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柳家三三 背伸びの十番 第六回 横浜にぎわい座 8月3日

気になってはいたが都合とチケット入手の相性が悪く、ようやく初めて来ることができた会。一階はほぼ満席、二階席にも多くのお客さんがいた。お誘いあわせのお客さんが多かったようで、私のようなロンリーマンは少数派と見た。
チラシのコピーを借りると、「三三、十人の先輩の胸を借りて臨む、大勝負シリーズの第六弾!」ということで、今日の“先輩”は柳家権太楼。
まず、演者とネタ。
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<開口一番 柳亭市也 転失気>
柳家三三     ろくろ首
柳家権太楼   寝 床
(仲入り)
柳家三三     三枚起請
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市也(19:01-19:14)
イケ面だけではなく、どうやら噺家としてなんとかなりそうな成長を確認できた。そう思っていたら、後で権太楼師匠も少しだけ彼を誉めていた。袖で聞いていた市也は、さぞうれしかったのではなかろうか。お客さんにも恵まれ、開口一番の前座噺でこれだけ笑いが取れたら、自信につながるだろう。しかし、その気で寄席に行くと、またガツーンと仕打ちを受けるものだ。その繰り返しでどこまで行けるかだが、がんばってもらいましょう。

三三『ろくろ首』(19:15-19:53)
この季節定番の三三のマクラとして若者の浴衣の着付けが悪い、という話題が出たが、どうも三三自身の羽織が、やや大きすぎるせいかピッタリとせず、そのことに一人笑っていた。この噺は、まさに“柳家”のネタといってよいのだろう。もともと上方の噺を三代目(四代目という説もある)小さんが東京に持ち込み、三三も踏襲したサゲは五代目小さんの作といわれている。与太郎ではなく松公、というのも柳家の型だと思う。三三のこの噺は初体験で期待したが、なかなかに楽しめた。年寄りがニンで、ついつい伯父さんの存在感が立ってしまわないか心配したが、松公の与太郎ぶりも弾けていて光っていた。なかなか好調な一作目。

権太楼(19:54-20:30)
池袋昼席の主任小三治師匠の代演を務めてから三三の会への登場で、今日は小三治一門助っ人デーになった権太楼師匠。登場するや否や客席の後方から「待ってましたぁ!」の声。これには、やや驚いた。「えっ?今日は誰の会?」という感じ。しかし、今日のお客さんの四分の一位は、この会場で長らく独演会をしている権太楼師匠ファンかもしれなかった。若干しゃがれた声に最初は心配したが、にぎわい座のお馴染みのファンの期待に応えるかのように、マクラでいきなりの大胆発言。「六代目小さんを継ぐべきだったのは・・・・・・」など、詳しくは書けないが、“舌”好調そのもの。その後小三治一門の名前を挙げようとするが、喜多八以外の名がなかなか思い出せなかったところもご愛嬌だろう。本編は、ともかく抱腹絶倒で、笑い感度の高い客席を沸かしっぱなし。本来のサゲまではいかず、長屋の面々が旦那からの店立て命令への対策を相談する中で茂蔵に語る思い出話として、前の番頭の吉兵衛さんが土蔵に逃げ込んでも旦那に義太夫を蔵の窓から語り込まれ次の日に逃げ出した、という古今亭志ん生版の型だったが、もう十分にお腹一杯の権太楼ワールドだった。

三三『三枚起請』(20:46-21:26)
どうも、ここしばらく三三はこの噺に集中して取り組んでいるようで、10月10日の練馬の独演会のチラシでもネタ出しされている。以前、談春・喬太郎ふたり会の後、私の勝手な推測として、ふたり会当日楽屋に来ていた三三のために、談春は一席目(『明烏』)と同じ郭噺にもかかわらずこの噺を演ったのだろう、と記した。
6月22日「三枚起請の謎」
もしそうだとするとその稽古は意味があったようだ。「三千世界の鴉を殺し、主と朝寝がしてみたい」という(高杉晋作の作と言われる)都都逸や、熊野の誓紙のことなど、今の時代では分かりにくい時代背景を説明する丁寧さの後で、まさに「謳い調子」で噺が進む。声もよくて、リズミカル、ほんの一瞬だが志ん朝を彷彿とさせた。演出で特に工夫したなぁと思わせたのは、清公が喜瀬川から起請文を受け取るに至る物語を、ほとんど“言い立て”風にまくし立てた部分。いわば「ダレ場」ともいえるが、構成上は欠かせない逸話でもある。ここをこれだけ一気呵成に畳み掛けた噺家を知らない。もちろん、人により年齢により、演りようはいろいろあっていいが、今の三三には合っているように思う。あえて小言を言うなら、お茶屋の二階に喜瀬川が登場するシーンをカット気味に演じたのだが、ここは少し違和感ありだった。端折らないほうが良いだろう。
全体的にはリズム、声の調子、三人の男のカラミ合いの可笑しさなど、「唄」を聴く心地よさで、江戸の郭に運んでもらった。

客席がともかく“暖かい”ので、演者も気持ちよく噺の世界に客を運んでいける、そんな時間と空間だった。かといってダレた空間ではない。権太楼師匠が三三の真打昇進披露の際、「三三は三十年に一人」と口上で言ってくれた後で、「三十年前は私」と付け加えたというエピソードそのままの、大先輩の暖かいまなざしもありながら、同じ噺家としてのライバル心が適度に融合していた気がする。仲入り前の大爆笑空間に対し、二席目で「これがオレの落語だ」と言わんばかりに客席を唸らせた(少なくとも私は唸った)三三。

先輩ゲストもその気にさせ、その先輩に三三も負けずに立ち向かう、なかなか結構な企画だ。残りあと四回か・・・・・・。登場する「先輩」にもよるが、都合が良くてチケットが取れれば、また来たい企画である。楽屋と高座には、客席には見えない(見せない)真剣勝負の空気も流れている、しかしその結果、お客は素晴らしい時間と空間を味わえる、そんな企画として続いていることを願うばかり。
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by kogotokoubei | 2009-08-03 23:51 | 落語会 | Trackback | Comments(0)

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by 小言幸兵衛