噺の話

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落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。

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駅前での選挙演説の“騒音”から逃げるように会場へ。二年前の4月に会議室で開催された遊雀と白酒の会以来である。開演前に主催の日本文化情報会の須加さんからご挨拶があったが、南大沢寄席としては二年前の第30回開催以降久しく休んでおり、捲土重来を期したのが今回の第31回とのこと。しかし、500席の会場は満席とはいかず、七割強の入り。採算がちょっと心配。しかし、菊之丞を中心としたかつての会の会場は会議室でパイプ椅子だった。遊雀の『初天神』を唾がかかるかと思えるような席で聞き笑い転げたことが、今や懐かしい。日本文化情報会の現在の主要落語会は八王子で開催されているが、日曜が多く、20年来の仲間と毎日曜はテニス(とアフターテニス)と決めている私は、好みの噺家さんの名前が並んでいるのを眺め、いつも歯軋りしている。南大沢が土曜開催で復活してくれるのであれば、できる限り足を運びたい。

さて、演者とネタ。
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(開口一番 柳家おじさん  子ほめ)
柳家ほたる   反対車
柳家甚語楼  狸の賽
柳家権太楼  火焔太鼓
(仲入り)
古今亭菊之丞 天狗裁き
柳家権太楼  代書屋
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おじさん(14:04-14:15)
なんともユニークな名である。一昨日の立川らく兵などに比べたら、決しておじさんぽくないが・・・・・・。残念ながらも声がハスキーというか、枯れ気味。声は大きく出そうという努力はわかるが、持ち味としては少し損であろう。しかし、志の輔のことを考え、がんばりましょう。

ほたる(14:16-14:32)
前座時代は数多く聞いた気がするが二つ目になってからは、たぶん初めて。ずいぶん上手くなった。この噺で思い浮かぶのは談志家元や圓蔵。いずれにしても二つ目が演じることは、あまりないはず。しかし、若さを生かした座布団上での「ジャンプ」を含め、会場を沸かせっぱなしだったことが、出来野よさを物語っている。見た目を裏切るブラックなクスグリを磨いていけば、見た目(メタボ系?)からも桃月庵白酒と同じような路線になるような気もした。将来を期待させる芸だった。

甚語楼(14:33-14:53)
ほたるとネタが逆だろと思わせる前座噺だが、良かった。先日の鈴本から日が空いてなく、これで顔と名前を覚えられそうだ。将来寄席の重要な中堅にはなり得る。しかし、もう一皮向ければ、寄席で欠かせない一朝師匠のような存在になる可能性もある。そんな印象を受けた。

権太楼『火焔太鼓』(14:54-15:28)
選挙と酒井法子ネタのマクラから会場はエンジンがかかりっぱなし。たぶん定番ネタだろうとは思ったが、まさか『火焔太鼓』とは思わなかった。権太楼版の特徴はいくつかあるが、もっとも効果的なのは甚兵衛さんと侍との会話で鸚鵡返しを上手く使って笑いを倍増させるところだろう。『青菜』もそうだが強い女房と少しとぼけた旦那を演じさせた時の表情を含めた演技は、あまりにもオリジナリティに富んでいて、そして笑わせてくれる。

菊之丞(15:43-16:08)
この人のこの噺は初めて。一昨日の『船徳』ではないことだけ願っていたが、うれしい誤算とも言えるネタに出会えた。一月の青森での保育園での落語会のネタは今年の定番でもいえるが、会場の雰囲気に合わせて選んだのだろう。丁寧な語り口で、ところどころで伏線を散りばめながら、噺を盛り上げた技量に、あらためて感心した。

権太楼『代書屋』(16:09-16:35)
これこそ定番である。しかし、会場は終始笑いっぱなし。主任以外の場合の寄席より少し長い分だけマクラも長く、ところどころの演出に工夫もこらしていたが、ともかく「安定」した笑いで、会場に大勢いたと思われる“初権太楼”のお客さんを圧倒した。私の隣の席の中年女性など涙を流しながら笑っていた。これぞ“権太楼ワールド”である。個人的には、次のテニス仲間との合宿の余興でこのネタをかけるつもりなので、大いに勉強になった。微妙な“間”と計算され尽くされた緩急の演出の凄さが、演じる観点から見ているとよく分かった。


