噺の話

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カテゴリ:ある芸人のこと( 1 )

 当代江戸家猫八の訃報には、驚いた。
 まだ、66歳。

 昨年9月12日の、むかし家今松独演会が、私が聴くことのできた最後の高座になってしまった。
 今松の会は、前年に続いての出演。
 ご本人も、この会に呼ばれるのを、心底喜んでいたことが、思い出される。

2015年9月14日のブログ
2014年11月9日のブログ

 昨年、私は次のように感想を書いた。
 昨年に続き、膝替りはこの人。
 猫の紋の着物で登場し、座布団に座った。かつて、祖父の初代猫八の時代には、もの真似も落語と同様に座って演じた、息子の小猫が洋服で立って演じているので、私は古風な形で、と説明。
 その表情が、ますます父親に似てきたなぁ、という印象。猫や犬、鳥などの「音をつかむ」コツを演技を挟んで解説。森の五種類の小鳥の鳴き声を交え、その覚え方のコツ(たとえば、三光鳥は「月、日、星、ホイホイホイ」と鳴くなど)を披露しながらの芸は、すでに父親と並んだか、もしかすると越えているかもしれない、と思わせた。
 「お後、今松師匠の大作がございます。準備もできたようですので」と下がった姿が、なんとも粋に感じたのは、私だけではないだろう。

 なぜ、座っての芸だったのか・・・・・・。
 もしかすると、立っての芸が、すでに辛かったのか、とも思わないでもないが、それは邪推か。

 昨年の高座における猫八の姿には、今思うと、与えられた高座を精一杯に努めよう、この時間を大事にしよう、というような思いが伝わってきた。

 いつも、そういう姿勢で臨んでいるのかもしれないが、何か、あの一期一会には、特別なものを感じていた。
  
 早い旅立ちで思い出すのは、父、先代の猫八のことだ。
 三代目猫八は、80歳で亡くなった。
 しかし、他人には見せない、病に苦しんでいた人なのである。
 一昨年の8月6日に、三代目猫八は広島で原爆に遭遇し、原爆症であったことなどを書いた。
2014年8月6日のブログ

 自分の記事だが、一部を引用したい。

-------------2014年8月6日のブログより---------------
 岡田六郎は戦後、原爆症に苦しんだ。そして、原爆投下直後の広島の惨状の記憶が、猫八のトラウマになっていたようだ。
 彼が意を決して戦争のこと原爆体験のことを語り出した(正式には「従軍被曝体験記」)のは昭和五十六(1981)年のことであり、『兵隊ぐらしとピカドン』が上梓されたのは昭和五十八年になってからである。

 四年前2010年8月のNHKの戦争特集の中で放送された「戦場の漫才師たち~わらわし隊の戦争~」を見て記事を書いたことがあるが、あの映像の中で戦争の悲惨さを語っていた森光子さん、玉川スミさん、喜味こいしさんは、みな旅立った。
2010年8月11日のブログ

 先代猫八、かつての岡田六郎兵長も平成十三(2001)年に八十歳の生涯を閉じた。

 広島平和記念資料館のサイトに、以前に開催された企画展の紹介ページが残っており、昭和二十一年頃の猫八が奥さんと一緒に移っている下の写真が掲載されている。このページには、喜味こいしさんの戦争体験も掲載されている。
広島平和記念資料館サイトの該当ページ
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八重子夫人と猫八さん 1946年 (昭和21年) 頃ころ
猫八さんは、この頃、髪の毛が抜ぬけ落ち、
白血球は減へり続けていました。
提供/四代目江戸家猫八氏

*広島平和記念資料館のサイトより

 明治、大正生れの方から戦争体験をお聴きする機会が次第に失われていく。
 先月下旬、広島に原爆を投下したB29爆撃機“エノラ・ゲイ”の12人の搭乗者のうち最後の生存者が亡くなったというニュースを目にした。93歳だったようだから、原爆投下時点で、猫八とほぼ同じ年齢だったことになる。
 二十代前半の若者が、一人は空から原爆を投下する役目を持ち、もう一人は投下後の悲惨な光景を目にすることになったわけだ。
-------------------------引用ここまで-----------------------

 四代目猫八の死因は胃癌のようだが、原爆症だった父からの遺伝に関係があるのかどうかは、私には分からない。

 しかし、自分よりも早くやって来た息子を、父は喜んではいないだろうなぁ。
 
 とはいえ、あちらでは、親子共演で、天国寄席の重要な色物の看板になるに違いない。

 物まねの芸は、しっかり、継承されている。

 家業とも言える貴重な色物芸の継承者としての四代目の功績は、きわめて大きい。

 四代目江戸家猫八の冥福を心より祈る。

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by kogotokoubei | 2016-03-31 21:02 | ある芸人のこと | Comments(10)

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