NHK BS hi 100年インタビュー 立川談志 4月30日
2009年 05月 01日
NHK BS ハイビジョンの企画で1時間半のインタビュー番組に談志家元が登場。
家元の声が十分に出ていて安心した。
落語への思い、イリュージョン落語とは何か、などなど落語ファンならこれまでにも耳にしてきた内容の再確認、という感じのインタビューだったが、後世に残すための集大成的な内容にはなったようだ。NHK BSでは昨年3月にも「立川談志 きょうはまるごと10時間」という破天荒な番組を放送している。
しかし、思うのだ。NHKが、こういった番組を組むことや、他のメディアでの家元の最近の扱われ方が、少し「伝説づくり」のモードに入ってきたな、ということである。たしかに家元の凄さは認めるが、あくまで生身の人間であり、かつて政治家時代も含め、決して行跡が良かったほうではない。
しかし、その芸の素晴らしさや人間的魅力が、そういった難を隠す、あるいはそれ以上のプラス要素で吹き飛ばしているのだろうが、家元自身だって、「伝説」になることを望んでいるわけではあるまい。
少し古くなるが、大学の落研時代に当時二つ目の小ゑんの頃から交流のある家元の古い友人の一人川戸貞吉さんは『現代落語家論』(昭和53年弘文出版)の中で、家元との次のような思い出を語っている。
川戸貞吉『現代落語家論』(上・下)
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私たちは、年に一度の大学祭でお遊び大会をすることになった。演じるのは、
むろん芸人さんで、企画の中心は、もちろん立川談志であった。
このときなにを演ったかもうあらかた忘れてしまったが、『怪傑黒頭巾』だけ
は、いまでもよく覚えている。これは、映画の題名パントマイムというお遊びで、
例えば、女装した男が黙って手招きをして、『かま(河)は呼んでいる』という、
くだらないものである。
舞台に颯爽と登場した黒頭巾が、お尻を掻いて去って行く—これで『怪傑
黒頭巾』という、実に他愛のないものなのだが、客席は爆笑の渦であった。
いまでもこのときの話を肴にして、彼と酒を飲むことがある。
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私は、若い時のこういった軽妙さも家元の本質的な部分だと思うし、『夢であいましょう』の落語をテーマにした放送で、長屋の住人に扮して落語ネタのコントの狂言回しをしていた家元の姿がなんとも言えず好きだった。
志の輔、談春、志らくといった弟子を育てたことも、家元をどんどん神棚に祭るような流れを強めているかもしれない。しかし、家元の本質はある意味、客としても話し手としても尋常ではない「落語バカ」であり、それ以上でもそれ以下でもないと思う。
歴史に名が残る名人であることに疑問はないし、落語が伝統文化として認知されてきたからこそのこういった番組なのだろうが、家元を梯子にどんどん登らせていくばかりでは、いつその足元がぐらつかないともいえない。
生身の「一流」の落語ファンであり、その落語の高い鑑識眼から見て聴いても好きになれる、また評価できる落語家に自分自身がなりたいと一途に目指してきた、それが立川談志という噺家だと思う。
マスコミがヨイショしまくってきたら、それは「ほめ殺し」が始まったかもしれない、と危惧したほうがいいだろう。まだまだ元気で「やんちゃ」をしてくれそうな気がするし期待もしている。品行方正で勲章をもらう立川談志なんて、まったく魅力がないでしょっ。「長生きも芸のうち」という吉井勇が桂文楽に語った言葉を思い出す。惨めな姿になっても、ぜひ「不良老人」として、筋金入りの「小言幸兵衛」として"居つづけ"てくれることを切に願っている。
---NHK BS hiでの再放送---
5月 7日(木) 午後1:30~2:59
5月17日(日) 午前10:00~11:29