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第37回 人形町らくだ亭 それぞれの徳兵衛 日本橋劇場 8月22日

盆休み明けの最初の落語会として、大いに楽しみにしていた会である。前回が「おせつ徳三郎」の通しで小満ん&さん喬のリレー。今回は、ある噺の“原作”と“改訂版(?)”を聞けることに加え、珍しい音曲噺にも期待していた。
 次のような構成だった。
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(開口一番 春風亭朝呂久 『権助魚』)
鈴々舎馬るこ 『親子酒』
春風亭一朝  『植木のお化け』
五街道雲助  『お初徳兵衛浮名桟橋』
(仲入り)
古今亭志ん輔 『船徳』
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春風亭朝呂久『権助魚』 (18:50-19:01)
 この会のレギュラーである一朝門下の前座ということで、結構頻繁に開口一番を務めている。これまでもそんなに悪い印象はなかったし、入門して5年目、前座になって4年目なら上出来と言えるのだろうが、旦那もお内儀さんも、少し怖すぎる。これからだろうなぁ。体と同様にスケールの大きな噺家になることを期待したい前座さん。

鈴々舎馬るこ『親子酒』 (19:01-19:19)
 朝呂久と違って、出演する理由が見つからない。らくだ亭のレギュラーに師匠馬風は入っていない。二ツ目は他にもたくさんいる。昨年11月の菊六の横浜にぎわい座・のげシャーレでの落語会(菊六開花亭)に客演で出た時の『紙屑屋』を酷評した覚えがある。あの時ほどではないが、あまり良い後味とは言えない。親爺が酒の肴をカモフラージュするため、最中(もなか)の餡を抜いて塩辛を入れるなどのクスグリを入れるのだが、私は感心しない。こんな下手な細工をするより、本来の噺の基本と、酒の飲み方などの技術をしっかり稽古して欲しいものだ。何か勘違いをしているような気がする。

春風亭一朝『植木のお化け』 (19:20-19:43)
 楽しみにしていた噺。その昔、七代目春風亭枝雀という音曲師が十八番にしていた、ということだけは知っているが、音源でも生の高座でも聞いたことはなかった。さまざまな草花がお化けになって、その草花の地口や何らかのつながりのある唄や芝居をお化けが繰り広げるというネタ。恩田えりさんの三味線、控えの前座さんの太鼓など鳴り物入りの賑やかな噺。途中で一朝独自のクスグリなのだろうか、観客の手拍子で、「次は韓国・・・あ~コーリャン」とか「最後は歯医者で・・・は~どうした」などという掛け声も可笑しかった。さまざまな音曲の種類や芝居が登場するが、私のような勉強不足の者は、半分も分からない。なるほど今ではなかなか高座にかけれる人はいないだろう。しかし、その昔、芝居や音曲が一般市民の娯楽であった頃には、これほど楽しい噺もなかっただろうと推測はできた。一朝師匠、「いっちょうけんめい」でした!

五街道雲助『お初徳兵衛浮名桟橋』 (19:44-20:18)
 先代馬生一門としての自負のようなものが高座から感じられた。馬生の音源は最近も聞いたのだが、その本筋を変えず、かつ噺の時代背景をより一層鮮やかにするような雲助自身の味つけなどもあり、圧巻の高座。後で紹介する本にも話題になっている、師匠十代目馬生が描くお初の優しさを、しっかり継承している。もっと暗くなるかと思ったが、そこは雲助。折り目正しい高座、と言う表現が合いそうだ。
 近松門左衛門の『曽根崎心中』を下敷きにして、徳兵衛は平野屋の手代から若旦那に、お初は遊女から芸者に役柄を変えているわけだが、油屋も天満屋も登場する。この油屋が効いている。時代劇に登場する「越後屋」的な役柄で、この噺に貴重な脇役。お初が「男ぎらいなことは、油屋の旦那がよくご存知でしょう」と言うと、テレ笑いをしながら扇子であおぐシーンなどは、なかなかの芝居だ。大師匠志ん生は、サゲを『宮戸川』的な色っぽいものにしているが、雲助は師匠と同様のほどほどに品のいい終幕。「なれそめでごさいます。」として下がったが、次の筋書きが聞きたくなった。

古今亭志ん輔『船徳』 (20:28-21:05)
 雲助の後で、「志ん輔は、やりにくいだろうなぁ」と思っていたが、結構開き直った感のある、雲助に負けない高座だった。雲助同様に余分なマクラなく本編へ。この人の持ち味である、顔を含め手ぶりなどを目一杯生かした船頭徳の奮闘ぶりが楽しい。独特のリズミカルな中での間も心地よかった。
 雲助が師匠馬生のDNAを継承する一人なら、間違いなく志ん朝の芸を伝える人なのだが、語り口だけではない、体全体での表現は、あくまで独自の世界であると思う。人によっては、クサイと言う指摘もあるだろうが、私は好きだ。船宿の女将が泣きながら船を送る場面や、竹屋のおじさんの心配ぶりなども、私は大げさとは思わない。やや飛ばしすぎた感もなきにしもあらずだが、そのスピード感もこの人の魅力だと思う。最後に客の背に徳がおぶさる演出は誰がオリジナルかわからないが、ちょっと照れて演じたように思ったのは気のせいか。小朝が最初かなぁ。とにかく、原作を初代円遊が改作した滑稽噺を、しっかり聞かせて、見せてくれた。


 石井徹也編著『十代目金原亭馬生-噺と酒と江戸の粋』(小学館)の中で、末広亭の席亭北村幾夫さんが、こんな話をしている。石井徹也編著『十代目金原亭馬生-噺と酒と江戸の粋』

