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文部科学省は、なぜ児童生徒の自殺統計を中止するのか。

あの事件に関連して、いったい一年間に学校で何名ほどの生徒の自殺があるのか調べていたら、昨年9月の、この記事を見つけた。時事ドットコムの該当記事

自殺件数調査、中止を検討=実態反映せず、状況重視へ−文科省

 文部科学省は13日、毎年行ってきた児童生徒の自殺件数の全国集計について、実態が反映されていないとして、来年度から中止する方向で検討を始めた。自殺に至った背景や置かれていた状況などを把握する調査に切り替える。
 文科省が11日公表した問題行動調査では、2011年度中に自殺した小中高校生は200人。警察庁統計の353人(11年中)と大きな差があり、毎回同様の傾向という。また、半数以上の115人で理由が不明とされ、自殺原因を特定できなかった。
 文科省は、警察庁統計とのかい離について、学校側が遺族に配慮し、自殺としないケースなどがあるためと説明している。(2012/09/13-23:36)



 文科省の統計と警察庁統計のギャップの理由は、ある程度想像できる。それは、文科省が言うように、“学校側が遺族に配慮し、自殺としないケース”よりも、遺族の意思に反して学校側が事故死や病死扱いにしたがるケースが多いからだ。

 昨年末、NHKは12月24日から26日の三夜連続で「追跡!真相ファイル」を放送し、三日目に子どもたちの自殺統計の問題を取り上げた。私は、その「“消えた”子どもの自殺」を見た。
NHKサイト「追跡!真相ファイル」の該当ページ

番組紹介ページに次のようにある。

取材班が追跡を進めると、自殺が「事故死」として報告されているケースが
相次いでいる実態が浮かびあがってきた。
学校や文科省が「遺族の要望を受けたため」と説明する事例の中にも、
実際には、遺族の知らないところで報告書が作成され、
修正を求めても拒否するものもあった。


 だから、統計に実態が反映されないのは、決して「遺族への配慮」が優先しているのではなく、「学校の都合」が優先している。
 この番組では、教育委員会に、「なぜ自殺として統計に反映されなかったんですか?」「修正してください」と両親が懇願したにも関わらず、ノラリクラリと職員がはぐらかした実態が明らかにされていた。死亡届に「自殺」とあるのに、文科省の統計には「事故死」となっていては、警察庁の統計と整合性がとれるはずがない。

 しかし、文科省は、今になって統計を修正などしたくはない。だから、集計中止なのだ。

 もし、企業で決算を粉飾したら、これは犯罪である。もちろん、過去に遡って修正を求められ、脱税が判明した場合は追徴課税される。

 企業決算とは違う、と文科省は言うだろう。決算書のように提出が義務付けられた統計でもない。

 しかし、自分達の統計の「粉飾」を過去に遡って追及されたくないから統計を中止するという風土が、いじめや体罰などによる自殺の問題の根本的な解決を遠ざけているのではなかろうか。

 “自殺に至った背景や置かれていた状況などを把握する調査に切り替える”と言ったって、個々の「自殺」という事実について、背景や状況を把握する調査をするのであるから、「自殺」の件数はデータとして存在する。それとも、無作為抽出で調査する、ということか。ありそうな話だ。

 学校も教育委員会も文科省も、学校での自殺者が増加している、などの統計を歓迎しない。だから、隠蔽工作をする。これでは、何の解決にもつながらない。早い話が、本気でこの問題を解決しようという意欲や責任感が、まったく伝わらない。事なかれ主義の役所なのである。


 さて、あの学校のこと。橋下の要請に、大阪市教育委員会が応じてしまったようだ。
朝日新聞サイトの該当記事

桜宮高の体育系2科、募集中止 体罰問題受け大阪市教委

 大阪市立桜宮(さくらのみや)高校でバスケットボール部主将だった2年の男子生徒が顧問教諭の体罰を受け、自殺した問題で、市教委は21日、臨時の教育委員会議を開いた。今春の体育系2科(定員計120人)の募集を中止し、同じ定員を普通科に振り替えて募集する方針が固まった。ただ、選抜時期や入試科目は従来の体育系2科と同じ内容とし、受験生に配慮した。
 同校の入試は前期選抜の体育科(80人)、スポーツ健康科学科(40人)と、後期選抜の普通科(160人)を予定していた。このうち前期選抜の体育系2科を普通科とする。ただし、新たに普通科とした前期選抜分については、入試科目を体育系2科と同じ国語、数学、英語、運動能力、運動技能の五つとし、入学後のカリキュラムについても、スポーツに特色のある内容とする。通学区域も体育系2科と同じ大阪府内全域とする。

 21日午後の教育委員会議では、体育系2科の募集を普通科へ振り替える案と、従来通りに体育系2科の入試を実施する案の二つが議論された。委員5人のうち4人が普通科への振り替え案に賛同し、この方針で入試を実施することが固まった。


 教育委員会としては、まったくのミスジャッジだ。形式上「体育系2科」の入試を中止しただけのことだ。予定通り入試をすべきだった。その上で、根の深い問題の解決に本腰を入れて取り組むべきだった。何度も言うが、この学校だけの問題ではない。

 橋下は、相変わらず特定の事象に対しスケープゴートを作り、自分が問題解決に当たっているというパフォーマンスをしているだけである。しかし、文科省も教育委員会も、「臭いモノにフタ」で、当座の解決をしようとしている。これでは何ら、問題の本質に迫ることはできない。


 あらためて、統計のこと。2011年の警察庁統計で353名、ほぼ毎日のように生徒の自殺があることになる。その全てが教師や運動部顧問の体罰ではなかろうが、中にはそういう実態も含まれているだろう。もちろん、いじめが関与している事例もあるだろう。

 特定の学校の入試の中止や教員の入れ替えで、毎日にように生徒の自殺が発生している問題が解決するのなら、たしかに文科省の統計など必要がないのかもしれない。しかし、そんなことはありえない。

 問題の実態の解明は決して容易ではない。しかし、「自殺」を「自殺」として記録することは、そこに何らかの作為さえ入り込まなければ、決して難しいことではないはずだ。

 この文科省の欺瞞について、紹介したNHKの番組以外にメディアはどんな報道をしてきたのか。そんなことも調べてみようと思う。橋下の広報部門よろしく、彼のパフォーマンスを披露するより、ずっと重要な問題なのではないだろうか。統計はあくまでデータである。しかし、そこから有用な情報を掘り出し、解決への知恵を探り当てるための土台でもある。そのデータに信憑性がなくして、いったいどんな解決の知恵が生み出されるというのか。

 過去の統計の修正は、たとえば十年前位までと遡及期間を区切れば決して面倒なことではないはずだ。しかし、その行為は、文科省、教育委員会、学校による作為や粉飾を明らかにすることになる。だから、「学校側が遺族に配慮」などと嘘をついて統計そのものを中止したいのだ。

 しかし、「嘘に嘘を重ねることはいけない」と、本来は生徒たちに教える立場にいるのが教育界の人間なのではないか。
 「過ちては改むるに憚ること勿れ」、という言葉は、教育界に生きる人々こそ肝に銘じるべきのようだ。
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by kogotokoubei | 2013-01-21 18:02 | 責任者出て来い! | Trackback | Comments(0)

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by 小言幸兵衛