主催者の須加さんの強い思い入れと、東京都心を離れた地域の落語ファンの気持ちを、権太楼師匠が十分に汲み取ってくれた、そんな落語会だった。まさに、“これぞ権太楼落語”という爆笑ネタを二席たっぷり。お客さんは団体で来ていた女子高校生を含め大満足だったのではなかろうか。以前に八王子での喬太郎・菊之丞の会の時は、珍しく連れ合いと一緒だった。南大沢が継続するためなら、カミさんに限らず知り合いにもぜひ声をかけよう、とそんな思いで会場を出た。大変でしょうが、ぜひ続けてください。
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by kogotokoubei | 2009-08-29 18:32 | 落語会 | Comments(0)
これまでは夕刊フジの冠だったが「産経新聞」の名に替わっての第一回である。
演者とネタは次の通り。
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(開口一番 立川らく兵 初天神)
林家彦いち      権助魚
立川志らく      お化け長屋
(仲入り)
古今亭菊之丞    船徳
柳家三三      髪結新三
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開演前にこの会の企画・制作を担当する立川企画の松岡さん(談志家元の弟さん)から、年内休業と発表のあった談j志家元の状況報告があり、9月にこの会で予定していた独演会については二~三日中にどのような対策をするか決めるとの説明があった。「来月の独演会のチケットを持っている人は?」、との問いかけに20~30名の手が上がったが、きっと地元でこの会の常連さんなのだろう。プログラムを見ると、この会の特別共催として「kissサポート財団」(財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団)という名がある。産経グループ、港区の落語愛好家、そして立川企画の協力でこの会は成り立っているようだ。
*家元がゲスト出演するはずだった10月の桂文我の会を予定しているが、「ぴあ」では市馬と志らくの名に替わっていた。

らく兵(19:03-19:15)
名前の由来は旧日本兵に似ているから、とのこと。なるほど、時代(?)を感じさせる風貌である。刈り上げた頭を含め古今亭菊六を思い出した。噺のほうも、志らくの弟子にしては古典の香りがして、私には好ましい雰囲気。今後に期待したい。

彦いち(19:15-19:37)
らく兵が終わってから登場まで一分を要さないこの人らしい機敏な動き。さすが体育会系。最初に「悋気」のキーワードをふったので、何の噺か思いをめぐらしていたが、その後海外での高座の思い出話に進み、ネタが何になるか若干グレーになったものの、また強引に悋気を持ち出してこの噺に。とはいってもこの人の場合は、この力技(本人もよく使うキーワード)が魅力でもある。主人公の権助が光る。久しぶりに見たが、SWAで揉まれていることもあるのだろう、高座にずいぶん余裕が出てきた。

志らく(19:38-20:04)
久しぶりの志らく。昨年9月の「にぎわい座」以来なのでほぼ一年ぶりである。冒頭家元のことを少しだけ笑いにして触れたが、酒井法子ネタを含めマクラは3分位で本編へ。貸家を借りに来る二人目の江戸っ子が主役と言える噺だが、この人らしい早口のべらんめい調が似合う。にぎわい座の百席の時は、結構プレッシャーを感じての緊張感を醸し出しているが、こういう会では余裕があり、安心して楽しめた。一昨年の9月に夕刊フジの名で行っていたこの会での『茶の湯』ほどは志らくワールドとしてのオリジナリティはなかったものの、「アリしか喰えないアリクイの気持が分かるか」などのクスグリはこの人ならではである。

菊之丞(20:16-20:40)
今日は菊之丞の日だったと思う。円朝まつりのネタ中心のマクラから、この人では始めて「船徳」を聞いたが、良かった。もちろんキャラクターからして若旦那ネタがニンなのは間違いないのだが、本寸法でありながら独特の色気と無理のない工夫が施され、気持ちよく会場を大川の船上に連れて行ってくれる。傘を持っているのが船宿に誘うほうである、というのは通常と逆なのだが、それもまったく違和感がない。最後に友人を背負って川を渡ろうとした時に船頭が先におぶさろうとするクスグリは小朝版からいただいたのかどうか不明だが、演出としては今風で良い。船頭が歌う時に、客に「柳亭市馬か」と言わせるあたりも落語ファンにはうれしいギャグ。袖で控えていた三三が、ネタがネタだけに場内の笑いの渦に苦笑いをしていたに違いない。

