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池袋演芸場 五月上席 昼の部 5月3日

久しぶりに末広亭以外の定席。つい先日まで一之輔の披露興行で連日立ち見だった小屋の今月上席は芸術協会の主催で昼の部の主任は小柳枝、他の顔ぶれもなかなか良さそうだったので雨の池袋へ。

 芸協でも祝日ともなればこうなのか、と思うほどの盛況。パイプ椅子も含めほぼ満席だ。平日もこうなら、席亭も何も文句は言わないのだろうが。

出演者と演目、所要時間に簡単な感想を書く。

神田あっぷる 講談『秋色桜』のさわり (14分)
 開口一番が講談というのは珍しい。演目は後で調べた。女性俳諧師の幼い時の逸話。講談を語るだけの知識も経験もないが、悪い印象ではない。青森出身でこの名がついたらしいが、地元では林檎がとれないらしい。元気さが好ましい。なかなか演じる場所がない芸能になってしまったが、がんばってもらいましょう。

春風亭笑好『ぜんざい公社』 (14分)
 初めてである。主任の小柳枝に入門して13年目の二ツ目さん。師匠がかつてつけていた名をもらっている。キャリアから考えると、もう少し落ち着きが欲しい、そんな印象。客席が池袋とは思えないほど落語経験の少ないお客さんの割合が多いようで、本来のネタの可笑しさで沸いてはいたが、もう少し精進を期待する。

一矢 相撲漫談 (14分)
 初である。こんな漫談があったんだ。落語ブログ仲間で相撲大好きのYさんが喜びそうな芸。客席は、結構笑っていた。

三笑亭可龍『町内の若い衆』 (16分)
 久しぶりに聞いた。ブログを書く少し前、さがみはら若手落語家選手権の予選以来なので4年ぶりだ。その予選は一之輔を聞くのが主目的で行ったのだが、投票結果で可龍(『宗論』)が一位、一之輔(『鈴ケ森』)は第二位。(しかし全予選の二位の中の最高得票だった一之輔は本選出場できた。)
 学校寄席のマクラでわかせた後の本編も、なかなか結構だった。若手で髪形も今風なのだが、高座は江戸の雰囲気がたっぷりで、好きな噺家さんだ。こういう人達が芸協の将来の鍵を握っているように思う。

春風亭柳之助『片棒』 (16分)
 去年七月の末広亭以来。なかなかの二枚目(すぎる?)で、高座もしっかりしている。しかし、何か一つ足らない、そんな印象。柳昇に入門し、六年前に真打昇進。鹿児島出身だから、地元で歌之介、白酒と三人会を開くこともあるのだろうか。そういう機会があれば、きっと学ぶものも多いはず。協会だけでなく、地縁も活用するなどして芸を磨いて欲しい。

松旭斉小天華 奇術 (15分)
 去年の末広亭初席以来。こういうベテランの色物さんは、芸協の宝だと思う。最後にロープの手品を教えてくれるのだが、家でやってみても、なかなか上手くいかない^^

三遊亭円輔『親子酒』 (16分)
 この人も去年の初席以来。最初は三木助に入門し、その後四代目円馬門下。寄席はこういう人で成り立っているように思う。

三笑亭笑三『悋気の火の玉』 (22分)
 仲入り前はこの人。大正14年生まれ87歳のパワーに、恐れ入りました!
 先代文楽の十八番だったが、この人の元気なアクションが、「笑三の火の玉は、こうなんだ!」と言う主張に、納得。マクラも現代的な話題を交えて結構だし、テレビでは出せないような内容を含む本編も大変結構。この高座を聞けただけでも良かった。花川戸からやって来る本妻の火の玉と、根岸からのお妾さんの火の玉の壮絶なバトル!凄いね、笑三は。マイベスト十席候補とはならないが、特別な高座として色付けしておく。

春風亭美由紀 俗曲 (9分)
 クイツキはうめ吉と美由紀の交互出演。この日は美由紀だった。
 初である。短い時間だったが「木遣りくずし」から最後の踊りまでしっかり。芸協の色物の底の深さは、なかなかのものだ。芸協のプロフィール欄で分かるが、さまざまな経験を経てこられたようだ。うめ吉の若さと好対照な芸。こういう人がいるのが芸協の強みであることを、協会幹部は十分に認識しているのだろうか。他派の力など、顔ぶれからは必要がない。色物をもっと前面に出す構成を特色にしてもいいような、そんな気にさせる短いながらも結構な芸だった。

