噺の話

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昨年9月2日の談春独演会以来の、この会場。「あ~また帰りのエレベーターが混むなぁ」と思ってはいたが、結果は、それにとどまらないヒドサだった。参考に昨年の談春独演会のブログを少し長いが引用する。
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溝の口駅前の商業ビル最上階、12階にある、初めて行く会場。
開演午後7時5分、談春師が登場で拍手。
「なぜ前座がいないかというと会場の関係で8時40分には終わってくれ、
ということなので・・・・・・開演を6時半にしたらいいでしょう、と言われたけど、
近所のお客さんばかりではないから、来れないですよね」“その通り”と思う
と同時に、いや~な予感。
会場、あるいは会場の制約が主役になってはいけないのだ。
前座なしのネタは次の2席。

『お化け長屋』 (マクラ約15分、本編約30分:19:05-19:50)
『五貫裁き』   (マクラ約15分、本編約30分:20:00-20:45)
  ・
  ・
  ・
多摩川超えでの落語会は、そう多くはないのだ。特に田園都市線
沿線ではなおさらである。聞きたい落語家が、「あそこではやりたくない」
と思ったとたんに、落語ファンのチャンスも減る、ということを肝に銘じて欲しい。
志の輔師の『歓喜の歌』着想のエピソードとして、一部公共の会場に
おける対応のまずさが語られていたが、なるほどと共感できた夜だった。
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今日は開演6時半。たっぷり柳の三人の噺を楽しめるだろうと思っていたのだが・・・・・・。
演者とネタ、そして時間は次の通り。
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(開口一番 柳家さん市 寿限無 18:30-18:42)
柳家三三  道具屋        18:43-19:09
柳亭市馬  目黒のさんま    19:10-19:35
    (仲入り            19:35-19:46)
柳家さん喬 芝浜         19:46-20:26
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要するに、三三と市馬が25分、さん喬40分という持ち時間で、8:30までに終わるというプログラムだったようだ。開演当初は600人の会場、ほぼ六分の入り。仲入り前に七分程度に増えていた。

この会場と運営の問題点をいくつか指摘する。
(1)噺の途中で客を席まで案内して騒音を出す
人の歩く音が大きく響く構造にもかかわらず、開口一番は許すが三三が始まってからも、噺の途中でわざわざスタッフが遅れてきた客を席まで案内する。ドアの開閉、歩く音、非常に耳障り。
一席終わるまではガラガラの後方の席に坐って、替わり目で坐ってもらうようスタッフがお願いするべきでしょう。三三は噺の途中でこの件をイジッタが、その時の笑いと拍手が今日一番大きかったのではなかろうか。

(2)時間が短い
昨年の談春の時と同様、少なくとも8:40位までは終演を延ばすべきでしょう。さん喬師匠は8:30を意識する余り、端折りすぎで、せっかくの大ネタが落ち着かなかった。落語の一席における10分の重みを知って欲しい。

(3)エレベーターの管理不十分
昨年同様、スタッフは混むことが当然予想できるエレベータ管理をまったくせず客任せ。よって、無秩序な行列で混乱気味。最初に私が乗った時に定員オーバーにもかかわらず誰も降りようとしないので、「開」のボタンを押して待っていた私は降りた。しばらく待って次にエレベーターに最初に乗ったが、今度も定員オーバーのブザー。最後に乗った高齢の方が数名渋々、降りた。
お客さんにエレベーターの定員を考慮して並んでいただき、4台のエレベーターに順に乗っていただくよう誘導すべき。終演後に気持ちよく客に帰ってもらおうという気配りはないのだろうか。主催のロットが悪い、ということにしよう。

(4)チケット販売(座席の埋め方)の拙さ
さん喬師もマクラで「幕が閉まるのに26秒かかる」と言っていたが、とにかく間口が無駄に広く、一列目から30席以上ある。前のほうはその30席がほぼ埋まっていて、後ろのほうがガラガラになっていた。私はそれほど前ではなかったが、5列目位までの両端の席のお客さんは、さぞかし見えにくかったろうと思う。主催のロットが悪いのかどうか知らないが、席の埋め方がヘタすぎる。

