噺の話

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放送当日は外出していたこともあり、5時間の録画を今日じっくり見た。ともかくうれしい企画には違いない。貴重な落語九席を登場順(=枝雀の年齢の若い順)に放送日と番組名をリストにすると次のようになる。EMIから発売されているCDの収録日と会場もついでに加えてみた。上段の「TV」というのが9月23日の放送である。
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『軒づけ』
TV:1977年9月9日放送『金曜指定席』
CD:1994年6月2日『和歌山市民会館小ホール』
『天神山』
TV:1979年8月5日放送『納涼落語特選』
CD:1981年10月2日『大阪サンケイホール』
『かぜうどん』
TV:1981年4月2日放送『夜の指定席』
CD:1997年9月22日『姫路市民会館』
『上燗屋』 *CDは『首提灯』
TV:1981年5月4日放送『新緑寄席』*末広亭
CD:1987年5月27日『滋賀県立八日市文化芸術会館』
『鉄砲勇助』
TV:1982年5月3日放送『新緑寄席』*末広亭
CD:1986年10月2日『大阪サンケイホール』
『宿替え』
TV:1984年8月28日放送『東西落語フェスティバル』
CD:1984年3月5日『徳島郷土文化会館』
『こぶ弁慶』
TV:1984年10月28日放送『日曜招待席』*大阪厚生年金ホール
CD:1985年10月3日『大阪サンケイホール』
『貧乏神』
TV:1987年6月27日放送『演芸指定席』*大阪厚生年金ホール
CD:1985年10月3日『大阪サンケイホール』
『時うどん』
TV:1992年12月28日放送『落語特選』
CD:1988年12月26日『鈴本演芸場』
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 あくまで記録として並べてみただけで、それぞれの噺について何かコメントするつもりはない。もっと言うと、枝雀の噺はTVでもCDでもすべて好きだから。ただ、TVは音だけと違って想像力をかきたてないということと、どうしても生より映像が平面的になるのはやむを得ない。しかし、この手のことを言い出すと、また堀井さんの『落語論』などを引き合いに出すハメになり今回のテーマから脱線する危険があるので、ここまで。

*「落語はライブだ」という堀井さんの論について興味のある方は過去のブログをご参照ください。7月30日のブログ_堀井憲一郎『落語論』

 TVの「放送日」は収録日と同じではないが、少なくともそんなには時期的に離れていないと思う。TV放送日とCD音源の収録日とでもっとも期間が離れているのが、『軒づけ』で約17年の差がある。逆に時期が近いのが『宿替え』で、数カ月の間隔しか空いていない。

 私がiPodでもっとも聴いていると思う噺が『軒づけ』である。*『宿替え』といい勝負だと思うが・・・・・・。
 放送の昭和52年は枝雀が38歳。若い。枝雀を襲名して四年目、前年からはサンケイホールで独演会が始まったという昇り調子の落語は勢いがある。髪の毛も、まだある。しかし、意外にCD音源との17年の時間差をそれほどは感じなかった。もちろん、勢いや若さはTVでうかがえたが、この噺の本質的な部分は、実は三十台ですでに出来上がっていたのか、という思いで見ていた。

 最後の『時うどん』が53歳だから九席は15年間の推移を見ることになる。以前に「あの人に会いたい」についても書いたことだが、正直なところ元気な枝雀を「見る」ことのつらさは、まだある。
4月11日のブログ_あの人に会いたい 桂枝雀

 しかし、この番組は枝雀の高座だけではなく、南光、雀三郎、雀松、雀々、九雀、文我、紅雀といった弟子達の思い出話や彼らへの「枝雀らしい噺はどれか」という質問へのそれぞれの答えが楽しい。なかでは、雀々が語る『代書』の稽古の話が印象深い。弟子は総勢九人だったので、残る二人について少し補足。南光とほぼ同時期の入門で一番弟子の位置づけだった音也はすでに亡くなっていて登場のしようがない。破門になっていたが葬儀は元師匠である枝雀が中心になって執り行われた。む雀は脳出血から復帰後は落語ではなく寄席の鳴り物やハーモニカで活躍しているが、映像にはなかったものの、歌舞伎座での『地獄八景~』の後の伝説のカーテンコールの音声を収録していたということで、貴重な記録をこの番組に提供してくれた。

 小朝や昇太という一門以外の人たちの回想話も貴重な歴史の記録である。そして小佐田定雄さん、俳優の國村隼さん、松尾貴史さん、そして九代目正蔵のトークも楽しいアクセントとなって、映像を見ることによる淋しい思いをやわらげてくれる。小佐田さんがお元気なのが印象的。

 高座の映像以外でもっとも印象に残ったのは小朝だ。師匠柳朝のお供で大阪のトップホットシアターでの落語会で出会った枝雀落語の衝撃は、相当大きかったようだ。昼席で枝雀の『宿替え』で小朝が腹を抱えて笑い転げていたのを見て、本来はシャイでそんなことをしないはずの師匠柳朝が、対抗して夜席に『粗忽の釘』をかけ会場をひっくり返した、というエピソードも微笑ましい。また、柳朝が仲介して小朝が枝雀から『鷺とり』の稽古をつけてもらったという話も初めて知った。小朝の『鷺とり』、ぜひ聞きたいものだ。

 なかなか嬉しい番組だったが、最後に残った疑問が一つ。ナレーターは談春である必要があったのだろうか。あるいは、談春が希望したのだろうか。しかし、彼自身の枝雀への思いを語るシーンは登場しない。この点だけが妙に腑に落ちなかったが、それもNHKだから出来る贅沢なのだろう。

 何度か書いてきたことだが、NHKには東京落語会をはじめとする膨大な落語の映像ストックがある。今後もぜひ数多くの懐かしい噺家さん達の名演を放送して欲しい。志ん朝師匠の映像など、まだまだ出し惜しみだと思うのだ。今回の企画は、今後に大いに期待させてくれる。
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# by kogotokoubei | 2009-09-26 14:30 | テレビの落語 | Comments(0)
6月6日の末広亭以来の寄席。末広亭で正朝師匠が休演なので、歌武蔵が主任の池袋か、伯楽師匠の鈴本か迷っていたら、なんと池袋に代演で伯楽師匠が出演。迷うことなく池袋へ。
演者とネタは次の通り。
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(開口一番 鈴々舎やえ馬 道灌)
三遊亭歌太郎    道具屋
ペペ桜井       ギター漫談
三遊亭歌奴     棒  鱈
橘家圓十郎     紙入れ
ダーク広和      奇  術
古今亭志ん馬    初音の鼓
いなせ家半七    教科書にかける情熱
大瀬ゆめじ・うたじ 漫  才
金原亭伯楽     猫の皿
(仲入り)
三遊亭多歌介    短  命
橘家文左衛門    千早ふる
三遊亭小円歌    三味線漫談
三遊亭歌武蔵    ぼやき居酒屋
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やえ馬(12:15-12:32)
いくら池袋が他の寄席よりも時間が使えるとはいえ、これはゆったりすぎ。「開口一番」であって「前座」ではない。もっとメリハリをきかせましょう。

歌太郎(12:33-12:48)
歌ぶとの名での前座時代から約二年ぶりだが、ずいぶん上手くなった。いなせな江戸弁でまくし立てる本寸法の噺家に育つ可能性を感じた。やえ馬のダラダラの後だけに、その差は際立った。

