新宿末広亭 五月中席 昼の部 5月18日
2013年 05月 18日
それぞれ出し物と所要時間、そして短い感想。良かったと思うものに色をつけた。
江戸家小猫 物まね (10分、*12:52~)
初である。四月下席の昼はお父さんが出ていたなぁ。芸は似ていたが、見た目は、そのお父さんには似ていないような気がした。やけに日焼けしている。ゴルフでもやるのだろうか。なかなかの芸で、会場は結構沸いていた。ぜひ祖父から三代の芸、しっかり継承していただこう。
三遊亭丈二 漫談 (13分)
この人には、どうしても辛口になる。まず、ネタがいつもの二ツ目時代の名のこと、そして自分の病気になった時の話。別に内容が同じでも、それが聞くに堪えるネタになっていればよいが・・・・・・。この若さでマンネリ化したつまらない漫談ばかりでは閉口する。
入船亭扇里 『持参金』 (13分)
初である。扇辰のすぐ次の扇橋の弟子、そして最後の弟子になるだろうが、扇辰とは少し年が空いている。三年前の真打昇進だが、その後に抜擢された一之輔、文菊、志ん陽と比べては可哀想ではあるが、相当力の差があると言わざるを得ない。
噺は私の知っている型と違って、伊勢屋の番頭が酔った上で奉公人のおなべを孕ませ、隠居が持参金を番頭から受け取る前に八五郎の長屋におなべを連れてくる、という設定だが、この噺の可笑しさの基本は変わらない。しかし、客席は沸かない。この噺でここまで笑いがとれないというのでは困る。私はポッドキャストの音源の菊朗時代の菊志んの型を元に、テニス仲間との合宿での宴会で披露したことがあるが、大爆笑だった。それほど、ネタそのものが笑える噺なのだ。
しかし、非常に真面目な高座だし、基本はある程度できているのだろう。兄弟子たちの高座をしっかり学んで、基本編から、ぜひ応用編に進んでもらいたい。
ホームラン 漫才 (13分)
のいる・こいるの師匠である、てんや・わんやの「玉子の親じゃ~ぴよこちゃんじゃ~」や、順子・ひろしのネタの真似、そして客席から右(上手)のたにしが師匠であった三波伸介に、歌舞伎や新劇などいろんな舞台を見て勉強をするよう言われた、という話題から歌舞伎のネタを披露した。この二人の芸の奥深さを味わった、結構な芸だった。
柳家小ゑん 漫談&新作 (15分)
実は初である。なぜか縁がなかった。電気屋の息子でハンダ付けが得意。「昔はハンダ付けができないと、秋葉原の改札を通れなかった。今は、メイドが出迎える」と嘆きのマクラから、短い鉄ちゃんモノの新作。会場は沸いていたが、この人の実力は寄席の15分では分からないようだ。別な機会にじっくり聴こうと思う。
春風亭一朝 『たがや』 (16分)
若干だれた流れをしっかり締めてくれた高座。「旧暦の五月二十八日が、川開きでした」とふり、江戸っ子の威勢のいい啖呵で小気味良く噺を進める。やはり、こういう人が寄席には必要なのだ。
この噺については、ずいぶん前に書いたので、興味のある方はご覧のほどを。
2009年6月3日のブログ
林家正楽 紙切り (13分)
最初の「相合傘」の後は客席の注文によって、「中間試験」「正楽師匠」「三社祭」「助六」と、いつもの見事な芸。「中間試験」という珍しいお題でも、しっかりとした作品だったのが印象に残る。
桂南喬 『替り目』 (16分)
仲入り前はこの人。以前にも聴いたが、やはりこういう噺家さんの高座は寄席で必須である。志ん生版のように、おでんのネタでのくすぐりなどはないのだが、独自の選出も違和感なく交え、一朝、正楽から続く寄席の本寸法の芸の流れで後半につないでくれた。
入船亭扇治 『新聞記事』 (14分)
本来のクイツキは扇辰。その代演で登場。以前、白酒の代演で聴いた時よりは、時間が深いことで気合いの入れ方も違うのだろう出来は良かった。しかし、代演の時のマクラは前と同じで「これもご縁。私が出ていない時に、ぜひ末広亭の前で大きな声で『扇治は出てないのぉ、そうか、だったら出直そう』と言ってください。これなら祝儀の金もいりません」というのは、ちょっとさびしいぞ。