三三(20:41-21:10)
さすがに先日聞いた『三枚起請』は勘弁、と思っていてネタは違ったものの、まさかこの噺は想像していなかった。30分で通しは無理なので、大親分の弥太五郎源七が深川の新三の家に乗り込もうというところで終わったが、マクラもなく一気にそこまで突っ走った。以前に『子別れ』を今風の内容に脚色した人として紹介した初代春錦亭柳桜が、この噺の元になる人情噺『白子屋政談』の作者。今日の噺家さんが手本となる音源は六代目円生であろう。師匠談志家元も好きなので立川流は良く演る。また五街道雲助も結構得意にしている。笑いは少なく、歌舞伎のように魅せて聴かせる類の噺。三三は聴かせる技量はもちろんあるし、チャレンジ精神も背景にあるだろうが、どうも気になることがある。先輩噺家として、三三は談春に相当思い入れがあるのだろう。だから、歌舞伎や講談ものを多く演じるのは、談春(そして結果として家元)の強い影響を感じる。しかし、三三の師匠は小三治である。小三治や大師匠の柳家小さんの最大の持ち味は、滑稽噺であることを忘れて欲しくない。たしかに、円生の得意だった噺はつい最近まで埃をかぶっていた噺も多く、談志家元経由で談春が多く手がけており、それを手本に三三がトライする、ということは悪くはない。だが、私は三三の滑稽噺をもっともっと聞きたいのだ。このへんは“好み”の問題もある。今日のこの噺を高く評価する人もいるだろう。決して悪くなかったし、「上手かった」とさえ言える。しかし、私は三三の持ち味がこの方面にばかり傾きそうなのが気がかりなのだ。


どんなネタをかけるかは噺家さんそれぞれの思いがあり、笑いの少ないネタへのチャレンジがあってもいいだろう。しかし、落語は客を緊張させる芸能であっては困る。仕事や家事などを忘れ、日々の心身の疲れを癒す大衆芸能であることが第一だと思う。志ん生は怪談噺でも独特のクスグリで場内を爆笑させている。もちろん笑いが少なくとも、肩肘張らずに、その芸に堪能できれば、それはそれで楽しい。そんなことを考えながらも、「今日は菊之丞の日」と思いながら残暑の厳しい赤坂の街を地下鉄の駅に向かった。
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by kogotokoubei | 2009-08-27 23:01 | 落語会 | Comments(0)
5月30日のブログで、今年から価格改訂(値上げ)をした「朝日名人会」が、どのような顔合わせで今年度(4月から来年3月まで)の顔合わせを考えているか、ということについて私見を書いた。
2009年5月30日のブログ

その時点での終了した出演者と出演予定者は、ホームページに次のように記されていた。
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第88回終了 4月18日(土) 桂文珍・入船亭扇遊・柳家喬太郎・桂平治・立川志の吉 
第89回終了 5月16日(土) 三遊亭圓窓・柳家権太楼・林家たい平・柳家三三・三遊亭きん歌 
第90回   6月20日(土) 柳家小三治・立川志の輔・古今亭菊之丞・柳亭左龍・入船亭遊一 
第91回   7月18日(土) 柳家さん喬・金原亭馬生・瀧川鯉昇・柳家喜多八 ・三遊亭金兵衛
第92回   9月19日(土) 五街道雲助・柳亭市馬・柳家花緑・柳家三三・柳家三之助
第93回   10月17日(土) 桂歌丸・桂文珍・三遊亭小遊三・三遊亭金時・春風亭一之輔 
第94回   11月21日(土) 柳家さん喬・柳家権太楼 ほか
第95回   12月19日(土) 柳家さん喬・柳家小さん ほか
第96回    1月16日(土) 柳家権太楼 ほか
第97回    3月20日(土) 柳家小三治・立川志の輔 ほか
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そして、今日時点の情報は次のようになっている。
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第88回終了 4月18日(土) 桂文珍・入船亭扇遊・柳家喬太郎・桂平治・立川志の吉 
第89回終了 5月16日(土) 三遊亭圓窓・柳家権太楼・林家たい平・柳家三三・三遊亭きん歌 
第90回終了 6月20日(土) 柳家小三治・立川志の輔・古今亭菊之丞・柳亭左龍・入船亭遊一 
第91回終了 7月18日(土) 柳家さん喬・金原亭馬生・瀧川鯉昇・柳家喜多八 ・三遊亭金兵衛
第92回   9月19日(土) 五街道雲助・柳亭市馬・柳家花緑・柳家三三・柳家三之助
第93回   10月17日(土) 桂歌丸・桂文珍・三遊亭小遊三・三遊亭金時・春風亭一之輔 
第94回   11月21日(土) 柳家さん喬・柳家権太楼・入船亭扇遊・橘家圓太郎・五街道弥助
第95回   12月19日(土) 柳家さん喬・柳家小さん・柳家喬太郎・古今亭志ん丸・金原亭馬治
第96回    1月16日(土) 柳家権太楼・五街道雲助・古今亭志ん輔 ほか
第97回    3月20日(土) 柳家小三治・柳家三之助 ほか
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3月の会における大きな相違点が見逃せない。志の輔の名前が消えた。
たしかに、ホームページには次のような注釈は書いてある。
「 出演者は都合により変更になることもあります。」

