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噺の話

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『らくごDE枝雀』 桂枝雀


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らくごDE枝雀_ちくま文庫

 NHKの「あの人に会いたい」の話が、少し暗~くなってしまったので、「明るい枝雀」というか、「凄い枝雀」を、その著作で紹介したい。この本は、何と言っても「サゲ」についての考察が際立っている。従来の数多くの落語解説書などで非論理的なサゲの種類の羅列ばかりだったことに比べると、ある意味で「革命的」な分析を提示した書である。

 本書は、枝雀の代表的なネタ五席(『鷺とり』『宿替え』『八五郎坊主』『寝床』『雨乞い源兵衛』)が掲載されており、その合間に落語作家である小佐田定雄さんと枝雀との対談形式で、落語に関する枝雀の考え方などを、おもしろ可笑しく紹介している。その中で秀逸なのが、サゲに関する考察である。

有名な「緊張の緩和」理論の後でサゲに関する枝雀の持論が語られる部分を、まず引用。
小佐田 「サゲの分類」ちゅうやつでんな。「地口落ち」とか「ぶっつけ
     落ち」、「考え落ち」てな・・・・・・。
枝雀  さァ、今まではそんなこと言うて分けてましてんけどね、考えて
     みるとこんな非科学的な分類法おまへんで。
小佐田 と言いますと?
枝雀  ものごとを分類しようかちゅう時に、いちばん先にしとかなな
     らん ことは何やと思いなはる?視点を定めることですわ。どの
     立場から 対象物のどの面を見て判断するかということを決め
     とかんと、あっち こっちから視点定めんと言うだけでは統一性
     がおまへんがナ。
小佐田 ふんふん。
枝雀  例えば「仕込み落ち」てなのは、サゲの言葉をあらかじめ
     仕込んで おくという噺の構成からきた分け方ですわね。
     一方、「ぶっつけ落ち」 言うのは、お互いに言うてることが
     くいちごうてることでサゲになる という、これは噺の内容
     からきてますわね。さらに「シグサ落ち」 いうのは、セリフや
     なしにシグサでサゲるという、これは演出法です わ。この
     三つのバラバラの視点のものを一列に並べて論じよう
     ちゅうん ですからね。こら満足なもんができるわけがおま
     へんがナ。

 まったく、目から鱗、と言える指摘ではないか。そして、枝雀は、「お客さんの視点」で考えた四種類のサゲの形について説明をしている。枝雀のサービス精神は、分かりやすく図解しているところである。

『らくごDE枝雀』 桂枝雀_e0337777_11054063.jpg

 まず、この図については、次のように説明してくれる。
枝雀 次の図を見とくなはれ。いろの濃いとこがフツーというかホンマの
   領域なんです。この「ホンマ領域」の内外に「ウソ領域」がるわけ
   です。で、外側を「離れ領域」と申しまして、ホンマの世界から離
   れる、さいぜん言いました「ヘン」の領域なわけです。常識の枠を
   出るわけですからウソの領域ですわね。しかもとりとめがありま
   せんから極く不安定な世界です。対して内側にあるのが「合わせ
   領域」です。これもさいぜん言いましたとおり「人為的に合わせる」
   というウソの領域です。「合う」という状況も、あんまりぴったり
   合いすぎると「こしらえた」ということでウソになってしまいます
   わね。但し、「離れ領域」とちごうて「合う」ということは型ができ
   るということやさかい安定してますわ。

この図を使って、「ドンデン」「謎解き」「へん」「合わせ」という4つのサゲのタイプを示したのが次の図となる。


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 枝雀の説明を要約するとこうなる。

「ドンデン」
:いっぺんサゲ前で「合わせ領域」の方へ近づく。つまり、「安定」に近づくのが「ドン」の部分。そのあと「離れ領域」へ「デン」ととび出したところで、「そんなアホな」とサゲになる

「謎解き」
:ドンデンの逆でサゲ前にいっぺん「離れ領域」—つまり不安定側へふくらむ。これが「謎」部分。そのあと、その謎を解くことで「合わせ領域」に入って「なーるほど」となってサゲる。

「へん」
:ドンデンに近いが、「安心」に近づく「ドン」のプロセスがない。いきなり「デン」と「離れ領域」に出るので四種類の中でもっとも不安定なサゲ。

「合わせ」
:謎解きに似ているが、「謎」の部分—「不安定」側へのふくらみがなく、いきなり「合わせ」てしまうサゲ。
*いわゆる「地口落ち」は洒落で「合わせる」ことから、大半がこの分類になるようだ。

そして、枝雀の丁寧な図解はまだ続く。この図である。

『らくごDE枝雀』 桂枝雀_e0337777_11054247.jpg


右のほうが「そんなアホな」というサゲ。左側が「なーるほど」というサゲ。また、上のほうが「緊張と緩和」がはっきり区別されているサゲで、下の二種類は「緊張と緩和」がないまぜになっている、と説明する。


枝雀 私の理論によりますと、すべてのネタは図の座標上のどこかの
    一点を占めることになるわけです。この四つのグループも全く
    孤立しているわけやのうて、互いに影響し合うてサゲをこしら
    えているわけでんねん。謎を解く手段に「合わせ」を使うたり、
    謎を解いた結果が「へん」になったりとかね。こんな時も、
    最終的にどの要素でお客さんが快感を得てくれてはるかに
    よって、四つのうちどの型かは、はっきり分類できますで。



最後に、四つのサゲにそれぞれ分類された代表的なネタをご紹介。
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ドンデン:『鴻池の犬』・『時うどん』・『愛宕山』・『かぜうどん』・『看板のピン』
謎解き:『たちきれ』・『皿屋敷』・『寝床』・『算段の平兵衛』・『替り目』
へん:『青菜』・『口入屋』・『池田の猪買い』・『子ほめ』・『鷺とり』
合わせ:『らくだ』・『くしゃみ講釈』・『雨乞い源兵衛』・『死神』・『夏の医者』

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これ以上詳しいことは、ぜひ本書を読んでいただきたい。

 枝雀は「分類」すること自体が目的でこの四つのパターンに分ける理論を考案したわけではなく、「緊張と緩和」理論にのっとり、いかにして効果的なサゲまで含め噺全体を構成し演出してお客さんに快感を得てもらおうか、喜んでもらおうかということを考えに考えた経過の中で、この理論を見出したに違いない。だからこそ、枝雀の噺が凄いのである。

 また、「たら」「れば」になるが、小三治師匠と同じ昭和14年の生まれで、生きていたら今年で古希。どんな噺を聞かせてくれただろうか、との思いがつのるが、せいぜい残されたCDとDVDで偲びたい。
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by kogotokoubei | 2009-04-14 12:04 | 落語の本 | Comments(0)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