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三遊亭兼好 横浜ひとり会 横浜にぎわい座・のげシャーレ 7月31日

久し振りの、にぎわい座。それも、“地下秘密倶楽部”(?)「のげシャーレ」だ。兼好が未だにこの会場で独演会をやってくれているのが、なぜかうれしい。
 チラシに、「登竜門シリーズ in のげシャーレ(小ホール)」とある。かつては白酒、そして兼好、一之輔、菊六といった人たちが独演会を開く、客席すべてが“砂かぶり席”とでも言うべき高座と客との距離が接近した密室空間。にぎわい座のサイトによると、前方のパイプ椅子と階段状の席を合わせた最大キャパ141席。
 この“アンダーグラウンド”に初めて足を運んだのは、2009年10月30日の「白酒ばなし」だった。その白酒の独演会は、現在では階上の芸能ホール(一階と二階合計で391席)に、文字通り昇格した。兼好も、「登竜門」をすでに卒業し昇格できるレベルだが、芸能ホールでは桂かい枝との二人会を行っており、最近は行けていないのだがこの二人会もなかなか楽しい。きっと、二人会を上、独演会は地下、と考えているのだろう。

 当日券も売り切れで完売。開演五分前に会場に入り、なんとか階段席に空席を見つけた。メクリには、すでに兼好の名前。お仲間同士で誘い合って来られたと思しき常連さんも多いように見受けられ、何ともいえない暖かい会場の雰囲気である。構成と感想は次の通り。

三遊亭兼好『祇園会』 (19:00-19:24)
 時節柄オリンピックのネタで。開会式のインドのカレー色の衣装の選手達に混じって入場行進で話題を呼んだ赤い服の“謎”の女性。「日本人だけは、別に驚なかった、カレーには福神漬がつきものでしょう」、で狭い会場は爆笑の渦。こういうギャグが、この人の持ち味の一つだと思う。お祭りの話でつながりで東北のことになった時は「『ねずみ』か?」と思ったが、場所が京都のことに替わる。祇園祭の御稚児さんのことになり、お祓いをしてもらってから御稚児さんんは地面に足をふれることができない、という話題。どこかに移動する場合は強力のような男性にかついでもらうらしく、「トイレも大変ですよね」などで笑いを取ってから本編へ。
 『三人旅』のアガリに相当するこのネタで定評のあるのは、一朝、円太郎、かつては正朝、というところか。江戸っ子(熊とも八とも名づけず)が上方見物に来て路銀が切れ、親戚の叔父さん宅で厄介になる、という筋は通常なのだが、江戸っ子と京者と出会うのが、叔父さんの代理で出席した祇園祭を楽しむ宴会の席ではなく、居酒屋で偶然出会うという内容。良く言えば無駄を省いた筋書。もちろん噺のヤマ場は江戸っ子と京の洒落者とが、江戸と京の自慢話、祭り自慢で言い争い、祭り囃子の競い合いをする場面。なかな結構ではあったが、一朝、円太郎、そしてテレビ(『落語者』)で見た菊志んに比べると、何か足らない気がした。このへんは、なかなか説明が難しい。京者が「京は王城の地・・・ウホゥ、ウホゥ、ウホゥ、ホウッ」と不思議な笑いで江戸っ子をじらせる演出や、山鉾巡行の掛け声の悠長さに、「(それじゃぁ)進まねぇ!」と言う江戸っ子の一言などは楽しかったが、やはりこの噺は、『三人旅』の大詰めという位置づけを明確にし、もう少し長い時間をかけてでも、本来の筋書に近く演じることで味わいが出るのだと思う。その筋書にご興味のある方は、相当前にこのネタについて書いたので、ご参照のほどを。2009年7月4日のブログ

春風亭昇吾『たらちね』 (19:25-19:39)
 まず、名乗らない。それだけの余裕が全くないのだろう。この後の兼好のマクラで昇太の五番弟子で入門からまだ数カ月、出来るネタは二つとのこと。兼好が「あれだけお客さんを置いていく高座も久し振り」と語り笑いをとっていたが、まさにその通りで、抑揚も間もない“独り言”のような内容。間違いなく私の方が上手い。芸術協会のプロフィール覧にほとんど情報がないので年齢など不明。精進してもらいましょう。

