新宿末広亭 七月下席 昼の部 7月27日
2013年 07月 27日
12時少し過ぎに着いた時は、神田あっぷるの講談の途中。椅子席はほぼ満席。好きな下手の桟敷も七割ほど埋まっていた。途中からは二階も開放された大入り。まさか、これだけの人が昇太の人気で九時間ここに居続けるわけではあるまい^^
学校が夏休みとはいえ、子供は最前列の女の子の他は見当たらなかったなぁ。とにかく盛況だった。
ちなみに、夜の部に関して芸協サイトの協会会員に“ゲスト”と書いていることに小言を書いたが、末広亭のプログラムには、夜の膝前に「真打交互(昇太他)」と書いてある。まったく、その通りであって、“ゲスト”などとは書いていない。当り前である。
演者とネタ、感想と所用時間を書くことにする。 印象が良かったものに色を付けておく。
ぴろき ウクレレ漫談 (8分 *12:14~)
“色物の芸協”の代表的な一人になった感がある。たった数分で会場を沸騰させる。ネタバレで恐縮だが(一つ位は許して^^)、父親の携帯に女子高校生になりすましてメールを送ったら、父から「大学生です」と返信があり、三日後に会うことになったというネタの可笑しさなど、この人は見た目だけのコメディアンではないと思う。センスの良さと笑いのツボを押さえた今後ますます活躍するだろう人だ。テレビの雛段芸人とは大きく違う。
昔々亭慎太郎『壷算』 (15分)
初である。芸協サイトのプロフィールによると、もちろん桃太郎の弟子で三年前に真打昇進したようだ。新作ではなく古典、それもほとんど本来の筋で演じ、お客さんもこの噺を初めて聴く方が多いのか、ネタ自体の可笑しさで笑っていた。サゲだけは、店の主人が「そのカラクリを教えてください」と問いかけ、その答えで落したが、師匠譲りかどうかは勉強不足で分からない。何の先入観も持たずに聴いたのだが、芸協の若手真打にもこういう人がいることを発見できた。今後も聴きたい人だ。
春風亭鹿の子『お菊の皿』 (11分)
この人も初。慎太郎と同じ三年前五月の真打昇進。柳昇に入門し小柳枝門下に移った人のようだ。古典でほぼ本来の筋の通り。女性ならではのお菊さんの化粧場面などもあったが・・・・・・。もう少し聴いてみないとなんとも言えない、そんな印象。もし、新作をネタに持っているのなら聴いてみたい。
松旭斉小天華 奇術 (10分)
短い時間だったので、今回は“しゃべり”なし。淡々とこなすこの人の奇術、好きだなァ。
桂文治『源平盛衰記』 (15分)
昼の部の春馬と昼夜交代の出演。「常連さんがいらっしゃるので、いつもの前半ではなく後半を」と那須与一の『扇の的』を中心に。このネタの前半は、同じ会場で昨年襲名披露公演で聴いている。2012年9月27日のブログ
途中で挟むオリジナルのクスグリには、池袋演芸場の○○さんと△△さんが、例のごとく登場。
そして、私は初めて聴いた余芸(?)、「ホップ・スキッパ・ジャンプ」と表現する、口と歯での声色が楽しかった。うぐいす、らしく聞こえるのである^^
よく笑ってくれるお客さんが多かったとはいえ、さすがの高座である。得した気分。
桂伸乃介『長短』 (16分)
江戸っ子と田舎者に関するマクラをたっぷりふってネタへ。ベテランなのだが、二人の描き方が今一つ、という印象。長さんの仕種と語り口で、私は眠くなってしまった・・・・・・。
宮田 陽・昇 漫才 (9分)
ナイツとの交互出演なので、「ナイツじゃなくて、すいません」の言葉から始まったが、私はこの二人の漫才は好きだ。初めてと思われるお客さんも、陽の「わかんねぇんだよ」で最後は大爆笑。二人の魅力は、わかったようだ^^
桂南なん『狸の札』 (14分)
いつ聴いても、見ても不思議な魅力のある噺家さんだ。初めてと思われるお客さんも、最初はいぶかしげに聴いているのだが、最後は気持ちよく笑いながら聴いている。そういう力のある高座。
春雨や雷蔵『子ほめ』 (15分)
