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ざま昼席落語会 桂文我・桂宗助 ハーモニーホール座間 3月9日

 ざまの会は1月の鯉昇・喜多八に続き今年二度目だが、文我は昨年聴く機会がなく、一昨年9月、小金治さんの『渋酒』の高座と、あの“サプライズ”のあった会以来になる。
2011年9月30日のブログ

 文我から案内はもらっているのだが、去年は都合がなかなか合わなかったなぁ。
 会場前の看板。
ざま昼席落語会 桂文我・桂宗助 ハーモニーホール座間 3月9日_e0337777_11095235.jpg


 今回はほぼ地元の会で都合も良く参上。文我も久し振りに楽しみにしていたが、何と言っても未見の上方落語の実力者、桂宗助との二人会とはうれしい。

 春の陽気の中で、昼食をとるために駅前の商店街で飛び込んだのだが、この店が大当たり。夫婦で営むお店で、関西出身のご主人がつくる「明石焼き」でビールが進み、お代わりしたら小鉢のサービス。ご主人との会話で落語会に行くことを話すと、米朝や枝雀の名は、もちろんご存知。また来ますと言って店を出た後、心地よく散歩気分で会場へ。

 会場では、開場時に大勢の方が並んでいた。開演時には、ほぼ満席だったように思う。
 次のような構成だった。
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(開口一番 柳亭市助『たらちね』)
桂宗助 『ちしゃ医者』
桂文我 『菜刀息子』(『弱法師』)
(仲入り)
桂宗助 『蔵丁稚』
桂文我 『古事記』
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柳亭市助『たらちね』 (14:01-14:15)
 市弥が二ツ目になったので、この会の開口一番のレギュラーは、この人になったようだ。派手ではないが、さわやかさ清々しさがあるし、妙なクセもない。このまま成長して欲しい。市弥にも、非常に良い刺激を与えているように思う。

桂宗助『ちしゃ医者』 (14:16-14:41)
 楽しみにしていた人が、出囃子「芸者ワルツ」で登場。マクラでヤブ医者、竹の子医者、スズメ医者のことを説明し本編へ。
 この後に文我がマクラで言っていたように、上方落語の、代表的な一席。「小便タゴ(壷)」を足で抱えたヤブ医者が揺れる駕籠に乗っている風景を想像させるところに、この噺のポイントがあるのだから、決して上品なネタとは言えない。ヤブ医者の主人公、赤壁周庵の描写が何とも結構。きっと、こういう医者なのだろうと思わせる。
 題目になっている「ちしゃ」は、サニーレタスと言うより韓国焼肉のサンチュと考えたほうが良さそうだ。上方でも「ちしゃ」という言い方は今では廃れてきたのではなかろうか。落語の効能は、昔の風俗や言葉を遺すことにもあるが、このネタもそういう範疇に入ってきたかもしれない。

桂文我『菜刀(ながたん)息子』(『弱法師』 (14:42-15:27)
 マクラで、この落語会の二回目から出演していること、その当時はホールではなく会議室のような会場だった、という思い出話を披露。今では年に一回か二回の出演だが、勝手知ったるスタッフさんと仕事をするのは楽しい、と語る。宗助のネタも上方の典型的なものだが、それとは趣の違う上方の人情噺をします、と本編へ。
 初めて聴く。別名『弱法師(よろぼし)』。後で調べたところでは、東京では桂小南が十八番にしていたらしい。今は弟子の小南治がかけるようだ。
 これも後で知ったのだが、2005年11月8日に亡くなった桂吉朝が、2005年10月27日、大阪国立文楽劇場「米朝・吉朝の会」で演じた生前最後の噺が、この「弱法師」だったらしい。

 主な登場人物は、商売の内容は詳しくは分からないが何らかのお店の旦那、その女房、一人息子の俊造、家出をした俊造を探しに行く熊吉だが、この噺の特徴として他にも声だけで登場する多くの出演者が脇を固める。
 父親が息子俊造を叱るところから噺は始まる。紙を裁断する断ち包丁を買って来いと俊造を使いに出したのに、菜や大根を切る菜刀(ながたん)を買ってきた、と言って息子を責める父親。何とかその怒りの矛先をそらそう、息子を庇おうとする母親。しかし、父親の出て行って苦労をして来い、の言葉を真に受けたのか俊造は家から姿を消した。
 この後の日と一日の過ぎる様子が、次の声で表現される。
 鍋ぁ~べ焼ぁ~き~うど~ん
 (この後に、カラスが)「カァ~」(文我は扇子で顔を隠して、「カァー」)
 さて、翌日深夜になっても戻らないので、出入りの熊吉(他の演者では熊五郎の場合が多い)が呼び出され、親戚を訪ねる。この時の複数の訪問先とのやりとりは、最初は一軒づつ語られるが、その後は訪問先の返事を、「俊造はん、いいえ、宅へは来てはらしまへんで」「うちには、来てへんで」「ここんとこ顔を見てへんなぁ」などと畳み掛けるた部分が結構だった。
 実は、この噺では、この手の畳みかけで時間の経過を表現する演出が他にもある。俊造が家出してからの時間の経過を、物売りの声で語る。
 ここからは、私の記憶も曖昧なので、いつもお世話になっている「世紀末亭」さんの「上方落語メモ」からご紹介。桂吉朝最後の高座の記録であることが、このページを見て分かった次第。「世紀末亭」さんサイトの該当ページより

