噺の話

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2017年 08月 05日 ( 1 )

 池袋の先月中席で、昼の部の主任が小のぶだったのだが、都合がつかず行けなかった。
 その小のぶの名をオフィスエムズさんの企画で発見し、休みをとって久しぶりの見番へ。2014年7月の雲助蔵出し以来なので、ほぼ三年ぶりだ。
 この会、他の三人も小満ん、一朝、そしてまだ聴いたことのない春輔である。こんな渋い(?)顔付けはそうあるものではない。

 神保町で途中下車して古書店を少し回ってから、神保町駅の近くのジャズ喫茶Bigboyで涼もうと思ったら、なんと居残り会仲間のYさんに遭遇。彼にこの店を教えたのは私。
 最近、よく立ち寄るらしい。マスターとも馴染みになったようだ。
 彼は夜は中学・高校の同窓との会があるらしい。30分ほどの懐かしい会話の後、先に辞した。
 落語好きでジャズ好きの良き友と会えて嬉しかった。

 さて、神保町散策の後、浅草へ。
 途中、携帯メールに、I女史から都合が悪くなり欠席の連絡。仕方がないよね。
 ということで、佐平次さんとF女史と三人での居残り会になりそうだ。
 
 仲見世の脇を歩いて、見番に行く前に、居残り会の場所候補として考えていた、酒場放浪記で見たことのある店の場所を確認。
 6時にご主人が暖簾を出したので、事情を説明すると、午後八時以降の予約はとらないので、電話をして欲しい、とのこと。ちらっと中を見ると、なるほどそう広い店ではなさそうだ。了解して、見番へ。

 好みの場所の座布団に荷物を置いて席を確保。すると、すぐ斜め前の席にF女史がいらっしゃった。佐平次さんとすれ違ったら、予想通り後部に用意された椅子を確保されたとのこと。

 外で一服し、あらためて会場の桟敷へ。限定100席の会場は、ほぼ八分近く入っていたのではなかろうか。

 出演順に感想などを記す。

(開口一番)柳家小はぜ『富士詣り』 (16分 *18:45~)
 7月1日の山開きの日に、『富士詣り』について記事を書いた。
2017年7月1日のブログ
 あの記事には多くの方からコメントをいただき、当代で演じる噺家さんの情報を頂戴した。
 小はぜが演じることも教えていただいたが、生で聴けて、結構嬉しかったなぁ。
 急な天候の崩れは、登山する中に五戒(ごかい)を破りながら懺悔の足らない者がいるからだと先達さんに言われ、湯屋で下駄泥棒した男、人妻と深い仲になったことを白状する者が出てくる。実はその人妻が先達さんの女房、でサゲた。
 なかなか楽しい高座だったのだが、「五戒」で言い間違いがあったことと、四つまでしか言えなかったのが、残念。
 先達さんが語る、五戒とは次の通り。
 ◇妄語戒(もうごかい):嘘を付いたり人を騙したりすること。
 ◇偸盗戒(ちゅうとうかい):人の物を盗んだり取ったりすること。
 ◇殺生戒(せっしょうかい):殺生して山に登ってはいけない。
 ◇飲酒戒(おんじゅかい):酒を飲んで山に登ってはいけない。
 ◇邪淫戒(じゃいんかい):女を騙したり泣かしたこと。連れ合い以外と交渉を持つこと。
 さぁ、自分はどこまで懺悔しけけりゃならないかなぁ・・・・・・。
 また、この高座の途中、楽屋と思しき場所での会話の声が大きく、実に小はぜには可哀想な状況だった。なんと、廊下を隔てた楽屋部屋に注意に行ったのは、佐平次さんだった^^

八光亭春輔『九段目』 (25分)
 初めて聴くのを楽しみにしていた人。八代目正蔵の弟子。
 この噺も、初めて生で聴く。初ものづくしの日だ。
 マクラでサゲにつながる煙草のことをふって本編へ。
 この段の主役とも言える加古川本蔵役を予定していた者が急病(だったはず)でできなくなり、田舎(三河)訛りたっぷりの医者太田良庵が演るハメになってのドタバタだから、設定は『権助芝居(一分茶番)』に似ている。
 マクラで、大量の科白を覚えなければならない割りに受けない苦労の多い噺と言っていたように、番頭が良庵に口移しで教える科白の、なんと多いこと。
 この番頭が教える場面での、少ないながら良庵の言葉も可笑しい。
 「三方をこわします」「もってぇねぇこった」などで笑わせる。
 本番での良庵先生、絶好調。客席から「よおよお、太田先生」と声がかかると「どなたでしたかねぇ~」と受け答え、患者の様子を訊ねる始末。
 終盤、力弥がまだ刀を突き刺さないのに勝手に脇腹を血だらけにして、持っていた煙草を血止めにし、客席から「血止めのタバコとは、細っかいねェ」 「いやあ。手前切り(自分で刻んだ煙草)だで」 で、サゲ。
 私は活字でしか知らない九段目だが、歌舞伎通の方には、さぞ楽しい高座だったろうと思う。当代で演じる噺家さんは、そういないのではなかろうか。
 芸風は、いたって大人しいように思うが、ネタ選びなどを含めなかなか侮れない噺家さん、という印象を受けた。