というような訳で、とても噺の中身について何か書こうという気分になれない、今年最悪の落語会だった。もちろん、出演者も被害者である。この会場と、この主催者の会にはしばらく行く気がしない。
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by kogotokoubei | 2009-09-30 21:54 | 落語会 | Comments(2)
放送当日は外出していたこともあり、5時間の録画を今日じっくり見た。ともかくうれしい企画には違いない。貴重な落語九席を登場順(=枝雀の年齢の若い順)に放送日と番組名をリストにすると次のようになる。EMIから発売されているCDの収録日と会場もついでに加えてみた。上段の「TV」というのが9月23日の放送である。
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『軒づけ』
TV:1977年9月9日放送『金曜指定席』
CD:1994年6月2日『和歌山市民会館小ホール』
『天神山』
TV:1979年8月5日放送『納涼落語特選』
CD:1981年10月2日『大阪サンケイホール』
『かぜうどん』
TV:1981年4月2日放送『夜の指定席』
CD:1997年9月22日『姫路市民会館』
『上燗屋』 *CDは『首提灯』
TV:1981年5月4日放送『新緑寄席』*末広亭
CD:1987年5月27日『滋賀県立八日市文化芸術会館』
『鉄砲勇助』
TV:1982年5月3日放送『新緑寄席』*末広亭
CD:1986年10月2日『大阪サンケイホール』
『宿替え』
TV:1984年8月28日放送『東西落語フェスティバル』
CD:1984年3月5日『徳島郷土文化会館』
『こぶ弁慶』
TV:1984年10月28日放送『日曜招待席』*大阪厚生年金ホール
CD:1985年10月3日『大阪サンケイホール』
『貧乏神』
TV:1987年6月27日放送『演芸指定席』*大阪厚生年金ホール
CD:1985年10月3日『大阪サンケイホール』
『時うどん』
TV:1992年12月28日放送『落語特選』
CD:1988年12月26日『鈴本演芸場』
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 あくまで記録として並べてみただけで、それぞれの噺について何かコメントするつもりはない。もっと言うと、枝雀の噺はTVでもCDでもすべて好きだから。ただ、TVは音だけと違って想像力をかきたてないということと、どうしても生より映像が平面的になるのはやむを得ない。しかし、この手のことを言い出すと、また堀井さんの『落語論』などを引き合いに出すハメになり今回のテーマから脱線する危険があるので、ここまで。

*「落語はライブだ」という堀井さんの論について興味のある方は過去のブログをご参照ください。7月30日のブログ_堀井憲一郎『落語論』

 TVの「放送日」は収録日と同じではないが、少なくともそんなには時期的に離れていないと思う。TV放送日とCD音源の収録日とでもっとも期間が離れているのが、『軒づけ』で約17年の差がある。逆に時期が近いのが『宿替え』で、数カ月の間隔しか空いていない。

 私がiPodでもっとも聴いていると思う噺が『軒づけ』である。*『宿替え』といい勝負だと思うが・・・・・・。
 放送の昭和52年は枝雀が38歳。若い。枝雀を襲名して四年目、前年からはサンケイホールで独演会が始まったという昇り調子の落語は勢いがある。髪の毛も、まだある。しかし、意外にCD音源との17年の時間差をそれほどは感じなかった。もちろん、勢いや若さはTVでうかがえたが、この噺の本質的な部分は、実は三十台ですでに出来上がっていたのか、という思いで見ていた。

 最後の『時うどん』が53歳だから九席は15年間の推移を見ることになる。以前に「あの人に会いたい」についても書いたことだが、正直なところ元気な枝雀を「見る」ことのつらさは、まだある。
4月11日のブログ_あの人に会いたい 桂枝雀

