噺の話

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2012年 08月 29日 ( 1 )

笑福亭松喬は見事に復活した!
 
 JALに乗る際は、機内で必ず落語を聴くので、もちろんこの会は知っていた。たまに良い顔ぶれの会に気が付いた時には、だいたいチケットは売り切れていたり、都合が合わなかったりで、今回初めて参上。

 今回の初参加における最大の動機は、出演者の中に癌と戦っている笑福亭松喬の名を見つけたことだ。テレビでは見たことはあるが、生の高座はまだ経験していない。
 松喬が昨年12月に肝臓癌の治療のため入院し、今年4月に退院したことは、以前にブログに書いた。
2012年5月8日のブログ

 その後、松喬のブログを読む機会も増え、6月から二か月近く再入院していたのを知っていたので、この会に出演できるかどうか心配であったが、つい最近も一門会で『三十石』を一時間以上演じたと日記で知り、きっと会えるだろうと祈りながら、新橋駅から会場へ向かっていた。
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 会場に降りる階段の手前の掲示板に、しっかり「笑福亭松喬」の名があった。ひと安心。

 今回は松喬の他の顔ぶれも悪くない。落語は柳家甚語楼に、以前から聴きたいと思っていた三遊亭竜楽。U字工事など漫才二席を加えて千円という木戸銭。機内放送用コンテンツ制作のため、とは言え、こんなお得な会はそう滅多にないだろう。

 開演15分前にホール内に到着。自由席だが、前のほうにもところどころ“歯抜け”のような空席はがあったので、結構好みの場所に座ることができた。見た目ではほぼ満席に近かったのではなかろうか。

次のような構成だった。開口一番以外の落語は、プログラムでネタ出しされていた。
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(開口一番 柳家緑太『道具屋』)
柳家甚語楼 『のめる』
風藤松原  漫 才
三遊亭竜楽 『片棒』
(仲入り)
U字工事  漫 才
笑福亭松喬 『崇徳院』
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柳家緑太『道具屋』 (18:30-18:41)
 初見。花緑の弟子。協会のサイトのプロフィールには生年月日のみ記載されており、28歳。今では不思議のない年齢かもしれないが、見た目はそれ以上に老けて見えるかなぁ。妙な表現だが、前座にしては上手すぎる、というか地味すぎる印象。カミシモはしっかりできているし、言い間違いや言い淀みもほとんどない。噺家の雰囲気もある。しかし、この段階で“老成”しては困るわけで、もっと若々しさが欲しい。そんな印象だった。

柳家甚語楼『のめる』 (18:42-19:02)
 三三、左龍と真打昇進が同期。他の二人の個性と比べると地味ではあるが、この人の本寸法の高座はもっと評価されてもいいだろう。寄席に似合う人だし、見た目の清々しさもあって、今後の柳家一門にとっても貴重な人材だと思う。

風藤松原 漫才 (19:03-19:14)
 初見。なんとも言えないリズム感のあるコンビ。それぞれがなりたかった職業、というよくあるテーマで、タクシー運転手と客の会話、先生と生徒の“ことわざ”の授業、というネタだったが、前半の松原の“ゆる”い口調と、後半の二人のアップテンポな会話の落差が、この人たちの実力の高さを示していた。
 特に後半の先生役の風藤(ふうとう、本名)が、「坊主憎けりゃ」とふって、即座に生徒役の松原(本名)が「ネットで叩く」などと答えるようなやりとりの連続は、ギャグの秀逸さとリズムの良さで、並の一発芸頼りの漫才とは違うことを示していた。帰宅してから調べたら、大阪で修行して現在は太田プロの所属で、芸歴は短いとはいえない。プログラムに「アップテンポ漫才全盛の時代にあえてゆったりのペース~」と紹介があるが、あえて補足するなら、アップテンポもスローも自在な漫才と評価したい。テレビで2~3分の持ち時間で披露する一発芸の場合は、持ち味である“ゆるさ”を強調するのだろうが、10分あれば、どちらも披露できる。寄席でも通用するだけの技量があるように思う。私はこの漫才、好きだ。

