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ざま昼席落語会 鯉昇・喜多八 ハーモニーホール座間 1月14日

通算156回目らしい。我が家から近い会場での地域落語会。この二人で前売り700円、当日でも800円という、信じられない木戸銭だが、決して出演者は手を抜くことがない。今回も、結構なネタを二席づつ披露してくれた。

 約400席かと思しき会場は、ほぼ満席。私が来た会では、最多の入りである。

 次のような構成だった。日本舞踊が挟まれるのは、非常に珍しいと思う。
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(開口一番 柳亭市也『出来心』)
柳家喜多八『笠碁』
瀧川鯉昇 『時そば』
(仲入り)
柳家喜多八『短命』
藤間龍玉 日本舞踊
瀧川鯉昇 『味噌蔵』
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柳亭市也『出来心』 (14:01-14:15)
 どうしても、この人には小言が多くなる。昨年10月のこの落語会(扇辰・菊志ん)以来だが、もしかすると、だんだん悪くなるような、そんな気がする。とにかく“滑舌”が悪い。しばしば“噛む”が、それはまだ許せる。肝腎な科白がしっかり伝わらないのは、致命的である。まだまだ精進が必要だろう。

柳家喜多八『笠碁』 (14:16-14:46)
 マクラは初席のこと、昨日も明後日も鯉昇と一緒、ということなどに続き、「素人さんでも上手い人はいる」「我々は、力が抜けたところが勝負」のようなことを言っていた。この“素人さん”って、最近何かあったのだろうか・・・・・・。そんなマクラが約10分。
 さて、本編。この人の『笠碁』は、初めてである。柳家伝統のネタ、さてこの人はどうこなすか、そんな思いで聞いていた。
 しかし、帰宅してから、ちくま文庫の「小さん集」を確認したが、所収されている十八席の中に、このネタはない。編者飯島友治の意に沿わなかったのか、他の理由(書籍の頁数制限、など)か、理由は分からない。もしかすると小さん本人の意向だったのか、などとも思う。喜多八の師匠である小三治が『笠碁』を持ちネタにしているようにも思えない。この件はもう少し調べてみようと思う。
 さて、喜多八のこのネタ、なかなか評価が難しい。喜多八らしさは、十分に出ている。特に美濃屋(相手の「待った」を断る側)が菅笠をさして碁敵の家を行きつ戻りつするところなど、あの“ギョロ目”での演技は楽しい。しかし、全体として、五代目小さんの醸し出すあの味わいが本寸法だとするなら、ポジティブな評価をするのは難しいかなぁ。
 ちなみに私は、この噺は先代馬生の音源が一番好きだ。だから、そのうち白酒がこのネタをかけないものか(すでに演じているか?)、と期待している。これは、まったくの余談。

瀧川鯉昇『時そば』 (14:47-15:17)
 故郷(浜松)に帰って昔の日記を見て夏休みの宿題のことを思い出した、というマクラは以前にも聞いているが、夏休み明け当日の登校の際に「自由研究」の「昆虫採集」をした、というネタは何度聞いても可笑しい。
 約12分のマクラの後の十八番ネタ。マクラで、「『時そば』のようなネタ」と自分自身で評していたが、この人の『時そば』は、進化(変化?)し続けている。どんなところが以前聞いた内容と違っているか。ちょっとだけネタバレだが、書くことにする。
・最初の蕎麦屋「当たり屋」の主人、座間出身(日本人)の母とイスラム系の父の、“ハーフ”
・その主人の好きな“甘味”が「ココナッツ」*もしかすると「ココナッツ・ミルク」かもしれない。
 これだけでも察しの良い方は、分かるでしょうねぇ。少し前までは、「蕎麦屋の娘の年齢」を“騙しの鍵”にしていたのに、もう変わっているのだ。
 ここで書かないわけにはいかないのは、「ココナッツ」の部分、なぜ“「ココナッツ・ミルク」かも”、と注釈が必要なのか、ということ。「ニューヨーク・フィル」の件を書いた“仕返し”なのかどうか、“当たり屋”が登場してしばらく、ちょうど午後3時に会場の後方の席で携帯が鳴ったのだ。呼び出し音ではなく、アラームなのだろう。なかなか鳴り止まないので後ろを振り向いたら、結構若い客がスマホの音を、ようやく止めていた。そんな状況だったので、この「ココナッツ」の場面、集中して聞けていないのだ。困ったものだ。
 一軒目の「当たり屋」で蕎麦を食べるシーンで、会場の前の方の席で、「上手ねぇ!」という声があった。正直な感想だろう。この人の“食べる”落語は、秀逸だ。
 二件目の蕎麦屋は、以前と同様に屋号は「ベートーベン」。その理由は、書かない。生の高座を聞いて笑ってもらわなきゃ^^
 鯉昇の十八番は、どんどん変わるので気が抜けない。「あっ、そうか、鯉昇は、それを狙っているのか!?」と、聞いてから思った次第。

柳家喜多八『短命』 (15:28-15:49)
 鯉昇の『時そば』について、少し突っ込みを入れるなどのマクラが、約7分。これまた、喜多八では初めて聞くネタ。
 この噺には感心した。大家と八五郎が、なぜ伊勢屋で三人も続けて婿が早死にするかについて問答する場面、会話を排した仕草だけの演出が結構だった。これぞ生の高座でしか味わえない“サイレント”な芸の技。このネタは、最近は桃月庵白酒が秀逸だが、言わば、白酒は“しゃべくり”の芸。喜多八は、“しゃべらない”芸、そんな印象。しかし、本編が14分と、やや短縮版と察する。今後、また聞いてみたいと思う。

