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ウイルス、そして感染症について学ぶ(5)-石弘之著『感染症の世界史』より。_e0337777_14485301.jpg

石弘之著『感染症の世界史』
 2014年に洋泉社から発行された後、2018年に角川ソフィア文庫で再刊された石弘之さんの『感染症の世界史』からの、最終五回目。

 「終章 今後、感染症との激戦が予想される地域は?」から。

 感染症の巣窟になりうる中国

 今後の人類と感染症の戦いを予想するうえで、もっとも激戦が予想されるのがお隣の中国と、人類発祥地で多くの感染症の生まれ故郷でもあるアフリカであろう。いずれも、公衆衛生上の深刻な問題を抱えている。
 とくに、中国はこれまでも、何度となく世界を巻き込んだパンデミックの震源地になってきた。過去三回発生したペストの世界的流行も、繰り返し世界を巻き込んできた新型のインフルエンザも、近年急速に進歩をとげた遺伝子の分析から中国が起源とみられる。
 13憶4000万人を超える人口が、経済力の向上にともなって国内外を盛んに動き回るようになってきた。春節(旧暦の正月)前後にはのべ約三億人が国内を旅行し、年間にのべ一億人が海外に出かける。最近の12年間で10倍にもふくれあがった大移動が、国内外に感染を広げる下地になっている。

 すべて「あとの祭り」なのだが、武漢があのような状況になったことから、いちはやく春節での国内外の大移動を禁じていたら、また、日本が入国を阻止していたら、と思わないではいられない。

 実際の春節期間の国内外の移動は、自粛により例年の半分位に減っていたが、それでも、とんでもない人数のウイルス感染者が国内外に散らばったのである。

 Wikipediaの「新型コロナウイルス感染症の流行(2019年ー)」から、中国の発生の履歴を振り返る。
Wikipedia「新型コロナウイルス感染症の流行 (2019年-)」

2019年11月
11月17日 - 湖北省出身の55歳の男性が新型コロナウイルスの最初の症例であった可能性が中国のデータから発覚しているが、中国当局はデータを公開しなかったとサウスチャイナ・モーニング・ポストが報じている。

2019年12月
12月8日 - 中華人民共和国の湖北省武漢市の保健機関により、原因不明の肺炎患者が初めて報告された。
12月30日 - 原因不明の肺炎について記載された公文書を勤務先の病院で発見した李文亮がWeChatに画像として投稿した。2020年1月7日、原因が新種のコロナウイルスと特定された。
12月31日 - 世界保健機関(WHO)への最初の報告が行われた。

2020年1月
1月1日 - 華南海鮮卸売市場を閉鎖。
1月7日 - 原因が新種のコロナウイルスであることを確認。
1月9日 - 最初の死者が出た。
1月13日 - 中国国外として初となる、タイでの感染者を確認。
1月16日 - 日本での感染者を確認。
1月19日 - 韓国での感染者を確認。
1月20日 - 広東省でのヒト - ヒト感染が確認されたことが発表。クルーズ客船「ダイヤモンドプリンセス号」が横浜港を出港。
1月21日 - 台湾、アメリカ合衆国での感染者を確認。
1月22日 - マカオでの感染者を確認。
1月23日 - 武漢市が人の出入りの制限を始める。香港、シンガポール、ベトナムでの感染者を確認。
1月24日 - ネパールでの感染者を確認。
1月25日 - 日本で武漢市在住の30代女性旅行者の感染を確認。マレーシア、フランス、オーストラリアでの感染者を確認。クルーズ客船「ダイヤモンドプリンセス号」から香港人男性が下船。

 1月25日が、旧暦の1月1日、春節だった。
 中国の情報公開が十分ではなかったこともあるが、実態として、春節前に、正しく怖がる状況は進んでいたなぁ。

 本書に戻ろう。
 中国での感染拡大の危険性は、その防疫体制にも原因がある。

 中国国内の防疫体制は遅れている。世界保健機構(WHO)とユニセフの共同調査によると、上水道と下水道が利用できない人口は、それぞれ3億人と7億5000万人に達する。慢性的な大気や水質の汚染の悪化から、呼吸器が損傷して病原菌が体内に侵入しやすくなり、水からの感染の危険性も高い。

 石さんは、感染拡大をもたらす要因として、次のような点を指摘する。

 膨張する感染症の温床

 国連の将来人口予測(2013年)によると、世界人口は2050年に96億人を超える。20世紀はじめには世界の都市居住者は人口の15%にすぎなかったが、2008年前後には都市人口が農村人口を上回った。2030年までに、都市人口は50億を超え、人口の70%を超えると国連は推定する。2010~2025年の間に世界の100万人都市は324から524に、1000万人以上のメガ都市は19から27に急増する。
 この都市人口の増加は、大部分が発展途上地域のサハラ以南アフリカ、南アジア、西アジアなどの都市のスラムで発生している。都市人口に占めるスラム人口の割合は、2005年時点でアフリカは七割以上、南アジアでは六割近い高率となる。アフリカでは15年、西アジアでは26年でスラム人口が倍増することになる。都市のスラム化は微生物の培養器である。
 人間の勢力圏の拡大につれて、森林や低湿地の破壊で野生動物の生息地は狭められ、新たな宿主を求めて人に寄生場所を変えてきた。コウモリが原因になった、西アフリカのエボラ出血熱やボルネオ島のニバウイルスの感染爆発がその好例である。

 今は、経済先進諸国の都市での感染拡大が問題になっている。
 そして、怖いのが、発展途上国にも感染の手が延びたら・・・ということだ。
 いったいどうなるのだろう。

 環境破壊による都市化、スラム化、衛生管理の不備は、ウイルスの大好物なのだ。

 もう一つの、感染拡大の原因が高齢化。

 世界の高齢化と感染症

 今後の世界人口の増加と高齢化を考えると、感染症はますます脅威を増すだろう。20世紀前半の集団発生は、学校や軍がその温床になったが、21世紀後半は高齢者がそれに取って代わることだろう。
 国連の予測によると、2050年には世界の65歳以上の人口は、現在の8%から18%になる。このとき、日本38.8%(2010年は22.7%)、中国25.6%(8.2%)、米国21.2%(13.1%)、インド13.5%(4.9%)。日本は現在も2050年時点においても、高齢化のトップランナーであることは変わらない。
 (中 略)
 高齢者は外出が減って孤立しがちになり、他人から免疫を受け取るチャンスも少なくなる。発病しやすくなり、発病すれば重い症状に陥りやすい。
 人と大きさを比べると、ウイルスは10憶分の1、細菌は100万分の1でしかない。人の遺伝子が三万数千個もあるのに対し、ウイルスは多くても300個、細菌は1000~7500個ぐらいだ。
 地上でもっとも進化した人と、もっとも原始的な微生物との死闘でもある。ときには膨大な数の犠牲者を出す代償を払って人側が免疫を獲得し、あるいは巨額の研究費で開発された新薬で対応すると、微生物はそれをかいくぐって新手を繰り出してくる。微生物との戦いは先が見えない。

 長い戦いになるのは、覚悟しよう。

 しかし、その時期を少しでも短くするためには、できる限りのことをしたいと思う。
 ということもあって、こんなちっぽけなブログでもできることがないかと思い、新型コロナウイルス関連の記事を挟んだので、このシリーズの記事が遅くなってしまった。

 お付き合いいただいた皆さん、ありがとうございます。

 そして、一緒にこの戦いに勝つために、頑張りましょう!
# by kogotokoubei | 2020-03-29 18:27 | 今週の一冊、あるいは二冊。 | Comments(0)