歌奴(13:00-13:15)
円歌一門会に近い顔ぶれなのだが、この一門の将来を背負うのは間違いなくこの人だろう。歌彦時代から評価は高かったが、いわゆる“様子の良さ”と達者な語り口が魅力だ。さん喬師匠も昔は寄席でよくかけたが最近は演る機会が減ったというこの噺、落語会を含め久しぶりりだった。「赤べろべろの醤油漬け」に熱唱(?)「十二か月」、この噺をしっかり15分で楽しませてくれた。さすがだ。

圓十郎(13:16-13:34)
お初である。結構いい味を出しているが、歌奴の後で少し損をした、そんな印象。

志ん馬(13:46-14:02)
昨夜も神宮球場で阿部のホームランを見てきた、という巨人ファンネタのマクラの後、最近は喬太郎で有名になった『初音の鼓』へ。まぁ、それなりの出来。そう言えば、この人は1996年にNHK新人演芸大賞を『宮戸川』で受賞している。喬太郎が『午後の保健室』で受賞するのは、その二年後である。師匠の先代志ん馬が亡くなった後は志ん朝門下だった人だ。野球焼けの顔を見ているうちに、他力本願でただ応援するだけの野球に時間を費やすくらいなら、あなた自身の落語にもっと時間を注いでみてはいかが、そんな思いが生じた。他人の好みや趣味に口を出すほど野暮なことはないが、そんな個人的でまったくつまらないマクラを聞かされたアンチジャイアンツファンの代弁として、あえて書かせてもらった。

半七(14:03-14:18)
黄色の派手な高座着で登場のこの人もお初。不思議な魅力がある。先代柳朝師匠に入門し、今は小朝門下。暴力団から足を洗った“高倉さん”が網走時代の訓練を生かし印刷所を始め、教科書を作るために役所(文部科学省)に出向いた際の担当者とのやりとりで構成されているのだが、結構イケル新作なのだ。この人、声はほとんど“坂東英二”なのだが“様子がいい”ので少し損しているかもしれない。小噺も含めオリジナリティは相当ありそうだ。ぜひ、別な新作も聞いてみたい。

伯楽(14:31-14:46)
マクラで志ん生師匠の思い出があり、素直にうれしかった。昭和14年生まれなので小三治師匠と同じ古希である。志ん五の代演で鈴本の主任とダブルヘッダー(表現が古い!)なのに、短いながらしっかり『猫の皿』で楽しませてくれた。とにかく「渋い」のだ。
談志、小三治、圓菊といった師匠と同様、元気な姿を見ることができれば幸せだ。

多歌介(14:55-15:19)
クイツキとして、少し長めのマクラで引っ張り本編へ。上手いし、笑いの勘どころを押さえている。この噺もニンである。初めてだが円歌一門の奥の深さのようなものを感じる人。寄席の席亭には重宝な噺家さんだろう。

文左衛門(15:20-15:41)
楽屋で歌武蔵と話していてネタを考えていなかったと、前座にネタ帳を持ってこさせた。結果としてこのネタとなったが、さて、この人の『千早ふる』はどうなるのかと思って聞いていたが、のっけから、通常は八っあんの指南役は“先生”や“ご隠居”なのに“兄貴”ときた。なるほど、この人らしい。「百人一首」という言葉を思い出す際のギャグや、時節柄のクスグリを含め楽しませてくれた。オチを歌武蔵にふるのも、ある意味でお約束。一朝師匠の代演として、お目当てのお客さんは喜んだのではないだろうか。

小円歌(15:42-15:58)
いつもながらお綺麗でしたし、「奴さん」も良かった。

歌武蔵(15:59-16:27)
いつものマクラから本編へ。柳家はん治のこの噺もいいが、酔っ払いの噺での歌武蔵の迫力は、尋常ではない。明日が千秋楽なので、ある意味で力を貯めたい日だろう。ネタもほぼ予想通りで、出来栄えも期待通り。しかし、主任の時くらいは、名前の読み間違いのマクラはいらないだろう。さすがに「ただいまの勝負」の出だしではなかったが、「主任だろ、池袋だろ・・・・・・。」と違和感をおぼえた。


今日は、芸なら歌奴、懐かしさなら伯楽、意外性で半七、なるほどそうきたか、の文左衛門、いいんだけどなぁ・・・・・・の歌武蔵という印象。

歌武蔵には、そろそろ定番のマクラをやめて欲しい。寄席での『親子酒』や長講『らくだ』など酔っぱらいネタの凄さを筆頭に、この人はもはや名前を売る必要もないし、決して「元相撲取り」という異色性を売りにしなくても十分に実力は認められているはず。もちろんその体つきは並ではないが。「この名をカブゾウと呼んだり、なかにはキャバクラ・・・・・・」というマクラは必要ないだろう。そもそもキャバクラとは読めんわい。たしかに“初歌武蔵”のお客さんもいただろうし、いつものマクラで笑うお客さんも多かったが、「サービス精神」のつもりで定番マクラと相撲界ネタのくすぐりを繰り返しているうちに、この人の次の飛躍がどんどん遅くなるように思うのだ。潜在力は体の大きさと同様相当なものだと思う。喬太郎、喜多八との落語会でも遜色なく競い合っている。今が落語界での「前頭」クラスとすれば「関脇」いや「大関」に早くなって欲しい。今日の文左衛門の『千早ふる』では三年で大関だったが、さていつ「もう十分に大関だ」と思わせてくれるだろうか、それが楽しみだ。
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# by kogotokoubei | 2009-09-19 18:49 | 落語会 | Comments(0)
6月6日の末広亭での『夕立勘五郎』のインパクトが強かったので、あらためて志ん輔をじっくり聞くために入手したチケットだった。演芸場は今月二度目だが雀々・談春の二人会とは、客層が相当違うような印象。間違いなく平均年齢は今日のほうが高い。
さて、演者とネタ。
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(開口一番 春雨や雷太 熊の皮)
古今亭志ん輔  弥生町巷談
古今亭朝太   粗忽の釘
古今亭志ん輔  船  徳
(仲入り)
林家正楽     紙切り
古今亭志ん輔  居残り佐平次
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雷太(18:50-19:01)
帰宅してから調べたら、なんと芸術協会の前座さんのようだ。なぜ彼だったのかは不明だが、なかなか古典向きの雰囲気はある。そんなところが志ん輔の目に止まったかな。

志ん輔『弥生町巷談』(19:02-19:14)
このようなタイトルは付いているが、いわば、この会そのもののマクラともいえる部分。タイトルの由来は分からない。きっと第一夜に説明があったのだろう。ユニークだったのは、千秋楽ということで、ここで三本締めを行ったことと、プログラムには先に“居残り”でトリで“船徳”と印刷されているが、逆にすると報告されたこと。ネタ出しはされていて楽しみだったが、プログラムを見て「順番が逆だろう」と思っていたので納得。

朝太(19:15-19:33)
ずいぶん上手くなったなぁ、という印象。この噺のキーワードといえる「お前さんは落ち着いたら一人前なんだから」という女房の言葉と亭主の粗忽さの妙がこの噺の鍵だと思うが、なかなかの出来だ。八寸の瓦釘を打ち込んでしまったお隣りさんの家で繰り広げる粗忽な亭主ののろけ話で会場を沸かせた力量は、今後に期待させる。