三遊亭竜楽『片棒』 (19:15-19:40)
 日中国交正常化40年記念の一環として、中国天津で開催予定だった林家三平の落語会が延期になったことを書いたばかりだが、コメントでこの人が外国語を駆使して海外で落語会を披露していることをご指摘いただいた。そのことは深く知らずに、円楽一門の数少ない実力者の一人らしい、という思いで楽しみにしていたのだが、なかなか絶妙のタイミングでいただいたコメントだった。
 その外国語落語のことからマクラが始まった。『味噌豆』を七か国語で演じたCDを出したらしい。英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、そして日本語である。ネタの出だしの部分を各国語で演じてみせた。次に、異文化ジョークとしては定番とも言える、船が沈没しそうになった際に、各国の男たちに海に飛び込ませるための方法(科白)のネタ。そして、ケチを題材にバルセロナ人、スコットランド人に関するジョークなどの9分ほどのマクラから本編へ。
 このネタの見せ場は次男銀次郎の場面なのだが、なかなか結構だった。葬儀というより、ほとんど祭り風景の描写になるが、笛や太鼓の口真似など、ほぼ今日の型として本寸法の内容も良かったし、セスナ機が飛んできて空に「あかにしや」と描くというギャグも可笑しかった。機内放送を聴く人にとっては、赤螺屋吝兵衛そっくりの人形の可笑しな動きは“見せる芸”なので分からないだろうが、それを想像するのも落語の楽しさのうちなのだろう。
 同じこの会場で独演会を行っているようでもあり、今後もぜひ聴きたいと思った。兼好との二人会でもやってくれないかなぁ、というのはまったく都合の良すぎる話なのだろうなぁ。

U字工事 漫才 (19:50-20:09)
 前半は緊張もあったのか、少しリズムが悪かったが、次第にペースを上げてきた。テレビで何度か見ているので、風藤松原のような、初見での驚きや可笑しさはないが、定番の栃木ネタで会場を沸かせた。無難な出来。

笑福亭松喬『崇徳院』 (20:10-20:46)
 高座に見台と膝隠しが置かれた。若干、待ちながら緊張。テレビでは何度か見て聴いているので、顔のイメージはある。登場した時の表情は、やはり病み上がりの印象が残る。しかし、語り始めてからは、安心した。口調はしっかりだし、何と言っても、全体に力強さを感じることができる。
 マクラは自分の病気のことから。昨年末に癌が見つかり、すでにステージ4の末期で、医者からは最近になって、「本当は6月頃には死んでいたはず」などと言われている、といった内容なのだが、まったく暗くない。
 医者の話として、
「抗癌剤や放射線治療の効果もあったのだろうが、それ以上の何かを感じる」
「それは、きっと笑うことの免疫効果だろう」
「お客さんが笑っている様子を見ることでうれしいでしょうから、それだって免疫効果が高まることにつながるのでしょう」
 と続けて、「もし、お客さんの笑いが少ない時は、私の免疫効果が高まらないので、高座を降りさせていただきますが、それは私じゃなくて、お客さんのせい」と言って、会場が沸く。
 病気のことを語りながらも、しっかりと会場を温めるマクラ5分で本編へ。滑舌も悪くない。「緋塩瀬(ひしおぜ)の茶帛紗(ちゃぶくさ)」なんて、なかなかスッとは出てこないのだが、問題なし。登場人物も生き生きと描かれた。蚊の鳴くような声で悩みを語る恋煩いの若旦那、その息子を心配するお店の旦那、旦那から礼金や長屋というエサをぶら下げられて謎の女性を見つけるために奔走する熊、そして後半で登場するお嬢さんのお店側の頭領風の男、すべからくそれぞれの個性を際立たせながらも無理のない役づくりと語り口の良さに、どんどん引き込まれた。会場には初落語と思われる東京の方も多かったように思うが、会場全体が一体になって沸いていたように思う。大げさだが、松喬の生命のエネルギーのような何かを感じる素晴らしい高座、もちろん今年のマイベスト十席候補である。


 帰宅してから、ビールを飲みながらブログを書き始め、松喬のブログを覗いてみた。8月23日のブログ(日記)に、次のように書いていた。
笑福亭松喬のブログ(日記)

清々しい朝を迎えました。6月27日から入院し、途中4日間退院。
述べ53日に渡っての長期の入院に成りました。
途中、正直挫折感と絶望感を味わいながらも、家族の励ましでやってこれました。
特に家内には感謝感謝です。53日間毎日11時過ぎから夜の消灯まで
私を励まし、「かならず治る、大丈夫」「新しい治療も挑戦しよう」
病室で会話もなくなる時がある、「私は本を読む時間が増えて嬉しい」と
不満ひとつ言わず、ただただ私のために。子供たちも不満ひとつ言わず
留守の家を守ってくれた。
家族の皆が「お父さんの落語を多くの方々が待っている
しっかりしなさい」この言葉で再び生きる元気が出ました。



 きっと、家族や周囲で支えてくれる全ての人への感謝の念が、高座で昇華されて、何とも言えない力を感じるのだろう。そんな気がする。
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by kogotokoubei | 2012-08-29 23:02 | 落語会 | Comments(8)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