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噺の話

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如月の三枚看板 喬太郎・文左衛門・扇辰 銀座ブロッサム 2月17日

この会は三年続けて来ている。三人の顔ぶれが良いと思うし、都合が合う“縁”にも恵まれているのだろう。会場は、正直なところ広すぎて落ち着かないが、一昨年の文左衛門の『らくだ』、昨年扇辰の『明烏』などの高座に出会えていたので、今年も楽しみにしていた。もちろん、喬太郎の“古典”への期待もあった。二年前は『幇間腹』、去年は『ハンバーグができるまで』だったが、先にあげた他の二人の高座の印象の方が強い。
 この会は単に人気者を集めたというより、それぞれにライバル意識のある年代の近い三人を競わせているような意図を感じるので、それぞれの一席への意気込みが他の落語会とは違ような、そんな気がするのだ。

 ホールの一階ロビーで大きな声が聞こえてきた。文左衛門が2月20日に谷中で行われる兼好との二人会のチケットを自ら売っていた。一瞬「おっ」と思ったが、行けそうになく大きな声を背に受けて会場の中へ。入りは一階で九割位だろうか。

さて、今回の構成は次の通り。
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(開口一番 入船亭辰じん『道灌』)
入船亭扇辰  『夢の酒』
橘家文左衛門 『竹の水仙』
(仲入り)
柳家喬太郎  『死神』
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入船亭辰じん『道灌』 (18:45-19:00)
 先日、この秋に二ツ目になることを書いた。2012年1月30日のブログもっとも期待する若手だが、なんと昨年のこの会以来。一時は、私が行く落語会で続けて聞いていたこともあるので、巡り合わせなのだろう。また、この人の実力を評価している先輩からあちこちで声がかかって忙しくしているのではないか、とも思う。定席は鈴本が多いようなので末広亭をホームグランド(?)にしている私が出会う機会が少ないのかもしれない。
 やはり、この人は良い。そして、成長している。科白が大きな声で明確であるという基本を守り、歯切れの良いリズムや緩急のついた演出など、高座からは余裕のようなものを感じる。同時に二ツ目になる他の三人とはもちろんだが、先輩の二ツ目の中に入っても、十分に上位にあると思う。小三治改革での抜擢真打昇進、次はこの人でなかろうか、と思っている。

入船亭扇辰『夢の酒』 (19:01-19:34)
 さっそくロビーでチケットを売っていた文左衛門のことをイジル。「危ない者がロビーにいたので、皆さん懐中のものにご注意を」、で会場が沸く。このへんが上手い。
 「紅白に出たんですよ。それもなぜか末広亭で司会が玉置宏さんで・・・・・・」という、自分がみた不思議な夢の話になったので、「おっ、『天狗裁き』か、それとも『夢の酒』、あるいは『心眼』でもやってくれるか?」と思っていたが、このネタ。
 見事、としか言いようがない。このネタのことは、ブログを書き始めて間もない頃に書いたことがある。筋などに興味のある方はご覧のほどを。2008年6月13日のブログ
 その時も書いたが、このネタで思い出す噺家は、何と言っても文楽(もちろん八代目)。現役では市馬がなかなか良いと思っている。しかし、この扇辰の高座を聞くと、現役トップはこの人、と言ってよいかもしれない。先輩扇遊も結構だが、扇辰の高座の奥深さ、とでも言うような味わいは他の人に秀でているように思う。
 大黒屋の主、その息子の若旦那に嫁のお花。そして夢の中で登場する向島の艶っぽい女、その家の下女。この五人の登場人物が全てしっかりと描かれているのはもちろんだが、声と演技の緩急の見事さ、科白を抑えた顔だけでの表現力、など、この高座には扇辰の持つ技量というか持ち味がふんだんに盛り込まれていた。特に女性三人の描き方が何とも結構。もちろん、今年のマイベスト十席の候補とする。

橘家文左衛門『竹の水仙』 (19:35-20:15)
 冒頭、「本番前にロビーで声をからしてしまって」という言訳を聞いて、去年も「二時間前に注射を打って」とか何とか言っていたことを思い出した。この人は“喉”が弱いのかもしれないが、冒頭で声が出ないことを詫びるのは先代文楽の真似ではなかろうが、あまり感心しない。キャラ的には、文楽よりは、酔っ払って高座に上がろうが言訳などはしない志ん生に近い(と思われている)のではないかと思うので、実際は繊細な神経の人なのだろうが、一切エクスキューズなどなしで語って欲しいと思う。プロ、なんだから。
 ネタは講釈から落語になった左甚五郎モノの一つ。主な甚五郎の噺となると三つあるが、時間経過の順で『竹の水仙』『三井の大黒』『ねずみ』となる。喬太郎の『竹の水仙』は定評はあり、文左衛門としては、喬太郎への挑戦という意識もあったかもしれない。
 宿を鳴海の大杉家(?)としたが、東京落語での本寸法は藤沢の大黒家のはず。誰の型なのか知らないが、五代目小さんの音源が好きな私としては、少し違和感がある。まぁ、それは良いとしても、少しガッカリの高座だった。喉の調子なのか体調が良いとも見えなかった。この人の持ち味が裏目に出た、やや乱暴でガサツな印象。
 宿の主人が「養子」ということで、甚五郎に、「おい、養子」と何度も言わせたり、細川越中守の使いの武士の名が上田馬之助だったり、随所に他の落語ネタ(『道具屋』や『そば清』、『火焔太鼓』など)をクスグリで入れ込んで会場の笑いは取ったが、私はあまり笑えなかった。
 この人なら、あのように無理に笑わせようとする演出などしなくても、十分に本寸法な芸で勝負できるはず。発展途上のネタなのかもしれないが、喬太郎を意識しすぎたと思える独自の演出の効果はあまりなかったように思う。

