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「めだか」と「らくだ」 その弐

さて、次の「その時」はこれ。

■二つ目昇進試験

厳しいことで有名な立川流の二つ目昇進試験を、談春と志らくは他の前座仲間である関西(後の文都)、談々(後の朝寝坊のらく)と四人で一緒に受けることになった。さて、そのときの話である。まず「赤めだか」から試験前夜と当日集合までの談春の様子を拾い出してみる。
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四人それぞれが稽古に励む。この段になればチームワークなんて
云ってられない。試験前夜、五十席を書き出した。丁寧に心を込めて
一席ずつ書く。不安でたまらなかった。書けば書くほど、それぞれの
根多でトチった箇所ばかりが頭に浮かんでくる。頭が冴えてくる。心臓
が高鳴っている。とうとう一晩マンジリともできなかった・・・・・・。
で、明朝、寝過ごした。じゃあ寝たんじゃねェかと思った人、殴るぞ。
バスに乗っている最中、こりゃダメかなと思う。目覚めていない頭と
緊張しきっている身体。車窓の外に流れている風景をボォーッと見て
いたら何だか無性に腹が立ってきた。原因もわからなければ、誰に対
して怒っているのかもわからないが、ただひたすらに腹が立った。
「あー、もう面倒くせえ、落ちたら辞めりゃあいいんだろ。上等じゃ
ねェか」と本気で考えていた。集合時間に三十分遅れた。三人に半ば
ふてくされながら、「おはようございます」と云った。
「何しとんねんお前!」関西が怒っている。当たり前だ、こんな大事な
日に遅刻なんて誰がどう考えても怒る。
「とにかく早く行こう」と談々。結局談春(オレ)は三人に一言も謝らなかった。
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「らくだ」からは、二つ目昇進についての当時の志らくの焦る思いが読み取れる。
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昇進にあたって一番波風立たないのは談春兄さんたちが先に昇進する
ことです。そのあとすぐに私が昇進する。しかし、もともと一年で昇進しよう
と決めていた私にはもうタイムリミットでした。一緒に二つ目になるしかないと
思いました。客観的にみれば嫌な奴です。
私は談春兄さんと、時には関西兄さんや談々兄さんと一緒に師匠のところ
に通いました。「来なくてもいい」と言われても、行きました。
そして二カ月後に「お前ら二つ目になるか」と師匠に言われたのです。昇進
条件は落語五十席、歌舞音曲です。
試験当日、昇進条件の落語五十席を記した紙を師匠に提出しました。
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さて、試験本番直前。「めだか」から、まだ続く談春の悲劇をご紹介。
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談志(イエモト)は起きて洗面所で歯をみがいていた。
「おはようございます」と皆で挨拶すると、
「五十席書き出しとけ」と云った。
カバンの中から根多帳を出そうとしたら紙がない。
忘れた。全身が総毛立った。志らくと談々の根多帳を見せてもらって重複
している根多から書き出すが、手のふるえが止まらない。落ち着こうとすれ
ばするほど自分が何をやっているんだかわからない。四十席書いたところで
ピタッと筆が止まってしまった。
「志らく、オレ四十席しか根多ねェや」
「えっ」と云って志らくが根多の確認をしてくれた。
「アニさん、真田小僧は」
「あ、そうか」
「十徳もないよ」
「そうだ、十徳。あとろくろっ首・・・・・・」
四十九席まで思い出したがあと一席がどうしても思い出せない、
出てこない・・・・・・。
「お前ら二階へ上がれ」
談志(イエモト)が呼んでいる。どうしよう。
「寿限無ならできるだろう」と談々が云った。そうだ、寿限無だ。覚えて
いないし、持ち根多ではないのだが、寿限無ぐらい子供だって知ってる。
五十席目に寿限無、と書いた。間に合った。
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そして試験は始まった。「らくだ」から悲惨な状況をご紹介。
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私が一番不安だった落語は「品川心中 後日談」。ほとんど演じ手は
いません。師匠がたまに演ずるくらいです。だからこそ私はあえてそれを
入れました。師匠しかやらない落語を覚えたということを師匠にアピールした
かったのです。ただただアピールだけしたかった。アピールのみでよかったの
です。
まさか、それをやってみろと言われるとは思ってもおりませんでした。
だってできないんだもん。可愛く言っても仕方ないけど、覚えただけで
一度も人前で演じたことはないし、稽古もあまりしておりませんでした。
師匠はすべてお見通し。しどろもどろになって「品川心中 後日談」を語る
私に、「ああ、もういい。ちゃんと覚えておけ」とだけ師匠は言いました。
談春兄さんはもっと酷かった。覚えた落語をよくよく勘定してみたら四十九
席しかなく、慌てて当日「寿限無」を書き加えたのです。
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「めだか」から志らくのことを含め、試験模様がこう書かれている。
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談春(オレ)の番だと思った途端、喉がヒリヒリとした。
「志らく、品川心中の下を演ってみろ」」
と談志(イエモト)は云った。談春(オレ)は飛ばされた。
談々も関西も、エッという顔をした。気の毒なのは志らくで、まさか自分の
順番が来るとは思っていないから突然の指名にうまく返事ができなかった。
「ウヒャイ」
まるで百川の百兵衛のような奇声を上げるとしゃべりだした。それを聴き
ながら、談春(オレ)は無試験なのだろうか、どうしてだろうと、ぼんやり、
本当に他人事のようにぼんやり考えていた。志らくの声が遠くで聴こえて
いる。人間極度の緊張から解放されると音が遠くで聴こえるものらしい。
そのうちに耳鳴りがしだした。志らくの声も聴こえなくなった。
遠くで誰かが談春(オレ)を呼んでいる。よーく聴いたら談志(イエモト)の
声だった。
「談春!」
正気に戻った。ハイと云ったつもりがどういうわけか、ホイと云っていた。
「何がホイだ、馬鹿野郎」
「失礼しました」
「お前は・・・・・・」と云って談志(イエモト)が談春(オレ)の根多を見ている。
他の三人より念入りに見て、
「お前、寿限無演ってみろ」
と云ってニヤッと笑った。横で志らくが笑った。談々もうなずきながら
笑ってる。大変な事態になったことは理解できるが、一旦解いてしまった
緊張感はおいそれと取り戻せない、元に戻せないことを初めて知った。
俺、寿限無はできないなァ、あれッ、こりゃ一人だけ試験に落ちるのか
なァ、とのん気に考えていたら、今でも信じられない一言を、談春(オレ)は
談志(イエモト)に向かって云ってしまった。
「寿限無の名前を云えばいいんですかァ?」
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この後、しどろもどろのオリジナル(?)寿限無が始まり途中で家元に止められた。談々の踊りの試験に替わってからこの試験の家元の判定までを、また「めだか」から。
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そのあとのことは記憶にない。ひょっとすると唄わされたり、踊らされたり
したのかもしれないが本当に覚えていないのだ。
思い出すのは・・・・・・談志(イエモト)が談春(オレ)達四人に向かって、
「まァ、合格ということだ」
とボソッとつぶやいたシーンから。
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「ウヒャイ」に「ホイ」・・・・・・。二つ目試験は、この「擬音」がキーワードかもしれない。
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by kogotokoubei | 2009-03-15 21:01 | 落語の本 | Trackback | Comments(0)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛
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