5月30日のブログで私は、柳家小三治・立川志の輔という超目玉企画が値上げでも年間通し券応募者の確保を含め来場者のつなぎとめとしての戦略(?)であろう、といったニュアンスのことを書いた。
6月には、予定通りに“ゴールデンコンビ”は実現したようだ。しかし、3月は、どうも怪しくなってきたようだ。「都合により変更」は、この手のイベントにはつきもので、それはしょうがないが、志の輔目当てで通し券に応募して当選して料金払い込み済みの落語愛好家や、3月20日という期末の大事な時期に予定を空けてチケット入手の幸運を祈っているファンに対し、もう少し説明が必要ではないのだろうか。他の噺家さんとは、少し事情が違いますよ。パルコを一ヶ月近く満員にする人であり、今もっともチケット入手が難しい噺家さんだ。何か他の予定をどうしても優先せざるを得ないのなら、はっきり「白黒(シロクロ)」つける注釈があっていいいだろう。プライドの高い“朝日”だから、そんなことをするとは思わないが、あえてこのことは言っておきたい。

もちろん、この「朝日名人会」が、小三治や志の輔といった特定の噺家さんの番組ではない、ということは百も承知で二百も合点である。しかし、それにしては、顔ぶれが偏ってるんじゃありませんか!
5月30日のブログで、私はこんなことも書いた。
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顔ぶれを見ると、同じ名前が多すぎるなぁ、というのが素直な感想。さん喬師は好きだが、
11月と12月が連続というのは、番組編成上でいかがなものか・・・・・・。
桃月庵白酒や古今亭菊志ん、三遊亭兼好や歌奴は11月以降に出演するチャンスがあるの
だろうか、なども気になる。
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雲助ファンには9月に続いて1月にも出演ということは朗報だろう。同じく9月出演の三之助が、真打昇進の年に師匠がトリの会で出演するのも、分からないでもない。
しかし、どう考えても出演者のバリエーションが多彩であるとは思えない。今もっとも光っている若手・中堅の欠落が多いように思う。まさか出演依頼したのに断ったわけではあるまい。

選者の京須さんは、もしかしたら下記のような、かつてのホール落語会のように固定メンバーでの落語会を模索しているのだろうか。
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「東横落語会」(プロデューサー:湯浅喜久治)
 桂文楽、古今亭志ん生、三遊亭圓生、桂三木助、柳家小さん

「精選落語会」(プロデューサー:矢野誠一)
 桂文楽、三遊亭圓生、林家正蔵(彦六)、三笑亭可楽、柳家小さん
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時代も落語家の人数も、そして“名人”の人数も違う今日、ホール落語会の顔ぶれは多彩であって欲しいし、そうならざるを得ないと思うのだ。京須偕充プロデューサーが、この会をどう導こうとしているのか、どうも分からない。以前のブログにも書いたのでくどくなるが、落語研究会と朝日名人会、この二つとも同一人物がプロデュースしていることが問題の根源であるように思う。

権威や歴史を売り物にする落語会だからいろいろとしがらみもあるのだろう。そろそろ、堀井憲一郎さんあたりが主宰する新機軸のホール落語会があってもよいとも思う今日この頃である。
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by kogotokoubei | 2009-08-25 18:24 | 落語会 | Comments(0)
一昨年は初日(さん喬『五人廻し』・権太楼『井戸の茶碗』)に行くことができたが昨年は都合がつかなかった。今年はこの会に一日は行こうと思い、権太楼『青菜』、さん喬『百年目』に照準を合わせていた。なんとか都内での仕事を終えて到着したのがロケット団の途中。
演目は菊之丞から次の通り。
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古今亭菊之丞   替り目
柳家甚語楼     夏泥
鏡味仙三郎社中  太神楽
桃月庵白酒     短命
(仲入り)
柳家小菊      音曲
柳家権太楼     青菜
林家正楽      紙切り
柳家さん喬     百年目
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菊之丞(18:17-18:32)
久しぶりだが、やはりこの人もこのネタも寄席に似合う。大師匠志ん生から師匠の円菊に流れる古今亭の寄席の代表作を健気に継承しようという静かながら熱い意気込みを感じる。また、この噺を聞くと「寄席に来たなぁ」とうれしいものだ。あらためて「声」の良さに聞き惚れた。そして、江戸の香りがして和服が似合うところは、三三とは好対照(!)である。*あえて比較することもないか。