志ん輔『船徳』(19:34-20:12)
こんな入り方もあるのか、という独創的な導入部から全編余裕を感じる語り口。船頭になりたいとグズル徳のオカマチックな可笑しさや竹屋のおじさんの驚く表情などに志ん輔ならではという味わいがある。欲を言えば船宿の女将の演出でもうひと工夫あってもよかったようにも思うが、高位安定というレベルの噺だった。『居残り~』が控えている。季節的にはギリギリ間に合った夏の大好きな噺を楽しませてもらった。

正楽(20:24-20:39)
やはり好きなんだなぁ、正楽さんの定番のネタと出来栄えの素晴らしさ。リクエストの「イチロー」を切っている際のBGM「私を野球に連れてって」の三味線が、今日の下座さん達の高いレベルを示していた。鈴本夏まつりの「ひまわり娘」の三味線を思い出した。

志ん輔『居残り佐平次』(20:40-21:25)
帰宅して記録を調べたら、二年前の同じ9月15日に朝日名人会でこの噺を聞いている。ブログを始める前だったが、菊之丞『酢豆腐』、トリの権太楼『質屋庫』と併せて心地よいイメージが残っている。今夜も期待通りの素晴らしい志ん輔ワールドを堪能した。師匠志ん朝版の基本は踏襲しながらも、志ん輔落語としての風格のようなものも感じさせてくれた。やはり、こっちがトリで正解である。マクラでサゲの「おこわにかける」という言葉の意味を説明する際に、円生師匠の解説を引き合いに出したのだが、なぜか可笑しかった。


鈴本の席亭が預かっている六代目志ん生の候補が志ん輔である、という落語雀の噂がある。もし継ぐなら早いうちが良いと思いながら地下鉄の駅に向かった。56歳、名前に負けないだけのものはあるだろうし、まだまだ元気だ。先代馬生が弟に譲るつもりでいたのに、その志ん朝は自分の名前を歴史に残した。結果、志ん生という名跡は長らく偉大な五代目を指すこととなった。四代目も凄かったらしいし、初代だってもっと語られていい人だと思う。早いうちに襲名しないと、時間を経れば経るほど襲名しにくい状況になるのではなかろうか。五代目の記憶が薄れた頃に、「大名跡の復活」として誰かが襲名するとするなら、この名の復活はあと数十年先になりそうな気さえする。

志ん輔、いっそ志ん生を継いでしまえ、と思うのだ。文楽、小さん、・・・・・・。大きな名前を継いだ現役への批判めいた騒音は、最近はあまり耳にしない。三笑亭可楽という職業落語家の元祖の名前は脈々と継がれているじゃないか。先代への遠慮が強いまま落語の歴史的名跡が途絶えることのほうが惜しい。何度も書いているが春風亭柳枝も近いうちに誰かが襲名して欲しいという思う。いっそ圓朝という伝説になりつつある名跡も、初代柳枝の弟子で圓朝のライバルだった談洲楼燕枝(三代目が没した1955年以降空いている)も、揃って誰かが継いではどうだろうか。この案には異論も数多あろうが、五代目志ん生については、まだ語れる生き証人がいる。先代の記憶が少しでも残っているうちに、その思い出話を襲名披露で語れる人が健在なうちに継いでもらいたい、と帰宅の混んだ電車の中で考えていた。
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# by kogotokoubei | 2009-09-15 23:22 | 落語会 | Comments(0)
「らくだ亭」の第23回目は、サブタイトル“脱力系爆笑競演”と銘打たれて、このお二人。最近は独自の古典に挑戦していると噂の桃太郎と、今もっとも個人的に贔屓の鯉昇の組合わせに魅かれた。
演者とネタは次の通り。
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(開口一番 昔昔亭A太郎 たらちね)
昔昔亭桃太郎  裕次郎物語
瀧川鯉昇     蒟蒻問答
(仲入り)
瀧川鯉昇     ちりとてちん
昔昔亭桃太郎  寝  床
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A太郎(19:00-19:13)
後で師匠桃太郎のマクラで判明したが、大学でフットボールをしていたとのこと。なるほど体育会系で、まあまあのイケメンでもある。話しぶりは前座らしく大きな声ではあるが、インドア系の多い落語界で、さてどこまでいけるか今後に期待しましょう。

桃太郎『裕次郎物語』(19:14-19:36)
まずは定番ネタ。とはいえ途中にはさんだ芸協イジリのネタで、かつて新宿厚生年金会館の楽屋で志ん朝に浅草で演ったこのネタを誉められた(志ん生が大の裕次郎とプレスリーファンだった!)が、隣にいた米丸(当時芸協会長)が、「誉められていい気になるなよ」と冷や水を浴びせた、という話はご本人曰く初披露とのこと(?)。加えて、師匠柳昇から「誰のファンだ?」と聞かれ「裕次郎です」と答えたところ「お前は弱虫だから強い者に憧れるんだ」というネタを含め「落語協会は志ん朝師匠でさえ若い者を誉めて伸ばそうとするが、芸協は・・・・・・」という筋書きだが、今はどうなんだろうと思ってしまった。

鯉昇『蒟蒻問答』(19:37-20:12)
いつものごとく高座に坐ってからの何とも言えない間が、まず笑いを誘い出す。黙っていて自分の空間を作り出すという意味では、今日稀有な噺家さんだ。お決まりのマクラも、何度聞いても笑える。六月の神奈川県民ホールでの一席目もこのネタだったことを思い出した。生でなければ楽しさを味わえない落語の代表格。やや後半は急ぎ足であったが、“初鯉昇”のお客さんも多かったろうし、それを意識したネタで、「ご挨拶」代わりという感じ。少し余力があったように感じたので、二席目が逆に楽しみになった。

鯉昇『ちりとてちん』(20:27-20:57)
なるほど、これで来たか!という感じ。何度も書いているが、この人に食べる仕草のあるネタをやらせたら、ちょっと右に出る者は今いないと思う。そして、このネタは“鯉昇食べ物ネタオンパレード”とでも言うべきもので、ともかく独自のクスグリを含め会場は爆笑の連続。ネタが分かっていても笑える、という典型である。いろんな意味で、桃太郎は相当このネタを意識して次のトリを迎えたはずだ。

桃太郎『寝床』(20:58-21:35)
ともかく後半は涙を流して笑い続けていた。鯉昇を十分に意識した“食べ物”シーンの連続技や、長屋の住人や使用人のみなならず、高田文夫、犬、猫、鼠、はては蛇まで旦那の義太夫から逃げ出すという設定や、それぞれの逃走方法の意外性に会場も私も爆笑するしかなかった。初めて聞く桃太郎版古典だったが、期待以上というか、何か“革命”的なものを感じた。


鯉昇の二席が桃太郎の『寝床』に結果として喰われたようにも見えるが、鯉昇を程よく意識した結果の『寝床』であったとも言える。もちろん、どちらも十分に楽しませてもらった。桃太郎は11月に、さん喬・権太楼との長講三人会で『らくだ』を演る予定だが、「もう頭では覚えちゃった。でも稽古はまったくしていない」と言ってのける。この人の可能性は、今大きく広がっているような気がする。