 しかし、この番組は枝雀の高座だけではなく、南光、雀三郎、雀松、雀々、九雀、文我、紅雀といった弟子達の思い出話や彼らへの「枝雀らしい噺はどれか」という質問へのそれぞれの答えが楽しい。なかでは、雀々が語る『代書』の稽古の話が印象深い。弟子は総勢九人だったので、残る二人について少し補足。南光とほぼ同時期の入門で一番弟子の位置づけだった音也はすでに亡くなっていて登場のしようがない。破門になっていたが葬儀は元師匠である枝雀が中心になって執り行われた。む雀は脳出血から復帰後は落語ではなく寄席の鳴り物やハーモニカで活躍しているが、映像にはなかったものの、歌舞伎座での『地獄八景~』の後の伝説のカーテンコールの音声を収録していたということで、貴重な記録をこの番組に提供してくれた。

 小朝や昇太という一門以外の人たちの回想話も貴重な歴史の記録である。そして小佐田定雄さん、俳優の國村隼さん、松尾貴史さん、そして九代目正蔵のトークも楽しいアクセントとなって、映像を見ることによる淋しい思いをやわらげてくれる。小佐田さんがお元気なのが印象的。

 高座の映像以外でもっとも印象に残ったのは小朝だ。師匠柳朝のお供で大阪のトップホットシアターでの落語会で出会った枝雀落語の衝撃は、相当大きかったようだ。昼席で枝雀の『宿替え』で小朝が腹を抱えて笑い転げていたのを見て、本来はシャイでそんなことをしないはずの師匠柳朝が、対抗して夜席に『粗忽の釘』をかけ会場をひっくり返した、というエピソードも微笑ましい。また、柳朝が仲介して小朝が枝雀から『鷺とり』の稽古をつけてもらったという話も初めて知った。小朝の『鷺とり』、ぜひ聞きたいものだ。

 なかなか嬉しい番組だったが、最後に残った疑問が一つ。ナレーターは談春である必要があったのだろうか。あるいは、談春が希望したのだろうか。しかし、彼自身の枝雀への思いを語るシーンは登場しない。この点だけが妙に腑に落ちなかったが、それもNHKだから出来る贅沢なのだろう。

 何度か書いてきたことだが、NHKには東京落語会をはじめとする膨大な落語の映像ストックがある。今後もぜひ数多くの懐かしい噺家さん達の名演を放送して欲しい。志ん朝師匠の映像など、まだまだ出し惜しみだと思うのだ。今回の企画は、今後に大いに期待させてくれる。
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by kogotokoubei | 2009-09-26 14:30 | テレビの落語 | Comments(0)
6月6日の末広亭以来の寄席。末広亭で正朝師匠が休演なので、歌武蔵が主任の池袋か、伯楽師匠の鈴本か迷っていたら、なんと池袋に代演で伯楽師匠が出演。迷うことなく池袋へ。
演者とネタは次の通り。
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(開口一番 鈴々舎やえ馬 道灌)
三遊亭歌太郎    道具屋
ペペ桜井       ギター漫談
三遊亭歌奴     棒  鱈
橘家圓十郎     紙入れ
ダーク広和      奇  術
古今亭志ん馬    初音の鼓
いなせ家半七    教科書にかける情熱
大瀬ゆめじ・うたじ 漫  才
金原亭伯楽     猫の皿
(仲入り)
三遊亭多歌介    短  命
橘家文左衛門    千早ふる
三遊亭小円歌    三味線漫談
三遊亭歌武蔵    ぼやき居酒屋
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やえ馬(12:15-12:32)
いくら池袋が他の寄席よりも時間が使えるとはいえ、これはゆったりすぎ。「開口一番」であって「前座」ではない。もっとメリハリをきかせましょう。

歌太郎(12:33-12:48)
歌ぶとの名での前座時代から約二年ぶりだが、ずいぶん上手くなった。いなせな江戸弁でまくし立てる本寸法の噺家に育つ可能性を感じた。やえ馬のダラダラの後だけに、その差は際立った。