三遊亭兼好『紙入れ』 (19:40-20:11)
 すでに書いたように、昇吾のことを語ってから、ディズニーランドのホテルでの落語会の話へ。過度に客層に期待していたら、ご近所の普通の落語ファンの集まりだった、とのこと。次にシンデレラ城で結婚式ができるらしいが、ミッキーが神父役だろうという空想からのマクラが可笑しかった。この人のマクラは、現代的で上品ながら程よい毒が効いている。それも、百人余りの密室でほぼ“内輪”の会的な空間だと、なおさら笑える。「男は全ての女性が好き、から始まり、女は全ての男性が嫌い、から始まる」との名言は、哲学的。誰かのネタなのかもしれないが、こういう金言(?)があるからマクラもうっかり聞いてはいられない^^
 不倫とか浮気と言う言葉のイメージは暗いけど、間男は明るくて好き、とふって本編へ。この噺も、いわゆる本寸法とは違った味付けになっている。貸本屋の新吉が、前夜の騒動について兄貴分に相談に行く場面から。誰の演出なのだろうか。いわば、リアルに間男になりけける場面を描くのえではなく、過去の出来事として兄貴が新吉から聞き出すという構成。「肥後の国にでも逃げます」と言う新吉に兄貴が知恵をさずけ、「逃げるのは、旦那にばれているかどうか確認してからでも遅くはねぇ。行って確かめな」と言われて紙入れを忘れてきた旦那の家へと場面が切り替わり、ここからは旦那と新吉、そして新吉を誘惑していた旦那の女房による会話。演出上のアクセントとして、新吉が飲めない酒を飲まされ手首を縛られて布団に寝かされて、旦那の女房が新吉に挑もうとしたところで旦那が返ってきたと言う場面で、相談に行った兄貴も当の旦那も「そりゃぁ助かった、うん、助かってねぇか!」と言う科白を言わせるのが効いている。しかし、この噺、やはり兄貴に相談に行って回想するよりも、リアルに間男にされそうな場面を描く方が、私は好きだなぁ。好みだけどね。

三遊亭兼好『へっつい幽霊』 (20:22-20:59)
 仲入り後はこの噺。マクラは、宇都宮の「グリムの館」での落語会で『死神』をかけた話から。グリム童話の怖さのことから幽霊のことになり七分のマクラで本編へ。
 結論から書くと、桂三木助版を元にしながらこの人らしい演出も秀逸で、大いに結構だった。江戸に出てきたばかりの上方者が、夜中に道具屋に駆け込んで、買ったばかりの竃から幽霊が出て「金を返せ」と言い出した、「この竃、取って取って」とわめく場面から始まる。その後、この竃を三円で売れば必ず幽霊が出るので客が返しに来る。一度買ったものなので、損料が一円五十銭入るので、品物は残ったまま損料分が貯まるという、非常に商売に貢献する製品。しかし、良いことは二つ続かず、「幽霊の出る竃を売る道具屋」と町内で噂が広まり、客足が遠のく。道具屋の女房が「縁起が悪いから一円の金を付けてでも誰かに引き取ってもらい、その代り返品お断りにしよう」となった。この話を塀越しに聞いていた熊が、勘当されて同じ長屋に住む若旦那の徳と組んで竃を引き取ってから、物語が動き出す。
 強面の熊、若旦那の徳、そして幽霊になって出てくる左官の長兵衛の描き分けが見事だった。何よりラストの熊と長兵衛の場面が傑作。斜めに座って肩を落とし小さくなって、熊が怖くてなかなか出て行けない幽霊の長兵衛の様子は秀逸だった。熊が徳の実家から引き出させた三百円を「縦ん棒(折半)」にし熊と長兵衛で百五十円づつ。しかし、博打打ちの二人である。丁半博打で丸ごと百五十円を賭けるのだが、熊が差し出した壺とサイコロを懐かしそうに眺め、両手の甲をだらりと下げた幽霊の「陰」の形のままで、壺とサイコロを振っている長兵衛の姿には、憐みを覚えながらも笑える。前の二つの高座が、悪くはなかったものの何か消化不良だった私には、「これぞ、本寸法!」と心の中で喝采を送った出来で、もちろん今年のマイベスト十席候補だ。