七回忌を迎えた柳昇の門下である今日のお二人や昇太など、古典でも新作でも何か革新的というか「他の噺家とは違うぞ」という強い意志と際立った個性を感じることができて、非常に楽しい。間違いなく落語協会に堂々と対抗できる芸協の“リーサル・ウェポン”(春風亭百栄が鯉昇を喩えた言葉!)と言えるだろう。
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# by kogotokoubei | 2009-09-08 23:30 | 落語会 | Comments(0)
この組み合わせは興味があった。とにかく雀々の会には行こうと思いつつこれまで都合が合わなかったし、談春は六月の喬太郎との二人会で相対比較すると喬太郎に軍配を上げざるを得ない内容だったので、枝雀一門との二人会ならどうなるかという期待もあった。会場はほぼ満員。次のような演目だった。
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雀々・談春  ごあいさつ&対談
雀々      田楽喰い(寄合酒)
談春      三軒長屋
雀々      夢八
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ごあいさつ&対談(18:35-18:57)
とにかく楽しいオープニングだった。特に、雀々の師匠だった枝雀のエピソードや立川流の上方への大胆な進出ぶり、談志家元と米朝一門との奇縁など楽しい“雑談”を楽屋で聴いている雰囲気。内幸町ホールは千代田区にあるのに米朝事務所はフリーパスと談春が突っ込めば、雀々も負けずに上方で一日三回同じネタで勝負する志の輔のことを、「考えられない」といじる。もちろん談春は、「志の輔アニさんはパルコで一ヶ月同じネタで満員になる」と返す。たしかに、同じネタを繰り返すあのやり方は上方では考えられないだろう。枝雀と談志家元の病気のことも二人は笑い話にするが、さすが弟子であり噺家なのだ。そこには、師匠への思いも十分に伝わっている。二人は場内の時計を見て慌てて切り上げたが、もう少し聞きたかった程であった。

雀々『田楽喰い』(18:58-19:18)
ネタは『寄合酒』としたいところだが、昨今の『寄合酒』では肝腎な「ん廻し」をほとんど演じないことと、この名か、そのまま『ん廻し』とする上方流呼称を尊重。さすがに火事で半鐘の「じゃんじゃん」で田楽を稼ぐところまでは演らなかったが「ん廻し」の可笑しさは十分に披露した。テレビで雀々にはよく出会っていたが、初めての生は迫力が違う。前座噺でここまで会場を沸かす技量は、並大抵ではない。談春への刺激になったことは間違いない。

談春(19:20-20:08)
今年2月14日の麻生市民館で聞いた内容から少し演出が変わっていたが、時間を少し詰めるためと、談春落語が生きていることの証だろう。オープニングの対談では「一時間も演りませんよ」と言っていたが、約五十分。対談が長引いた分だけカットしたような印象。途中の辰のべらんめい調の言い立て風の部分を含め、ほぼ期待通りなのだが、談春の場合はこの位は当たり前と思われているだろう。次に聞く時にはもう少し“緩急”というか、“奥行き”のような何かが欲しい、という贅沢な感想を持った。やや印象が“平坦”なのだ。雀々は、テレビと生では、ライブの凄さ、可笑しさが際立つのだが、果たしてこの『三軒長屋』はテレビと生でどれほど差があるだろう、という妙な思いで聞いていた。もちろん、ライブと放送を比べようもないのだが、“安定”とか“上手さ”というキーワードだけでなく、“意外”とか“劇的”という表現をつけられる談春の高座にも出会いたいし、そういった力量はもちろんある人だ。出来はもちろん良いし、流石と思わせる部分もいくつもあった。しかし、もっとこの人には期待してしまう。本寸法を極めようとして、今後次第に枯れていき、最後に円生のようになることを彼のファンは願ってはいないはず。誰でもない、「談春落語」を期待しているのだ。

雀々『夢八』(20:20-20:50)
これぞ上方、と言えるネタで会場は沸いた。とにかく騒々しいネタだが、主人公の夢見八兵衛の体を張った演技と「伊勢音頭」の熱唱。サゲは時間の関係もあるのだろうやや端折ったが、それでも雀々ワールドを堪能した。落語でしかありえない不気味かつ荒唐無稽、そしてオカルト的な噺なのだが、これだけやかましく、そして可笑しく演じられると、「どうも参りました」と素直に頭を下げたい思い。


談春も十分に持ち味を出したが、ホストである雀々の上方、いや枝雀一門ならではの二席は強烈だった。しかし、どちらが勝ったか、という思いにさせる二人会ではなく、東京と上方どちらもいいでしょう、と印象づける見事な二人会だったように思う。今年はできる限り上方落語を聞こうと思っているが、今のところ、今日の雀々が私の中ではダントツである。東京では権太楼師匠、そして直系ではこの人が、もっとも枝雀のDNAを今に伝えているかもしれない。二人会、次の相手は志らくとのこと。談春には、雀々(枝雀一門)との交流で、次のステップに進むきっかけになることを願っている。

米朝事務所については、6月19日に新百合ヶ丘駅前の麻生市民館で開催された三三・吉弥ふたり会の感想で少し苦言を呈したが、これだけたっぷり演ってもらえるなら文句はない。12月4日(金)にはその麻生市民館で「桂枝雀生誕70年記念落語会」が予定されている。米朝師匠に春団治師匠、そして南光に加えて雀々も出演予定だ。なんとかやりくりして行きたいものである。やはり、枝雀一門は良いのだ。
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# by kogotokoubei | 2009-09-02 22:55 | 落語会 | Comments(2)
駅前での選挙演説の“騒音”から逃げるように会場へ。二年前の4月に会議室で開催された遊雀と白酒の会以来である。開演前に主催の日本文化情報会の須加さんからご挨拶があったが、南大沢寄席としては二年前の第30回開催以降久しく休んでおり、捲土重来を期したのが今回の第31回とのこと。しかし、500席の会場は満席とはいかず、七割強の入り。採算がちょっと心配。しかし、菊之丞を中心としたかつての会の会場は会議室でパイプ椅子だった。遊雀の『初天神』を唾がかかるかと思えるような席で聞き笑い転げたことが、今や懐かしい。日本文化情報会の現在の主要落語会は八王子で開催されているが、日曜が多く、20年来の仲間と毎日曜はテニス(とアフターテニス)と決めている私は、好みの噺家さんの名前が並んでいるのを眺め、いつも歯軋りしている。南大沢が土曜開催で復活してくれるのであれば、できる限り足を運びたい。

さて、演者とネタ。
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(開口一番 柳家おじさん  子ほめ)
柳家ほたる   反対車
柳家甚語楼  狸の賽
柳家権太楼  火焔太鼓
(仲入り)
古今亭菊之丞 天狗裁き
柳家権太楼  代書屋
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おじさん(14:04-14:15)
なんともユニークな名である。一昨日の立川らく兵などに比べたら、決しておじさんぽくないが・・・・・・。残念ながらも声がハスキーというか、枯れ気味。声は大きく出そうという努力はわかるが、持ち味としては少し損であろう。しかし、志の輔のことを考え、がんばりましょう。