歌奴(13:00-13:15)
円歌一門会に近い顔ぶれなのだが、この一門の将来を背負うのは間違いなくこの人だろう。歌彦時代から評価は高かったが、いわゆる“様子の良さ”と達者な語り口が魅力だ。さん喬師匠も昔は寄席でよくかけたが最近は演る機会が減ったというこの噺、落語会を含め久しぶりりだった。「赤べろべろの醤油漬け」に熱唱(?)「十二か月」、この噺をしっかり15分で楽しませてくれた。さすがだ。

圓十郎(13:16-13:34)
お初である。結構いい味を出しているが、歌奴の後で少し損をした、そんな印象。

志ん馬(13:46-14:02)
昨夜も神宮球場で阿部のホームランを見てきた、という巨人ファンネタのマクラの後、最近は喬太郎で有名になった『初音の鼓』へ。まぁ、それなりの出来。そう言えば、この人は1996年にNHK新人演芸大賞を『宮戸川』で受賞している。喬太郎が『午後の保健室』で受賞するのは、その二年後である。師匠の先代志ん馬が亡くなった後は志ん朝門下だった人だ。野球焼けの顔を見ているうちに、他力本願でただ応援するだけの野球に時間を費やすくらいなら、あなた自身の落語にもっと時間を注いでみてはいかが、そんな思いが生じた。他人の好みや趣味に口を出すほど野暮なことはないが、そんな個人的でまったくつまらないマクラを聞かされたアンチジャイアンツファンの代弁として、あえて書かせてもらった。

半七(14:03-14:18)
黄色の派手な高座着で登場のこの人もお初。不思議な魅力がある。先代柳朝師匠に入門し、今は小朝門下。暴力団から足を洗った“高倉さん”が網走時代の訓練を生かし印刷所を始め、教科書を作るために役所(文部科学省)に出向いた際の担当者とのやりとりで構成されているのだが、結構イケル新作なのだ。この人、声はほとんど“坂東英二”なのだが“様子がいい”ので少し損しているかもしれない。小噺も含めオリジナリティは相当ありそうだ。ぜひ、別な新作も聞いてみたい。

伯楽(14:31-14:46)
マクラで志ん生師匠の思い出があり、素直にうれしかった。昭和14年生まれなので小三治師匠と同じ古希である。志ん五の代演で鈴本の主任とダブルヘッダー(表現が古い!)なのに、短いながらしっかり『猫の皿』で楽しませてくれた。とにかく「渋い」のだ。
談志、小三治、圓菊といった師匠と同様、元気な姿を見ることができれば幸せだ。

多歌介(14:55-15:19)
クイツキとして、少し長めのマクラで引っ張り本編へ。上手いし、笑いの勘どころを押さえている。この噺もニンである。初めてだが円歌一門の奥の深さのようなものを感じる人。寄席の席亭には重宝な噺家さんだろう。

文左衛門(15:20-15:41)
楽屋で歌武蔵と話していてネタを考えていなかったと、前座にネタ帳を持ってこさせた。結果としてこのネタとなったが、さて、この人の『千早ふる』はどうなるのかと思って聞いていたが、のっけから、通常は八っあんの指南役は“先生”や“ご隠居”なのに“兄貴”ときた。なるほど、この人らしい。「百人一首」という言葉を思い出す際のギャグや、時節柄のクスグリを含め楽しませてくれた。オチを歌武蔵にふるのも、ある意味でお約束。一朝師匠の代演として、お目当てのお客さんは喜んだのではないだろうか。

小円歌(15:42-15:58)
いつもながらお綺麗でしたし、「奴さん」も良かった。

歌武蔵(15:59-16:27)
いつものマクラから本編へ。柳家はん治のこの噺もいいが、酔っ払いの噺での歌武蔵の迫力は、尋常ではない。明日が千秋楽なので、ある意味で力を貯めたい日だろう。ネタもほぼ予想通りで、出来栄えも期待通り。しかし、主任の時くらいは、名前の読み間違いのマクラはいらないだろう。さすがに「ただいまの勝負」の出だしではなかったが、「主任だろ、池袋だろ・・・・・・。」と違和感をおぼえた。