 竹ぁ~けの子ッ 蕗やぁ~竹ぁ~けの子ッ
 葦ぉ~しやスダレは要りまへんか~い
 金魚ぉ~え 金魚ぉ~ッ
 蓮やぁ~オガラ 白蒸しの~ぬくぬく~
 さぁ~や豆ぇ~ 鉄砲豆ッ
 ミカンどぉじゃい 甘いおミカンどぉじゃい
 おぉ~しめ縄 飾り縄ぇッ
 七草ぇッ 七草ぇッ
 鍋ぁ~べ焼ぁ~き~うど~ん


 文我は、ミカンはなくて、スイカがあったように思う。モノ売りの声で四季の流れを表現し、さて七草になり、寒い夜「鍋ぁ~べ焼ぁ~きうど~ん」屋の声の後に、カラスが「カァ~」と鳴く。
 夫婦の会話で「あれから一年か・・・・・・」となるのだが、その一年後の物語のことやサゲについては、ご紹介した世紀末亭さんのページでご確認のほどを。
 親子の情愛、そして、時間経過を演出するモノ売りの声などを含め、なかなかの熱演だった。久し振りだったが流石の文我である。今年のマイベスト十席候補とする。

桂宗助『蔵丁稚』 (15:38-16:08)
 仲入り後、この人から。マクラでの歌舞伎の紹介や団十郎の声帯模写が、なかなか結構だった。東京では『四段目』。マクラの歌舞伎ネタの声色から本編まで、東京でなら市馬と十分に対抗しうる高座。こういう人が上方には、まだいたのだ。やはりうれしい出会いだった。
 入場の際にもらったプログラムでは、女性役が良いとのことだったが、この日の二席では、一席目のサゲで登場する農家の婆さんと、二席目も最後に登場するお清どんのみ。次回、女性がもっと出演するネタを聴きたいと思う。二席とも結構だったが、これ位ならこの実力者には当たり前でもあるだろう。ぜひ、今後も聴きたい人だ。

桂文我『古事記』 (16:09-16:50)
 この人が「古事記」を素材にしたネタをするとは聞いていた。しかし、こういう内容とは想像していなかった。
 喩えて言えば、「古事記」を素材にした『源平』や、歌之介の『龍馬伝』のようなネタと思ってよいだろう。文我が「古事記」でネタということで、まさかこういう爆笑ネタにするとは思っていなかったが、六代目松鶴や「笑点」の初代メンバー柳亭小痴楽の逸話などで、会場は大いに沸いた。
 計算された脱線ネタを含め、「古事記」の作者や、自分と同じ三重は松坂出身の本居宣長による「古事記伝」のことなどでの長講だったが、良い意味で文我の新しい“お茶目”な面を見た楽しさもあった。しかし、これだけの時間があれば、この人はいくらでも本寸法の上方落語をできたはず、という不満とが交錯していた。しかし、それを言うなら、関東でも独演会を精力的に開催している人なので、もっと他の会に行かなきゃならないのだろう。

 
 文我の一席目、そして宗助の二席、これが当日券でも800円、というあまりにも嬉しい会。そして、上方落語でこれだけののお客さん、と言うのは、3月末までの回数券(5枚で3000円)の使用期限ということもあったかもしれない。回数券を買うと、一回600円。この木戸銭で、今回のような二人や、一月の鯉昇と喜多八などの二人会を楽しめるのだから、座間の人々は恵まれている思う。

 そして、隣り町の在である私は、安く良質な落語を聴かせてもらえることは座間の市民の皆さんの税金のおかげとばかり、座間のお店で昼食を、と入ったお店が大当たり。つい生ビールを飲んでいたこともあり、帰宅し犬の散歩の後で晩酌をしていると、昼間のビールと夜の酒が結託してほろ酔い加減から両の瞼を仲良くさせてきた。よって(酔って)、当日のうちにブログを書くことはできなかったのである。
 翌日曜夕刻、ようやく書き終えた。それにしても、結構な会だったなぁ。あの二人であの木戸銭。日産から落ちるお金がごそっと減った座間の街には、あの木戸銭であれだけの落語を聴かせてもらっているのだから、もっとお金を落とさなければ申し訳ない。そんなことも思うのだった。この日で通算168回のようだが、今後もぜひ続けて欲しい会である。
Commented by ほめ・く at 2013-03-12 10:04 x
私も昨年末に日本橋社会教育会館で行われたこの二人会を聴きにゆきましたが、宗助の「立ち切れ線香」が実に結構でした。このネタ、現役では「アノ宗助さん」がベストです。
この人はタダモノじゃないと思いました。

Commented by 小言幸兵衛 at 2013-03-12 13:09 x
そうですか、「立ち切れ線香」でしたか。
文枝(もちろん五代目)と聴き比べたいものです。
若旦那、番頭、そして置屋の女将なども良かったんでしょうねぇ。
想像はできますが、生で味わいたいものです。
米朝最後の直弟子、今後もぜひ聴いてみたいと思います。

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by kogotokoubei | 2013-03-10 16:02 | 落語会 | Trackback | Comments(2)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