藤間龍玉 日本舞踊 (15:51-15:58)
 舞台から高座を片付けてから幕が開き、何の説明もなく、日本舞踊が七分間あった。非常に良い趣向だと思ったが、ご本人も主催者からも何も説明もない。落語会では珍しいせっかくの日本舞踊、何らかの“能書き”が必要だっただろう。終演後に落語のネタと一緒に演目が貼り出されていたのかもしれないが、見てこなかった。帰宅してから記憶を元にネットで調べたかぎりでは、「鶴亀」と「木遣りくずし」だったと思う。間違っていたら、御免なさい。

瀧川鯉昇『味噌蔵』 (16:00-16:31)
 短いマクラから、このネタへ。これまた“食べる”シーン満載の十八番ネタ、はずすわけがない。
 ケチな旦那が嫁をもらう、他の噺家では珍しいプロローグをしっかり挟むのが、この人ならでは。旦那が出かけた隙に番頭以下の使用人がドンチャカ騒ぎをする場面での“食べる”“飲む”場面が秀逸だ。旦那が帰宅した後の、酔っ払った使用人たちの、しどろもどろの弁解が、何とも言えない“シュール”さで、可笑しい。
 後半少し時間を気にするように、会場の壁にある時計を見上げていたが、ほぼピッタリの30分で仕上げた、結構な高座だった。しかし、鯉昇なら、想定の範囲、とも言える。


 終演後は、相武台の駅まで散歩。この落語会も、今日の客の入りを考えると、クチコミを含めて来場者が遠方からも増えているように思う。もう“穴場”ではなくなってきたかもしれない、なとど思いながら帰途についた。
Commented by 佐平次 at 2012-01-15 09:39 x
ベートーベンでもココナツになる保証は皆無なのに、もっとも元の話でも今何時かは気にしなきゃ、と理屈っぽく考えてしまいます^^。

Commented by hajime at 2012-01-15 10:17 x
ご無沙汰しております(^^)
鯉昇師と喜多八師がこれだけ聴けて当日800円とは破格の値段ですね。
採算が合うのでしょうか?

鯉昇師の「時そば」油断なりませんね。(^^)
進化しすぎ! これなら次はどうなるか、必聴ですね。
師匠の「味噌蔵」は旦那が帰って来た後がやけに現実的な雰囲気が漂っていたのを覚えています。

きっと幸兵衛さんのこのブログを見て来る方が増えていたりして・・・(^^)

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-01-15 15:41 x
鯉昇の『時そば』は、まったく油断なりません。
もちろん、“本寸法”でなきゃ許せない、という人には抵抗があるでしょうねえ^^
しかし、「次にどうしてくるか!?」という、別格のネタになってきたように思います。
これも、十分“芸”であり、個性なのでしょう。

Commented by らくだ at 2012-01-15 15:47 x
遅ればせながら明けましておめでとうございます。本年も楽しみにブログ拝見させていただきます。
馬生師匠の笠碁、いつか聴いてみたいと思っています。雲助師匠はなぜか笠碁を持っていないそうで、馬石さんは今松師匠から習ったとか。柳家と微妙な違いがあります。柳家では笠をかぶって首をフリフリ店の様子を覗く場面が滑稽ですが、今松師匠のは首を振りません。馬生師匠がそうだったのでしょうか?

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-01-15 15:49 x
自由席なので、少し早めに行って並ばないと希望の席は取れない、という問題はありますが、とにかく関東圏では、もっともコストパフォーマンスの良い会でしょうね。
私は座間市民ではないので、誠に申し訳ない思いで、毎回うかがっています--
鯉昇の『時そば』は、「次にどうする?!」という期待感を抱かせる不思議なネタになってきました。
『味噌蔵』も、ほぼ十八番、という気がします。
多摩川越えで、これだけの顔ぶれのお徳な落語会、少し褒めるのは控えたほうがいいかな^^

Commented by 創塁パパ at 2012-01-15 16:32 x
市也はひどい。どんどん下手になる。
一番下の市助の方が全然いいです。喜多八の短命は大好きです。鯉昇は2席とも十八番的ネタでしたね(笑)

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-01-15 16:57 x
そうなんですよ、お徳なんです^^
喜多八の『短命』は、またいつか聞きたいと思います。
鯉昇の二席、しっかりと笑わせてもらいました。
なんと、2月は今松なんですよ!
まだ、行けるかどうか都合がはっきりしないので前売りは買っていませんが、燕路との二人会です。渋いよね^^

Commented by 小言幸兵衛 at 2012-01-15 21:13 x
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
雲助も『笠碁』やっていませんでしたか・・・・・・。
このネタ、噺家によって、適性のようなものや本人の好みなどが結構あるのかもしれませんね。
今松→馬石、なるほど二人ともニンかもしれません。
馬生は生では聞いていないので、音源だけでは“首”の演出について確かなことは言えないのですが、今松は、独自の演出ではないかと察します。
普通は、あの場面で首はふりますよねぇ。

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by kogotokoubei | 2012-01-14 17:47 | 落語会 | Trackback | Comments(8)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