春雨や雷蔵『金明竹』 (21分)
 初である。先代の助六に入門し、昭和55年に当時のNHK新人落語コンクールで最優秀賞。正雀の後、ぜん馬の前の年だ。もちろん、達者な芸ではある。しかし、この演目はないだろう。会場は、ネタ本来の可笑しさで笑ってくれるお客さんで盛り上がっていたが、仲入りの後でこのネタを聞いたのは初めてだ。
 「もったいない」、という思いと、「それはないだろう」という思いで、私ですら仲間との旅行で演じる前座噺を聞きながら、「これが芸協の問題の一つか?」などと思っていた。
 この人なら、もっとネタはあるはず。たしかに客席の状況を楽屋で見ていれば、このネタで受けるだろうことは察することができよう。しかし、このレベルの人が、それをやっちゃ、いけない。そんな思いで聞いていた。

古今亭寿輔『自殺志願』 (21分)
 お馴染みの「テトロンの着物を着ているのは私だけ」で始まり、前から四列目にいた三人連れの女性のお客さんが煎餅を食べていたのをいじってマクラは進み、本編へ。なかなか好調だ。
 結果として、私には仲入り前の笑三と寿輔の二人の高座が、この日の主役だった。売れない作家が、どうやって死ぬかを考える筋なのだが、そこに散りばめられる文豪と代表的な作品とそのパロディである作品名に、この人の持つインテリジェンスが程よく伝わる。時おり、「ねぇ、奥さん」と前の方の席に問いかけるクスグリも含め、芸なのだ。トンネルのシーンで照明を消して、「噺家は、せいぜいこの位のことしかできない」にも笑った。こういう人は、落語協会にも立川流にも、もちろん円楽一門にも、いない。流石だ。

翁家喜楽・喜乃 大神楽 (12分)
 雀々が、桂米二の落語会の客演の際、末広亭での喜楽の卵の芸での事件を暴露したことがあったので、結構ヒヤヒヤして見ていたが、大成功。良かった!娘さんも、なかなかスケールの大きな芸をする。親子で頑張ってもらいましょう。

春風亭小柳枝『星野屋』 (23分)
 マクラで妾、悋気のことにふれた時、「笑三のネタと、つくのでは?」と思っていたら、このネタ。やはり、つくよなぁ。  リズムが今ひとつだった気がする。途中で、ちょっとした言いよどみがいくつかあり、この人らしい格調ある高座とは言い難い出来。ご本人が、途中で「しまった、笑三師匠とついた!」と思ったのかどうかは知らないが、期待が大きかっただけに、少し残念。

 
 外に出ると、まだ少し雨が残っていた。ちょっとしたネタ選びへの不満は残るが完全なハズレはなかったし、寿輔のエスプリに笑い、笑三のアグレッシブな高座に驚いた。
 久しぶりの池袋は、やはり高座との距離の近さが他の寄席とは違うし、会場の濃密な一体感が何とも言えない。会場が他より狭いとはいえ、そして祝日とはいえ満員の客の前で手抜きは見受けなかった。それぞれ真摯に高座に向かっていた、そんな印象がある。

 「ネタがつく」という判断は、結構難しい。以前に紹介した志ん輔のブログにあった『天狗裁き』と『妾馬』に「似ている部分」があって、かけるのをやめた、という件は未だにミステリー(?)のままだ。しかし、『悋気の火の玉』と『星野屋』は、妾の噺という点で明確にツクように思うなぁ。小柳枝である、いくらでもネタはあるだろうに。実は密かに絶品といわれる『青菜』を期待していたんだがなぁ。