 圓生師匠の描写が凄いっていうけれど、圓生師匠は最後まで自分がいたから、どこまで行っても圓生しかいなかったんで・・・・・・。馬生師匠は自分がいつの間にか消えちゃう。高座に溶け込んじゃうみたいな・・・・・・ね。落語ってやっぱり視点を変えると凄い部分があって、それをこう、障子一枚、襖一枚の向こうに何があるかを見せる、その怖さは馬生落語にありましたね。
 『お初徳兵衛』の最後、「いつまでもいつまでも・・・・・・」って馬生師匠が言うと、高座に、大川に浮かぶ船が見えたもんね。「ウチの高座。船着場だった?」ってくらい(笑)


 なるほど、師匠の芸を継承する雲助の高座、最後、首尾の松の脇に浮ぶ船とお初と徳兵衛二人のシルエットが、しっかり見えたなぁ。
 
 余談だが、北村幾夫席亭の馬生と圓生の喩えは、夏目漱石が三代目小さんと、初代圓遊について作品(『三四郎』)の中で語った内容と相通じる。しかし、この喩えって、志ん生と文楽の比較論で、誰かが語っていたような気もする。噺し手が主役か、登場人物が主役か、っていういうのは永遠のテーマなのかもしれない。

 さて、この落語会のこと。企画自体も良かったが、それに応える高座がなければこうはならない。
 映像がしっかり浮かんだ雲助の高座、そして対抗するように船頭徳の汗を感じたエネルギッシュな志ん輔の高座、“それぞれの徳”を今年のマイベスト十席候補としたい。
Tracked from 梟通信~ホンの戯言 at 2011-08-24 11:10
タイトル : 雷雲を呼ぶ雲助 一朝の植木のお化けは人形町にふさわしい ..
時間があったので人形町散歩。 しょっちゅう来ているがあまりよく観てないのだ。 江戸33番札所、大観音も階段を上がってお参りするのは初めて。 さすがに土地柄、人形が飾ってある。 甘酒横丁にはいろんな匂いがする、その中でちょっと異色なのが漆の臭い。 三... ... more
Commented by hajime at 2011-08-23 15:16 x
今回も、大変素晴らしいレポートでした。
読んでいるだけでも楽しくなりました。
「植木のお化け」はもう一朝師の様に音曲に通じた方しか出来ないのでしょうね。
私は録音でしか聴いたことありません。(^^)
古今亭のお家芸とも言える「お初徳兵衛浮名桟橋」を演じる雲助師のその力の入れようが、読んでいるだけでもその素晴らしさを感じる事が出来ました。
以前、志ん輔師は「船徳」を演じてるとよく師匠が高座に降りてきて指導してくれる、と言う事を話していましたが、この日も降りてきていたのでしょうか。(^^)

Commented by ほめ・く at 2011-08-23 15:41 x
枝雀の名が出るとは懐かしいですね。
顔と首の長い人で、声を張る時はまるで鶴のように細い首をさらに長くして唄っていました。
ウットリするような美声の持ち主でした。
「植木のお化け」は音曲師が演るネタですが、これに挑戦の一朝、さすがですね。
誰かが受け継がなければ消えて行きますので、貴重な高座だったと思います。
雲助と志ん輔の高座は、記事を拝見しただけで堪能しました。

Commented by 小言幸兵衛 at 2011-08-23 16:31 x
雲助の古今亭と師匠馬生のネタへのコダワリは、想像以上に強いものがありそうです。
志ん輔はブログで「達成感はあったが、満足感がなく」、「空虚」という表現をしていて、私自身は、「そんなものかなぁ・・・・・・良かったけどなぁ」と思っています。
意外に噺家が「やった!」と思う時より、その逆の場合のほうが客席の評価が高い場合も多いですからね。
このへんは何とも言えませんね。

Commented by 小言幸兵衛 at 2011-08-23 17:01 x
七代目枝雀も生でお聞きですか?!
恩田えりさんのツイッターによると、曲目は次の通りだったようです。
梅は咲いたか、石堂丸(別名とっちりとん)、並木駒形、三千歳(清元)、幽霊三重、勧進帳(長唄)

清元と長唄の区別も分からない私は、まだまだ修行が足らない・・・・・・。
雲助の高座は、しばらく忘れられないですねぇ。
この落語会、これで2500円とお徳です!(徳つながり・・・・・・)

Commented by 創塁パパ at 2011-08-24 07:47 x
おはようございます。昨日は4時おきで
眠かったのにまた、「繁昌亭」でした(笑)おお、石井さんの本でてきましたねえ。私もこの本読みました。
それにしても、一朝・雲助・志ん輔
まさに「実力派」の落語会。
楽しかったですねえ。木戸銭が得した気分です(笑)

Commented by 小言幸兵衛 at 2011-08-24 08:57 x
早起き、大変でしたね。
もうじき先代馬生の命日。何か書こうと思っています。
結構周囲から誤解の多いと思われる師匠や、あの一門のことなど。

でも、雲助は良かったなぁ^^

Commented by 佐平次 at 2011-08-24 11:09 x
昨日は一朝「定五郎」でした。
恐るべし一朝です。

Commented by 小言幸兵衛 at 2011-08-24 11:37 x
一朝の芝居噺はニンですね!
団蔵との緊張感溢れるやりとり、仲蔵からの慈父のような気遣い、目に浮かびます。
連日の好企画へのご参加、うらやましい限りです^^

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by kogotokoubei | 2011-08-23 08:34 | 落語会 | Trackback(1) | Comments(8)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