噺の話

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2014年 11月 03日 ( 1 )

土日は一泊二日で学生時代の仲間との旅行だったので、放送から二日後の今日、ようやく録画を見た。

 名称が変わったことなどを含め、番組についてNHKのサイトから、まずご紹介。
NHKサイトの該当ペ−ジ

詳細
40年を越える歴史を持つNHKの若手落語家のコンテスト番組で今年から「NHK新人落語大賞」と名称を改めた。今年の予選は東京で58人、大阪で46人がエントリー。合計104人の中から勝ち上がったのは桂三度(隣の空き地)、三遊亭歌太郎(たがや)、春風亭昇吉(紙屑屋)、春風亭朝也(やかんなめ)、笑福亭べ瓶(真田小僧)の5人。この5人が大賞を目指して競いあう。司会は、林家たい平と藤井彩子アナウンサー。


 名称を変えるのには、何らかの理由があったはずだ。しかし、その“説明責任”は、あまり考えていないらしい。

 東京で58人、大阪で46人の予選参加とのこと。何度か書いているが、ぜひ公開制にしてもらいたいものだ。

 そういう小言もあるが、褒めるべきところは褒めるよ。
 新たな試みとして、各落語家さんの師匠が映像で登場。これは結構なことだと思う。

 さて、出演順に、感想を記したい。
 出場資格の疑問については、すでに書いたが、ここではそういった背景は度外視し、先入観をできるだけ排除して、あくまで高座のみについて書くことにする。

 最初に全体の感想として書くが、期待していなかったからだろう、意外に楽しく見ることができた。ある一人を除き、全体的にレベルの高い、なかなか結構な戦いであったように思う。

春風亭昇吉『紙屑屋』
 実際にこの公開録画をご覧になった落語愛好家仲間の方のブログで、昇吉が踊りながら客席まで出てきたと私は誤解していたので、「まだ、この人は勘違いしているなぁ」と思っていたのだが、実際に高座を見た後の感想は、大きく違ったものになっていた。
 やはり、テレビとはいえ、実際に見なけりゃ分からないものだ。

 正直なところ、大いに感心した。この噺は上方が元だが、東京で多くの弟子を育てた二代目(初代とも)桂小文治が十八番として東京に普及させた功労者と言えるだろう。今では、何人か東京の噺家さんが高座にかけるが、音曲の素養が必須のネタ。審査の講評の際に、踊りの稽古を頑張った、とつい本音で昇吉は言っていたが、その努力の跡は十分に見受けられた。
 まず、若旦那役が、ニンである。紙屑の中から“野菜づくし”の手紙を見つけて読みだしたあたりから、リズムがよくなり、義太夫本『義経千本桜~道行~』の場面へ。

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 昇吉は短縮版で演じたが、小文治の構成を『上方落語』(佐竹昭広・三田純一編、筑摩書房)から引用すると、次のようになっている。

 千本の道行や。道行もいろいろあるけど、やっぱり千本桜がええな。静と忠信・・・・・・温習会(おさらい)でも、お芝居でもよう演(や)る派手なやっちゃ。幕が開くと、一面に桜の釣枝、吉野山や。静御前が初音の鼓を調べてる、と、花道の七三から、ドロドロのセリ上がりで、上がってくるのが狐忠信。衣裳(なり)がええわなァ。黒びろうどに源氏車の金の縫いつぶし。縫いつぶし、ちゅうのがええわナ、わいは源兵衛はんとこの食いつぶしやけど・・・

 
 この部分を東京版としてしっかりふってから、隣りの稽古屋から三味の音が聞こえる設定で、昇吉の義太夫と踊りの登場。小文治の速記では昇吉が演じた場面、次のようになっている。

 『海に兵船(ひょうせん)、平家の赤旗。陸(くが)に白旗ァーッ』(と、扇子を口に、腰を浮かして見得-とたんに、鳴物、遠寄せ。ジャンジャン、ジャジャン・・・・・・ハッと、我にかえって)なんじゃい、なんじゃい。びっくりしたがな(義太夫、つづいて、

