噺の話

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落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。

2012年 04月 30日 ( 1 )

 4月28日の夜にWOWOWで放送された林家しん平脚本・監督による『落語物語』の録画を見た。

 昨年3月12日から封切り、という時期的には不運とも言える巡り合わせがあったし、正直あまり期待をしていなかったので劇場では見なかったが、予想以上に良かった。

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「落語物語」公式ホームページ

 落語協会の協力で噺家本人、色物芸人さん本人が多数登場することと、都内定席四席で撮影されたことで、リアルに落語の世界を描く映画になっていたように思う。

 私がもっとも感心したのは、田畑智子のお内儀さん役。ピエール瀧が演じる今戸家小六を支えるチャキチャキの江戸っ子女房役は光っていた。林家しん平が「理想のお内儀さん像」として、彼女をイメージして脚本を書いたようだが、これはハマリ役だった。

 この映画のベースは、落語家の生活そのもの。中心の舞台は寄席である。そして、その落語家の世界に、林家しん平がこれまで暖めていたらしい次のようなエピソードが織り込まれる。

(1)引っ込み思案で口べたな若者が落語の世界へ入門し理不尽な修業に悪戦苦闘する
(2)実力はそれほどでもないがマスコミ受けをする噺家が人気を背景に昇進する
(3)いわゆる“フライデー”されてしまい、干される
(4)自信過剰だった噺家が挫折を味わい、自暴自棄になってしまう
(5)元気で健気だった噺家のお内儀さんが突然病魔に襲われる

 (1)の若者を演じるのが柳家わさびだが、まるでオーディションをして探してきたような適役。

 (2)(3)で、せっかく抜擢されて二ツ目で主任をとらせてもらったのに、不倫現場が暴露されて干される役を演じるのはぽっぽ、今のぴっかり。なるほど入門前は舞台女優を目指した片鱗を見せている。

 (4)で山海亭心酒を演じる隅田川馬石も、入門前は石坂浩二主宰の劇団にいただけの演技を見せている。嶋田久作演じる師匠文酒との二人会、出番前の楽屋での会話などなかなかの見せ場である。

 (5)のお内儀さんが田畑智子なのだが、その主人役ピエール瀧は、田畑のお内儀さん(役名山崎葵)やたった一人の弟子わさび(役名小春)の引き立て役、という印象。それでいいのだろう、この映画は。

 他の噺家さんの演技では、協会の寄合で末広亭の席亭役だった柳家小さんが、妙にハマリ役だった。科白はほとんどないのだが、ただのおじさん風で可笑しかった。
 
 小さんと対照的なのは、バーのマスター役の喬太郎、協会の事務局長役の笑組・ゆたか、寄席の常連役の百栄などで、強いキャラそのままの演技で、楽しい。

 ややトリビア的だが、警官役で一之輔も登場している。

 この映画は、主役が独りではない。下座さん達も光っているし、寄席の楽屋の映像なども主役の一人。また、さりげなく登場する銘店のどら焼きやカステラなどのお菓子も、重要な脇役。

 上述したようなエピソードが凝縮されているので、やや全体のストーリーとしては落着きがない。しかし、落語の世界や寄席の舞台を知りたい人には興味深いだろうし、落語愛好家が楽屋の様子を知って喜び、落語家の演技を見てニヤニヤと楽しむ、そういう映画であろう。

 5月8日にWOWOWで再放送される。WOWOWオンラインの該当ページ

 今戸家小春のその後を描く『落語物語Ⅱ』の制作を期待したい、そんな思いがした落語ファンにとっての秀作。
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by kogotokoubei | 2012-04-30 09:23 | 落語と映画 | Comments(10)

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by 小言幸兵衛