三遊亭小円歌 俗曲 (23分)
次の文生の楽屋入りが遅かったのか少し長めだったが、いつもの艶のある芸で、しっかり。志ん生や志ん朝の出囃子はうれしかったなぁ。締めのかっぽれも、結構でした。
桂文生 漫談 (18分)
小燕枝の楽屋入りが遅れたのか、少し長めになったが、なかなか楽しかった。以前にも聴いた話もあったが、志ん生や小さんの逸話など、昔の落語界のことを語れる人が少なくなった今、この人の漫談も得がたいものになってきたように思う。「落語は明日やります」と言って下がったが、毎日、漫談でもいいじゃないか、と思った。
柳亭小燕枝 『権助魚』 (14分)
こういう噺家さんが寄席を支えている。時間の関係なのかどうか、権助が魚屋で買う中に目刺しがなかったのが残念だが、聴いていてホッとする高座。その前の文生と二人で膝前を務めた、そんな印象だ。
翁家和楽社中 太神楽 (6分)
「和楽がいない?」、そればかりが頭にあった。三人はそれ相応の芸だったし、ミスもなかったが、とにかくリーダーが不在なのだ。何かあったのか・・・・・・。
入船亭扇辰 『百川』 (30分、*~16:37)
敢えてだろう、兄弟子の代演であることは、一切語らなかった。この人のこの噺は三月の白酒との二人会二席目以来。あの時は、一席目の『匙かげん』が良すぎた。今日は、代バネでの気合い、のようなものを感じた。兄弟子の代わりをしっかり。河岸の若い衆の切れ味の良い江戸弁のやりとりも結構だが、なんと言っても主役の百兵衛が秀逸。この人の百兵衛は、新たな存在感をつくっているような気がする。志ん朝とも、円生とも違う存在感、そんな印象だった。
この噺についても、ずいぶん前に書いたことがある。ご興味のある方はご覧のほどを。2009年5月13日のブログ
やはり寄席はいい、と余韻に浸りながら帰宅。帰宅後、我が家の二人(?)の犬たちと散歩した後、今日の出し物を振り返りながら一杯呑むうちに、そろそろいい気分になってきた。やっぱり寄席ですよ、寄席!
しかし、『持参金』という噺、下手な演者にかかると
イヤな感じが漂ってしまいかねないクセものねたではありますが、
それで爆笑をとってしまうなんて…。
幸兵衛様、油断のならない腕をお持ちですね^^。
色分け批評、楽しいです!
その場におらずとも、その日の空気が伝わってくるようで。
さらに多段階の色分けになるとなお楽しい…危険ですが^^;。
文生師匠を評価していただいているのがうれしいです。
寄席の流れに、かなり気を配られる師匠で、
漫談で下がられてしまうとちょっとガッカリすることも
あるんですが、かなりの引き出しをお持ちで、
以前、トリ席を追いかけ回したことがあります。
『市助酒』『岸駒の虎』『民謡アパート』など、
他の師匠が演らない噺も色々お持ちであなどれません。
時間とお小遣いさえ何とかなれば、
また追いかけたいものですが…。
私の素人芸は、酒が程よく入ってからやりますので、仲間も酔った勢いで笑ってくれるのでしょう。このネタに関しては、お手本にした菊志んが上手い、ということかとも思います。
文生さんは、二日酔いで酷い漫談の時もあるのですが、一度『ずっこけ』を聴いた時に、「この人、ただ者ではない!」と思いました。昔の名人達の逸話なども、最近は楽しく聴いています。
この日も、「私は鈴本と芸術協会が喧嘩するのに最後まで反対して飛び出ました」「本当は、協会を出たら、もう高座には出られないんですよ」「そこを、昔から歌右衛門さんとの遊びの会などでご一緒していた小さん師匠が、『うちへおいでよ』って言ってくれた。人間国宝が言うんですから、誰もさからえない^^」と話してくれました。
感想の色分け、せいぜい一色でさせていただきます。
これを突き進めると、五段階評価、みたいなことになって野暮ですよね。もちろん、マイベスト十席の候補は赤色にしますけど。
やはり、寄席はいいですね。