柳家喬太郎『死神』 (20:30-21:10)
 昼間の学校寄席のマクラから始まった。とある高校での会だったようだが、その学校の最寄の某駅(実名を最後は明かしたが、伏せておこう)近くの薬局の手作りのポスターの可笑しさや、駅で声をかけられた高齢の男の奇怪な行動などで会場を沸かす。なお本編では、この男が放った奇妙な言葉が呪文として採用された。
 さて、12分のマクラの最後で、「受験も神頼み、神にもいろいろありまして」とふって本編へ。まさか、『死神』とは、とまず身震いした。とにかく喬太郎演じる“死神”の薄気味悪さが、何とも出色である。
 見た目においては、背を丸め頭を落し気味にして少し上目遣いの表情の、瞼の盛り上がった部分が白目のように見えるのだが、それが効果的。そして、あの低い声。地獄から響く声のトーンを意識しているのだろうが、その効果は十分にあったと思う。
 筋は詳しく書かないが、男が死神との約束を破って救ってしまう、死神が枕元にいた病人が鼈甲問屋の近江家卯兵衛であるとか、サゲ前に洞窟に並ぶ蝋燭の中で最近消えたばかりに見える蝋燭の人の名がホイットニー・ヒューストンなど最近の故人であるなどのクスグリを盛り込んではいたが、基本は本寸法。サゲも効果的だった。
 今年、“古典”にかける喬太郎の意気込みを十分感じた高座は、もちろん年間マイベスト十席の候補である。

 
 今回は終演後の「居残り会」がないので、素面(しらふ)で帰宅の電車に乗りながら、早く気持ちの良い酒を家で飲みないなぁ、と思った。そして三人の高座を酒に喩えたらどうなるか、とつまらないことを考えていた。

 扇辰の『夢の酒』で見せた高座は、同じネタでも年を重ねて醸成されて馥郁たる香りと深い味わいがでてきた、しかし後味は清冽、そんな純米大吟醸のような印象。
 文左衛門は、たぶん冒険を覚悟の演出なのだろうが、酒で言うなら、まだ若くアルコール添加量の多い新酒、といった趣。
 さて喬太郎の『死神』。酒で言うなら、麹や酒造米などの素材について毎年いろいろ試しながらもっと上手い酒を求める杜氏が、今年の酒はこれ、と造った本醸造なのだが、来年は違ったアルコール添加や素材や作り方で別の味になるかもしれない、そんな印象。しかし、杜氏喬太郎は、これまで米の焼酎づくりやカクテルなど、いろいろ新しい酒づくりに挑戦してきたが、今は日本酒づくりに賭けよう、と思っている。そんな感じだろうか。

 しかし、私が帰宅して飲んだのはビールとワインだった。それでもいい気分になって、ブログは翌日書いている次第。ついつい長くなってしまった。それだけ、いろいろと書きたいことのある会だった、ということなのだろう。
Commented by 佐平次 at 2012-02-18 12:00 x
創塁パパは人形町で鯉昇、私は人形町「カミヤ」で焼きトンを肴にぐびぐび。
天下泰平の昨夜でしたね^^。

Commented by hajime at 2012-02-18 14:36 x
扇辰さんの「夢の酒」は得意演目なのか、良く聴きます。
又、色っぽさと言う点では屈指ですね。
只、一度だけ後半がグデグデになったのを見ていますが。(^^)

「竹水仙」で鳴海宿なのは喬太郎さんが確かそれで演じていましたね。
>喬太郎への挑戦という意識
それもあって、あえて鳴海で高座に掛けたのかもしれませんね。
元々は誰の型なのかは私も知りません。

喬太郎師の「死神」の良さが判るレポートで、あるがとうございます。(^^)

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-02-18 16:08 x
お二人とも、店は違えど人形町だったわけですね。
扇辰、今まさに“上げ潮”という感じです。
喬太郎の『死神』は初体験でしたが、結構でした。

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-02-18 16:33 x
あっ、そうでした、喬太郎の『竹の水仙』は鳴海宿(大松屋?)ですね。でも、大師匠小さんは藤沢の大黒屋ですけどねぇ。
なぜ、昨夜、いや今朝までそれが思い出せなかったのか、不思議です・・・・・・。
きっと、他の二人の高座に関心が集中していたのかなぁ。
扇辰『夢の酒』、喬太郎『死神』結構でした。

Commented by ほめ・く at 2012-02-19 16:42 x
ここのとこ平日は全く身動きがとれず、せっかく取ったチケットを子供や友人に渡し、「面白かった」などという反応を聞き悔しい思いをしています。
せめて幸兵衛さんや佐平次さんの記事を読んで、気を紛らわしております。
扇辰はどこまで上手くなるんでしょうね。

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-02-19 18:34 x
いろいろ大変な状況なのかとお察ししますが、ほめ・くさんご自身のお体も、ぜひご自愛ください。
扇辰の今後には、本当に期待できます。喬太郎も、今年は楽しみですね。
奥様のご回復と、ほめ・くさんのブログ復活を、お祈り申し上げます。

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by kogotokoubei | 2012-02-18 08:24 | 寄席・落語会 | Comments(6)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