PCR検査数の推移

 PCR検査数が、五輪延期の決定後に増えたかどうかは、厚労省の発表が正しいとするなら、その統計を確認することで分かる。

 もし、統計が改ざんされていれば、困るが^^

 厚労省サイトの該当ページから、PDFデータをダウンロードした。
厚生労働省サイトの該当ページ

 これが、保険適用以降、3月26日までのPCR検査数の推移。

PCR検査数の推移_e0337777_08492867.jpg


 検査の主体は、地方衛生研究所・保健所。

 その検査数の毎日の推移を、保険が適用になった3月6日から26日までをグラフ化してみた。
PCR検査数の推移_e0337777_09350301.jpg


 一目瞭然なのだが、保険適用以降、日曜日以外で検査数が1000件を切ったのは、16日(月)、21日(土)、そして、23日(月)のみ。

 そして、24日(火)に、これまでの最多件数1701件となった。

 この平日なのに935件と1000件を切った23日と、24日の差が、あまりにも極端なのだ。21日の604件も、他の土曜と比べて異常に少ない。

 検査結果の判明は、すべてが即日ではなかろう。その多くが翌日と考えると、25日には、多くの感染者数は想定される。

 ご存じのように、24日に、東京五輪の延期が決まった。

 その後の東京都知事の会見は、そういった検査数が背景にあると考えるのが、妥当だろう。

 五輪延期決定の前後、あまりにも件数の差が特異と言えないだろうか。

 作為的であったと、このデータから私は推定する。

 五輪延期の方向が出たところで、検査現場への統制の枠を広げたのではないか。

 PCR検査を、五輪中止阻止を優先してコントロールしたとしか思えない。
# by kogotokoubei | 2020-03-29 09:59 | 事件 | Comments(2)
 今ほど、安倍総理は、あらためて緊急事態であることを会見で話しているが、あくまで自粛とのこと。
 とはいえ、十人以上の宴会の自粛、などとは言わない。

 自分の妻が、そうしてしまっているからね^^

 緊急経済対策の補正予算についても、相変わらず具体性に欠けるし、精神論のみの会見。
 質問に対し、「この後、指示する」だって・・・・・・。
 早くしろ、と思っている国民がほとんどだろうが。

 他の国のリーダーたちのような説得力も、“情”も伝わらない。


 今週になり、いや、東京五輪の延期が決まってから、東京都の感染者数が急増しているのは、PCR検査数が増えたのではないか、と勘繰っている。

 その検査について、興味深いコラムがあった。

 赤木俊夫さんの手記と遺書が掲載されていた週刊文春3月26日号に、生物学者、福岡伸一のコラム「パンタレイ パングロス」というのがあって、PCR検査について書いていた。
PCR検査についてー週刊文春、福岡伸一のコラムより。_e0337777_18402640.jpg


 なかなか知ることのない話題の検査のことなので、興味深かった。

 紹介しよう。
 
 画期的な遺伝子増幅技術、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が登場したとき、研究者はそのパワフルぶりに欣喜雀躍し、こぞってこの方法を使って実験を進めた。原理がシンプルかつ巨大な装置も不要なのがよかった。試験管の中で、加熱してDNAの二本鎖を解く。解いてできた一本鎖DNAを鋳型に、もう一本のDNAをポリメラーゼという酵素で複製するとDNAは二倍に増える。これを繰り返せば、ポケットの中にはビスケットが~、の歌のように、研究対象のDNAがどんどん倍化され、増幅される。PCRがすごかったのは、研究者なら誰でも知っているはずのDNA複製の原理を組み合わせただけなのに、キャリー・マリスが発案するまで、誰も思いつかなった、ということ。

 ということのようなのだが、ちなみに、PCRは、ポリメラーゼ・チェーン・リアクション。
 この手法は、日本人は発案しても不思議がなかった、と福岡は言う。

 DNAが細胞内で合成されるときも、まずは二重らせんがほどけ、それぞれの鎖を鋳型に、互いに逆向きに複製が行われ、そのときプライマーと呼ばれる短い遺伝子断片が呼び水になってポリメラーゼ反応が起きることがわかっていて、そのとき生じる複製物はその日本人発見者の名をとって、岡崎フラグメントと名づけられていた(故・岡崎令治が発見した)。なので、PCRは岡崎博士が発案しても全然不思議ではなかったが、あとからやってきた風来坊、マリスがちゃっかり思いついて特許をとった。
 福岡が一発屋という、マリスは、ノーベル賞まで取ってしまった。福岡は、そのマリスと仲良くなり、自伝の翻訳までしたらしい。

 この検査、実は、そんなに信頼性が高くない、というか、慎重に行わないと、いろいろと予想外の結果が出るようだ。

 マウスの細胞の遺伝子を研究していた科学者が、PCRで増幅したDNAを調べてみると人間の遺伝子そっくりだった。ヒトの遺伝子がマウスに水平移動していた!!
 否。彼が手袋をしていなかったせいで、自分の垢を解析してしまったのだ。こんな事例もあった。ウイルス検査をしてみると、検体すべてから陽性反応が出た。すわ、パンデミック勃発か! 否。研究者だちは微量のDNA溶液や酵素液採取したり混合したりするのに、ピペットマンという用具を使う。手のひらサイズの持ち手に、ドリルみたいな尖った先端がついた溶液計量器で、ほんの数マイクロリットルを正確に量り取って、こっちの試験管からこっちの試験管に移せる。先にはチップと呼ばれる使い捨ての脱着可能な部分があり溶液はここしか触れない。ところがあらゆるものには陥穽がある。液の出し入れは、持ち手の部分にあるピストンの上下運動でコントロールされる。でも、このピストン運動、慎重にやらないと、ごく微量の飛沫がピペットマンの筒の部分の奥の方まで吸い込まれてしまう。これが他のサンプルに混入するとたちまり偽陽性になってしまうのだ。最近はPCRも自動化され、チップにもフィルターがついて、サンプル相互の汚染を防いでいるはずだが、ブラックボックスが大きくなればなるほど落とし穴も多くなる。逆に、ちょっとしたミスで偽陽性も起こりうる。最先端技術に過信は禁物なのだ。

 検査が正確に行われることを期待するが、医療の現場も大変な状況になっていることだろう。

 人為的なミスが起こって、偽陽性、偽陰性ということもあるかもしれない。
 
 人間がやることである、間違いもあろう。

 しかし、あくまで、検査である。
 その後の診察、治療について、ぜひ、医療現場の方には、頑張っていただきたい。

 それにしても、先週の連休の前に、東京都を含め全国的に、もっと緊急事態であることを警告しなかったのか。

 それが、五輪問題とからんで思えるだけに、人災と言いたくなる。

 なお、昨夜、NHK総合のニュースで、ノーベル賞受賞者、山中伸弥さんが、新型コロナウイルスに関し情報発信するブログを開設したことが紹介された。

 非常に、参考になる。ぜひ、ご覧のほどを。
山中伸弥さんの該当ブログ
# by kogotokoubei | 2020-03-28 18:27 | 事件 | Comments(2)
ウイルス、そして感染症について学ぶ(4)ー石弘之著『感染症の世界史』より。_e0337777_14485301.jpg

石弘之著『感染症の世界史』
 2014年に洋泉社から発行された後、2018年に角川ソフィア文庫で再刊された石弘之さんの『感染症の世界史』からの四回目。

 「第二部 人類と共存するウイルスと細菌」の「第三章 ピロリ菌は敵か味方かー胃がんの原因をめぐって」より。

 実は、私は、昨年医者の勧め(脅し?)で、ピロリ菌を退治した。
 果たして、それで良かったのか・・・・・・。
 また、ピロリ菌とは、どんな奴(?)だったのかも、知りたい。

 ピロリ菌の大きさは。1ミリの250分の1ほど、胃内の酸性度の弱いときは胃粘膜細胞の表層で、アミノ酸やペプチドを栄養源として増殖する。胃内部が強い酸性になると、ウレアーゼとよばれる酵素をつくりだして、胃の粘膜中の尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解する。このアンモニアで胃酸を中和して「安全な」環境を保っているのだ。
 かつてはほとんどの人が感染していたらしい。現在でも、世界人口の半数が保菌者とみられる。日本でも5000万人~6000万人、人口の半数近くがこの菌を持っている。50歳以上の人では七割が感染しているが、若い人では20~30%ほどだ。
 これだけ多くの人が感染していながら、胃潰瘍などの病気になる人は少ない。発病する人は感染者の25人から50人に一人といわれる。逆に、胃がん患者の98%から菌が見つかる。国立がん研究センターの研究では、ピロリ菌の感染者が胃がんになるリスクは、無菌者の5倍も高い。
 
 そうそう、もう捨てたが、ピロリ菌退治をする前に医者からもらったパンフレットに、同じようなことが書いてあった。
 それを説明しながら、医者が、退治しましょうね、って脅したのだ。

