噺の話

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落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。

2008年 09月 06日 ( 1 )


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 9月4日「志らく百席」第26回のことを書いた際に、吉川潮さんによる10年ほど前の志らく評を紹介したが、この高田文夫編集による『江戸前で笑いたい』からの引用である。吉川さんの文章は、「第一部 やっぱり落語だ!」の中で「小朝、志の輔とそれに続く若手たち」というタイトルの、本書のための゛語りおろし゛である。
「志らく 談春」の部分をもう少し紹介しよう。
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立川流では志の輔のあとに志らくと談春が続く。落語協会には志らくと談春
どころか志の輔さえも認めない落語家が大勢いるんだよね。・・・・・・でも批判
する連中が二人の落語をちゃんと聞いているかと言えば、聞いてないんだよね。
・・・・・・最近の志らく、談春の落語を生で聞いてみればわかることだけど、声が
通るようになって、めりはりもあって、とってもいいよ。寄席で修行した落語家で
彼ら二人と同じキャリアの落語家と比べたら、二人のレベルはかなり高いね。
志らくの場合は、創作力、構成力、演出力を兼ね備えているのが強い。小朝に
しても志の輔にしても、その三つを持っている。・・・・・・
談春は高座姿がきれいだわな。最近形のいい落語家が少ない。・・・・・
談春は声もいいよ。ドスが利いて歯切れがいい。・・・・・・
志らくは野球で言えば技巧派の投手。七色の変化球を操る。・・・・・・
対して、談春は本格派の速球投手だ。ストレートの速さが魅力で気持ちがいい。
今はまだコントロールがないから、試合に出ると打たれることもあるだろうが、
コントロールがついてくれば楽しみだよ。
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初版が1997年の1月に筑摩書房から単行本で発行、2001年に中公文庫で復刊。だから、吉川さんの゛語りおろし゛は、談春の真打昇進がこの年の9月なので、その直前での評価である。ちなみに、吉川さんが小朝、志の輔に続く若手として9人の名前を挙げているのだが、それは次の通り。
市馬、花緑、三木助、昇太、たい平、喬太郎、勢朝、そして志らく、談春である。このなかで、たい平、喬太郎、談春の三人が、当時まだ二つ目である。

この本は゛江戸前゛の笑いに関する宝庫といっても良い傑作だ。口上のあと、編者である高田文夫さん自身の「笑いと二人旅」(前編)で始まる。渋谷で生まれ世田谷で育った高田さんが、鳶頭の子で粋でいなせなお母さんの影響もあり、笑いに身近に接し、日大芸術学部落語研究会でも活躍した、といったプロフィールは、本書で初めて知った。近所に『社長シリーズ』で売れる前の森繁久彌の家があり、庭の柿や栗を盗んでは「森繁のバカヤロウ」とかウワーとか言って、森繁さんが出てくると逃げた、などのエピソードも楽しい、高田さんの傑作な半生記である。

第一部と第二部が落語をメインテーマにしているが、その目次は次の通り。
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第一部 やっぱり落語だ!
    口上・・・・・・高田文夫
  笑いと二人旅(前編)・・・・・・・・・・高田文夫
  現代ライバル論(1) 志ん朝と談志・・・・・・・・・・・・・・・・・山藤章二
  現代ライバル論(2) 志ん生と文楽・・・・・・・・・・・・・・・・・玉置 宏
  現代ライバル論(3) 高田文夫と藤志楼・・・・・・・・・・・・・森田芳光
  小朝、志の輔とそれに続く若手たち・・・・・・・・・・・・・・・・・吉川 潮
  変貌する落語−今こそ、新作落語に注目!・・・・・・・・・・渡辺敏正
  談志論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・立川志らく
第二部 中入り
   中入り・・・・・・高田文夫
  志ん生と江戸の笑い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鴨下信一/高田文夫
  みんな落語が好き・・・・・・・・・・・・篠山紀信/春風亭昇太/高田文夫
  名人に二代なし?・・・東貴博/三波伸一/柳家花緑(司会・高田文夫)
  浅草芸人寿司屋ばなし・・・・・・・・・・・・・内田榮一(聞き手・高田文夫)
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森田芳光監督が日大芸術学部落研で高田さんの後輩(しかし在籍半年)だった、というのも、本書で初めて知ったことだ。言わずもがなだが、第二部は対談である。唯一の゛素人゛さんである内田榮一さんは美家古寿司のご主人。金原亭馬生師匠が生前に足繁く゛飲むだけ゛に通ったお店である。

第一部と第二部は、ほとんどが本書のための書き下ろし、または語り下ろし。
「第三部 東京の喜劇人」は、雑誌「東京人」95年7月号からの収録が多いが、三木のり平、由利徹、渥美清、クレージーキャッツ、萩本欽一、ビートたけし、イッセー尾形、伊東四郎といった喜劇人について、それぞれニンな書き手が担当している。この第三部でも、喜劇人を語る中でふんだんに落語と落語家のことにも話は及んでいる。

第一部に戻る。本書を読んでうれしかったのは、志ん生のことが目一杯書かれているからだ。玉置宏さんの文章から少し抜粋。
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昭和28年(1953年)六月、新たな同人を加えて「第二次川柳鹿連会」が発足、その
作品記録のうちの十二冊が私の手許にある。これは八代目春風亭柳枝未亡人から
頂戴したもので、同人は、桂文楽、三遊亭円生、先代橘家円蔵、先代桂三木助、
先々代三升家小勝・・・(中略)・・・志ん生の作品をいくつか御披露しておこう。
 同業に 悪くいわれて 金ができ
 宝くじ 当たるは政府ばかりなり
 煮てみれば 秋刀魚の姿 哀れなり
 恵比寿さま 鯛を逃して 夜にげをし
 ビフテキで 酒を呑むのは忙しい
ちょっぴりケチで皮肉屋の、いかにも志ん生らしい川柳である。
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志ん生本来のブラックなセンスが川柳にも十分現れているではないか。
第三部で中野翠さんがイッセー尾形を語る文章の冒頭で、こんな志ん生の言葉を紹介している。
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「落語というのは、世の中のウラのウラをえぐっていく芸であって、おもしろいうという
ものじゃなくて、粋なもの、おつなものなのだ」−と。この言葉は、よくかみしめたい。
言いたいことは、何となく、わかるような気がする。
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当時まだ健在だった志ん朝師匠と談志家元を論じた山藤章二さんの次の名文も有名だ。
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・・・・・・と、ここまで書いてハタと気づいた—<現代(コッチ)>から<過去(アッチ)>へ
客を運ぶのが志ん朝で、<過去(アッチ)>をグイと<現代(コッチ)>の岸に引き寄せる
のが談志である。
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11年前の本とはいえ、珠玉のような名文、名企画が一杯の本である。しかし、あまり本屋には並んでいないのが残念。落語ファン、たけしファン、渥美清ファン、そしてすべての“江戸前”のお笑いファンにとって、必読の書だと思いますよ。

高田文夫_江戸前で笑いたい
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by kogotokoubei | 2008-09-06 17:09 | 落語の本 | Comments(0)

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