甚語楼(18:33-18:49)
テレビでは見たことはあるが寄席では初めて、かと思ったら手帳には一昨年のこの会で『強情灸』を聞いたとメモされていた。どうもその時の印象が薄かったのだが、この噺は旬な噺だし、この人にはニンだと思う。端正な顔立ちで非常に真面目な印象だが、ある意味では噺家としては損な風貌かもしれない。今後は本寸法でいくのか、師匠のような爆笑派に変身を図るのか、底力はあると思うので先を楽しみにしよう。年は上だが三三と同年入門で真打昇進も一緒だった人。頑張って欲しい。*また三三か。

白酒(19:01-19:22)
この人のこの噺に出会うことは多い。マクラの電車での女性の化粧の話でネタを察することができたが、いつ聞いても素直に笑える。マクラで使う英語のクスグリ(Good Luck!)を含め、私にとって、今もっともセンスを感じる噺家さんだ。化粧で化けそこなった女性に対する毒のあるひと言の受け方で会場の平均年齢を察することができるが、結構若い女性が大笑いしていた。噺そのものは見た目とは別な都会的スマートさがありながら、演出上はその風貌を最大限に生かす。最近は新作へもチャレンジしているようだし、今もっとも目の離せない若手の一人であるのは間違いない。

権太楼(19:50-20:15)
「この後、百年目ですからあっさり演りましょう」という文句と、たっぷり大爆笑の噺とのギャップが、夏の鈴本を満員にするライバル同士の切磋琢磨の表れなのだろう。期待以上に良かった。落語愛好家として先輩である私の知り合いが、「権太楼は『青菜』だよ!」と豪語していたのだが、これまではテレビでは見ていたものの、生では初めて。特に興味深かった権太楼流の演出で際立っているものの一つが、いわばこのネタの重要な伏線部分で、出入り先の主人と奥さんとの“かくし言葉”でのやりとりに「いぃ~っすねえ!」と感心(感動!)するリアクション。そしてラストで植木屋の女房が押入れから出るシーンへの期待と、その“熱~い”演技にも安心して身を任せ笑うことができた。

さん喬(20:29-21:15)
長井好弘さんが、さん喬を評するキーワードの一つとして「くどさ」をあげていたが、この大作においても、それが生かされていた。旦那が番頭を諭す時の「無駄だと思うかもしれないが南縁草である若い者たちに露を下ろしてやっておくれ」という言葉の「無駄だと思うかもしれないが」のリフレインが、この噺の基調となっている。弟子への指導などでの経験などから、さん喬自身がもっとも訴えたいフレーズなのだろう。
向島での狂態を旦那に見つかってしまった後に、旦那の聞こえよがしの鋭い言葉や他の使用人に言う小言が、番頭の胸に「ズキーン」と響くという丁寧な演出もこの人ならではのものだろうが、効いている。あっと言う間の45分。堪能した。

長井好弘さんのさん喬評を補足すると、『新宿末広亭のネタ帳』に次のように記されている。
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 さん喬の落語の魅力は、「長くて、くどくて、クサい」ことだ。「なんだ、
全然ほめないじゃないか!」というさん喬ファンのお叱りが聞こえてき
そうだ。でも、ぼくは、本当にそう思っているのである。
 「長い」から、いつまでも聞いていられる。「くどい」くらいしっかりと
情景描写をしてくれるので、落語の情景が目の当たりに浮かんでくる。
そして、親子、恋人、師弟、友情といった、人と人との結びつきを「クサい」
ほど濃厚に演じてくれるので、気持ちよく泣いたり、笑ったりできるので
ある。さん喬落語の三か条「長い、くどい、クサい」の威力を、わかって
いただけただろうか。
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長井好弘_新宿末広亭のネタ帳

まったく、その通りであり、長講『百年目』は、この三か条の魅力が十分に発揮される噺だった。

紙切りの正楽師匠がリクエストの「ひまわり」を切っている時、下座さんが伊藤咲子の「ひまわり娘」を三味線で弾いてくれていると、「三味線でこの唄を聴くのは初めてで、うれしい」と首を振りながら言っていたのが、妙に印象に残る。いいんだよね、正楽さんも。落語協会の寄席には欠かせない人です。

久しぶりの鈴本だが、この“祭り”は良い。寄席を愛し客を大事にしている落語協会の看板二人が、堂々と十日間に渡って暑い夏に勝負を挑み、その大先輩に続こうとする中堅や若手も精一杯の芸を披露する。日常の寄席とは違う心地よい緊張感がありながら、やはりその空間と時間は寄席。浴衣姿の女性が多く、会場の雰囲気も良かった。来年も楽しみになった。
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by kogotokoubei | 2009-08-18 23:46 | 落語会 | Comments(0)
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新人物往来社の新人物文庫という、いわばマイナーな書店から7月に発行された。1983年に『日本史おもしろ百貨店-江戸と江戸っ子-』のタイトルで単行本として発行された内容を改題し再構成しての文庫化。落語そのものに関する本ではないので、カテゴリーは「江戸関連」ということで取り上げる。しかし、落語ファンにぜひお奨めの本。