 でも、私は一回目の一週間では除菌できず、二回目に禁酒を一週間して毎日いろんな薬を日に三度服用し、やっとピロリ君(?)とおさらばしたのであった。

 欧米でも20世紀前半には、ほとんどの人がピロリ菌を持っていた。
 ということで、このピロリ菌は、人類の大移動の謎を解明するのに、役立っている。

 ピロリ菌が語る人類の移動

 民族によって異なるピロリ菌の遺伝子の変異から、人類のたどった足跡を推測できる。
 生物は自分のDNAをコピーして子孫に受け継ぐ途中で、コピーのミスから突然変異が起きてそれが蓄積されて進化していく。DNAはいわば「進化の化石」でもある。遺伝子に変異が、ある時間で一定の割合で起こるとすれば、そのい変異した数によって、同じ祖先をもつ生物種がいつごろ分岐したのかが推定できる。これを「分子時計」という。
 生物の種類によっても遺伝子の変化速度は異なるが、ある遺伝子が10万年に一個の割合で変化が起きているとすると、二つの種の遺伝子に50個の違いがあれば、500万年前に分岐したことになる。この分子時計を利用すると、人類は487万年(プラスマイナス23万年)前にチンパンジーと共通の祖先から分かれたことが推定できる。

 プラスマイナスの数字が、ダイナミックで、いいなぁ^^

 引用を続ける。
 
 細菌の増殖のスピードは早く、遺伝子の変異にかかる時間が人などに比べて格段に速いため、進化の足跡をたどりやすい。英国のケンブリッジ大学やドイツのマックスプランク研究所の科学者のチームは、さまざまな人種や民族からピロリ菌を採取して遺伝子を比較、この分子時計を使ってその進化をシミュレーションした。
 それによって、アフリカ人の持つピロリ菌の遺伝子の多様性は、東アフリカから距離が遠くなるのにしたがって減少する。つまり分岐した年代がしだいに新しくなる。ピロリ菌の先祖は人類の胃袋に潜んでアフリカを旅立ち、中央アジアや欧州、東アジアを経て、北米、南米に広がっていったとする仮説を発表した。
 この移動の間にピロリ菌もさまざまに遺伝子を変異させて、現在では七種の系統に分けることができる。

 ということで、次がピロリ菌の七つの系統。
 ①ヨーロッパ型(ヨーロッパ、中東、インドなど)
 ②北東アフリカ型
 ③アフリカⅠ型(西アフリカなど)
 ④アフリカⅡ型(南部アフリカ)
 ⑤アジア型(北部インド、バングラデシュ、タイ、マレーシアの一部など)
 ⑥サフル型(オーストラリア先住民、パプアニューギニア)
 ⑦東アジア型(日本、中国、韓国、台湾先住住民、南太平洋、米国先住民など)

 北米には、さまざまな系統が入り込んでいるらしい。人種のルツボということだね。
 
 そして、このピロリ菌の遺伝子の系統を元に、日本の科学者がある仮説を立てた。

 大分大学医学部の山岡吉生(よしお)教授はさまざまな民族のピロリ菌を分析することで、ピロリ菌から人類の壮大な移動経路を描き出した。それによると、アフリカを出て5万8000年前ごろから広がったピロリ菌は、3万年前にはアジアに達した。そこから、5000年前ごろまでに東南アジアや太平洋に広がった。
 もう一つの経路は、アジアから当時陸続きだったベーリング海峡を渡って、北米から南米へと南下していった。アフリカ人と日本人では、ピロリ菌の遺伝子の配列が50%も違い、逆に日本人と北米の先住民はよく似ていることもわかった。
 ピロリ菌の変異と人の移動は、これまでに人類学による人類移動の年代や、言語学による異なった言語の分岐年代などの研究成果ともよう合致する。

 ということで、これが、本書に掲載されている、大移動の地図。

ウイルス、そして感染症について学ぶ(4)ー石弘之著『感染症の世界史』より。_e0337777_16235644.jpg



 ピロリ菌のおかげで(?)、人類大移動の歴史を解明することができた、ということだ。

 この後、本書では、ピロリ菌にはアレルギーを抑制しているという研究成果もあり、必ずしも悪役とは決めつけられないと書かれている。

 花粉症を含むアレルギー体質の私は、読んでいて、なんとも不安になったのである。

 う~ん、一週間禁酒までして退治した私だが、ピロリ君と、仲良く共存した方が良かったのか、どうか・・・・・・。
# by kogotokoubei | 2020-03-28 08:36 | 今週の一冊、あるいは二冊。 | Comments(4)
 政府は、緊急経済対策としてリーマン・ショック後の対策15兆円を上回る30兆円規模の経済対策を検討しているようだが、与党内では外食や旅行の一部助成や商品券の配布などが選択肢に上がっていると知って、“口アングリ“だ。

 何も考えていない、バラ巻きの施策では、本当に困っている国民の助けになどならない。

 「自粛」要請と「消費」喚起は、まったく矛盾している。

 必要なのは消費の喚起ではなく、正社員も非正規社員も、派遣切りなどに直面する人も含め、大幅な収入減で生活に不安を抱えている国民への補償だろう。

 なにより、貧困世帯に対する家賃や水道光熱費を国が肩代わりするような生活補償が優先するだろう。

 与党内では、現金は貯蓄に回るから、なんて声があるらしいが、この人たち、どこを見ているのか。

 今朝の海外のニュースを見たら、インドでは三週間の全土封鎖を発令し、併せて貧困層を中心にした食料支給策や現金支給の具体策を発表した。野党からは不十分、という声もあがっており、追加支援策を検討中らしい。

 もちろん、国民の混乱はあるが、政府の真剣さが伝わってくる。

 それは、感染拡大阻止のために国民に訴えるドイツ、イギリス、シンガポールなどのリーダーたちからも感じるものだ。

 しかし、この国のリーダーは、いったい何を考えているのか。

 小池都知事の緊急事態による週末自粛要請で、スーパーに買い物客が殺到する映像にも、がっかりするが、これも政府の無策とメディアの煽動が大きな要因となっている。

 なぜ、小池都知事の緊急要請が連休前でなかったのか、は問われていい。
 五輪延期問題が確定する前に、アラームを出したくなかったとしか思えない。
 となると、「オーバーシュート」の危機を招いたのは、首相と都知事ということだ。

 「自粛」にしたって、さまざまな分野で、補償が必要になるはず。

 プライオリティのトップは、あくまで医療現場が崩壊しないようにすることと明確にすべきだ。

 それは、県単位で考えることをはるかに超えている。

 そのために国民が被る損害には、国が(具体的に)〇〇には△△、□□には☆☆という補償をする、と明確に施策を打ち出さないから、コロナへの不安に生活の不安が重なる。
 不安があるから、メディアでちょっと「〇〇が売り切れ!」なんてニュースが流れると、我も我もと殺到することになる。
 
 国民に犠牲を強いるのなら、そのための補償とセットで説明すべきなのに、自粛とは真逆の商品券などの馬鹿ななアイデアが出てくるから、ますます、不安になる。

 天災に人災が重なっている。

 特措法に基づく緊急事態宣言を出すのなら、併せて補償の具体的内容を提示しなければならない。

 インドでは、医療従事者への補償や支援を具体化している。

 とにかく、医療崩壊を防ぐことと、国民の不安を少しでも解消するための、透明性の高い施策が必要だ。

 もう「全力で」とか「一致団結して」なんて総理の科白は、いらない。

 まさに、本来優秀であるはずの各省庁のメンバーに仕事をしてもらう時である。

 人事権を握って、役人に忖度させ嘘をつかせるのが、政治の仕事ではない。

# by kogotokoubei | 2020-03-27 12:47 | 幸兵衛の独り言 | Comments(4)
 石弘之さんの『感染症の世界史』に関する記事を続けているが、ここでご本人へのインタビュー第二弾をご紹介する。

 一回目の記事で、2月20日付けで、角川のサイト「カドブン」にインタビューが掲載されていることをご紹介したが、その後、3月13日にもインタビュー第二弾が掲載されている。
「カドブン」の該当インタビュー

