噺の話

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2017年 07月 17日 ( 1 )

 すでに昨日のことになってしまったが、7月16日は、トニー谷の祥月命日だった。

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矢野誠一著『酒と博打と喝采の日日』

 矢野誠一さんの『酒と博打と喝采の日日』(文春文庫)は、「オール讀物」に連載された内容が平成7(1995)年に文藝春秋から単行本で、二年後には文庫で発行。
 似た経緯で書籍化された『さらば、愛しき藝人たち』の続編といえる。

 私と同世代から上の方に、「トニー谷を知っていますか?」と聞けば、ほぼ全員が、知っている、と答えるに違いない。

 もちろん私も、「アベック歌合戦」で算盤を見事な楽器として、「あなたのお名前なんてえの」とやっていたトニー谷の姿は、脳裏に焼き付いている。

 しかし、あのトニー谷の晩年のことは、この本で初めて知った。

 矢野さんの本から引用する。

 永六輔が、新橋の地下鉄の階段をあがっていると、途中にひとりの老人が腰をかけていて、すれちがいざま、
「永ちゃん」
 と声をかけた。はて、誰だったかと、その顔をのぞきこむと、老人は言った。
「俺だよ、俺、トニー・・・・・・」
「なあんだ、久し振り。何してンの?」
「うん、ちょっと休んでんの」
 1986年の夏も終わりかけた頃である。

 トニー谷、本名大谷正太郎は、大正6(1917)年の生まれなので、1986年、満69歳の時のことになる。

 引用を続ける。

 それから永六輔との交際が復活して、「ボードビリアン、トニー谷の本領を、いまの若い連中に見せてほしい」との願いが実現し、渋谷のジャンジャンの小さな舞台で、満員の客を二時間抱腹絶倒させた。
 その年の暮、町おこし運動の一環として、永六輔が前座をつとめる『トニー谷ショー』が各地で行なわれたのだが、執念の舞台だった。ながいあいだの蓄積のすべてをはき出しているようだった。
「銀座の若旦那が戦争に敗けて、GIの姿になって、江戸っ子のやることじゃねえなと思ったときから、ねじれるだけねじれちまって、これからは村の爺さん婆さん相手に、江戸前の藝を楽しんでもらうからね」
 と言って、見事な三味線を披露したという。トニー谷の三味線・・・・・・一度聴いておきたかった。それにしても占領下のアメリカ文化の功罪の、軽薄さという「罪」のほうだけ背負って売り出したトニー谷が、晩年になって江戸前の藝に傾斜したという、その傾斜のしかたがひたむきだっただけに、どこか哀しくうつるのだ。
「お金のことはなんにもいわない」
 とも言って、事実ギャラのことはひと言も口にしなかったばかりか、あの売物でさえあった傲岸無礼な態度もまったく影をひそめ、ただただ藝に生きる老人の姿があるだけだった。

 銀座のど真ん中、その後玩具屋のキンタロウになった場所で生まれた大谷正太郎。その生家はランプ屋だったらしい。江戸っ子の生き残りと言える祖父が、電気が普及してからも電気屋に転業せず、ランプ屋を続けたらしい。
 その店も人手にわたり、父親の死もあって、幼い頃日本橋に引っ越す。
 矢野さんは、次のように書いている。

トニー谷が終生持ちつづけた反骨精神は、このランプ屋に固執した祖父の血を受けついだものかもしれない。

 さて、永さんとの縁から、人前で藝を披露する機会を得たトニー谷だったが、その後のこと。

 年があけて、入院した。肝臓癌で、たか子夫人は無論かくしていたのだが、当人はうすうす感ずいていたふしがあり、見舞に来た永六輔に、
「癌だと思うよ」
 と涙ぐんだ。
 いままでの台本、テープ、フィルム、スクラップブック、それにトレードマークだった算盤も大小とりまぜ五個ばかり、「新しい仕事の資料」として永六輔のところに届けられた。新しい仕事もなにも・・・・・・身辺整理であることは明らかだった。こんどは、永六輔が涙ぐんだ。
 1987年七月十六日午前零時十四分、肝臓癌で死去、六十九歳と訃報にある。
 十月の誕生日を前にしていたので、満六十九歳。

 子どもの誘拐事件は、私が生まれた昭和30年の事なので、ほとんど記憶になかった。
 
 トニー谷と言えば、とにかく、あの算盤と「あんたのお名前なんてえの」なのだった。

 そして、矢野さんのこの本を読んで知った、亡くなる直前、地下鉄の階段での永六輔との出会いが、蝋燭が最後の炎を輝かせるための天からの巡り合わせ、と言えば、あまりに作りすぎだろうか。

 永さんに渡されたトニー谷も遺品は、今どこにあるのだろうか・・・・・・。

 トニー谷が旅立った翌日の7月17日に亡くなった石原裕次郎と、同じ没後30年。

 裕次郎の記念番組はあちらこちらで放送されているが、トニー谷没後30年記念という声は、一切聞く事がなかった。


 私も、トニー谷の三味線、聴きたかったなぁ。

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by kogotokoubei | 2017-07-17 09:51 | ある芸人さんのこと | Comments(10)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