今日は、芸なら歌奴、懐かしさなら伯楽、意外性で半七、なるほどそうきたか、の文左衛門、いいんだけどなぁ・・・・・・の歌武蔵という印象。

歌武蔵には、そろそろ定番のマクラをやめて欲しい。寄席での『親子酒』や長講『らくだ』など酔っぱらいネタの凄さを筆頭に、この人はもはや名前を売る必要もないし、決して「元相撲取り」という異色性を売りにしなくても十分に実力は認められているはず。もちろんその体つきは並ではないが。「この名をカブゾウと呼んだり、なかにはキャバクラ・・・・・・」というマクラは必要ないだろう。そもそもキャバクラとは読めんわい。たしかに“初歌武蔵”のお客さんもいただろうし、いつものマクラで笑うお客さんも多かったが、「サービス精神」のつもりで定番マクラと相撲界ネタのくすぐりを繰り返しているうちに、この人の次の飛躍がどんどん遅くなるように思うのだ。潜在力は体の大きさと同様相当なものだと思う。喬太郎、喜多八との落語会でも遜色なく競い合っている。今が落語界での「前頭」クラスとすれば「関脇」いや「大関」に早くなって欲しい。今日の文左衛門の『千早ふる』では三年で大関だったが、さていつ「もう十分に大関だ」と思わせてくれるだろうか、それが楽しみだ。
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by kogotokoubei | 2009-09-19 18:49 | 落語会 | Comments(0)
6月6日の末広亭での『夕立勘五郎』のインパクトが強かったので、あらためて志ん輔をじっくり聞くために入手したチケットだった。演芸場は今月二度目だが雀々・談春の二人会とは、客層が相当違うような印象。間違いなく平均年齢は今日のほうが高い。
さて、演者とネタ。
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(開口一番 春雨や雷太 熊の皮)
古今亭志ん輔  弥生町巷談
古今亭朝太   粗忽の釘
古今亭志ん輔  船  徳
(仲入り)
林家正楽     紙切り
古今亭志ん輔  居残り佐平次
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雷太(18:50-19:01)
帰宅してから調べたら、なんと芸術協会の前座さんのようだ。なぜ彼だったのかは不明だが、なかなか古典向きの雰囲気はある。そんなところが志ん輔の目に止まったかな。

志ん輔『弥生町巷談』(19:02-19:14)
このようなタイトルは付いているが、いわば、この会そのもののマクラともいえる部分。タイトルの由来は分からない。きっと第一夜に説明があったのだろう。ユニークだったのは、千秋楽ということで、ここで三本締めを行ったことと、プログラムには先に“居残り”でトリで“船徳”と印刷されているが、逆にすると報告されたこと。ネタ出しはされていて楽しみだったが、プログラムを見て「順番が逆だろう」と思っていたので納得。

朝太(19:15-19:33)
ずいぶん上手くなったなぁ、という印象。この噺のキーワードといえる「お前さんは落ち着いたら一人前なんだから」という女房の言葉と亭主の粗忽さの妙がこの噺の鍵だと思うが、なかなかの出来だ。八寸の瓦釘を打ち込んでしまったお隣りさんの家で繰り広げる粗忽な亭主ののろけ話で会場を沸かせた力量は、今後に期待させる。

志ん輔『船徳』(19:34-20:12)
こんな入り方もあるのか、という独創的な導入部から全編余裕を感じる語り口。船頭になりたいとグズル徳のオカマチックな可笑しさや竹屋のおじさんの驚く表情などに志ん輔ならではという味わいがある。欲を言えば船宿の女将の演出でもうひと工夫あってもよかったようにも思うが、高位安定というレベルの噺だった。『居残り~』が控えている。季節的にはギリギリ間に合った夏の大好きな噺を楽しませてもらった。

正楽(20:24-20:39)
やはり好きなんだなぁ、正楽さんの定番のネタと出来栄えの素晴らしさ。リクエストの「イチロー」を切っている際のBGM「私を野球に連れてって」の三味線が、今日の下座さん達の高いレベルを示していた。鈴本夏まつりの「ひまわり娘」の三味線を思い出した。