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源氏の強者。鳴物、遠寄せ。三味線のノリ地に合わせて、居候、忠信のフリ。義太夫、
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あら物々しやと、夕日影、長刀引きそばめ、某は平家の武士(さむらい)、悪七兵衛景清と、名乗り立て、薙ぎ立て、薙ぎ立て、薙ぎ立つれば、花に嵐のちりちりぱっと、木の葉武者。鳴物、遠寄せ。ツケ、パタン・・・・・・と、それに合わせて、後ろへトンボを切る。と、上手に寄ったところで起き上がり、そのまま)」
「(おどろいた隣の息子)あんた、なにか。うちのお母(か)ン殺す気つもりか」
「(源兵衛)どないぞしましたンか」


 昇吉は、若旦那が腰を浮かして見得をきってしばらくで場面転換したが、なかなかのもの。

 この後、紙屑の中から別の本を見つけて、そこから長唄「京鹿子娘道成寺」となり、鳴物の鞠唄に合わせて踊る。私は客席にまで入り込んだのだろうと勘違いしていたが、たしかに高座を離れて客席近くにまで出ていったものの、あくまで高座と客席との間のステージ上であった。この噺で、この演出なら許されるだろう。
 『上方落語』から、引用。

 普通、落語家の踊りは、居所をかえず、上半身で踊るのが作法とされ、またイキで洒落たものである、とされている。いわゆる(坐り踊り)である。が、そんな美意識の洗礼など受けていなかった昔の落語家は、この落語などでは、高座いっぱいに動いたものらしい。
 たとえば-『道成寺』の鞠唄に合わせて、長屋の表へ踊り出すところなど、演者が腰をかがめて、実際に、高座の下手のハナまで、チョコチョコっと出る、そんな演出さえあったのである。昔の寄席の三間半ほどの間口の高座で、文字通り、舞台いっぱいに踊りまわったわけだ。いかにもけばけばしい、こってりした高座ぶりも、一概にはけなせないなにかがあるように思われる。


 まったくその通りで、狭いNHKのスタジオの高座を考えると、昇吉の演出も、一概にはけなせない‘なにか’を感じた。けなせないどころか、なかなかの芸を見せてくれたと思う。
 かつて『稽古屋』で大賞を受賞した小朝のことを思い出した。
 下座さんの協力も大きいが、昇吉の高座、これまでの私の批判的な思いを払拭させて、将来に期待を持たせるものだった。
 昨年の『たけのこ』は、一昨年の『たがや』よりは良かった。2013年10月20日のブログ
 そして、今年は、もっと大きな飛躍をしたように思う。
 つい、この噺が好きなので引用を含めて長くなったが、それは私が先入観を忘れて昇吉の高座を楽しむことができたことが、今回の大きな収穫だったからでもある。

笑福亭べ瓶『真田小僧』
 冒頭、映像で師匠の鶴瓶が、二度破門した、と言っていたのを、三度です、と訂正。この噺も上方の『六文銭』が元。
 本来の『難波戦記』を挟むだけの時間がなかったのは、しょうがないだろう。
 高座のあとに、やりきった、という表情で振り返ったが、たしかになかなかの高座だった。
 寅の生意気ぶり、茶目ぶりがよく表現できていた。また、父親が、途中からは寅の催促なしに小遣いを払う仕草なども、楽しい。語り方、仕草、表情などから、噺家としての基礎はできていると思った。
 この人、過去のしくじりをしっかりと反省し落語に精進するのなら、先はあるように思う。三度破門しても抱えてくれている師匠の恩を、どこまで本気で感謝しているかどうかが鍵だろう。

桂三度『隣の空き地』 
 開口一番、「おじゃまします」は、ないだろう。
 小咄の「隣の空き地(にかこい)」から発展させ、いわゆるKY、言い換えると、察しの悪い後輩と先輩の会話が中心の新作。
 最後まで、落語の口調とは言えない、パァパァしたしゃべりに閉口した。映像で登場した師匠の文枝が、その才能を褒めていたが、師匠も弟子も、何か勘違いしているのではなかろうか。新作だから嫌っているのでは、毛頭なく、“落語”としての完成度において、とても決勝に進出できるレベルとは思えないのである。予選が公開されていないので、どういうライバルとの戦いだったのか分からないが、非常に不思議な選出だ。 