 まず、新型コロナウイルスの特徴について。

――その後、新型コロナウイルスの特徴としてわかったことはありますか。

石:今回の新型コロナウイルスの感染症名は「COVID-19」で統一されましたが、国際ウイルス分類委員会でウイルスの正式名称は「SARS-CoV-2」に決定しました。つまり、SARS(重症急性呼吸器症候群)の兄弟分であることが改めて確認されたわけです。

 一方で、新型コロナウイルスは、兄弟分のSARSウイルスにはない能力を身につけていました。新型ウイルスの方は喉よりも深い下気道でも繁殖します。そのため従来の喉より上の、上気道の検査だけでは見逃されることもあるようです。広島市では4つ医療機関で8回検査して、やっと感染が判明した例がありました。治って陰性になった人がふたたび陽性になった例もあります。

 また、軽症・未症状の感染者が日本では8割を占めることも特徴です。これはウイルスの側からすると、ウイルスをばらまくのに非常に効率的です。ヒトは元気だから動き回ることができ、まわりからも警戒されにくいです。この事実は、検査でわかった感染者数よりも、はるかに多い感染者がいる可能性を示しています。

 SARSやMERSから、また進化したウイルスであると言えるだろう。
 感染者で重篤になる人が増えると、その感染者の死が早まることで、ウイルスの感染確率も減る。
 SARS-CoV-2は、実に賢いウイルスだ。
 
 今後の予測について。

――今回の新型コロナウイルスの終息はいつになりますか。兄弟分のSARSは2002年11月に最初の患者が確認され、翌2003年7月5日にWHOが終息を宣言しました。

石:今後に関しては、次の3つのシナリオが考えられます。

石弘之さんへのインタビュー。_e0337777_14441599.jpg


石:今回の新型コロナウイルスが、このシナリオのなかのどれに落ちつくか、正直予測が立ちません。アメリカのCDCは、ロシア、南米、アフリカといった感染が広がっていない、あるは突き止められていない国や地域へ流行が拡大することを警戒しています。

 では、暖かくなれば、収束するのだろうか。

――季節性のインフルエンザは、冬がすぎて暖かくなってくると収まるので、コロナウイルス流行にも春には下火になるという報道もありました。

石:アメリカのトランプ大統領は「中国のウイルス封じ込め作戦は、暖かい季節になれば成果を上げるだろう」とツイートしましたが、今のところその科学的な裏付けはありませんし、WHOは頭から否定しています。

――日本政府はこの未知なる相手にどうのように対応すべきでしょう。

石:過去のパンデミックの教訓からいえるのは、「最大の感染症対策は正確な情報の伝達にあり」ということです。ちぐはぐな政府関係者や厚労省の発言や、ぐらぐら変わる政策などは、ウイルスに味方をするだけです。

 いわずもがなですが、今すべきは、何とかウイルスを封じ込めて感染の拡大を抑え、可能であれば消滅までもっていくことです。集団で一定以上の割合の人が免疫をもつと、流行が収まっていく「集団免疫」の効果が現れることを期待しましょう。それまではひたすら我慢するしかないという状況です。

 そうか、夏には収束、なんて楽観はできないということか。

 「集団免疫」については、イギリスが、当初対策をせず放置することで、「集団免疫」状況まで待つ姿勢を示したが、その場合の医療の崩壊が目の当たりになってきて、急遽非常事態宣言に変わった。

 そのへんのいきさつは、「ナショナルジオグラフィック」のサイトに詳しいので、ご覧のほどを。
「ナショナルジオグラフィック」サイトの該当記事

 石さんの言葉は、感染を極力防ぎながら、結果として「集団免疫」の効果が出るのを待つ、という意味。意図的に感染者を増やそう、ということではない。

 さて、石さんは、最後にこう語っている。

――終息が容易ではないことがよくわかりました。でも、このうっとうしい日々をどう考えればいいのでしょう。

石:かつて人類は多くの天敵に狙われていましたが、最後に残った天敵が「自動車」と「ウイルス」です。毎年世界で135万人が交通事故で死亡します。一方、CDCによると、季節性インフルエンザだけで、年間世界で29万~65万人が命を落としています。とくに現在はアメリカで流行して、すでに推定3万人の死者が出たと発表しています。

 地球上には人類だけが住んでいるのではなく、数多くの生物が互いに競い合い、また協力しあって生きています。ウイルスの存在もそのひとつです。高度2500〜3000メートルの高空に、1平方メートルあたり8億以上のウイルスが漂っていることがわかりました。海のなかにも、重さにしてシロナガスクジラ7500万頭に相当するウイルスがいるという推定もあります。なかには海の生態系に欠かせないものもいます。

 ウイルスがいかに人にとって重要かも明らかになってきています。最初のインタビューで話したとおり、ウイルスが母親のおなかの中で胎児を守ってくれていることがわかってきました。また、子どものころにある種のウイルスに感染すると免疫システムが発達することも報告されています。ウイルスの「善行」は新たな研究分野として研究者を興奮させています。

 人間の世界にも迷惑なヤツがいるように、ウイルスのなかにもいます。ウイルスの立場になってみると、少しは憎しみも和らぐかもしれません。といわれても、やはり怖いですが……。

 胎児を守るウイルスのことは、『感染症の世界史』の二回目の記事で紹介した。

 たしかに、良いウイルスもいる。

 とはいえ、石さんがおっしゃるように、悪いウイルスは、怖い。

 怖いものに、いかに正しく立ち向かうかが、問われている。

 東京都知事の自粛要請を受け、埼玉県、神奈川県、千葉県の各知事が、都内などへの外出を自粛するよう呼びかけが続いた。

 それはそれで尊重すべきではあるが、こんな芋づる式の対応だけで、良いのだろうか。

 危機的状況ならば、首都圏全体や関西圏などを対象に、徹底した対策が必要なのではないか。

 まだまだ、ウイルスへの戦い方が甘いと思う。

 こんな弱腰の姿勢では、ウイルスがほくそえんで、感染拡大に拍車をかけるかもしれない。

 首相は、経団連などに対し、休業要請と休業補償をセットにした、断固たる施策を示すべきではないのか。

 来年の五輪を「完全」な形で迎える前に、「感染」をなんとかしなければならない。

# by kogotokoubei | 2020-03-26 20:36 | 事件 | Comments(2)
ウイルス、そして感染症について学ぶ(3)-石弘之著『感染症の世界史』より。_e0337777_14485301.jpg

石弘之著『感染症の世界史』
 2014年に洋泉社から発行された後、2018年に角川ソフィア文庫で再刊された石弘之さんの『感染症の世界史』からの三回目。

 「第一部 二十万年の地球環境史と感染症」の「第三章 人類の移動と病気の拡散」から。

 交通の発達がもたらしたSARS

 今後、どんな形で、新たな感染症が私たちを脅かすのだろうか。それを予感させるのが、中国を震源とする重症急性呼吸器症候群(SARS)の突発的な流行であろう。この強烈な感染力を持ったウイルスは、2002年11月に経済ブームにわく広東省深圳市で最初の感染者が出た。当時、地方から多くの若者が出稼ぎのために集まってきた。
 広東省では、野生動物の肉、つまり「野味」を食べる習慣が根づいており、「野味市場」にはヘビ、トカゲ、サル、アザラシ、イタチ、ネズミ、センザンコウなどさまざまな生きた動物やその肉が売られている。野味市場や野味を提供する料理店で働いている出稼ぎの若者に、野生動物からウイルスが感染したと考えられる。発病すると、高熱、咳、呼吸困難などの症状を訴え、衰弱して死んでいく。
 このころ、上海と香港を経由してハノイに到着した中国国系米国人のビジネスマンが、原因不明の重症の呼吸器病にかかって入院、香港の病院に移送されたものの死亡した。その後、彼が最初に入院したハノイの病院では、医師や職員ら数十人が同じ症状を示し、また緊急移送された香港の病院でも、治療にあたった医師や看護師が発病して死者が出た。
 一方、同じころ香港でも感染が広がっていた。広東省広州市の病院で肺炎の治療にあたっていた中国人医師が、SARSに感染していることに気づかずに香港に出かけ、市内のホテルに宿泊した。
 その医師は具合が悪くなり病院に運ばれたが、客室はその医師が吐いたものや排泄物が飛び散っていた。この客室を清掃したホテル従業員が、同じ器具で別室を掃除したためにウイルスが広がり、宿泊していたシンガポール人、カナダ人、ベトナム人ら16人が二次感染した。さらに、彼らがウイルスをそれぞれの国に持ち帰ったために海外への感染が広がっていった。
 その中国人医師が入院した香港の病院では、あっという間に50人を超える医師や看護師が同じ症状で倒れて、病院の機能はマヒしてしまった。さらに、同じ病院に入院していた男性が弟の住む市内の高層マンションを訪ねたために、そこに住む321人が感染した。マンションの下水管の不備で、その男性の飛沫や糞尿に含まれていたウイルスが、トイレの換気扇に吸い上げられてマンション内に拡散した可能性が高い。
 病原体は新型コロナウイルスであることが判明、「SARSウイルス」と命名された。強い病原性と医療関係者への感染は、世界中を恐怖に陥れた。3月12日にWHOが世界規模の警報を出したときには、流行は中国の広東省、山西省からトロント(カナダ)、シンガポール、ハノイ、香港、台湾に広がっていた。結局、収束した2003年9月までに、WHOによると世界30カ国・地域で8098人の感染者、774人の死亡者が確認された。

