師走新風落語会 横浜にぎわい座 12月1日
2009年 12月 01日
演者とネタは次の通り。ちなみにネタ出しは事前にされていた。
----------------------------------------------------------------
(開口一番 林家はな平 たらちね)
鈴々舎わか馬 あくび指南
古今亭菊之丞 井戸の茶碗
(仲入り)
三遊亭兼好 一分茶番
立川志らく 富 久
----------------------------------------------------------------
はな平(19:00-19:10)
正蔵門下で二年目の前座さん。なかなかしっかりした落語をする。今後も注目したい。しかし、なぜあの師匠を選んだのだろう・・・・・・。
わか馬(19:11-19:29)
相変わらず、低音の声は通りがいい。「風林火山」のあくび、「水金地火木土天海冥」のあくび、といったクスグリはオリジナルなのだろうか、なかなか効果的だった。「冥王星のあくびはその後なくなり、ハレー彗星のあくびになった」というあたりが、この人ならではのセンスの良さだと思う。来年真打、本寸法に独自のセンスで味付けができる力があるし、あの声である。
将来が楽しみだが、なぜこの人があの師匠を選んだのか、それが不思議でならない・・・・・・。
菊之丞(19:30-20:02)
にぎわい座で菊之丞を聞くのは初めて。高座に上がったとたん、江戸の長屋の情景が見えてくる、私にとってはそんな人である。演出上で力量を物語ったのが、屑屋の清兵衛が高木作左衛門と千代田ト斎との間を往復する場面で、同じ位置に座っていながら一瞬の間で切り替える演技の小気味良さ。また、清兵衛の困った時の表情がいい。“古典”の世界に安心して誘ってくれる噺家さんだ。ぜひにぎわい座での出番が増えることを期待する。
兼好(20:15-20:38)
今年は、この人の落語をもっと聞くつもりだったのだが、「百兼今」も結局は都合が合わず一度しか行けなかったし、にぎわい座の会は、行こうと思った時は完売で、なかなか縁がなかった。今日は、久しぶりにこの人の噺を楽しむことができた。ネタ出しがされていたので他の人はマクラも短く本編に入ったが、この人のマクラは良かった。しかし、本編との関連のある歌舞伎ネタであり、無理がない。かつ、上手い。そして、程よく“毒”が、別な表現をすると“エスプリ”が効いている。わか馬の低音とは対照的な高いトーンなのだが、噺に入るとその声を巧に使い分ける。この噺そのものの構成にも少しは助けられてはいるが、この人ならではの芸として、権助の語り口や芝居での滑稽な仕草がなかなかの出来であった。ともかく今日一番笑いをとっていたし、“初兼好”の多くの方はファンになったはず。しかし、この人も、なぜあの師匠を選んだのだろう・・・・・・。(こればっかり)
志らく(20:39-21:15)
久しぶりの志らく。なぜか、しばらく遠ざかっていた。それはいくつか理由があるのだが、感性の問題なので上手く説明できない部分もある。この噺も師匠談志家元版をベースにオリジナルのクスグリやサゲ、久蔵がだんだん欲しい賞金の値を下げていく場面などに演出上の工夫を出していたとは思うのだが、どうも違うんだなぁ、という感じがする。にぎわい座の「百席」も、「ピン」も最近はチケットの売れ行きがいいらしいが、そのチケット争奪戦に参加する気にはならない。自分自身の好みを考えると、たぶんそれはこういうことだろう。
今日の菊之丞やその弟分の菊六、あるいは桃月庵白酒、今日の兼好やわか馬もそうだが“江戸”の香りがするのだ。しかし、志らくにはそういった古典、江戸という空気をあまり感じることができない。だから、私のアンテナに感度良く受信されないのだろう。その技量の高さ、オリジナリティ、センスの良さは感じるが、江戸の下町に連れてってくれるという感覚がなく、あくまでその芸を客観的に見て聞いているという印象。あえて言うと、その芸を評論する対象にはなるのだが、感動空間を一緒に共有する体験は得にくい、ということかもしれない。これは、まったくの好みの問題。彼が家元の後継者の一人として今後ますます成長してくれることを期待しているが、私が彼の落語会に行く回数はあまり多くはならないだろう、というだけのことである。
ともかく今日は兼好が際立っていた。いわばホームグラウンドで、余裕をもってその実力を発揮したという印象。来年は、もっとこの人の落語会に行くつもりである。また、今後ますます騒がしくなるであろう大師匠没後の名跡襲名問題。もし、この人が5年後に七代目円生を襲名するためのプロジェクトなら応援してもいいかなぁ、そんな気持ちで桜木町駅に向かっていた。大名跡襲名のためにはいくつかのハードルを乗り越える必要があるだろうが、現在名前が出ている襲名候補者よりも、彼には時間という強い味方がある。実現性は決して低くないのではなかろうか。この件は、後日また書きましょう。