書名で損をしていると思う。昨今の“江戸ブーム”に便乗した安上がりのハウツウ本と思われてしまうだろうが、なかなか骨のある本。著者の秋山忠禰(ちゅうや)さんは、1935年生まれでNHKチーフディレクター(時代考証調査担当)を経て、現在は江戸史研究家としてNHK文化センターなどで講座も担当されているらしい。時代考証のプロ、江戸のプロ(?)ということで、本書もさまざまな文献などに裏打ちされた説得力がある。かと言って学術的な臭い以上に、落語の八っあん、熊さんの香りがする。

次の八つのパートで構成されている。
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Part 1「旅と江戸ッ子いろいろ」
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Part 2「お金と江戸ッ子いろいろ」
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Part 3「江戸ッ子と言葉いろいろ」
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Part 4「江戸ッ子と食べ物いろいろ」
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Part 5「仕事と江戸ッ子いろいろ」
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Part 6「遊びと江戸ッ子いろいろ」
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Part 7「江戸ッ子と信仰いろいろ」
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Part 8「江戸ッ子と催事いろいろ」

落語がより楽しく聞くことができると思う部分を、少しだけ抜粋しよう。

(1)護摩の灰
Part 1「旅と江戸ッ子いろいろ」から抜粋。
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 雲助よりもたちが悪いのは護摩の灰で、道中ふつうの旅人を装いながら、
スキをみて他人の金品をかすめる。弥次郎兵衛もこれにやられている。
 山中の建場を出たところあたりから、十吉という旅人が近づいてきて、弥次・
喜多たちに話しかけてくる。「あなた方はどこでござります」「わっちらァ江戸さ」
「わたしも江戸でござります。あなた江戸はどの辺りでござります」「神田さ」
「神田には私も居りましたが、どうかあなた方は見申したようだ」とかなんとか、
話し合っているうちに、同行することになる。
 結局三人して三嶋宿で同じ部屋に泊まるのだが、道の途中で面白半分に
買ったスッポンが、夜中にはい出して大騒ぎとなる。さてそのスキに、「弥次郎
が蒲団の下に入れておきし内飼(うちがい、胴巻のこと)の金を盗み、かねて
こしらえ置きたると見えて、石ころを紙にくるくると包みたるをすり代え、胴巻へ
入れて又もとのごとく、蒲団の下に入れて置く。いったいこの十吉は、道中の
ごまのはいというものにて、こんなことをするが商売なれば、いつのまにかは
弥次郎が金を持っていると見てとり、途中よりつけて来たりてかくのごとし」と、
『東海道中膝栗毛』の作者は書いている。
 護摩の灰とは、その昔、高野山の僧の姿をして、弘法大師の「護摩の灰」と
称するものを街道で押し売りしていた者がいて、これがまた旅人の懐中を狙った
りもしたところからきている。また別に胡麻の蝿ともいう。一見まじめ風を装って
いるので、なかなか見破れない。これはちょうど、黒いゴマの上に蝿がたかって
いて見分けがつかないのとよく似ているところからきている。
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 ちなみに「建場」については、この文章から三頁ほど前の雲助の説明の部分で次のように記されている。「建場(立場)とは、宿場と宿場の中間にあって、人足たちが長持や駕籠などをおろして休息する場所である。」
 『抜け雀』や旅の噺、駕籠の噺などのマクラで雲助や護摩の灰のことが語られることがあるが、こういうことを知っているとより一層楽しく落語も聞けようというものだ。