志ん輔『居残り佐平次』(20:40-21:25)
帰宅して記録を調べたら、二年前の同じ9月15日に朝日名人会でこの噺を聞いている。ブログを始める前だったが、菊之丞『酢豆腐』、トリの権太楼『質屋庫』と併せて心地よいイメージが残っている。今夜も期待通りの素晴らしい志ん輔ワールドを堪能した。師匠志ん朝版の基本は踏襲しながらも、志ん輔落語としての風格のようなものも感じさせてくれた。やはり、こっちがトリで正解である。マクラでサゲの「おこわにかける」という言葉の意味を説明する際に、円生師匠の解説を引き合いに出したのだが、なぜか可笑しかった。


鈴本の席亭が預かっている六代目志ん生の候補が志ん輔である、という落語雀の噂がある。もし継ぐなら早いうちが良いと思いながら地下鉄の駅に向かった。56歳、名前に負けないだけのものはあるだろうし、まだまだ元気だ。先代馬生が弟に譲るつもりでいたのに、その志ん朝は自分の名前を歴史に残した。結果、志ん生という名跡は長らく偉大な五代目を指すこととなった。四代目も凄かったらしいし、初代だってもっと語られていい人だと思う。早いうちに襲名しないと、時間を経れば経るほど襲名しにくい状況になるのではなかろうか。五代目の記憶が薄れた頃に、「大名跡の復活」として誰かが襲名するとするなら、この名の復活はあと数十年先になりそうな気さえする。

志ん輔、いっそ志ん生を継いでしまえ、と思うのだ。文楽、小さん、・・・・・・。大きな名前を継いだ現役への批判めいた騒音は、最近はあまり耳にしない。三笑亭可楽という職業落語家の元祖の名前は脈々と継がれているじゃないか。先代への遠慮が強いまま落語の歴史的名跡が途絶えることのほうが惜しい。何度も書いているが春風亭柳枝も近いうちに誰かが襲名して欲しいという思う。いっそ圓朝という伝説になりつつある名跡も、初代柳枝の弟子で圓朝のライバルだった談洲楼燕枝(三代目が没した1955年以降空いている)も、揃って誰かが継いではどうだろうか。この案には異論も数多あろうが、五代目志ん生については、まだ語れる生き証人がいる。先代の記憶が少しでも残っているうちに、その思い出話を襲名披露で語れる人が健在なうちに継いでもらいたい、と帰宅の混んだ電車の中で考えていた。
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by kogotokoubei | 2009-09-15 23:22 | 落語会 | Comments(0)
「らくだ亭」の第23回目は、サブタイトル“脱力系爆笑競演”と銘打たれて、このお二人。最近は独自の古典に挑戦していると噂の桃太郎と、今もっとも個人的に贔屓の鯉昇の組合わせに魅かれた。
演者とネタは次の通り。
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(開口一番 昔昔亭A太郎 たらちね)
昔昔亭桃太郎  裕次郎物語
瀧川鯉昇     蒟蒻問答
(仲入り)
瀧川鯉昇     ちりとてちん
昔昔亭桃太郎  寝  床
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A太郎(19:00-19:13)
後で師匠桃太郎のマクラで判明したが、大学でフットボールをしていたとのこと。なるほど体育会系で、まあまあのイケメンでもある。話しぶりは前座らしく大きな声ではあるが、インドア系の多い落語界で、さてどこまでいけるか今後に期待しましょう。

桃太郎『裕次郎物語』(19:14-19:36)
まずは定番ネタ。とはいえ途中にはさんだ芸協イジリのネタで、かつて新宿厚生年金会館の楽屋で志ん朝に浅草で演ったこのネタを誉められた(志ん生が大の裕次郎とプレスリーファンだった!)が、隣にいた米丸(当時芸協会長)が、「誉められていい気になるなよ」と冷や水を浴びせた、という話はご本人曰く初披露とのこと(?)。加えて、師匠柳昇から「誰のファンだ?」と聞かれ「裕次郎です」と答えたところ「お前は弱虫だから強い者に憧れるんだ」というネタを含め「落語協会は志ん朝師匠でさえ若い者を誉めて伸ばそうとするが、芸協は・・・・・・」という筋書きだが、今はどうなんだろうと思ってしまった。

