人気ブログランキング | 話題のタグを見る

「めだか」と「らくだ」 その三

談春の「赤めだか」では、その弐で紹介した二つ目昇進試験が、すでに全体の三分の二くらい進んだ後半になる。約280ページの本の190ページ前後にあたる。一方、志らく『雨ン中の、らくだ』では、全体のボリュームは「めだか」とほぼ同じ280ページ位で、二つ目昇進試験は前半の110ページあたりである。もちろん、それぞれの本の切り口も違えば、「書きたいこと」も違うのだから当たり前。「その時」の最後はコレにした。

■志らく真打昇進パーティ

 先に、「らくだ」から行く。なぜなら、志らくが具体的な「赤めだか」のページを明らかにして、談春の記述は誤り(記憶違い?)だと指摘しているからである。
-----------------------------------------------------------------------
私が真打になるにあたって、師匠はこうまで言ったのです。
「志らくが先に真打になるということは、談春よりも格が上になるということ。
だから極端な話、談春と呼び捨てにしてもいいのだ」
師匠の言葉を談春兄さんに伝えました。
「そうなんだってさ、兄さん、師匠が談春と呼び捨てにしてもいいって」
「お前に談春と呼ばれてたまるか」
「談春とは呼ばないよ」
「当たり前だ」
「春公と呼ぶよ」
「ふざけるな!」
「じゃあ、近頃、兄さんは太ってきたからブタ兄さんと呼ぼうか」
「なんだい、そのブタ兄さんというのは?」
「そうだ、兄さんという必要がないから、ブタさんにしよう。いいね、ブタさん」
「人を歌丸師匠みたいにいうな。ブタ(歌)さんって」
私が先に真打になるということでブタさんは、いや談春兄さんはずいぶんと
苦悩したのでしょう。そこらへんは談春の名著『赤めだか』に書いてある
からね。ただ、、『赤めだか』のあそこのところはちょっと事実と違うなぁ。
あそこのところって、263ページ。真打昇進パーティのところ。たしかに、
パーティの司会は談春兄さんではありましたが、『赤めだか』によると
自分から進んで司会になったみたいに書かれているけれど、本当はこう
だったはず。
「兄さん、司会やってよ」
「嫌だよ、司会なんか」
「司会をやれば、兄さんの居場所ができるし、洒落にもなるよ。それに
ひとりだと淋しいだろうから、三井ゆり(深夜番組『アンモナイト』で仲良く
なりました)をサブにおくからさ」
「・・・・・・じゃあ、やるよ」
まあ、どっちでもいいか、私を信じるか談春を信じるか。それはあなた次第
です!
-----------------------------------------------------------------------

公平を期す(?)ために、「めだか」の263ページの部分を、少し前からご紹介。
-----------------------------------------------------------------------
「なあ、志らく。どうして真打になるのを急ぐんだ」
慣れない仕草で灰皿に煙草を置いて、視線を談春(オレ)から外して志らく
が答えた。
「談春(アニ)さん、俺達立川ボーイズで売れ損なった。もうモタモタしていられない
と思うんです。真打をきっかけにして知名度を上げたい・・・・・・それに・・・・・・」
「なんだ」
「談春(アニ)さんを待っていたら、いつ真打になれるか、わからない・・・・・・」
「そうか。志らくから見れば、談春(オレ)は博打ばっかりしてて、落語に対して
一所懸命には見えないかもしれないな。なァ志らく、談春(オレ)は真打とは、
いくらか世間に知られた存在になった者に与えられる称号だと思ってるんだ。
どうぞ、先になってください」

志らくは真打昇進試験の会で、見事に談志(イエモト)から合格をもらった。
「おめでとう。良かったな」と談春(オレ)が声をかけたら、志らく(アイツ)は、
「ありがとう。君も頑張ってね」と笑いながら答えやがった。
「殺すぞ、この野郎」と談春(オレ)も笑いながら云ったら、周囲(マワリ)が凍った。
どうもこの種の洒落は通じないらしい、という現実に談春と志らくの方が驚いた。

「志らく、真打パーティーの司会、誰がやるんだ」
「決まってませんよ」
「談春(オレ)がやってやるよ」
「えーっ。いいんですか。志らく(ワタシ)のパーティーですよ」
「だからやるんじゃねェか。普通に会場に行ってみろ。色んな人が、色んな
ことを談春(オレ)に云ってくるだろ。いちいち相手にすんの面倒くせえョ」
-----------------------------------------------------------------------

 まぁ、どちらが正しいかというよりも、「めだか」としては、このほうがカッコはいい。
談春の男の美学による「イリュージョン」とでも云えるかもしれない。

 二冊の本で少し遊びすぎたかもしれない。しかし、紹介していない部分も含め、あらためて読み比べてみて、また新たな楽しさを味わった。

 あとは志の輔が、彼ら後輩と共有した同じ「その時」を含むエッセイでも出してくれるとうれしいのだが、忙しくてそれどころではないかなァ。ひとまずこのシリーズ、「完」です。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by kogotokoubei | 2009-03-16 21:00 | 落語の本 | Trackback | Comments(0)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