(2)大酒飲み大会
Part 4「江戸ッ子と食べ物いろいろ」から抜粋
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 文化・文政時代、いわゆる化政期は江戸文化がもっとも爛熟した時期といわ
れている。時の将軍は徳川家斉(いえなり)である。家斉は大の酒好きだったと
伝えられている。その影響を受けたわけでもあるまいが、文化十三(1816)年、
江戸の両国柳橋で大酒会が催された。その会に参加した人たちの飲みっぷり
が、曲亭(滝沢)馬琴らの手になる奇談集『兎園(とえん)小説』に記されている。
 小田原町の堺屋忠蔵は、六十八歳という高齢にもかかわらず、三升入りの盃
を三杯も飲んでしまった。芝口の鯉屋利兵衛は、三十歳という壮年の強みを
発揮して、同じ三升入りの盃を六杯半も飲みほしてしまったが、さすがにその場
で倒れ、寝込んでしまったところ、しばらくして目を覚まし、茶碗で水を十七杯
飲んだという。小石川春日町の天堀屋七右衛門という七十三歳のおじいさんは、
五升入りの丼鉢で一杯半飲んだあと、すぐ自分の家に帰ったが、その途中、聖堂
(お茶の水)の土手に翌朝の七つ半(四時頃)まで倒れていた。
 この大酒会には、武士も参加していたが、名前は明かさなかったようだ。われ
こそはと思う人たちが、三十~四十人集まったが、二、三升ぐらいの酒量では、
いちいち記録するに価しないと付記しているから恐れ入る。
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落語『試し酒』のマクラで語られることもある江戸時代の大酒飲み大会だが、なんとまぁ凄い飲みっぷりだろうか。六十歳台や七十歳台のお爺さん達のとんでもない酒量にも驚く。江戸時代にも“スーパー爺ちゃん”たちがいたんですなぁ!とてもとても常人には想像できない量であり、『試し酒』の久造さんでさえ、なぜか身近に感じられるではないか!

(3)誰でも医者になれた
Part5の「仕事と江戸ッ子いろいろ」から抜粋。
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 いま簡単には医者になれない。専門教育を受け、難しい国家試験にパスしな
ければならない。さらにある期間実地に勉強して、初めて開業である。その点、
江戸時代はいたってのんびりしたものだった。資格試験制度などなく、自分勝手
に誰でも医者になれた。だから医者としての知識・技術・人格などの優劣の差は
ひどいものだったのである。
 また当時は、医者に払う薬礼、つまり治療費についても何の規定もなかった。
医療行為に対する報酬は要求すべきものではないとされていた。受け取るのは
医療に対する代価でなく、医者に対する謝礼であった。だからその金額はあくま
で患者のほうの気持次第である。その結果、薬礼を多く出す患者を大切に扱う
医者が現れるのも人情として当然の成り行きだった。こうした風潮に対して、
有識者の眼は当時も厳しかった。
 国学者の平田篤胤(ひらた あつたね)は、「今時の医者というは、武士の子
なれば惰弱者、百姓なれば無精者、町人なれば商いをなし得ず、職人なれば
不器用者にて、口過ぎ(生計を立てること)をしかねる者が、医者にでもなろう
という、それを号(なづけ)て、でも医者」(『医道大意』、別名『志都の石屋
(しずのいわや)』)と批判した。
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『死神』の中で江戸時代の医者について少しだけ説明されることがあるが、本書を読むことで江戸時代の医者への周囲の見方や報酬に関し驚きをもって知ることができる。

たまたま抜粋した上記の文章には含まれなかったが、本書では川柳もふんだんに紹介されており、楽しみながら、江戸と江戸っ子の世界を知ることができる。引用されている書物や文献にも適宜補足説明があり、読者の視点に立った丁寧な本である。

繰り返しになるが、タイトルで少し安易な本の印象を与えるものの、実際の内容は最近数多く発行されている江戸関連本の中でも相当上位にランクされてよいと思う。667円(税別)という値段のコストパフォーマンスは非常に高い。
江戸通になる本_秋山忠禰
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by kogotokoubei | 2009-08-08 14:45 | 江戸関連 | Comments(0)
気になってはいたが都合とチケット入手の相性が悪く、ようやく初めて来ることができた会。一階はほぼ満席、二階席にも多くのお客さんがいた。お誘いあわせのお客さんが多かったようで、私のようなロンリーマンは少数派と見た。
チラシのコピーを借りると、「三三、十人の先輩の胸を借りて臨む、大勝負シリーズの第六弾!」ということで、今日の“先輩”は柳家権太楼。
まず、演者とネタ。
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<開口一番 柳亭市也 転失気>
柳家三三     ろくろ首
柳家権太楼   寝 床
(仲入り)
柳家三三     三枚起請
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市也(19:01-19:14)
イケ面だけではなく、どうやら噺家としてなんとかなりそうな成長を確認できた。そう思っていたら、後で権太楼師匠も少しだけ彼を誉めていた。袖で聞いていた市也は、さぞうれしかったのではなかろうか。お客さんにも恵まれ、開口一番の前座噺でこれだけ笑いが取れたら、自信につながるだろう。しかし、その気で寄席に行くと、またガツーンと仕打ちを受けるものだ。その繰り返しでどこまで行けるかだが、がんばってもらいましょう。