鯉昇『蒟蒻問答』(19:37-20:12)
いつものごとく高座に坐ってからの何とも言えない間が、まず笑いを誘い出す。黙っていて自分の空間を作り出すという意味では、今日稀有な噺家さんだ。お決まりのマクラも、何度聞いても笑える。六月の神奈川県民ホールでの一席目もこのネタだったことを思い出した。生でなければ楽しさを味わえない落語の代表格。やや後半は急ぎ足であったが、“初鯉昇”のお客さんも多かったろうし、それを意識したネタで、「ご挨拶」代わりという感じ。少し余力があったように感じたので、二席目が逆に楽しみになった。

鯉昇『ちりとてちん』(20:27-20:57)
なるほど、これで来たか!という感じ。何度も書いているが、この人に食べる仕草のあるネタをやらせたら、ちょっと右に出る者は今いないと思う。そして、このネタは“鯉昇食べ物ネタオンパレード”とでも言うべきもので、ともかく独自のクスグリを含め会場は爆笑の連続。ネタが分かっていても笑える、という典型である。いろんな意味で、桃太郎は相当このネタを意識して次のトリを迎えたはずだ。

桃太郎『寝床』(20:58-21:35)
ともかく後半は涙を流して笑い続けていた。鯉昇を十分に意識した“食べ物”シーンの連続技や、長屋の住人や使用人のみなならず、高田文夫、犬、猫、鼠、はては蛇まで旦那の義太夫から逃げ出すという設定や、それぞれの逃走方法の意外性に会場も私も爆笑するしかなかった。初めて聞く桃太郎版古典だったが、期待以上というか、何か“革命”的なものを感じた。


鯉昇の二席が桃太郎の『寝床』に結果として喰われたようにも見えるが、鯉昇を程よく意識した結果の『寝床』であったとも言える。もちろん、どちらも十分に楽しませてもらった。桃太郎は11月に、さん喬・権太楼との長講三人会で『らくだ』を演る予定だが、「もう頭では覚えちゃった。でも稽古はまったくしていない」と言ってのける。この人の可能性は、今大きく広がっているような気がする。

七回忌を迎えた柳昇の門下である今日のお二人や昇太など、古典でも新作でも何か革新的というか「他の噺家とは違うぞ」という強い意志と際立った個性を感じることができて、非常に楽しい。間違いなく落語協会に堂々と対抗できる芸協の“リーサル・ウェポン”(春風亭百栄が鯉昇を喩えた言葉!)と言えるだろう。
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by kogotokoubei | 2009-09-08 23:30 | 落語会 | Comments(0)
この組み合わせは興味があった。とにかく雀々の会には行こうと思いつつこれまで都合が合わなかったし、談春は六月の喬太郎との二人会で相対比較すると喬太郎に軍配を上げざるを得ない内容だったので、枝雀一門との二人会ならどうなるかという期待もあった。会場はほぼ満員。次のような演目だった。
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雀々・談春  ごあいさつ&対談
雀々      田楽喰い(寄合酒)
談春      三軒長屋
雀々      夢八
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ごあいさつ&対談(18:35-18:57)
とにかく楽しいオープニングだった。特に、雀々の師匠だった枝雀のエピソードや立川流の上方への大胆な進出ぶり、談志家元と米朝一門との奇縁など楽しい“雑談”を楽屋で聴いている雰囲気。内幸町ホールは千代田区にあるのに米朝事務所はフリーパスと談春が突っ込めば、雀々も負けずに上方で一日三回同じネタで勝負する志の輔のことを、「考えられない」といじる。もちろん談春は、「志の輔アニさんはパルコで一ヶ月同じネタで満員になる」と返す。たしかに、同じネタを繰り返すあのやり方は上方では考えられないだろう。枝雀と談志家元の病気のことも二人は笑い話にするが、さすが弟子であり噺家なのだ。そこには、師匠への思いも十分に伝わっている。二人は場内の時計を見て慌てて切り上げたが、もう少し聞きたかった程であった。

