噺の話

kogotokoub.exblog.jp
ブログトップ

市場原理主義と闘う経済学者、宇沢弘文の新著は大いに読む価値あり!

これまでに、宇沢弘文著『社会的共通資本』からは何度か引用している。

2013年4月17日のブログ
2013年4月23日のブログ
2013年12月13日のブログ

 今年86歳になる経済学者の新著が『経済学は人びとを幸福にできるか』である。昨年10月(本の奥付には11月7日第1刷発行となっている)に発行され、私は1月1日の第2刷を12月に買って読んだ。
(書籍の発行日には、時々戸惑いを覚える。どういう慣習なのだろう・・・・・・。)

e0337777_11112424.jpg

宇沢弘文著『経済学は人びとを幸福にできるか』(東洋経済新報社)
 
 宇沢弘文は、「TPPを考える国民会議」の代表世話人の一人でもある。同会議のメンバーは下記でご確認のほどを。
「TPPを考える国民会議」サイトの該当ページ

 顧問に鳩山由紀夫の名は、最初からあったっけ・・・。


 さて、この本は、同じ出版社から2003年に発行された『経済学と人間の心』を底本としている。だから新著、と言うのは正確ではないが、とにかく読む価値ありの本であることには違いない。

 目次は次の通り。
-----------------------------------------------------------
「人間のための経済学」を追究する学者・宇沢弘文—新装版に寄せて
            ジャーナリスト・東京工業大学教授 池上 彰
第1部 市場原理主義の末路
第2部 右傾化する日本への危惧
第3部 60年代アメリカ−−激動する社会と研究者仲間たち
第4部 学びの場の再生
第5部 地球環境問題への視座
-----------------------------------------------------------

 第一部の次の二つの章は、講演の記録である。

  第一章 社会的共通資本は市場原理主義では守れない
          (2009年1月9日 経済倶楽部講演)
  第二章 パックス・アメリカーナの危うさ
          (2010年1月8日 経済倶楽部講演)

 だから、底本にはない内容だ。経済倶楽部とは、東洋経済新報社の外郭団体の社団法人。

 第二章から、講演後の質疑の内容を引用。

質問  たいへん貴重なお話、ありがとうございました。近年、日本でもグローバル化の影響、具体的には失業の増加や賃金の低下が議論になっています。その辺についてコメントをお願いします。
宇沢  グローバリズムという考え方自体が、じつは市場原理主義のいちばん重要な武器だったわけです。
つまり、市場原理主義というのは、法律を変えてでも儲ける機会をつくるということなんですね。それを貫くという考え方をグローバリズムと言うわけです。それぞれの国は、歴史的な、慣行的ないろいろな制度を、雇用でも、あるいは経済取引でももっております。それをいっさい無視し、いっさい取り払って、そして設ける機会をできるだけ大きくしようということです。これが市場原理主義の考え方です。
 市場原理主義は、これはフリードマンに代表されるんですけれども、(自由主義を守るためには)水素爆弾を使ってもいいということを大きな声で主張していました。それが『ニューヨーク・タイムズ』に出て、(フリードマンと同じシカゴ大学にいた)私たちは非常に迷惑したこともあるんです。


 このフリードマンの“水素爆弾”のことは、第一章の講演の中からご紹介しよう。

 話は戻りますけれども、64年に私はシカゴに戻りました。ちょうど大統領選挙の最中で、ジョンソン(民主党)とゴールドウォーター(共和党)の二人が争っていました。

 私がシカゴに着いたころ、ゴールドウォーターがヴェトナム戦争に水素爆弾を使えと主張したのですが、ミルトン・フリードマンがゴールドウォーターを弁護してこう言ったのです。ヴェトナムに水素爆弾を落とせば何百万人死ぬかわからない。しかし、それは自由主義を守るために当然だと。そのときフリードマンの言った有名な言葉が残っています。
 “One communist is too many!”(共産主義者なんぞ一人でも多すぎる)
 ゴールドウォーターやフリードマンの言う自由主義というのは、もっぱら企業の自由です。それを守るために何百万人の生命も惜しくない。このゴールドウォーターの主張に対して、アメリカだけでなく、世界中からきびしい非難と批判が起こった。ゴールドウォーターは政治家ですから、その主張を取り下げました。
 あるときフリードマンがゴールドウォーターの選挙陣営に呼ばれて、アドバイスをしたことがあります。帰ってくるなり、“Goldwater is the man.Compared with him, Richard Nixon is a communist.”(ゴールドウォーターこそリーダーにふさわしい。彼に比べればリチャード・ニクソンなど共産主義者のようなものだ)と言って歩いていました。私たちは(シカゴ大学の同僚として)ほんとうに恥ずかしい思いをしたものです。