 しかし、皆なかなかの芸を見せてくれた。芸協の寄席だって、頑張り次第で客は呼べるはずだ。色物を含む顔ぶれは、決して悪くない。なにも円楽一門や寄席経験のない立川流の助けなどなくても、その質を上げることで十分に定席を運営できるはず、という思いを新たにした。合同開催は最初だけ目新しさで客を呼ぶだろうが、その後はマイナス面のみ抱えていくように思う。
 そんなことを思いながら帰宅の電車の後半は熟睡していた。やはり狭い席での四時間は、少なからず体力を必要とする。昼夜居続けの方は、たいしたものだと思う。
Commented by ほめ・く at 2012-05-04 10:59 x
顔ぶれも内容も良かったようですね。
「金明竹」ですが結構難しいネタではないでしょうか。古くは3代目金馬、圓生、志ん生の録音が残されていますが、圓生はこの人には珍しくダメです。志ん生は肝心の後半の口上をカットしています。恐らく滑らかに言い立てする自信が無かったのではと思われます。
現役でも金馬を超えるような高座にはお目にかかっていません。
前座噺では片づけられないネタかと思います。

Commented by hajime at 2012-05-04 11:26 x
相撲漫談の一矢さんは、浅草にも結構出ています。相撲人気の頃は爆笑を呼んでいました。
円輔師は芸協ではかなりの実力者ですね。
正直、芸協にいるのが勿体無くと云ったら叱られるでしょうかw
雷蔵師は助六師と兄弟弟子ですが、少し甲高い声で陽気な芸です。そこが違うw
寄席を明るくしてくれる噺家さんで、結構好きです。

芸協の特徴と言うかですが、その日の雰囲気を読まない(読めない?)噺家さんが結構居る事ですね。
寿輔師ほど自分の世界に引きずり込む芸があれば関係無いのですが、時に「ここでこれ?」と思う時もあります。
「金明竹」に関しては落協でも深い処に掛かりますので・・・・あまりお気になさらないほうが・・・(^^)

小柳枝師は寄席とか広くない会場で見るとその真価が判る師匠だと思いますが、
結構しくじった事が顔に出る事がありますね。正直な方だと思っています。

最近かなりの頻度で芸協の芝居を観ていますが、少しずつ変わって来てはいます。
後は、雰囲気を読まないとか、無気力なベテランをどうするか、だと思います。
良くなって欲しいですね(^^)

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-05-04 11:28 x
なるほど、「金明竹」を“前座噺”として甘く見てはいけないのですね。
私が仲間内との旅行での宴会で酒の勢いで演じたりするので、「私だってできる」と、大きな勘違いをしているのかもしれません^^
あの上方言葉の口上、金馬と柳家の人達で、微妙に科白が違いますよね。私は金馬の型で覚えているのですが、小三治などは違います。
そうか、結構ベテランも演じるネタですねぇ。喬太郎もたまにかけますしね。
これは私の思い込みでした。ご指摘ありがとうございます。

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-05-04 11:35 x
「金明竹」の件、ほめ・くさんからもご指摘を受け、反省しております^^
雷蔵は、私も非常に好感を持ちました。別なネタをぜひ聞きたくなりました。

昨年末広亭で聞いた芸協の席に比べ、たしかに良い意味での緊張感があったように思います。今後も、できるだけ芸協の定席に行きたいと思います。

hajimeさんの芸協所属の噺家さんのガイダンス、いつも参考になります。
今後も、よろしくご教授のほどをお願いします。

Commented by 佐平次 at 2012-05-04 11:56 x
芸協も捨てがたい?
寿輔の表情が見えるようです。
俳諧師?

Commented by 佐平次 at 2012-05-07 11:30 x
あれ、コメントしたつもりでしたが、、。
芸協もたまにはいいですね。
ホール落語に行くということを知らない頃はフラット寄席に入っていろんな芸人を見たのです、あれも捨てがたい、寄席の醍醐味です。

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-05-07 12:47 x
誤字のご指摘を含め、管理人のみ確認のモードでコメントをいただいておりました。
あらためてのコメント、ありがとうございます。
芸協は、今の危機感を生かすことができれば、結構先の見通しは明るいような気がします。
のど元すぎれば・・・、になってしまわないことを期待します。
今年は、これからも意識して、芸協の定席に行こうと思っています。

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by kogotokoubei | 2012-05-03 18:17 | 寄席・落語会 | Trackback | Comments(7)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