雀々『田楽喰い』(18:58-19:18)
ネタは『寄合酒』としたいところだが、昨今の『寄合酒』では肝腎な「ん廻し」をほとんど演じないことと、この名か、そのまま『ん廻し』とする上方流呼称を尊重。さすがに火事で半鐘の「じゃんじゃん」で田楽を稼ぐところまでは演らなかったが「ん廻し」の可笑しさは十分に披露した。テレビで雀々にはよく出会っていたが、初めての生は迫力が違う。前座噺でここまで会場を沸かす技量は、並大抵ではない。談春への刺激になったことは間違いない。

談春(19:20-20:08)
今年2月14日の麻生市民館で聞いた内容から少し演出が変わっていたが、時間を少し詰めるためと、談春落語が生きていることの証だろう。オープニングの対談では「一時間も演りませんよ」と言っていたが、約五十分。対談が長引いた分だけカットしたような印象。途中の辰のべらんめい調の言い立て風の部分を含め、ほぼ期待通りなのだが、談春の場合はこの位は当たり前と思われているだろう。次に聞く時にはもう少し“緩急”というか、“奥行き”のような何かが欲しい、という贅沢な感想を持った。やや印象が“平坦”なのだ。雀々は、テレビと生では、ライブの凄さ、可笑しさが際立つのだが、果たしてこの『三軒長屋』はテレビと生でどれほど差があるだろう、という妙な思いで聞いていた。もちろん、ライブと放送を比べようもないのだが、“安定”とか“上手さ”というキーワードだけでなく、“意外”とか“劇的”という表現をつけられる談春の高座にも出会いたいし、そういった力量はもちろんある人だ。出来はもちろん良いし、流石と思わせる部分もいくつもあった。しかし、もっとこの人には期待してしまう。本寸法を極めようとして、今後次第に枯れていき、最後に円生のようになることを彼のファンは願ってはいないはず。誰でもない、「談春落語」を期待しているのだ。

雀々『夢八』(20:20-20:50)
これぞ上方、と言えるネタで会場は沸いた。とにかく騒々しいネタだが、主人公の夢見八兵衛の体を張った演技と「伊勢音頭」の熱唱。サゲは時間の関係もあるのだろうやや端折ったが、それでも雀々ワールドを堪能した。落語でしかありえない不気味かつ荒唐無稽、そしてオカルト的な噺なのだが、これだけやかましく、そして可笑しく演じられると、「どうも参りました」と素直に頭を下げたい思い。


談春も十分に持ち味を出したが、ホストである雀々の上方、いや枝雀一門ならではの二席は強烈だった。しかし、どちらが勝ったか、という思いにさせる二人会ではなく、東京と上方どちらもいいでしょう、と印象づける見事な二人会だったように思う。今年はできる限り上方落語を聞こうと思っているが、今のところ、今日の雀々が私の中ではダントツである。東京では権太楼師匠、そして直系ではこの人が、もっとも枝雀のDNAを今に伝えているかもしれない。二人会、次の相手は志らくとのこと。談春には、雀々(枝雀一門)との交流で、次のステップに進むきっかけになることを願っている。

米朝事務所については、6月19日に新百合ヶ丘駅前の麻生市民館で開催された三三・吉弥ふたり会の感想で少し苦言を呈したが、これだけたっぷり演ってもらえるなら文句はない。12月4日(金)にはその麻生市民館で「桂枝雀生誕70年記念落語会」が予定されている。米朝師匠に春団治師匠、そして南光に加えて雀々も出演予定だ。なんとかやりくりして行きたいものである。やはり、枝雀一門は良いのだ。
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by kogotokoubei | 2009-09-02 22:55 | 落語会 | Comments(2)

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by 小言幸兵衛