マクラで楽しかったネタ。八十八歳のお婆さんが、「三途の川を渡るため」にスイミングスクールに通って泳ぎを習い25m泳げるようになった。嫁がスクールにやって来てスクールの先生に、「お願いですから、ターンは教えないでください」。オリジナルかどうかは知らないが、こういうのは好きだ^^
香盤では寿輔から一つ下、というベテランだが、若々しく前座噺を楽しませてくれた。
林家今丸 紙切り (13分)
前半は喫煙タイムに充てた。後半は最前列の女の子のリクエストで「ミッキーマウス」、その後「茶摘み」(静岡出身の方で土産に新茶を今丸に献上^^)、「盆踊り」そして、いつものようにお客さんの似顔絵、で締め。
正楽とは芸風は違うが、客席と一体感のある芸で会場を和ませた。
桂米丸『杖』 (18分)
仲入り前は、協会の最高顧問。創作中の新作の話をマクラに、オリジナルの新作へ。大正14(1925)年4月6日生まれ、八十八歳のこの方が元気で高座に出られていることだけで、私は嬉しい。スイミングスクールでは、ターンも教えてあげて欲しいものだ^^
桂歌蔵『大安売り』 (13分)
初である。無難ではあるが、やや単調な運び。少し眠くなった。
Wモアモア 漫才 (9分)
この人達の漫才も好きだなぁ。上手の福島出身のけんが、隅田川の花火に行くつもりだが、天気予報では雨、どうなるのか、いつものようにリアルタイムな話題で笑いをとる。下手の熊本出身のしん、いつになく怒って見せる場面もあり、“生きている漫才”という印象だ。やはり、芸協の色物は充実している。
三笑亭茶楽『紙入れ』 (12分)
初である。八代目可楽の弟子であるベテランに、なぜかこれまで縁がなかった。順番が入れ替わった鶴光について、「電車で痴漢容疑で取り調べを受けている」と言って会場を爆笑させてから本編へ。
端正な高座で、時折最前列の女の子を気遣う間を入れ、会場の笑いをとる。非常に若々しい高座は、とても昭和17年生まれとは思えない。まだまだ聴かなければならない噺家さんが東京にもいることを再認識。
笑福亭鶴光 漫談&『生徒の作文』 (13分)
茶楽のマクラは聴いていなかったのだろうか、痴漢の件はまったく出ない^^
会場は大受けだったが、私は漫談もネタも、あまり可笑しくなかった。相性もあるのだろうなぁ・・・・・・。
ボンボンブラーザース 曲芸 (11分)
大好きな紙切れを使ったネタは出なかったが、いつもながらの名人芸。初めてと思われるお客さんは、最初は結構上から目線で見ているのだが、最後は大拍手。これが芸である。
古今亭寿輔『天狗裁き』 (27分 *~16:29)
いつものように「拍手なんていりませんよ」、そしてテトロン着物のことなどのマクラの中で、「二列目のお客さん浅草の常連さんで、どうしてここまで来るんですかねぇ・・・うれしいけど」とか、最前列の女の子に愛想をつかって「袖から見ててもツボをはずさず笑っているし、頭のいいお子さんだねぇ。末はお茶の水、あるいは東大でしょう」などと言って、「なぜ子供を大事にするかというと、少なくともこの子は今後七十年はご贔屓、比べて他の方は・・・あと五年・・・」などで沸かせる。ヨイショなのだろうが、「今日の客席は一体感があって、今までで一番」などという科白もあった。本音、じゃないよなぁ^^
本編も程よくオリジナルのクスグリを散りばめた結構な高座。導入部で、前の方のお客さんがペットボトルを落とし、「落としたよ!」といじって、ネタを忘れたフリをしていたが、しっかり復帰し、下手をするとダレがちな噺を最後までしっかり聴かせた。伊達に三十年テトロンを着ていない噺家さんである。
仲入り後あたりから、夜の部目当てのお客様が入場し、後ろで立ち話をしているのが少し気になったが、全体的には高座も会場の空気も良い、夏の寄席だった。
色物、そして初めて聴くベテランの味に加えて、なんと言っても寿輔ワールドに満足し、カーニバルの様相を示す騒がしい新宿から帰路についたのだった。