噺の話

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2009年 05月 21日 ( 1 )


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*蕪の間引き菜。ブログ「ほっこり日記」からコピーさせていただきました。ほっこり日記

このネタも夏の代表的な噺。先日の「らくだ亭」では、桂都丸の『青菜』がなかなか良かった。

原話は古く江戸時代1778(安永7)年の笑話集『当世話』にあるらしい。元は上方噺で、東京には他の多くの噺も移植している三代目柳家小さんが広めたようだ。最初は『弁慶』のタイトルだったらしい。
上方と東京で微妙に演出が違うが、東京版で説明すると次のようなストーリーである。
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(1)植木屋が仕事先のお屋敷の主人から接待を受ける
初夏の夕暮れ時、ひと仕事終えた植木屋が、主人から声をかけられた。大阪の
友人が送ってくれた柳影、関東で言う「なおし」があるから、一杯やってくれとの
ことでご馳走になる。”鯉のあらい”を肴に冷やした柳影でいい気分の植木屋さん。

(2)奥さんと主人の会話
主人から「菜をおあがりか?」と勧められ、主人が奥さんに言いつけるが、奥さん
がかしこまって言うには「鞍馬山から牛若丸がいでまして、その名を九郎判官」、
この言葉を聞いた主人が「では義経にしておきなさい」と答えた。植木屋が不審に
思うと、これは「菜を食ろうて、なくなった」ということを隠し言葉、洒落で答えたの
だと主人の説明。

(3)植木屋が長屋に帰宅
お屋敷の夫婦の会話にいたく感心した植木屋さん。家に帰り、がさつな女房に、
おまえにはこんなこと言えないだろうとけしかけると、女房が「私にだってそれ
くらい言える」との返答。ちょうどやって来た熊さんを相手に芝居をすることにし、
女房を押入れに隠す。

(4)植木屋夫婦の芝居
熊さん相手に「冷やした柳影」は「燗冷ましの酒」、「鯉のあらい」は「鰯の塩焼き」
で代替、菜は嫌いだという熊さんになんとか頼み込んで、ようやく待望の夫婦芝居
の出番になった。「奥や、奥!」と声をかけると押入れから汗だくになった女房が
出て来て、「鞍馬山から牛若丸がいでまして、その名を九郎判官、義経」と言って
しまう。慌てた植木屋、「え、義経、う~ん、じゃあ、弁慶にしておけ」でサゲ。
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サゲで植木屋さんが味わう落胆状態のことを「青菜に塩」という、というのは嘘です。

よそで聞いた感心した話を亭主が女房に聞かせるが失敗するドタバタ、という設定は、『猫久』『町内の若い衆』などと共通する。なんと言ってもこの噺の「温度差」が良い。前半の夏の夕暮れ時、打ち水された庭先での主人と植木屋との会話。そして冷えた柳影や氷に乗った鯉のあらい、という情景が目に浮かぶ。思わずよだれが出るシーン。この前半の清涼感と、後半の長屋でドタバタと暑苦しさが好対照である。特に押入れから這い出る女房の場面で客もドット汗が噴出したら、その噺家はよほど上手い、と言える。

「青菜」は本来は蕪(かぶ)の間引き菜のことで、古名「阿乎奈(あをな)」または「かぶな」と呼ばれていたらしい。しかし、この噺に関しては、「青い菜」ということでほうれん草、春菊、小松菜など一般的な野菜と解釈しても、まったく問題ないだろう。そもそも「青菜」が最後まで登場しない。余談だが、山形には高菜の仲間の「青菜(せいさい)」があり、この漬け物「青菜漬け」はとてもおいしい。
ちなみにこの噺を得意としている柳家権太楼は『江戸が息づく古典落語50席』(PHP文庫)で、次のように書いている。(この本もなかなか結構です。)
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この噺をすると、青菜ってなんだ、とよく訊かれます。三つ葉なんですか、
小松菜なんですかと訊かれます。私は知りません。落語界の薀蓄王の柳亭市馬
師匠に訊いても「何でしょう」という答えです。つまり、落語はそこまで気に
しないということです。夏の季節にお浸しにして食べられる「あおいはっぱ」、
それが「青菜」。
あんまりしつこく調べると、それは「あほな」です。
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柳家権太楼_江戸が息づく古典落語50席

「柳影」は、柳「陰」とも書くようだが、夏に井戸水でよく冷やして飲む、味醂に焼酎を加えて甘みのある飲みやすい強い酒。つまりつくり直し酒だから関東では「直し」と呼ぶらしい。他にも関西ではもち米と麹と焼酎で仕込んだもので、「直し」とは少し違うものという説もあるが、いずれにしても夏に冷やして飲む「オツ」な酒であろう。
これ以上しつこく調べるのは「ぃやな、いい加減」です。(苦しい、寒い・・・・・・)

サゲの「弁慶にしておけ」は、上方落語『船弁慶』のサゲと同様に、「おごりで済ます」という意味がある。ただし、今日では、特に東京では分かりにくい。別な意味として「立ち往生する」という含意もあり、こちらの意図として話す落語家さんも多いだろう。
どちらにしても説明しないと難しいが、「義経」と「弁慶」という有名な人物名での応答なので、弁慶の本来の意味を知らなくても違和感はなく聴ける。

季節感たっぷりで笑わせどころも多い夏の噺だから、今日でも多くの噺家さんが演じる好きなネタである。この夏もいろんな噺家さんのこのネタを聴きたいものだ。

お奨めCDとなると、まず第一に東京へ移植した三代目の直系五代目柳家小さんが、なんとも言えない味わいがある。
柳家小さん_青菜ほか
小さん門下柳家権太楼のこの噺が一番、と指摘する落語ファンも多い。今年に入ってポニーキャニオンから、昨年の8月15日の鈴本夏祭りの高座を収録したCDが発売されたが、現役の第一線である、ぜひ生で味わいたい。

次に、三代目の春風亭柳好の音源が最近相次いで発売されたが、これも短いながら良い。鰯の代わりに鮭の切り身である。柳好の魅力はなんと言っても、そうめんを洋芥子(ようがらし=マスタード)で食べる独特の演出、そして酔っ払いの演技である。
昭和30年の音源が二種類、今年になってビクターとコロムビアから発売されている。ほぼ同じ内容で、観客の笑いのポイントもほぼ一緒というのが興味深い。
ビクター落語_春風亭柳好_青菜ほか
*昭和30年(1955)年7月19日放送・ラジオ東京[現TBSラジオ]
コロムビア_春風亭柳好_青菜ほか
*昭和30(1955)年2月7日放送・NHKラジオ

上方版では、やはり桂枝雀をお奨めする。ドッカンドッカンさせながら、この噺の品のようなものも失わせることがない。上方版は鰯ではなく「おからの炊いたの」、である。長屋での芝居において、大工の留さんに向かって「植木屋さん」をリフレインするのも上方流。枝雀のこの噺を聞きながら初夏の夜道を家路に向かう時、なんともいえない良い気分になるのだ。
桂枝雀_青菜ほか
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by kogotokoubei | 2009-05-21 20:21 | 落語のネタ | Comments(0)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