 すでに、COVID-19による感染者数と死者数は、SARSを大きく上回った。

 SARSの自然宿主は、最初はハクビシンが疑われたが、これは中間的な宿主で、コロナウイルスが分離されたキクガシラコウモリが震源とみられる。
 だが、既知のどんなコロナウイルスとも遺伝子構造が大きく異なる新しいものだった。

 ウイルスは、変異を続け、生き延びようとしている。

 SARSの次に、コロナウイルスの脅威を目の当たりにしたのは、SARSからほぼ十年後だ。

 感染症の新たな脅威

 人間の社会の変化のすきをついて侵入してくる病原体は、それぞれ異なった場所や時期に根を下ろし、その後は人間同士の接触を通じて新たな地域に広がっていく。もしかしたら、第二、第三のSARSや西ナイル熱がすでに忍び寄って、人に侵入しようと変異を繰り返しているかもしれない。
 すでにその心配が出てきた。2012年暮れから13年五月のかけて、サウジアラビア、カタール、チュニジアなどの中東で、SARSに酷似した呼吸器病「MERSコロナウイルス感染症」が発生した。Middle East Respiratory Syndromeの略である。英国とフランスでも、中東から帰国した人に接触した男性が感染した。

 調べてみると、MERSによって、2018年5月末までに全世界で、2220人が感染し、790人が死亡している。
 感染数はSARSより少なかったが、死亡率が四割近かった。
 
 同じコロナウイルスでも、変異により、さまざまな特徴を持つ。

 そして、間違いなく、かつてより、人の移動速度が速まり、その規模も拡大している以上、ウイルスの到達範囲も、拡大する。

 この章、石さんは、こう結んでいる。
 
「移動手段」が、徒歩、馬、帆船、汽船、鉄道、自動車、飛行機へと発達するのにつれて、これまでにない速度と規模で人と物が移動できるようになり、SARSや西ナイル熱のようにそれに便乗した病原体も短時間で遠距離を運ばれる。しかも、人類は都市で密集して暮らすようになり、感染する側には絶好の条件が整った。

 新型コロナウイルスは、密集した都市で感染数を増やし、その感染者の移動により、到達距離を伸ばしている。

 ウイルスも、生き残るために、必死なのである。

 では、人間のほうは、どれほど必死にウイルスと戦おうとしているのか。

 私は、時差通勤とはいえ決して空いていない電車で会社に通っているが、その電車は、神奈川-東京-埼玉をまたいでいる。
 もちろん、関西の電車も、大阪、兵庫、京都にまたがって走っている。

 首都圏や関西圏は、つながっているのだ。

 東京、大阪など個々の首長が危機感をあおってみても、お隣までは検討範囲に入っていないのは、あまりにも不思議だ。

 それぞれの首長のスタンドプレーにしか思えない。

 こういう状況であるからこそ、国のリーダーシップが求められるのだが、その国のリーダーが、もっともスタンドプレーがお好きなようなのが、あまりにも残念。

 大陸間を渡って感染が広がるのである。

 島国であることは、利点にもなる。

 日本という島全体を鳥瞰し、ウイルスと戦う発想が必要だ。
 
# by kogotokoubei | 2020-03-26 12:54 | 今週の一冊、あるいは二冊。 | Comments(0)
 東京都の新型コロナウイルス感染者急増で、都知事が緊急事態宣言を発表した。

 しかし、あくまで「自粛」なのである。

ウイルス、そして感染症について学ぶ(2)-石弘之著『感染症の世界史』より。_e0337777_14485301.jpg

石弘之著『感染症の世界史』
 2014年に洋泉社から発行された後、2018年に角川ソフィア文庫で再刊された石弘之さんの『感染症の世界史』からの二回目。

 「第一部 二十万年の地球環境史と感染症」の「第一章 人類と病気の果てしない軍拡競争史」より。

 約二十万年前、アフリカで誕生した現世人類の祖先が、十二万年ほど前にアフリカから移動を始めた。
 その理由は、いくつか考えられるとして、次のような要因が挙げられている。
 ・野生動物を食べ尽くした
 ・気候や環境の変動に追われた
 ・他の霊長類に敗れた
  あるいは
 ・感染症から逃れるため

 ともかく、ご先祖様は、大移動を始めた。

 移動には、わずかな道具、武器、生活用具えお背負い、言語、技術、神話、音楽、信仰なども新たな土地へ運んでいったことだろう。意図せざるお供もいた。ネズミ、ゴキブリ、ダニ、シラミ、ノミ、寄生虫などの小動物。さらに目に見えない膨大な数の細菌、ウイルス、原虫、カビなどの微生物も人や動物に寄生して移動した。
 微生物に大部分は無害だが、病気を起こす「病原性」を持つものもあった。たとえば、ウイルスは生物と非生物の両方の性質を併せ持ち、インフルエンザや風疹やヘルペスなど多くの病気を引き起こす。
 細菌はバクテリアともよばれ、細胞分裂で増殖する単細胞生物。ピロリ菌や結核菌など多彩な顔ぶれだ。さらに、マラリアやアメーバ赤痢などを引き起こす原虫。このほかにも、水虫の原因になる真菌、肺炎やツツガムシ病を引き起こすリケッチアなどの病原性微生物が知られている。
 こうした微生物のなかには、狩猟時代には野生動物から、定住農耕生活に入ってからは家畜からも人に宿主を広げたものが多い。新たな土地に進出した人類は、気候風土や新たにつくりあげた文化に適応するために肉体を進化させた。野生動物や家畜から人体にすみかを替えた微生物も、同じように宿主の進化につれて変わっていった。

 人類の移動に伴い、小動物や寄生虫、そして、ウイルスを含む膨大な微生物も移動した。

 ウイルスは、必ずしも悪い奴ばかりではない。
 人の遺伝情報(ゲノム)が2003年にすべて解読されてから、たんぱく質をつくる機能のある遺伝子はわずか1.5%しかなく、全体の約半分はウイルスに由来することがわかった。多くは「トランスポゾン」といわれる自由に動き回れる遺伝子の断片だった。進化の途上で人の遺伝子に潜り込んだものだ。過去に大暴れしたウイルスの残骸かもしれない。

 生命の誕生においても、ウイルスは重要な働きをしている。
 胎児の遺伝形質の半分は父親由来なので、本来なら母親は拒絶反応を示すはずである。
 なぜ、胎児は、守られているのか。

 拒絶反応を引き起こす母親のリンパ球は、一枚の細胞の膜に守られて胎児の血管に入るのが阻止されていた。1970年代に入って、哺乳動物の胎盤から大量のウイルスが発見された。1988年に、スウェーデン・ウプサラ大学のエリック・・ラーソン博士によって、この細胞の膜は体内にすむウイルスによってつくられたものであることが突き止められた。つまり、ウイルスは生命の本質部分をにぎっていることになる。