 暑さとオリンピックによる寝不足の中でやって来た久し振りのにぎわい座、そして兼好の会は、柔道で例えるならば、小技で終始押し気味ながら決め手に欠いてきた前半と中盤を経て、ラストで綺麗な一本勝ち、という印象の結構な会だった。
 帰宅後に女子サッカーのハーフタイムで外に出て空を見上げると、旧暦の六月十三日である、空には見事な十三夜が浮かんでいた。月光を眺めながら一服し、また戻って女子サッカーを見て一杯やりながら書くブログは、なかなか進むはずもない。まぁ、ブログに制限時間があるわけでもない。南アフリカ戦は数多くの選手に実戦を経験させ、かつ引き分けて勝ち点1を取るという離れ技(?)だった。結果として勝っても順位は変わらなかったとは言え、前半は危ない場面もあったから、負けずに良かったというのが実感でもある。次はブラジル戦か。頑張ってもらいましょう。
Commented by hajime at 2012-08-01 12:45 x
ご無沙汰しております
兼好さんは円楽一門でも強力に寄席にお客を呼べる噺家さんだと思いますが、そのうち芸協の芝居に出てくれるのでしょうか?

「祇園祭」はもうすっかり、正朝さんがこしらえた型が普通になりましたね。
「およく」も面白いのですが、時間の関係でそこまでやる噺家さんはいませんね。

「紙入れ」ですが、個人的には私も幸兵衛さんと同じですが、兼好さんには生々しさは似合わない様な感じもしますね。
「へっつい幽霊」は寄席だと古今亭版をやる人はいますが、三木助師の型は中々聴かれません。いいですね(^^)

やっと体調が回復してきたので、先日久しぶりに寄席に行きました。物凄い混み様で驚きました。
今度は「にゅうおいらんず」でも聴きに行きます(^^)

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-08-01 13:25 x
三木助の型の『へっつい幽霊』は、昨年一月のらくだ亭で、小はんで聴いて以来ですが、出だしの上方者が、「なぁ、道具屋」を連呼する場面などを含め、いいんですよねぇ。
『祇園会』(あえて「会」にこだわっています^^)は、江戸っ子と京者との会話の温度差、そして『片棒』と同様に江戸っ子が祭囃子を謳い上げる場面がヤマですが、一朝、正朝など春風亭門下が秀でていますよね。一之輔もかけるようですが未見です。
確かに、『紙入れ』はリアルな男女の場面を描くのを避けているのかもしれませんが、女性も結構色っぽく演じますし、照れなのかなぁ・・・・・・。

芸協の定席への兼好の出演は、好楽が出る場合にセットで登場することはあるかもしれませんが、何とも分かりません。にぎわい座で歌さんがくどいているかもしれませんが、さてどうなのでしょう。

終演後、あちらこちらで数名の方々がネオン街に消えて行きましたが、私はオリンピックのためまっすぐ帰りました!

hajimeさんも、体調ご快復で何よりです。浅草の夏の芝居の様子、後日お知らせください。

Commented by ほめ・く at 2012-08-02 08:21 x
「紙入れ」の出来は若い男を誘惑する年増の人物像で決まります。
兼好はそこが苦手なんでしょう。
今後芸域を拡げようと思うなら、女性研究が必要ですね。

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-08-02 08:53 x
そうですよね。喬太郎なんか、聴いている方がちょっと“引く”位に年増を描きますが、あの場面を回想にしちゃダメですよね。
兼好は、『へっつい幽霊』のように、江戸っ子と若旦那などのネタは抜群なのですが・・・・・・。
女性が少し苦手なのでしょうね。
長講の人情噺も好きではないようですが、それでは芸の幅も広がらず、奥行きが深まらない。
滑稽噺だけの人になるのは勿体ない実力者です。
しかし、今後きっと器を大きくしてくれると期待しています。

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by kogotokoubei | 2012-07-31 22:46 | 落語会 | Trackback | Comments(4)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