三三『ろくろ首』(19:15-19:53)
この季節定番の三三のマクラとして若者の浴衣の着付けが悪い、という話題が出たが、どうも三三自身の羽織が、やや大きすぎるせいかピッタリとせず、そのことに一人笑っていた。この噺は、まさに“柳家”のネタといってよいのだろう。もともと上方の噺を三代目(四代目という説もある)小さんが東京に持ち込み、三三も踏襲したサゲは五代目小さんの作といわれている。与太郎ではなく松公、というのも柳家の型だと思う。三三のこの噺は初体験で期待したが、なかなかに楽しめた。年寄りがニンで、ついつい伯父さんの存在感が立ってしまわないか心配したが、松公の与太郎ぶりも弾けていて光っていた。なかなか好調な一作目。

権太楼(19:54-20:30)
池袋昼席の主任小三治師匠の代演を務めてから三三の会への登場で、今日は小三治一門助っ人デーになった権太楼師匠。登場するや否や客席の後方から「待ってましたぁ!」の声。これには、やや驚いた。「えっ?今日は誰の会?」という感じ。しかし、今日のお客さんの四分の一位は、この会場で長らく独演会をしている権太楼師匠ファンかもしれなかった。若干しゃがれた声に最初は心配したが、にぎわい座のお馴染みのファンの期待に応えるかのように、マクラでいきなりの大胆発言。「六代目小さんを継ぐべきだったのは・・・・・・」など、詳しくは書けないが、“舌”好調そのもの。その後小三治一門の名前を挙げようとするが、喜多八以外の名がなかなか思い出せなかったところもご愛嬌だろう。本編は、ともかく抱腹絶倒で、笑い感度の高い客席を沸かしっぱなし。本来のサゲまではいかず、長屋の面々が旦那からの店立て命令への対策を相談する中で茂蔵に語る思い出話として、前の番頭の吉兵衛さんが土蔵に逃げ込んでも旦那に義太夫を蔵の窓から語り込まれ次の日に逃げ出した、という古今亭志ん生版の型だったが、もう十分にお腹一杯の権太楼ワールドだった。

三三『三枚起請』(20:46-21:26)
どうも、ここしばらく三三はこの噺に集中して取り組んでいるようで、10月10日の練馬の独演会のチラシでもネタ出しされている。以前、談春・喬太郎ふたり会の後、私の勝手な推測として、ふたり会当日楽屋に来ていた三三のために、談春は一席目(『明烏』)と同じ郭噺にもかかわらずこの噺を演ったのだろう、と記した。
6月22日「三枚起請の謎」
もしそうだとするとその稽古は意味があったようだ。「三千世界の鴉を殺し、主と朝寝がしてみたい」という(高杉晋作の作と言われる)都都逸や、熊野の誓紙のことなど、今の時代では分かりにくい時代背景を説明する丁寧さの後で、まさに「謳い調子」で噺が進む。声もよくて、リズミカル、ほんの一瞬だが志ん朝を彷彿とさせた。演出で特に工夫したなぁと思わせたのは、清公が喜瀬川から起請文を受け取るに至る物語を、ほとんど“言い立て”風にまくし立てた部分。いわば「ダレ場」ともいえるが、構成上は欠かせない逸話でもある。ここをこれだけ一気呵成に畳み掛けた噺家を知らない。もちろん、人により年齢により、演りようはいろいろあっていいが、今の三三には合っているように思う。あえて小言を言うなら、お茶屋の二階に喜瀬川が登場するシーンをカット気味に演じたのだが、ここは少し違和感ありだった。端折らないほうが良いだろう。
全体的にはリズム、声の調子、三人の男のカラミ合いの可笑しさなど、「唄」を聴く心地よさで、江戸の郭に運んでもらった。

客席がともかく“暖かい”ので、演者も気持ちよく噺の世界に客を運んでいける、そんな時間と空間だった。かといってダレた空間ではない。権太楼師匠が三三の真打昇進披露の際、「三三は三十年に一人」と口上で言ってくれた後で、「三十年前は私」と付け加えたというエピソードそのままの、大先輩の暖かいまなざしもありながら、同じ噺家としてのライバル心が適度に融合していた気がする。仲入り前の大爆笑空間に対し、二席目で「これがオレの落語だ」と言わんばかりに客席を唸らせた(少なくとも私は唸った)三三。

先輩ゲストもその気にさせ、その先輩に三三も負けずに立ち向かう、なかなか結構な企画だ。残りあと四回か・・・・・・。登場する「先輩」にもよるが、都合が良くてチケットが取れれば、また来たい企画である。楽屋と高座には、客席には見えない(見せない)真剣勝負の空気も流れている、しかしその結果、お客は素晴らしい時間と空間を味わえる、そんな企画として続いていることを願うばかり。
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by kogotokoubei | 2009-08-03 23:51 | 落語会 | Comments(0)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