柳家小のぶ『へっつい幽霊』 (31分)
 さぁ、お目当ての小のぶだ。
 序盤は、声をあえて小さくしているのか、実際に出ないのか^^
 この人は2013年6月下席で『長短』を聴いて以来。
2013年6月29日のブログ
 その後に、堀井さんの本からは“幻の落語家”の由来、江國さんの『落語美学』からは、ある逸話を紹介する記事も書いた。
2013年7月11日のブログ
 マクラで「納涼ということで、その昔は怪談噺で涼んだものでして」とふったが、納涼という会のお題に相応しいネタは、この一席だけだったのではなかろうか。
 流行らない居酒屋に訪れた客が幽霊の絵を描いて掲げて繁盛したことや、へっついは竈とも言い家の中でも大事なもので、竈を譲るなどの言葉もある、といった今では滅多に聞くことのできないマクラ、私は好きだ。小さい頃、父母は竈を譲るとか分けるなどという言葉を日常的に使っていたことを思い出す。
 筋書きは、今よく演じられるものと違う。
 熊(と思しき)男が、博打で儲かったと喜んでいる場面から始まる。
 竃が壊れているので、新しい竃を買いに行ったら、いわくつきの竃なので、とタダでもらえることになった。そして、夜、八つを過ぎた頃に、青い焔が出て、幽霊登場。
 とにかく、この左官の半次の幽霊が楽しい。手を陰に下げて、ぶらぶら振る様子が、今でも目に焼き付いている。
 科白もなかなか効いている。
 熊「うらめしー、なんてぇことはねぇじゃねえか」、半次「これは、幽霊の枕詞でして」とか、熊の「なかなかいい度胸してるじゃねぇか、惜しい奴を殺しちまった」なども可笑しかった。
 半次が自分で塗り込んだ竃の中の百両を取り戻したいのは、その金で有難いお経をあげてもらうなど、あらためて弔ってもらい浮かばれるため、というのも初めて聴いた。
 場面場面の勘所では、声はしっかり出ていたので、序盤の声の調子は、やはり芸ということか。
 マクラで丁寧に仕込んでいた「寺を建てる」でのサゲも初めて聴くが、悪くない。
 無理に笑わせようなどという姿は微塵も感じないのに、半次の所作、二人の会話で楽しませてくれた高座、今年のマイベスト十席候補とする。

春風亭一朝『紙屑屋』 (20分)
 仲入り後は、この人。
 この噺こそ、この人の自家薬籠中というものだろう。
 紙屑屋で屑の選り分けをすることになって最初に、歌舞伎舞台「紙屑の場」が演じられる。
 若旦那が紙屑屋で発見するしろものは、野菜づくしの手紙、都々逸集、新内の本などだから、一朝の芸の見本オンパレード、という高座。
 ♪箸は右だと教えた親に 左団扇を持たせたい
 なんて都々逸を聞かされると、この会の客席からは拍手が起こるのである。
 ♪夢に見るよじゃ惚れよが薄い しんから惚れたら 眠れない~
 なんてぇのもいいねぇ。
 先輩たちに囲まれ、十八番の小品で埋めた時間、ということだろうが、やはりこの人はいい。

柳家小満ん『中村仲蔵』 (41分 *~21:11)
 この噺と分かった時は驚いた。
 たぶん九時には終演だろうと思っていたことと、春輔の『九段目』があったからだ。
 う~ん、いろいろこの人らしい薀蓄などもあったのだが、場内の蒸し暑さもあって、楽しめない高座だった。
 同じ忠臣蔵のネタになった理由は、いったいなんだったのだろう。
 関内の独演会と比べると、残念な高座と言わざるを得ない。
 別途、この噺を聴き直した時に、その味わいを書けることを期待し、詳細は割愛。


 終演後、例の店に電話すると入れるとのこと。
 三人で居残り会だ。
 最初は気難しそうな顔をしていたご主人も次第に柔和な感じになり、ホヤやハラミとじゃが芋のグリルなど肴も美味しく、お二人との会話も盛り上がる。ご主人のお任せにしたぬる燗の酒も結構、となると、もちろん(?)帰宅は日付変更線を越えたのであった。
 
 今でも、小のぶの半次の幽霊の手つきが、目に浮かぶ。
 実に絵になる噺家さんだと、私は思う。
 

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by kogotokoubei | 2017-08-05 13:49 | 落語会 | Comments(6)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