金の鰻さきの腕に頼らないわけにはいかない。そんな明治初頭の士族と職人との微妙な人間関係を背景にしながら、酒乱の金の姿を見せておいて、最後には鰻をつかまえることもできない士族の姿で笑いをとる、実はなかなか奥の深い噺を、ツボをはずさずしっかりと演じた菊之丞だった。なかでも金の顔の表情、である。この人が、こんなに表情を崩して演じることもあるんだ、と妙な感心をして聴いて、見ていた。文句なく、今年のマイベスト十席候補第一号である。

 
 帰宅途上で、こんなことを考えていた。噺家さんによっては、高座に上がってから聴く側が、やや緊張して身構えてしまう人がいる。また、まったくそういう圧迫感がなく、気分を和ましてくれる噺家さんもいる。
 どちらが良い悪いということではないが、菊之丞は、間違いなく後者である。私の印象では、他に桂南喬、春風亭百栄、桃月庵白酒あたりが、いわば「和まし派」であろうか。反対の「圧迫派」の名は、あえて挙げない。

 菊之丞のように、高座に上がるだけで聴く者の気持ちを、ふわ~っと軽くしてくれて、自然に落語の世界に溶け込むことのできる噺家さんは、そうはいない。やはり得難い個性であり、卓越した芸なのだとも思う。

 帰宅し、菊之丞の一席目のマクラを思い出しながら録画していた「ごちそうさん」を、飲みながら見た。つい、神田川の金になりそうなのをこらえて、ビールを一本、その後酎ハイを一杯やりながらブログを書いていたのだが、NHKのBSにチャンネルを合わせたら、大島渚の特集番組をやっていた。これは、1999年制作の遺作「御法度」の制作過程をカメラに収めたドキュメンタリーで、結構見応えがあり、寝る前にブログを書き終えることはできなかった。

 「アップを撮るのは逃げ、引く勇気がないからだ」というようなことを大島渚は言っていた。落語に置き換えると、うけを狙ったギャグで笑わせようとするのは逃げ、噺そのもので勝負しろ、とでも言うことか。いや全然違うかな・・・・・・。
 酒を飲み酔ってテレビに出て喧嘩するような映画監督など、もういないなぁ。大島渚が神田川の金とダブル。
 そして、大島だから許されたのでもあろうが、酔った人間をトーク番組に出演するような制作者も、今はいないだろう。了見の広い旦那も減った、ということか。
 テレビは、どのチャンネルも似たような顔ぶれによる、他愛のない楽屋での身内話ばかり。加えて、ライブの番組はニュースとスポーツ位で、必ず編集されて放送されるので臨場感に欠けるし、“危ない”発言はカットされる。テレビの魅力って、いったい何なのか、と思う今日この頃だ。

 京都東山亭さんというお店のサイトに江戸時代の鰻屋の絵があったのでお借りした。
「京都東山亭」サイトの該当ページ

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 テレビや新聞などのメディアに限らず、飲食業界の職人さんもサラリーマン化し、上司が言うことには、それが悪い事だと思っていても抵抗せず、経営の論理にのみ盲目的に従わざるを得ないのが日常なのだろう。しかし、そういった受け身の姿勢が、結果として昨今の食品偽装問題などにもつながっているようにも思う。

 神田川の金のような人物は、今では少ないことだろう。もちろん酒乱はいけないが、食べ物を扱う者としての責任感や正義感にあふれる職人は、今日でも必要ではないだろうか。菊之丞の高座で、いろんなことを思うのであった。

 それにしても、圧巻だった。久し振りだったので、なおさら菊之丞のたくましさのようなものを感じた。昨年は縁がなかったが、今年はできるだけ聴こうと思う。
Commented by hajime at 2014-01-22 15:00 x
菊之丞さんは最近ぐっと良くなって来ていますね。将来が楽しみな噺家さんの一人と思っていましたが、いよいよ本領発揮ですね。
「居残り」ですが、流石、この噺のポイントを押さえて聴いていらっしゃいますね。聴く側にも技術が必要ですね。
ところで、サゲは昔ながらの「おこわにかける」だったのでしょうか? よろしければお教え下さい(^^)

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-01-22 15:15 x
久し振りに菊之丞を聴きましたが、これまで時おり感じていた、上手いけど線が細い、という印象をほとんど受けませんでした。
良き伴侶に恵まれたからでしょうか。
『居残り』は、やはり聴かせどころをどうこなすかが、気になります。
帰宅する電車の中で志ん朝の音源を聴きましたが、テンポが抜群なんですよね。
菊之丞のサゲは、伝統的な「おこわ」→「ごま塩」でした。
私は、分かりにくくなってきたサゲを残すことも重要だと思っていますので、違和感ありませんでした。

Commented by 彗風月 at 2014-01-23 09:26 x
「居残り」は大好きな噺のひとつです。如何にも落語的な物語の流れがツボなのです。矢来町の良さもさることながら、私は柏木の名演が忘れられません(勿論生では見ていないのですが)。古い時代の残り香と、今様なテンポの両面が堪能できる高座です。そういえば、東宝は2014年度も「午前10時の映画祭」企画を継続しますが、今度のラインナップには「幕末太陽傳」が入っています。フランキーの佐平次も結構ですね(お座敷で佐平次が太鼓を取り上げて叩き出すところで、撥をくるくるっと回すところが堪りませんww)。

Commented by 佐平次 at 2014-01-23 10:20 x
昨日夕方ふとNHK衛星1をつけたら黒人解放大行進のドキュメント、迫力がありました。
テレビの力はドキュメント以外に発揮できなくなったのかもしれません。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-01-23 11:18 x
私は、やはり矢来町かな^^
現役では、佐平次が真っ赤な着物で「唐辛子踊り」を披露する権太楼版も好きです。
『幕末太陽傳』は日本映画の金字塔です!
このネタについて、初代小せんの秀逸な演出を中心に書こうと思っています。

Commented by 小言幸兵衛 at 2014-01-23 11:21 x
おっしゃる通りですね。
ドキュメンタリーかスポーツ、作り物ではない歴史の断面のありのままの映像にしか、存在価値がなくなってきたのかもしれません。

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by kogotokoubei | 2014-01-21 23:40 | 寄席・落語会 | Comments(6)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