ほたる(14:16-14:32)
前座時代は数多く聞いた気がするが二つ目になってからは、たぶん初めて。ずいぶん上手くなった。この噺で思い浮かぶのは談志家元や圓蔵。いずれにしても二つ目が演じることは、あまりないはず。しかし、若さを生かした座布団上での「ジャンプ」を含め、会場を沸かせっぱなしだったことが、出来野よさを物語っている。見た目を裏切るブラックなクスグリを磨いていけば、見た目(メタボ系?)からも桃月庵白酒と同じような路線になるような気もした。将来を期待させる芸だった。

甚語楼(14:33-14:53)
ほたるとネタが逆だろと思わせる前座噺だが、良かった。先日の鈴本から日が空いてなく、これで顔と名前を覚えられそうだ。将来寄席の重要な中堅にはなり得る。しかし、もう一皮向ければ、寄席で欠かせない一朝師匠のような存在になる可能性もある。そんな印象を受けた。

権太楼『火焔太鼓』(14:54-15:28)
選挙と酒井法子ネタのマクラから会場はエンジンがかかりっぱなし。たぶん定番ネタだろうとは思ったが、まさか『火焔太鼓』とは思わなかった。権太楼版の特徴はいくつかあるが、もっとも効果的なのは甚兵衛さんと侍との会話で鸚鵡返しを上手く使って笑いを倍増させるところだろう。『青菜』もそうだが強い女房と少しとぼけた旦那を演じさせた時の表情を含めた演技は、あまりにもオリジナリティに富んでいて、そして笑わせてくれる。

菊之丞(15:43-16:08)
この人のこの噺は初めて。一昨日の『船徳』ではないことだけ願っていたが、うれしい誤算とも言えるネタに出会えた。一月の青森での保育園での落語会のネタは今年の定番でもいえるが、会場の雰囲気に合わせて選んだのだろう。丁寧な語り口で、ところどころで伏線を散りばめながら、噺を盛り上げた技量に、あらためて感心した。

権太楼『代書屋』(16:09-16:35)
これこそ定番である。しかし、会場は終始笑いっぱなし。主任以外の場合の寄席より少し長い分だけマクラも長く、ところどころの演出に工夫もこらしていたが、ともかく「安定」した笑いで、会場に大勢いたと思われる“初権太楼”のお客さんを圧倒した。私の隣の席の中年女性など涙を流しながら笑っていた。これぞ“権太楼ワールド”である。個人的には、次のテニス仲間との合宿の余興でこのネタをかけるつもりなので、大いに勉強になった。微妙な“間”と計算され尽くされた緩急の演出の凄さが、演じる観点から見ているとよく分かった。


主催者の須加さんの強い思い入れと、東京都心を離れた地域の落語ファンの気持ちを、権太楼師匠が十分に汲み取ってくれた、そんな落語会だった。まさに、“これぞ権太楼落語”という爆笑ネタを二席たっぷり。お客さんは団体で来ていた女子高校生を含め大満足だったのではなかろうか。以前に八王子での喬太郎・菊之丞の会の時は、珍しく連れ合いと一緒だった。南大沢が継続するためなら、カミさんに限らず知り合いにもぜひ声をかけよう、とそんな思いで会場を出た。大変でしょうが、ぜひ続けてください。
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# by kogotokoubei | 2009-08-29 18:32 | 落語会 | Comments(0)
これまでは夕刊フジの冠だったが「産経新聞」の名に替わっての第一回である。
演者とネタは次の通り。
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(開口一番 立川らく兵 初天神)
林家彦いち      権助魚
立川志らく      お化け長屋
(仲入り)
古今亭菊之丞    船徳
柳家三三      髪結新三
-----------------------------------

開演前にこの会の企画・制作を担当する立川企画の松岡さん(談志家元の弟さん)から、年内休業と発表のあった談j志家元の状況報告があり、9月にこの会で予定していた独演会については二~三日中にどのような対策をするか決めるとの説明があった。「来月の独演会のチケットを持っている人は?」、との問いかけに20~30名の手が上がったが、きっと地元でこの会の常連さんなのだろう。プログラムを見ると、この会の特別共催として「kissサポート財団」(財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団)という名がある。産経グループ、港区の落語愛好家、そして立川企画の協力でこの会は成り立っているようだ。
*家元がゲスト出演するはずだった10月の桂文我の会を予定しているが、「ぴあ」では市馬と志らくの名に替わっていた。

らく兵(19:03-19:15)
名前の由来は旧日本兵に似ているから、とのこと。なるほど、時代(?)を感じさせる風貌である。刈り上げた頭を含め古今亭菊六を思い出した。噺のほうも、志らくの弟子にしては古典の香りがして、私には好ましい雰囲気。今後に期待したい。

彦いち(19:15-19:37)
らく兵が終わってから登場まで一分を要さないこの人らしい機敏な動き。さすが体育会系。最初に「悋気」のキーワードをふったので、何の噺か思いをめぐらしていたが、その後海外での高座の思い出話に進み、ネタが何になるか若干グレーになったものの、また強引に悋気を持ち出してこの噺に。とはいってもこの人の場合は、この力技(本人もよく使うキーワード)が魅力でもある。主人公の権助が光る。久しぶりに見たが、SWAで揉まれていることもあるのだろう、高座にずいぶん余裕が出てきた。

志らく(19:38-20:04)
久しぶりの志らく。昨年9月の「にぎわい座」以来なのでほぼ一年ぶりである。冒頭家元のことを少しだけ笑いにして触れたが、酒井法子ネタを含めマクラは3分位で本編へ。貸家を借りに来る二人目の江戸っ子が主役と言える噺だが、この人らしい早口のべらんめい調が似合う。にぎわい座の百席の時は、結構プレッシャーを感じての緊張感を醸し出しているが、こういう会では余裕があり、安心して楽しめた。一昨年の9月に夕刊フジの名で行っていたこの会での『茶の湯』ほどは志らくワールドとしてのオリジナリティはなかったものの、「アリしか喰えないアリクイの気持が分かるか」などのクスグリはこの人ならではである。

菊之丞(20:16-20:40)
今日は菊之丞の日だったと思う。円朝まつりのネタ中心のマクラから、この人では始めて「船徳」を聞いたが、良かった。もちろんキャラクターからして若旦那ネタがニンなのは間違いないのだが、本寸法でありながら独特の色気と無理のない工夫が施され、気持ちよく会場を大川の船上に連れて行ってくれる。傘を持っているのが船宿に誘うほうである、というのは通常と逆なのだが、それもまったく違和感がない。最後に友人を背負って川を渡ろうとした時に船頭が先におぶさろうとするクスグリは小朝版からいただいたのかどうか不明だが、演出としては今風で良い。船頭が歌う時に、客に「柳亭市馬か」と言わせるあたりも落語ファンにはうれしいギャグ。袖で控えていた三三が、ネタがネタだけに場内の笑いの渦に苦笑いをしていたに違いない。