 ということで、ウイルスは、必ずしも“悪役”ばかりではない。

 しかし、もちろん、悪役もいる。
 
 これまで発見されたウイルスは、約5400種。

 しかし、これはほんの一部でしかない。

 さまざまなウイルスを運ぶことで知られるインドオオコウモリから、五十八種のウイルスが見つかっている。約5900種の既知の哺乳動物が、それぞれ五十八種の固有のウイルスを保有していると仮定すれば、ウイルスは少なくても34万種は存在することになる。もしも約6万2000種の既知の脊椎動物にまで拡大すると、360万種にもなる。
 ほとんどは人と無関係だが、なかにはうまく人体に忍び込んで常在菌として共存するものもいる。やっかいなのは、無害にみえても、断続的に病気を引き起こしたり、突如として病原性を身につけたりするものだ。

 未知のウイルスの数も、膨大なのだ。

 今回の新型コロナウイルスにしても、ようやく見つかった七種目のコロナウイルス。

 人類誕生にとって重要なウイルスもあれば、その生命を奪うことになる悪役ウイルスもある、ということは覚えておこう。

 悪役のウイルスにとっても、哺乳類、なかでも人類の体内は、格好の居場所。
 温度が一定で、栄養が豊富だから。

 そして、人類が森林破壊、都会への人口集中などを進めて結果、ウイルスが生き残る環境が向上した。

 人類と感染症の関係も、人が環境を変えたことによって大きく変わってきた。人口の急増と過密化も感染症の急増に拍車をかけている。インフルエンザ、ハシカ、水痘(水ぼうそう)、結核などの病原体のように、咳やくしゃみから飛沫感染するものによって、過密な都市は最適な増殖環境だ。超満員の通勤電車の中で、インフルエンザ患者がくしゃみをした状況を想像してみてほしい。


 東京都は、今週末のみで「自粛」は大丈夫、と思っているのか。

 ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、マドリッド、東京・・・・・・。

 過密な都市での感染拡大は、あえて言えば、必然的である。
 
 都知事、そして、首相の後手後手で、五月雨式の対策は、都民や国民よりも、自分のことしか考えていないのではないか、という疑問を抱かせる。

 断固とした意思表示と、責任を取る覚悟が、この国のリーダーに、欠けている。

 今、本当に感染拡大を阻止する覚悟があれば、まず、この本を読むことから始めて欲しい。

 人類より、はるか昔から生き残ってきたウイルスとの闘いは、そんな安易なものではないことが、分かるはずだ。

# by kogotokoubei | 2020-03-25 22:27 | 今週の一冊、あるいは二冊。 | Comments(2)
 新型コロナウイルス感染拡大に関し、ネットでは有益な情報も得られないことはないが、もちろんデマや、偏見、誤った楽観主義もはびこっている。

 専門家と言われる人々の意見もメディアで聞くのだが、対処の方法などはためにもなるが、より基本的な知識の習得にはなりにくい。

 そもそもウイルスとは何で、感染症には、これまでどんな歴史があったのか。

 先日書店で見つけた本が、これだ。

ウイルス、そして感染症について学ぶ(1)ー石弘之著『感染症の世界史』より。_e0337777_14485301.jpg

石弘之著『感染症の世界史』
 2014年に洋泉社から発行された後、一昨年、角川ソフィア文庫で再刊された『感染症の世界史』。私が入手したのは、今年2月の第四版。売れているのだ。

 著者の石(いし)弘之さんは、昭和15年生まれで、朝日新聞社でニューヨーク特派員や編集委員などを経て退社され、ザンビア特命全権大使や国際協力事業団参与などを務めた方。 
 代表作と言える著書『地球環境報告』(昭和63年、岩波新書)は、ずいぶん前に読んだ。
 世界八十か国以上を自ら調査し、地球生態系の崩壊が加速度的に進行し、砂漠化、森林の消滅、さらには酸性雨、フロンガス、食品の化学汚染などが危機的な状況にあることを指摘したルポルタージュの傑作だ。

 そして、今、この状況の中、新たな代表作になりつつあるのが、この本。

 「はじめに」の最後の部分を、ご紹介。

 地球に住むかぎり、地震や感染症から完全に逃れるすべはない。地震は地球誕生からつづく地殻変動であり、感染症は生命誕生からつづく生物進化の一環である。十四世紀のペストといい、二十世紀初期のスペインかぜといい、感染症は人類の歴史に大きく関わってきた。今後とも影響を与えつづけるだろう。
 微生物は、地上最強の地位に登り詰めた人類にとってほぼ唯一の天敵でもある。同時に、私たちの生存を助ける強力な味方でもある。その絡み合った歴史を、身近をにぎわす感染症を選んで、環境史の立場から論じたものが本書である。この目に見えない広大な微生物の宇宙をのぞいていただければ幸いだ。

 石さんは、感染症の原因となる微生物は、人類よりはるか昔、四十億年前からずっと途切れることなくつづいてきた「幸運な先祖」の子孫であり、人間が免疫力を高め、防疫体制を強化すると、微生物もそれに対抗する手段を身につけてきた、と説く。

 環境破壊や感染症の現場を、石さんは体を張って取材してきた。
 
 「あとがき」の冒頭部分から、そんな著者の病歴(?)をご紹介。

 人間ドックで書類をわたされて、検診の前にさまざまな質問の回答を記入せよという。面倒な書類なのでいい加減に欄を埋めて提出したら、若い看護師さんから「既往症をしっかり記入してください」とたしなめられた。
 しかたがないので「マラリア四回、コレラ、デング熱、アメーバ赤痢、リーシマニア症、ダニ発疹熱各一回、原因不明の高熱と下痢数回・・・・・・」と記入して提出したら、「忙しいんですからふざけないでください」と、また叱られた。
 ふざけたわけではなく、アフリカ、アマゾン、ボルネオ島などで長く働いていたので、注意はしていたつもりでもさまざまな熱帯病の洗礼を受けた。ジャングルのテントの中で高熱で半分意識を失って横たわっているのも、トイレに座ったきり一晩中動けないのも、思い出すだけでもつらいものだ。よくも生き残ったと思うこともある。

 なんとも凄い体験であろうことか。

 それだけ、ジャーナリストとして体を張った取材をしてきたということだろう。

 「序章 エボラ出血熱とデボラ熱」の中で、「森林破壊が引き出したウイルス」という項目の部分に、こう書かれている。

 過去のエボラ出血熱の流行の大部分は、熱帯林内の集落で発生した。だが、ギニアの奥地でも人口の急増で森林が伐採されて集落や農地が広がってきた。森林の奥深くでひっそり暮らしていたオオコウモリが、生息地の破壊で追い出されてエボラ出血熱ウイルスをばらまいたのかもしれない。
 映画『アウトブレイク』のなかで、アフリカの呪術師のこんな言葉が引用されている。「本来人が近づくべきではない場所で人が木々を切り倒したために、目を覚ました神々が怒って罰として病気を与えた」。
 エボラ出血熱の流行は大規模な自然破壊の直後に発生することが多い。たとえば、ガボンはマンガン鉱、ウラン鉱などの地下資源の宝庫だ。1994年にガボンでの流行は、金鉱山の開発で広大な森林が破壊された直後に発生した。
 かつて国土の大部分が熱帯林でおおわれていたシエラレオネでは、国土の4%しか森林が残されていない。それも壊滅するのは時間の問題だ。リベリアで残された熱帯林は20%以下で、その森林の伐採権の多くが海外の企業に売り渡されている。
 以前にコートジボワールのタイ国立公園を調査したことがある。手つかずの熱帯林が残され、コビトカバやボノボなど絶滅危惧種に指定された希少な動植物の宝庫で、世界自然遺産にも登録された。だが、焼き畑が虫食い跡のように広がっているのを目の当たりにして愕然とした。
 近隣のマリ、ニジェールなどサハラ砂漠南縁のサヘル地帯では、過去四十年間に繰り返し深刻な干ばつに見舞われてきた。そこから逃げ出した飢餓難民が国立公園内に入り込んで違法な農業で暮らしている。ここで「タイ森林株」のエボラ出血熱ウイルスが発生したことは容易に理解できる。

