噺の話

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落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。

2015年 06月 12日 ( 1 )


 天満天神繁昌亭の木戸銭値上げに関連して江戸時代の貨幣価値のことを書いたきっかけで、以前読んだ江戸の物価関連の本を何冊か読み直している。

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秋山忠彌著『江戸通になる本』(新人物文庫)

 2009年7月発行の本。Amazonのレビューで私が書いたのだが、タイトルからは、いかにも江戸ブームに乗ったハウツウ物という印象を与えるが、結構しっかりした本。

 著者の秋山忠禰さんは、昭和10(1935)年生まれで元NHKチーフディレクターとして時代考証調査担当した方。現在は江戸史研究家としてNHK文化センターなどで講座も担当されているらしい。
 いわば、時代考証のプロ、江戸の専門家ということで、本書もさまざまな文献などに裏打ちされた説得力がある。

 本書の「Part2 お金と江戸っッ子いろいろ」から、江戸時代の貨幣価値を、現在の金額で試算することが、そんなに簡単ではないことが分かる。

 本書では、三貨(金・銀・銭貨)相互の関係を、時代ごとに、次のように紹介。

 慶長十四年(1609)
  金一両=銀五十匁=銭四貫文(四千文)
 元禄十三年(1700)
  金一両=銀六十匁=銭四貫文
 天保十三年(1842)
  金一両=銀六十匁=銭六貫五百文  

 天保年間、銭のレートが実に変わったことが分かる。
 一両を、現在の価値で試算している部分をご紹介。


 江戸時代の一両が現在のいくらに相当するのか、それを正確に計算することはできない。その理由は、当時と社会の仕組みやものの需要供給の関係が異なり、そもそも物価は常に変動しているからである。だが、いくつかのものの値段を比較することによって、一応の目安となる数字ははじきだすことができる。
 そのいくつかの例を示してみる。

1 米の値段を比較して計算
  江戸の米価は、一石当り一両を基本としていた。
  一石は重さ約157キログラムである。いま、一キロの米を仮に
  五百円とすると、
   一両=一石=500円X157キロ=72,500円
  つまり、一両は72,500円ということになる。

2 そば(もり・かけ)の値段を比較して計算
  当時のそばはふつう一杯十六文だった。いまの値段は、店構え
  やそばの質によって差があるが、これも仮に四百円とする。
   十六文=400円だから、割り算すると一文は25円である。
  天保期の両と文の交換相場は一両が六貫五百文だから、
   一両=6500文X25円=162,500円
  つまり、そばの値段の比較で計算すると一両は162,500円
  である。

3 銭湯の入浴料(大人)を比較して計算
  江戸後期の銭湯の入浴料は八文。いまの銭湯の入浴料を仮に
  320円とすると、八文=320円で、一文は40円となる。これも
  天保期の交換相場で計算すると、
   一両=6500文X40円=260,000円
  
 以上の計算例のとおり、両と円の換算は、比較の対象によってかなりばらつきが出るので、簡単に数字を決めることはできない。
 筆者は一両十五万円前後を一つの大まかな目安としている。
 参考までに一両を十五万円として、金・銀・銅貨それぞれの単位を円に換算すると、次のとおりになる。
  金一分=37,500円(約四万円)
  金一朱=9,375円(約一万円)
  銀一匁=2,500円(二千円から三千円)
  銀一分=250円(二百円から三百円)
  銭一貫文=23,000円(二万円から二万五千円)
  銭一文=23円(二十円から三十円)

 あらあら、時代考証の専門家は、一両の現在の価値を十五万円と、結構高く設定していた。
 富くじ一枚は一分。だから、37,500円(約四万円)で、千両、1億5000万円の夢を買っていたのか・・・・・・。

 著者は天保期の一両=六貫五百文という交換レートを使っているので、一文が約25円設定となり、私が設定した一両十二万円でも、一両=四貫文の時代であれば一文30円となるから、一銭の価値は低い。
 もし、一両=四貫文のレートで、一両を十五万円とすると、一文が37円50銭。
 
 先日紹介した興津要さんの本にある、寄席の木戸銭、安政以降の四十八文に下足札四文、中入りに引くくじ代十六文の計二十文を加えた六十八文を一文37円50銭として計算すると、
  68X37.5=2,550円。

 江戸時代の寄席の木戸銭の高い設定で計算しても、約二千五百円なのだなぁ。

 しかし、この本の米・そば・銭湯の価格、平成27年現在でも妥当だろうか・・・・・・。
 米の1キロ五百円、そばの一杯四百円は、ほぼ妥当だろうが、銭湯が大人320円というのは、少し古すぎる。
 現在、東京の銭湯における大人の入浴料が、460円のようだ。
 江戸時代は、八文。ということは、460÷8≒58円なので、一文58円。
 この58円で寄席の木戸銭六十八文(下足札、くじ代も含む)を計算すると、3,944円。
 う~ん、これは高すぎるだろう。
 そもそも、一文58円として、もし天保期の六貫五百文を一両とするなら、
  6500X58=377,000円、となる!

 これは、今日も残っている銭湯が、燃料費の高騰や設備費など、経営を維持するためには、江戸時代の他の物価と比較して高くなっている、とも考えられる。
 また、調べてみると、江戸時代前期では大人十五文だったようだが、その後、幕府の統制などもあり八文に落ち着いたという経緯があるので、江戸の湯屋の入浴料が相対的に安すぎた、とも言える。
 そばの十六文の半分が湯屋代、というのは、安いよねぇ。

 よって、銭湯の入浴料そのものが、江戸時代の貨幣価値を現在に置き換える場合の対象として適さないと、私は考えたい。

 米の価格と、そばの価格を元に計算した、約七万円から約十六万円の間に、一両の現在価値が存在する、ということだろう。
 中込重明さんの本では、大工の収支を説明する上で、一両を約十三万円と想定していたなぁ。
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丸田勲著『江戸の卵は1個400円!-モノの値段で知る江戸の暮らし』 (光文社新書)

 この本では、文化・文政時代の推定価値として、一両を128,000円、銀で六十五匁、銭で六貫四百文と設定している。一文は20円だ。
 著者の丸田勲さんは、昭和15年生まれで江戸文化に造詣の深い写真家、文筆業の方、とのこと。
 ちなみに、本のお題だが、本書では吉原などの花街で売っていた「ゆで卵」が二十文だったので20X20で400円、ということだろう。普通の卵は一個七~二十文、140~400円と記されている。やや、題名には脚色あり(^^)

 一両が現在の貨幣価値でいくらかという疑問への答えは、一つではない。

 しかし、目安を設定しないことには、江戸の生活や文化、もちろん落語を楽しむにしても、困ってしまうのだ。
 
 そこで、私なりの物差しをつくる。
 一両を12万円としてみる。
 天保の少し前、江戸文化が隆盛期だった文化・文政の頃は一両が六貫文位だったようだ。
 六貫文なら、一文20円。
 そばが十六文で320円。寄席の木戸銭六十八文が1,360円。
 私には、このあたりが、実に居心地が良いなぁ。

 
 
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by kogotokoubei | 2015-06-12 21:35 | 江戸関連 | Comments(0)

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by 小言幸兵衛