三三(20:41-21:10)
さすがに先日聞いた『三枚起請』は勘弁、と思っていてネタは違ったものの、まさかこの噺は想像していなかった。30分で通しは無理なので、大親分の弥太五郎源七が深川の新三の家に乗り込もうというところで終わったが、マクラもなく一気にそこまで突っ走った。以前に『子別れ』を今風の内容に脚色した人として紹介した初代春錦亭柳桜が、この噺の元になる人情噺『白子屋政談』の作者。今日の噺家さんが手本となる音源は六代目円生であろう。師匠談志家元も好きなので立川流は良く演る。また五街道雲助も結構得意にしている。笑いは少なく、歌舞伎のように魅せて聴かせる類の噺。三三は聴かせる技量はもちろんあるし、チャレンジ精神も背景にあるだろうが、どうも気になることがある。先輩噺家として、三三は談春に相当思い入れがあるのだろう。だから、歌舞伎や講談ものを多く演じるのは、談春(そして結果として家元)の強い影響を感じる。しかし、三三の師匠は小三治である。小三治や大師匠の柳家小さんの最大の持ち味は、滑稽噺であることを忘れて欲しくない。たしかに、円生の得意だった噺はつい最近まで埃をかぶっていた噺も多く、談志家元経由で談春が多く手がけており、それを手本に三三がトライする、ということは悪くはない。だが、私は三三の滑稽噺をもっともっと聞きたいのだ。このへんは“好み”の問題もある。今日のこの噺を高く評価する人もいるだろう。決して悪くなかったし、「上手かった」とさえ言える。しかし、私は三三の持ち味がこの方面にばかり傾きそうなのが気がかりなのだ。


どんなネタをかけるかは噺家さんそれぞれの思いがあり、笑いの少ないネタへのチャレンジがあってもいいだろう。しかし、落語は客を緊張させる芸能であっては困る。仕事や家事などを忘れ、日々の心身の疲れを癒す大衆芸能であることが第一だと思う。志ん生は怪談噺でも独特のクスグリで場内を爆笑させている。もちろん笑いが少なくとも、肩肘張らずに、その芸に堪能できれば、それはそれで楽しい。そんなことを考えながらも、「今日は菊之丞の日」と思いながら残暑の厳しい赤坂の街を地下鉄の駅に向かった。
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# by kogotokoubei | 2009-08-27 23:01 | 落語会 | Comments(0)
5月30日のブログで、今年から価格改訂(値上げ)をした「朝日名人会」が、どのような顔合わせで今年度(4月から来年3月まで)の顔合わせを考えているか、ということについて私見を書いた。
2009年5月30日のブログ

その時点での終了した出演者と出演予定者は、ホームページに次のように記されていた。
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第88回終了 4月18日(土) 桂文珍・入船亭扇遊・柳家喬太郎・桂平治・立川志の吉 
第89回終了 5月16日(土) 三遊亭圓窓・柳家権太楼・林家たい平・柳家三三・三遊亭きん歌 
第90回   6月20日(土) 柳家小三治・立川志の輔・古今亭菊之丞・柳亭左龍・入船亭遊一 
第91回   7月18日(土) 柳家さん喬・金原亭馬生・瀧川鯉昇・柳家喜多八 ・三遊亭金兵衛
第92回   9月19日(土) 五街道雲助・柳亭市馬・柳家花緑・柳家三三・柳家三之助
第93回   10月17日(土) 桂歌丸・桂文珍・三遊亭小遊三・三遊亭金時・春風亭一之輔 
第94回   11月21日(土) 柳家さん喬・柳家権太楼 ほか
第95回   12月19日(土) 柳家さん喬・柳家小さん ほか
第96回    1月16日(土) 柳家権太楼 ほか
第97回    3月20日(土) 柳家小三治・立川志の輔 ほか
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そして、今日時点の情報は次のようになっている。
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第88回終了 4月18日(土) 桂文珍・入船亭扇遊・柳家喬太郎・桂平治・立川志の吉 
第89回終了 5月16日(土) 三遊亭圓窓・柳家権太楼・林家たい平・柳家三三・三遊亭きん歌 
第90回終了 6月20日(土) 柳家小三治・立川志の輔・古今亭菊之丞・柳亭左龍・入船亭遊一 
第91回終了 7月18日(土) 柳家さん喬・金原亭馬生・瀧川鯉昇・柳家喜多八 ・三遊亭金兵衛
第92回   9月19日(土) 五街道雲助・柳亭市馬・柳家花緑・柳家三三・柳家三之助
第93回   10月17日(土) 桂歌丸・桂文珍・三遊亭小遊三・三遊亭金時・春風亭一之輔 
第94回   11月21日(土) 柳家さん喬・柳家権太楼・入船亭扇遊・橘家圓太郎・五街道弥助
第95回   12月19日(土) 柳家さん喬・柳家小さん・柳家喬太郎・古今亭志ん丸・金原亭馬治
第96回    1月16日(土) 柳家権太楼・五街道雲助・古今亭志ん輔 ほか
第97回    3月20日(土) 柳家小三治・柳家三之助 ほか
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3月の会における大きな相違点が見逃せない。志の輔の名前が消えた。
たしかに、ホームページには次のような注釈は書いてある。
「 出演者は都合により変更になることもあります。」

5月30日のブログで私は、柳家小三治・立川志の輔という超目玉企画が値上げでも年間通し券応募者の確保を含め来場者のつなぎとめとしての戦略(?)であろう、といったニュアンスのことを書いた。
6月には、予定通りに“ゴールデンコンビ”は実現したようだ。しかし、3月は、どうも怪しくなってきたようだ。「都合により変更」は、この手のイベントにはつきもので、それはしょうがないが、志の輔目当てで通し券に応募して当選して料金払い込み済みの落語愛好家や、3月20日という期末の大事な時期に予定を空けてチケット入手の幸運を祈っているファンに対し、もう少し説明が必要ではないのだろうか。他の噺家さんとは、少し事情が違いますよ。パルコを一ヶ月近く満員にする人であり、今もっともチケット入手が難しい噺家さんだ。何か他の予定をどうしても優先せざるを得ないのなら、はっきり「白黒(シロクロ)」つける注釈があっていいいだろう。プライドの高い“朝日”だから、そんなことをするとは思わないが、あえてこのことは言っておきたい。

もちろん、この「朝日名人会」が、小三治や志の輔といった特定の噺家さんの番組ではない、ということは百も承知で二百も合点である。しかし、それにしては、顔ぶれが偏ってるんじゃありませんか!
5月30日のブログで、私はこんなことも書いた。
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顔ぶれを見ると、同じ名前が多すぎるなぁ、というのが素直な感想。さん喬師は好きだが、
11月と12月が連続というのは、番組編成上でいかがなものか・・・・・・。
桃月庵白酒や古今亭菊志ん、三遊亭兼好や歌奴は11月以降に出演するチャンスがあるの
だろうか、なども気になる。
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雲助ファンには9月に続いて1月にも出演ということは朗報だろう。同じく9月出演の三之助が、真打昇進の年に師匠がトリの会で出演するのも、分からないでもない。
しかし、どう考えても出演者のバリエーションが多彩であるとは思えない。今もっとも光っている若手・中堅の欠落が多いように思う。まさか出演依頼したのに断ったわけではあるまい。

選者の京須さんは、もしかしたら下記のような、かつてのホール落語会のように固定メンバーでの落語会を模索しているのだろうか。
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「東横落語会」(プロデューサー:湯浅喜久治)
 桂文楽、古今亭志ん生、三遊亭圓生、桂三木助、柳家小さん