三遊亭歌太郎『たがや』
 少し鼻声である。体調が十分ではないだろうと察した。また、以前に昇吉も選んだネタで、拙ブログで「旬」を度外視したネタ選びに小言を書いたが、その思いは同じである。
 非常にテンポ良く進んではいたし、精一杯頑張ってはいたと思う。私はこの人の高座、嫌いではない。しかし、もう一つ強く印象に残るものがないのだ。それは、この噺そのものの与える印象でもあるが、色気に欠けるのである。女性が登場しないことも含め、『紙屑屋』や『やかんなめ』の醸し出す艶のなさが、今回は損な役回りとなったような気もする。

春風亭朝也『やかんなめ』
 高座の前の本人のコメントの映像で、最大のチャンスと思っている、と結構したたかな面を見せた。
 癪のために倒れこんだ良家の奥様。通りがかった侍の頭が、合い薬のやかんにそっくりと、その頭を舐めさせてくれと頭を下げてお願いする女中。しぶしぶ舐めさせる武士、そして端でそれを見てゲラゲラ笑っているお供の“べくない”という存在。
 こういった登場人物を朝也はしっかり演じ分けていた。また、やかんなめ、という行為から醸し出される不思議な色気、そして女中の存在が男だけの噺とは違う空間の深さを与えているし、そういったネタの味を十分に引き出した朝也の芸であった。
 途中途中で侍が脇を見ての「べくな~い!なにをゲラゲラ笑っておるウ!」の科白が効いていた。
 限られた時間で、落語らしい荒唐無稽な噺を、人の良い親切な侍を軸にして演じ、しっかりと笑いもとっていた朝也、十分に大賞に価する高座だったと思う。
 桂米丸が、講評の中で、寄席ではあんまり聴かれないと言っていたが、それは芸術協会の寄席では、ということであろう。小三治、喜多八がネタに持っていることを、この人は知っているのか、どうか。

 さて、審査員は次の七名。噺家が東西一人づつ、席亭も東西一人づつの二人。時代小説の作家が一名、演芸作家が一人、そしてNHKから一人。あらっ、堀井憲一郎が抜けた・・・・・・。

-審査員-
桂米丸
桂文珍
浅草演芸ホール会長、松倉久幸。
天満天神繁昌亭支配人、恩田雅和。
作家、山本一力。
演芸作家、神津友好。
NHK制作局エンターティンメント番組部部長、三溝雅和。

 10点満点の審査員の採点の前に、私の10点満点での採点。

           昇吉  ベ瓶  三度  歌太郎 朝也
小言幸兵衛    9    8    7    8    9

 さて、審査員は、次のように評価した。特定の人が高得点の場合に数字を太くした。

      昇吉   ベ瓶   三度   歌太郎   朝也
桂米丸         8    8    8    8
桂文珍     8    8    9    9    9
松倉久幸    9    9    9    9    10
恩田雅和    9    9    10    9    9
山本一力    9    9    7    10    9
神津友好    9    8    8    7    10
三溝敬志    9    8    8    8    9
合   計   62   59   59   60   64   

 審査員の中で私と同じ人はいないが、三度の私の評価は山本一力と同じだ。昇吉と朝也とのツートップという考えは、三溝と同じだ。繁昌亭の恩田支配人の三度の10点は、師匠文枝を意識したのだろう、韓国でのアジア大会を思い出させる確信犯的な採点。神津が歌太郎のみ低くした理由は、よく分からない。江戸っ子が嫌いなのか。

 合計点で朝也が一位、昇吉が二位というのは、異論はない。しかし、昇吉が朝也を上回って大賞を受賞しても違和感は、ない。

 もし、以前の新人演芸大賞と同じ三つの評価項目で、私なりの評価点をつけてみるなら、こうなるかなぁ。
       演技力  タレント性  将来性     計
昇吉      9     9     9      27
べ瓶      8     8     8      24
三度      7     8     7      22
歌太郎     8     8     8      24
朝也      9     9     9      27

 やはり、昇吉と朝也が並ぶのである。
 
 今回の放送、未見だった朝也の高座を確認できたことと、昇吉を見直すことができたことが収穫。

 来年も、予選は未公開なのだろうなぁ、きっと。夢吉は来年真打昇進だろうから、放送で、小辰や一蔵に出会えることを期待するばかりだ。
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by kogotokoubei | 2014-11-03 08:49 | テレビの落語 | Comments(8)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


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