 長年環境問題を取材してきた石さんとしては、環境破壊と密接な関係にある感染症への調査は自然の流れだったのかもしれない。

 環境破壊と貧困は、感染症と深く結びついている。


 さて、石さんの本で、感染症の勉強を続けようと思う。
 
 次回は、ウイルスとは、いったいどんなものなのかということを中心に、紹介したい。

 最後に、KADOKAWA WEB文芸マガジン「カドブン」に、2月20日付けで石さんへの、新型コロナウイルスに関するインタビューが掲載されている。

 この本の重版に合わせた記事のようだ。

 一部引用する。
「カドブン」の該当インタビュー

――今後の流行をどうみていますか。

石:感染症の拡大パターンについては、さまざまなシミュレーションが行われてきました。2 つの予測を紹介しましょう。

 新型インフルエンザ流行のときに、国立感染症研究所がつくった感染拡大のシミュレーションがありますが、これには背筋が寒くなりました。

 ある男性が新型インフルエンザにかかって電車で出社すると、4 日後には 30 人だった感染者が 6 日後には 700 人、10 日後には 12 万人に広がるという結果でした。むろん、コロナウイルスがこうなるとは限りませんが。

 もう一つ、「スモール・ワールド現象」といわれる数学的なシミュレーションがあります。小説の題材になり、TV番組でも取り上げられました。米国の心理学者ミルグラム教授が、米国中部のネブラスカ州の住人 160 人を無作為に選び、東海岸の特定の人物に知り合いを伝って手紙を受け渡せるか、という実験をしました。

 その結果、わずか 6 人が介在すれば、まったく知らない人にまで届くことができました。各国の同様の実験でも同じような結果でした。

 つまり「人類は 6 人が仲立ちすればすべて知人」ということです。手紙をウイルスに置き換えてみてください。容易ならざる事態であることは理解いただけるでしょう。

 世界で感染症を取材してきた人の言葉である。

 たしかに、「自粛」期間の辛さは募るが、そのストレスに耐え、ウイルスとの闘いに勝たなければならないのだろう。

 イギリスのジョンソン首相は、日本時間の本日早朝、必需品の買い物や治療、絶対的に不可欠な仕事への通勤などごく一部の理由によるものを除く外出を、ただちに禁止すると発表した。

 では、日本は・・・・・・。
 外出禁止令が出されていない以上、自分たち自身で、判断し行動しなければならないし、日本人は、それができるはずなのだ。

 今日は、久しぶりに会社もアルバイトも休み。
 犬の散歩以外は家にいて、この本を読んでいた。

 時差出勤とはいえ、それほど空いていない電車での通勤や、人出不足の中でのアルバイトはしょうがないとは思うが、不要不急の外出は戒めなければ、と思う。

# by kogotokoubei | 2020-03-24 19:36 | 今週の一冊、あるいは二冊。 | Comments(2)

 昨日は、テニスクラブもまだ閉鎖中で時間があったので、観ていなかった映画「新聞記者」を観てきた。

 東京新聞の望月衣塑子さんの著書『新聞記者』を原案とした映画で、日本アカデミー賞で、作品賞、主演男優賞、主演女優賞の主要部門を獲得し、あらためて上映されていたようだ。

 望月記者自身を森達也が自らカメラを回して撮った「i ー新聞記者ドキュメントー」という映画は、昨年12月に観ていた。
2019年12月9日のブログ

 また、望月さんの著書『新聞記者』や、望月さん、前川喜平さん、マーティン・ファクラーさん三人による書『同調圧力』を先に読んでいた。

 そういうこともあって、映画「新聞記者」には、やや、勘違いした期待を持っていたようで、正直なところ、観終えて、「あれっ?こういう映画だったの?!」という印象。

 ちなみに、新百合ヶ丘のイオンシネマだったが、上映10分前には客席に私一人、最終的には10人ほどになったが、離れた客席に点在していた。
 天井は高いし、新型コロナウイルスのクラスターにはなりにくい環境だと思うのだが、とにかく、閑古鳥が鳴いていた。

 この映画の感想を書くというより、『同調圧力』の望月さんが書いた章から、この映画に関する部分を引用しながら、私の勘違いのことなどにも触れてみたい。

 ---ここからはネタバレになるので、ご留意のほどを---


映画「新聞記者」のこと。_e0337777_14405684.jpg

『同調圧力』(角川新書)

 2019年6月に発行された、望月衣塑子、前川喜平、マーティン・ファクラー三人の共著『同調圧力』については、昨年四回記事で紹介した。

2019年12月12日のブログ
2019年12月15日のブログ
2019年12月16日のブログ
2019年12月19日のブログ

 その中で、「第1章 記者の同調圧力 望月衣塑子」から。

 3 同調圧力に屈しない人々

 一つ一つ作り上げていく映画の現場

 思い通りにいかないことも多々ある毎日だが、それでももう少し頑張ってみようと思えるのは、同調圧力をものともせず、プロフェッショナルを貫く人々の生きざまを目の当たりにする機会が多いからかもしれない。
 そのひとつが、映画製作の現場だ。
 『新聞記者』が原案となり、映画になることが決まった。話がもち込まれたのは本が出て数か月がたったことのこと。出版社を通じて、映画プロデューサーの河村光庸(みつのぶ)さんにお会いした。
 河村さんひゃ寺山修司の長編小説を映画化し、俳優の菅田将暉氏が主演した「あゝ、荒野」など、数々のヒット作を手がけ、挑戦的な映画に挑み続けている敏腕映画プロデューサーだ。
「『新聞記者』を読んで、新聞記者、個を応援していけるような映画を作りたい、と思ったんだよね」
 という。私の本が誰かの想像力を刺激したのだとしたら本当にうれしい。河村さんは安倍一強が続く現在の政治や社会の状況に対して、強い危機感をもっていた。普段から政治にそれほど関心のないような若い層などにも、映画の力で働きかけていきたいと話してくれた。
「今の社会や映画産業に風穴を開ける映画を作りたいんだよ」
 初対面ながら、3時間ほどにわたって熱い思いを語ってくれた。
 とはいえ当初は、原案ではあるが、「モリカケ疑惑」や伊藤詩織さんへの準強姦疑惑事件などを扱った『新聞記者』の映画化は、かなりのハレーションがるのではないかと思っていた。広告業界や芸能事務所なども、政治的な摩擦を避けたいと思う人が多いだろう。
 やはり、その後かなりの紆余曲折があったそうだ。脚本家は7人入れ代わり何度も脚本が練り直された。私への連絡も半年ほど途絶えたときがあり、やはり難しかったのか、立ち消えになってしまったのかな・・・・・・と思ったりもした。

 紆余曲折の内容は、分らないが、当初の構想から、内容は変遷してことは間違いないだろう。
 そこには、変えざるを得ない、さまざまな圧力もあったのだろうか。

 脚本家は7人入れ代わったとのことだが、さて、最初の段階で、どんな脚本だったのか・・・・・・。

 引用を続ける。

 しかしその間も河村さんは奔走し続けてくれていた。クランクイン直前の2018年11月、脚本が完成した。
 監督は、7人の若者の青春群像劇である「青の帰り道」や、俳優の山田孝之氏と共に手がけた「デイアンドナイト」などのヒット作を次々と生み出し、若手でもっとも注目されている藤井道人さんが引き受けてくださった。シム・ウンギョンさん、松坂桃李さんのダブル主演も決まった。錚々たる面々だ。名前を聞いただけで興奮した。

 望月さんご自身は、映画化されたことへの喜びもあるだろうから、こういう書き方になるのだろう。

 しかし、私が観終わって浮かんだ疑問の一つは、なぜ、韓国人女優を採用し、帰国子女という設定で、たどたどしい日本語を主人公が語るのか。

 そういう設定に、どんな必然性があったのか・・・・・・ということだった。

 また、東都新聞の記者吉岡は、日本人の父と韓国人の母の間に生まれ、父も新聞記者だったが、あるスクープを「誤報」と非難され、自殺をとげていた、という設定。

 たしかに、望月記者のお父さんは、業界紙の記者ではあった。

 とはいえ、シム・ウンギョン演じる吉岡のたどたどしい日本語は、この映画のリズムを狂わせているように、私には思えてならない。

 紆余曲折、7人脚本家が変更、という経緯に、どうもその疑問の答えがありそうだ。

 まず、日本人女優で、主人公の新聞記者を演じさせることに、リスクがあったのではなかろうか。
 それは、事務所側の抵抗もあったかもしれないし、候補となった女優自らが辞退したのかもしれない。
 河村プロデューサーは韓国映画界にも通じているから、韓国人女優の起用、ということはあり得るのだが、私には、無理筋に思えてならない。