「精選落語会」(プロデューサー:矢野誠一)
 桂文楽、三遊亭圓生、林家正蔵(彦六)、三笑亭可楽、柳家小さん
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時代も落語家の人数も、そして“名人”の人数も違う今日、ホール落語会の顔ぶれは多彩であって欲しいし、そうならざるを得ないと思うのだ。京須偕充プロデューサーが、この会をどう導こうとしているのか、どうも分からない。以前のブログにも書いたのでくどくなるが、落語研究会と朝日名人会、この二つとも同一人物がプロデュースしていることが問題の根源であるように思う。

権威や歴史を売り物にする落語会だからいろいろとしがらみもあるのだろう。そろそろ、堀井憲一郎さんあたりが主宰する新機軸のホール落語会があってもよいとも思う今日この頃である。
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# by kogotokoubei | 2009-08-25 18:24 | 落語会 | Comments(0)
一昨年は初日(さん喬『五人廻し』・権太楼『井戸の茶碗』)に行くことができたが昨年は都合がつかなかった。今年はこの会に一日は行こうと思い、権太楼『青菜』、さん喬『百年目』に照準を合わせていた。なんとか都内での仕事を終えて到着したのがロケット団の途中。
演目は菊之丞から次の通り。
------------------------------
古今亭菊之丞   替り目
柳家甚語楼     夏泥
鏡味仙三郎社中  太神楽
桃月庵白酒     短命
(仲入り)
柳家小菊      音曲
柳家権太楼     青菜
林家正楽      紙切り
柳家さん喬     百年目
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菊之丞(18:17-18:32)
久しぶりだが、やはりこの人もこのネタも寄席に似合う。大師匠志ん生から師匠の円菊に流れる古今亭の寄席の代表作を健気に継承しようという静かながら熱い意気込みを感じる。また、この噺を聞くと「寄席に来たなぁ」とうれしいものだ。あらためて「声」の良さに聞き惚れた。そして、江戸の香りがして和服が似合うところは、三三とは好対照(!)である。*あえて比較することもないか。

甚語楼(18:33-18:49)
テレビでは見たことはあるが寄席では初めて、かと思ったら手帳には一昨年のこの会で『強情灸』を聞いたとメモされていた。どうもその時の印象が薄かったのだが、この噺は旬な噺だし、この人にはニンだと思う。端正な顔立ちで非常に真面目な印象だが、ある意味では噺家としては損な風貌かもしれない。今後は本寸法でいくのか、師匠のような爆笑派に変身を図るのか、底力はあると思うので先を楽しみにしよう。年は上だが三三と同年入門で真打昇進も一緒だった人。頑張って欲しい。*また三三か。

白酒(19:01-19:22)
この人のこの噺に出会うことは多い。マクラの電車での女性の化粧の話でネタを察することができたが、いつ聞いても素直に笑える。マクラで使う英語のクスグリ(Good Luck!)を含め、私にとって、今もっともセンスを感じる噺家さんだ。化粧で化けそこなった女性に対する毒のあるひと言の受け方で会場の平均年齢を察することができるが、結構若い女性が大笑いしていた。噺そのものは見た目とは別な都会的スマートさがありながら、演出上はその風貌を最大限に生かす。最近は新作へもチャレンジしているようだし、今もっとも目の離せない若手の一人であるのは間違いない。

権太楼(19:50-20:15)
「この後、百年目ですからあっさり演りましょう」という文句と、たっぷり大爆笑の噺とのギャップが、夏の鈴本を満員にするライバル同士の切磋琢磨の表れなのだろう。期待以上に良かった。落語愛好家として先輩である私の知り合いが、「権太楼は『青菜』だよ!」と豪語していたのだが、これまではテレビでは見ていたものの、生では初めて。特に興味深かった権太楼流の演出で際立っているものの一つが、いわばこのネタの重要な伏線部分で、出入り先の主人と奥さんとの“かくし言葉”でのやりとりに「いぃ~っすねえ!」と感心(感動!)するリアクション。そしてラストで植木屋の女房が押入れから出るシーンへの期待と、その“熱~い”演技にも安心して身を任せ笑うことができた。

さん喬(20:29-21:15)
長井好弘さんが、さん喬を評するキーワードの一つとして「くどさ」をあげていたが、この大作においても、それが生かされていた。旦那が番頭を諭す時の「無駄だと思うかもしれないが南縁草である若い者たちに露を下ろしてやっておくれ」という言葉の「無駄だと思うかもしれないが」のリフレインが、この噺の基調となっている。弟子への指導などでの経験などから、さん喬自身がもっとも訴えたいフレーズなのだろう。
向島での狂態を旦那に見つかってしまった後に、旦那の聞こえよがしの鋭い言葉や他の使用人に言う小言が、番頭の胸に「ズキーン」と響くという丁寧な演出もこの人ならではのものだろうが、効いている。あっと言う間の45分。堪能した。

長井好弘さんのさん喬評を補足すると、『新宿末広亭のネタ帳』に次のように記されている。
------------------------------------------------------------------------
 さん喬の落語の魅力は、「長くて、くどくて、クサい」ことだ。「なんだ、
全然ほめないじゃないか!」というさん喬ファンのお叱りが聞こえてき
そうだ。でも、ぼくは、本当にそう思っているのである。
 「長い」から、いつまでも聞いていられる。「くどい」くらいしっかりと
情景描写をしてくれるので、落語の情景が目の当たりに浮かんでくる。
そして、親子、恋人、師弟、友情といった、人と人との結びつきを「クサい」
ほど濃厚に演じてくれるので、気持ちよく泣いたり、笑ったりできるので
ある。さん喬落語の三か条「長い、くどい、クサい」の威力を、わかって
いただけただろうか。
------------------------------------------------------------------------
長井好弘_新宿末広亭のネタ帳

まったく、その通りであり、長講『百年目』は、この三か条の魅力が十分に発揮される噺だった。

紙切りの正楽師匠がリクエストの「ひまわり」を切っている時、下座さんが伊藤咲子の「ひまわり娘」を三味線で弾いてくれていると、「三味線でこの唄を聴くのは初めてで、うれしい」と首を振りながら言っていたのが、妙に印象に残る。いいんだよね、正楽さんも。落語協会の寄席には欠かせない人です。

久しぶりの鈴本だが、この“祭り”は良い。寄席を愛し客を大事にしている落語協会の看板二人が、堂々と十日間に渡って暑い夏に勝負を挑み、その大先輩に続こうとする中堅や若手も精一杯の芸を披露する。日常の寄席とは違う心地よい緊張感がありながら、やはりその空間と時間は寄席。浴衣姿の女性が多く、会場の雰囲気も良かった。来年も楽しみになった。
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# by kogotokoubei | 2009-08-18 23:46 | 落語会 | Comments(0)
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新人物往来社の新人物文庫という、いわばマイナーな書店から7月に発行された。1983年に『日本史おもしろ百貨店-江戸と江戸っ子-』のタイトルで単行本として発行された内容を改題し再構成しての文庫化。落語そのものに関する本ではないので、カテゴリーは「江戸関連」ということで取り上げる。しかし、落語ファンにぜひお奨めの本。