 宇沢弘文には市場原理主義のみならず、戦争への強い嫌悪感もある。言い替えれば市場原理主義の延長線上にある戦争肯定主義への抵抗かもしれない。だから、好戦的な人物、特に政治家への批判の眼は鋭い。
 第二部「第四章 戦争の傷を抱えた経済学者」から引用したい。キース・フリアソン、ツヴィ・グリリカスという懇意にしていた二人の経済学者の死を悼む文章の後の内容に、その一端が読み取れる。
 ちなみにグリリカスは、リトアニア生まれのユダヤ人で、七歳か八歳のとき、ソ連のユダヤ人収容所に入れられ、そのままナチドイツの収容所に移された人。戦後、アメリカ軍が彼を救出したのは、悪名高いダッハウ(Dachu)の収容所だった。カリフォルニア大学バークレーを最優秀の成績で卒業し、シカゴ大学で宇沢弘文と出会って、宇沢にとって終生の友人だった経済学者である。

 グリリカスは、戦争放棄を謳った日本の平和憲法を人類の生んだ最高のものとして高く評価していた。戦争で滅茶苦茶にされてしまった自分の一生を振り返って、この平和憲法が、世界で共通のものとなることをつよく希求していた。しかし、「天皇を中心とする神の国」の考え方が生きつづけている日本の現状に対して、グリリカスはきびしく批判的であった。あるとき、私たちが霞が関を歩いているときに、右翼暴力団の装甲車風のトラックの列が大声を挙げながら通り過ぎた。その意味をかんたんに説明したとき、かれの表情はとたんに暗く、軽蔑と恐怖を綯い交ぜにしたものに変わったのである。
 戦争が終わって半生記の年月が流れた。しかし、戦時中、アジアのいたることろで、「天皇」の名の下に日本軍が犯した残酷、残忍な行動は、人々の心につよく刻み込まれている。その心の傷が癒されようとするとき、決まって自民党の心ない政治家がアジアの人々の心の傷をかきまわすような発言をして、戦時中、日本軍が犯した残酷、残忍な行動を改めて思い起こさせ、その記憶を新たにさせる。2000年五月の森喜朗首相の「天皇を中心とする神の国」発言も、このような効果をもっている。とくに、現職の総理大臣の発言であって、しかも、繰り返し、発言を撤回しない旨、公言して憚らない点、日本に対する不信感、軽蔑感をかつてないほど高めている。このことが日本の国民全体にどれだけ大きな重荷となり、足枷となっているか、そのことに森喜朗氏は気づかないのだろうか。



 “決まって自民党の心ない政治家がアジアの人々の心の傷をかきまわすような発言をして、戦時中、日本軍が犯した残酷、残忍な行動を改めて思い起こさせ、その記憶を新たにさせる”歴史は、また繰り返されている。
 安倍晋三の行為は、アジアの近隣諸国における日本と日本人への嫌悪感と軽蔑の念を増加させるだけである。

 この本からは、今後も何度か紹介するつもりである。日本人が忘れかけている大事な“心”を思い起こさせる好著だ。
[PR]
Commented by 佐久間 博 at 2018-03-21 16:25 x
グリリカスの履歴について
「悪名高いダコウ(Dachu)」は「ダッハウ(Dachau)」の間違いと思います。
https://de.wikipedia.org/wiki/Zvi_Griliches
Commented by kogotokoubei at 2018-03-22 09:13
>佐久間 博さんへ

コメント、ありがとうございます。
修正いたしました。
やや古い記事までご覧いただき、誤字のご指摘をいただきお礼申し上げます。
名前
URL
画像認証
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by kogotokoubei | 2014-01-06 19:32 | 今週の一冊、あるいは二冊。 | Comments(2)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