 紆余曲折の結果なのだろう。

 私は「i -新聞記者ドキュメントー」を観ていることもあるし、望月さんの著書を読んだり、テレビやネットで彼女の姿を見ているので、あのエネルギッシュな姿を、主人公の女性記者に期待していた。

 しかし、シム・ウンギョン演じる記者吉岡は、まったくそういうキャラクターには描かれていない。

 どちらかと言うと、静的で、目や細かな表情で演技するタイプで、「あら、これは望月さんがモデルとは言えないなぁ」と思ってしまった。
 

 その時点で、私のこの映画への期待は、大きな勘違いだった、と反省することになった。

 とはいえ、この映画の冒頭から、当の望月さんが登場したのには、びっくりもし、嬉しくもあった。

 『同調圧力』から引用。

 撮影は2018年11月末から、14日間かけて行われた。
 一番初めの撮影は、実は私と元文科事務次官の前川喜平さん、マーティン・ファクラーさんの座談会で、南彰さんが司会役を務めてくれた。このときのやりとりが絶妙な形で映画に織り込まれるのだが、それはぜひ映画館で観ていただけたらと思う。

 はい、映画館で観させていただきました^^

 それにしても、14日間での撮影とは、驚いた。

 ある意味、そんな短期間でよく作ったね、とも思うが、そうなると、内容には限界も出てくるのは、やむなし。

 伊藤詩織さんをモデルとしているレイプ事件のことや、前川喜平さんとモデルとしている文科省官僚への内調のトラップなどのい描き方が、どうしても断片的になった。

 また、もう少し深く描いて欲しかったのは、内閣情報調査室という“闇の集団”のこと。

 情報室のトップ、多田役を演じたのは、田中哲司だが、彼の演技そのものが悪いとは思わない。
 問題は、彼の背後に蠢く悪の元凶をどう描くかなのだが、悪役は多田という人間を描くだけの印象。
 また、映画の調査室の映像は、どこかの会社といった印象。

 多田の背後にある悪の根源をイメージすることができなかった。

 その多田の部下である、松坂演じる杉原。
 杉原がかつて信頼していた外務省時代の上司の神埼が自殺するのだが、その経緯での神埼の苦悩、内調の怖さも描ききれていない。


 兄弟ブログ「幸兵衛の小言」で以前紹介した『官邸ポリス』という本がある。

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幕蓮著『官邸ポリスー総理を支配する闇の軍団』(講談社)

 モリカケ問題への対応を含め、政府を支える闇の組織を、元警察庁キャリア官僚が内部告発した本として話題になったのが、『官邸ポリスー総理を支配する闇の軍団』だ。

 著者は、幕蓮というペンネームで、巻末のプロフィールには、「東京大学法学部卒業。警察庁入庁。その後、退職」とだけ記されている。
 
 Amazonには、多くの否定的なレビューが投稿されている。
 それだけ、この本の帯にある「92%は現実」を裏付けていると私は思う。

 主要登場人物の仮名と、実際の人物と思われる名を並べてみる。

  内閣官房副長官 瀬戸弘和--->杉田和博
  内閣情報官 工藤茂雄 ------->北村滋
  警察庁総括審議官 野村覚--->中村格

 実名の三人、ここ数年、いろんな場面でネットに登場する。

 さて、森友学園問題の部分を引用したい。

 まさに「国策捜査」の実態はこうだったのか、と思わせる内容。

 なお、本書では、盛永学園で門池理事長、となっている。ちなみに、首相の名は、多部。

 事実はどうであれ、このままでは総理の印象が悪化するばかりだー瀬戸副長官は、大阪府警の毛利本部長に直接、電話した。
「門池を黙らせられないか?」
 毛利本部長は、それまでの盛永学園に関する情報を整理して、門池周辺への聞き込みを強化した。すると、塚田幼稚園が教員の人数を偽り、補助金を不正受給している疑惑が浮上した。それは、瀬戸副長官に伝えられ、当然、工藤情報官以下の内調メンバーにも情報共有された。
 そして2017年3月、当該補助金の不正受給疑惑が新聞で報道された。
 しかし一方で、財務省の佐藤理財局長が、国有地売却について「財務官として、価格を提示したことも、先方から買いたいと希望があったこともない」と国会答弁していた。
 既に、Sを通じて近畿財務局が作成した書類を入手し、それらに目を通していた瀬戸や工藤は、佐藤局長の答弁に冷や冷やしていた。しかし、財務省の答弁に意見を言うわけにもいかず、不安に思っていたところ、四月に入って大阪地検が、財務省職員らに対する告発を受理した。そうして国が不当に安い価格で国有地を売却したとする背任容疑で捜査を開始し、その後、証拠隠滅や公文書等毀棄などの告発も受理した。
 不正受給疑惑が報道された後も、むしろ財務省が世間の批判を浴び出したことに浮かれて、門池の放言は止まらなかった。野党も門池の胡散臭さに気づきつつも、多部政権を攻撃する好材料と考え、連日、話題にした。もうこうなれば、最後の手段だ。
 -門池に、「なか」に入ってもらうしかない。

 この後、“闇の集団”は、盛永学園の銀行口座や門池夫妻の個人口座を調べ、どの口座にもまとまった金がないことを確認。クレジットの信用調査もブラック分類になっていることが判明。

 といった内容で、実にリアルな“闇の集団”の描写が続く。

 「新聞記者」は、加計問題をモデルとして、そこに生物兵器研究という隠された目的を加え、首相と懇意な人物によって特区での新医大開設が画策されていることを、吉岡と杉原が暴く、という展開。

 生物兵器、という大きな悪を引っ張り出したのも、紆余曲折の結果なのかもしれない。

 首相のお友達に便宜を図る、というだけでは、リアルな世界と同じなので、味付けをしたような気がする。

 吉岡には父の自殺、杉原には神埼の自殺、というそれぞれの謎を解きたいという思いでの共通項がある。

 二人の協力で、医大開設にまつわる疑念への裏づけを取り、東都新聞の一面で吉岡による記事を見た多田が、直接吉岡の携帯に電話し、「お父さんのスクープは誤報ではなく事実だった、しかし、彼は死んだ」と謎かけ的な脅しをかける。

 その電話の直後、多田は目の前にいる杉原に、「外務省に戻してやろう、しかし、すべて忘れろ」、と告げる。

 呆然となって多田の部屋を出た杉原。

 心配で駆けつけてきた吉岡と杉原は、道路を隔ててお互いを見つめる。

 多田の目は空ろだ。

 そして、エンディング・・・・・・。

 多田の姿は、果たして、神埼の二の舞になる危険性を暗示しているのかどうか。


 神埼のモデルは、このたび遺書と手記が公開された、赤木俊夫さんだろう。

 そういう意味では、赤木さんは、「新聞記者」の神埼さんだ、という話題が広がることは良いことかもしれない。


 この映画が日本アカデミー賞を受賞したこと自体は、私は喜んでいる。

 それは、河村プロデューサーが製作の動機として望月記者に語った、現在の政治、社会情勢への危機感が、映画界の多くの人によって共有されたということだろうから。

 また、本物の内調(?)の怖さを考えると、よくぞこの映画をつくってくれた、とも思う。

 とはいえ、もろ手を挙げて喜べない部分があるのも、事実なのだ。
 
 私は、脚本家が7人変わった背景や、紆余曲折の中身が気になってしょうがない。

 やはり、主役は、日本人の女性記者であって欲しかった。

 「i -新聞記者ドキュメントー」で映像化された、キャリーバッグを引き摺りながら精力的に現場での取材を続け、官房長官に露骨に嫌がらせを受けながらも質問を繰り返す望月記者がモデルなら、もっとアグレッシブに権力に立ち向かう日本人女性によって、新聞記者を描いて欲しかった、というのが本音だ。


 古くなるが、スリーマイル島の原発事故の少し前に、映画「チャイナシンドローム」で原発の闇を暴こうとするジャーナリストを演じたのは、ジェーン・フォンだった。

 日本のジェーン・フォンダの出現には、まだ時間が必要なのかもしれない。

 映画を観終わって、実は、そんなこと思っていた。

# by kogotokoubei | 2020-03-23 12:47 | 映画など | Comments(0)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