書名で損をしていると思う。昨今の“江戸ブーム”に便乗した安上がりのハウツウ本と思われてしまうだろうが、なかなか骨のある本。著者の秋山忠禰(ちゅうや)さんは、1935年生まれでNHKチーフディレクター(時代考証調査担当)を経て、現在は江戸史研究家としてNHK文化センターなどで講座も担当されているらしい。時代考証のプロ、江戸のプロ(?)ということで、本書もさまざまな文献などに裏打ちされた説得力がある。かと言って学術的な臭い以上に、落語の八っあん、熊さんの香りがする。

次の八つのパートで構成されている。
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Part 1「旅と江戸ッ子いろいろ」
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Part 2「お金と江戸ッ子いろいろ」
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Part 3「江戸ッ子と言葉いろいろ」
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Part 4「江戸ッ子と食べ物いろいろ」
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Part 5「仕事と江戸ッ子いろいろ」
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Part 6「遊びと江戸ッ子いろいろ」
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Part 7「江戸ッ子と信仰いろいろ」
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Part 8「江戸ッ子と催事いろいろ」

落語がより楽しく聞くことができると思う部分を、少しだけ抜粋しよう。

(1)護摩の灰
Part 1「旅と江戸ッ子いろいろ」から抜粋。
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 雲助よりもたちが悪いのは護摩の灰で、道中ふつうの旅人を装いながら、
スキをみて他人の金品をかすめる。弥次郎兵衛もこれにやられている。
 山中の建場を出たところあたりから、十吉という旅人が近づいてきて、弥次・
喜多たちに話しかけてくる。「あなた方はどこでござります」「わっちらァ江戸さ」
「わたしも江戸でござります。あなた江戸はどの辺りでござります」「神田さ」
「神田には私も居りましたが、どうかあなた方は見申したようだ」とかなんとか、
話し合っているうちに、同行することになる。
 結局三人して三嶋宿で同じ部屋に泊まるのだが、道の途中で面白半分に
買ったスッポンが、夜中にはい出して大騒ぎとなる。さてそのスキに、「弥次郎
が蒲団の下に入れておきし内飼(うちがい、胴巻のこと)の金を盗み、かねて
こしらえ置きたると見えて、石ころを紙にくるくると包みたるをすり代え、胴巻へ
入れて又もとのごとく、蒲団の下に入れて置く。いったいこの十吉は、道中の
ごまのはいというものにて、こんなことをするが商売なれば、いつのまにかは
弥次郎が金を持っていると見てとり、途中よりつけて来たりてかくのごとし」と、
『東海道中膝栗毛』の作者は書いている。
 護摩の灰とは、その昔、高野山の僧の姿をして、弘法大師の「護摩の灰」と
称するものを街道で押し売りしていた者がいて、これがまた旅人の懐中を狙った
りもしたところからきている。また別に胡麻の蝿ともいう。一見まじめ風を装って
いるので、なかなか見破れない。これはちょうど、黒いゴマの上に蝿がたかって
いて見分けがつかないのとよく似ているところからきている。
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 ちなみに「建場」については、この文章から三頁ほど前の雲助の説明の部分で次のように記されている。「建場(立場)とは、宿場と宿場の中間にあって、人足たちが長持や駕籠などをおろして休息する場所である。」
 『抜け雀』や旅の噺、駕籠の噺などのマクラで雲助や護摩の灰のことが語られることがあるが、こういうことを知っているとより一層楽しく落語も聞けようというものだ。

(2)大酒飲み大会
Part 4「江戸ッ子と食べ物いろいろ」から抜粋
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 文化・文政時代、いわゆる化政期は江戸文化がもっとも爛熟した時期といわ
れている。時の将軍は徳川家斉(いえなり)である。家斉は大の酒好きだったと
伝えられている。その影響を受けたわけでもあるまいが、文化十三(1816)年、
江戸の両国柳橋で大酒会が催された。その会に参加した人たちの飲みっぷり
が、曲亭(滝沢)馬琴らの手になる奇談集『兎園(とえん)小説』に記されている。
 小田原町の堺屋忠蔵は、六十八歳という高齢にもかかわらず、三升入りの盃
を三杯も飲んでしまった。芝口の鯉屋利兵衛は、三十歳という壮年の強みを
発揮して、同じ三升入りの盃を六杯半も飲みほしてしまったが、さすがにその場
で倒れ、寝込んでしまったところ、しばらくして目を覚まし、茶碗で水を十七杯
飲んだという。小石川春日町の天堀屋七右衛門という七十三歳のおじいさんは、
五升入りの丼鉢で一杯半飲んだあと、すぐ自分の家に帰ったが、その途中、聖堂
(お茶の水)の土手に翌朝の七つ半(四時頃)まで倒れていた。
 この大酒会には、武士も参加していたが、名前は明かさなかったようだ。われ
こそはと思う人たちが、三十~四十人集まったが、二、三升ぐらいの酒量では、
いちいち記録するに価しないと付記しているから恐れ入る。
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落語『試し酒』のマクラで語られることもある江戸時代の大酒飲み大会だが、なんとまぁ凄い飲みっぷりだろうか。六十歳台や七十歳台のお爺さん達のとんでもない酒量にも驚く。江戸時代にも“スーパー爺ちゃん”たちがいたんですなぁ!とてもとても常人には想像できない量であり、『試し酒』の久造さんでさえ、なぜか身近に感じられるではないか!

(3)誰でも医者になれた
Part5の「仕事と江戸ッ子いろいろ」から抜粋。
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 いま簡単には医者になれない。専門教育を受け、難しい国家試験にパスしな
ければならない。さらにある期間実地に勉強して、初めて開業である。その点、
江戸時代はいたってのんびりしたものだった。資格試験制度などなく、自分勝手
に誰でも医者になれた。だから医者としての知識・技術・人格などの優劣の差は
ひどいものだったのである。
 また当時は、医者に払う薬礼、つまり治療費についても何の規定もなかった。
医療行為に対する報酬は要求すべきものではないとされていた。受け取るのは
医療に対する代価でなく、医者に対する謝礼であった。だからその金額はあくま
で患者のほうの気持次第である。その結果、薬礼を多く出す患者を大切に扱う
医者が現れるのも人情として当然の成り行きだった。こうした風潮に対して、
有識者の眼は当時も厳しかった。
 国学者の平田篤胤(ひらた あつたね)は、「今時の医者というは、武士の子
なれば惰弱者、百姓なれば無精者、町人なれば商いをなし得ず、職人なれば
不器用者にて、口過ぎ(生計を立てること)をしかねる者が、医者にでもなろう
という、それを号(なづけ)て、でも医者」(『医道大意』、別名『志都の石屋
(しずのいわや)』)と批判した。
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『死神』の中で江戸時代の医者について少しだけ説明されることがあるが、本書を読むことで江戸時代の医者への周囲の見方や報酬に関し驚きをもって知ることができる。

たまたま抜粋した上記の文章には含まれなかったが、本書では川柳もふんだんに紹介されており、楽しみながら、江戸と江戸っ子の世界を知ることができる。引用されている書物や文献にも適宜補足説明があり、読者の視点に立った丁寧な本である。

繰り返しになるが、タイトルで少し安易な本の印象を与えるものの、実際の内容は最近数多く発行されている江戸関連本の中でも相当上位にランクされてよいと思う。667円(税別)という値段のコストパフォーマンスは非常に高い。
江戸通になる本_秋山忠禰
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# by kogotokoubei | 2009-08-08 14:45 | 江戸関連 | Comments(0)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