噺の話

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西のかい枝・東の兼好 横浜にぎわい座 2月13日

 久しぶりの生落語は、「にぎわい倶楽部」と題された、二年振りのこの会。
 通算27回目、とのこと。

 2016年2月の会は、兼好の『置泥』と、かい枝の『茶屋迎い』が実に良かった。
 とりわけ、かい枝の高座は、その年のマイベスト十席に選んでいる。
2016年2月9日のブログ

 二席のうち一席はネタ出し。
 今回は、かい枝が上方の噺家としては珍しい『子は鎹』、兼好も、たぶん彼としては珍しい『品川心中』である。

 実は、開演前の横浜にぎわい座の方の口上(?)が、なんとも笑えた。
 携帯、スマホの電源を切ってください、といういつもの注意なのだが、「私がこれほどお願いしても、一昨日、たい平師匠の『文七元結』の最中、それも、あの吾妻橋の場面で携帯が鳴り、昨日は、権太楼師匠の『笠碁』の途中で鳴りました」で、会場大爆笑^^
 その成果であろう、この日は携帯は鳴らずにメデタシ、メデタシ。

 さて、次のような構成だった。

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(開口一番 三遊亭しゅりけん『転失気』)
三遊亭兼好 『雑俳』
桂かい枝  『子は鎹』
(仲入り)
桂かい枝  『京の茶漬け』
三遊亭兼好 『品川心中』
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 順に感想などを記す。

三遊亭しゅりけん『転失気』 (13分 *19:01~)
初。兼好の三番弟子とのこと。前座としてはまぁまぁというところか。
やや頭髪が伸びすぎているところが、気になった。
前半、和尚が珍念に「転失気」を「本堂の脇に立てかけてあったろう」と言うのは、誰の演出か知らないが、この噺の筋からは適さないように思う。

三遊亭兼好『雑俳』 (25分)
 オリンピックのジャンプのことから会津で大雪の中で落語会をしてきた話につなぎ、このネタへ。雪、の季語からなので、適切な流れだ。
 「雪」「りん」と八五郎の迷句が続く。ご隠居の句の鸚鵡返しを失敗する場面などで、私の席の周囲の女性たちが大笑い。こういうネタでは、外さないのがこの人。二席目を考慮してのネタ選択かとは思うが、大いに楽しんだ。

桂かい枝『子は鎹』 (35分)
 長野冬季オリンピックでボブスレーの応援に行った体験から、それに比べて落語はいいでしょう、とつなぐ。たしかに、コンマ数秒で落語は終わらないし、客席も震える寒さではないわなぁ。
 ネタ出しされていて、楽しみにしていた噺。上方の噺家さんで聴くのは、たぶん、初。
 大工の名が熊なのは東京と変わらずだが、女房は、お花、子供は亀ではなく寅だ。
 あらすじを、ざっと。
 (1)女房が家を出て行く場面から始まる。「中」の最後の方、ということになる。
    出て行く際に、お花が「寅が大きくなった時、お父ちゃんはどんな人だった?」
    と聞かれた時のために、と古いカナヅチを持っていく設定。
 (2)二年経った。松島新地からやって来た女郎上がりの二人目の女房は、飯も炊けず、
    三ヵ月もすると出て行った。酒もやめ、仕事に精進している熊。
    お店の番頭が訪ね、主人に言われ、堀江に着いた材木を一緒に見に行くことに。
 (3)道すがら、番頭との会話で、熊が別れた女房お花、そして子供の寅のことを思い
    出していると、路地から飛び出した子供とぶつかる。なんと、それは、寅だった。
 (4)寅からお花が再婚せず、寅と二人で住んでいると知り、内心喜ぶ熊。寅は、東京の
    元ネタのように苛めれて額に疵があるのではなく、ガキ大将で喧嘩して負けた相手
    が母親と一緒に抗議に来た、という設定。その際、お花が「父親がいないから、
    馬鹿にして」と泣いていた、と聞き、熊は胸が締め付けられる。
    寅に小遣い五十銭を渡し、翌日の鰻屋での再会を約束して二人は別れた。
 (5)家に帰った寅をお花は待ちかまえ、糸巻きの手伝いをさせようと、握った拳を
    開けさせると、五十銭が転がった。誰にもらったのかを明かさない寅をつかまえ、
    持ち帰っていたカナヅチを握ったお花が寅に詰問。しかし、相手が熊と知り、
    驚くとともに、ほっと安堵するお花。
 (6)翌日、寅を鰻屋に送り出しても落ち着かないお花は、着換えて、化粧し鰻屋へ。
    二階の窓から店の前にいるお花を見つけた寅。二階と路上での高低差のある
    短い会話の後、二階に上がったお花と熊の対面。
    熊は、煙草は吸わない。話す言葉を探しながら、前日の寅との対面や約束の
    ことを、たどたどしく繰り返す。
    三度目に入る時、お約束で、寅が止めに入り、しばらくの、間。
    意を決した熊が、お花に再縁を申し出る。
    涙し「勝手なこと言って・・・・・・」と漏らすお花。そして、二人の思いが
    一致した。
    熊が「寅は鎹だな」と言い、寅のサゲの一言。

 この噺を上方に伝えたのは、円朝門下の二代目三遊亭円馬と言われており、その内容は柳派の『子別れ』と違って、子供が父親の元に残る、円朝作の『女の子別れ』だったようだ。
 しかし、噺家さんにもよるが、上方でも母親と子供が一緒に出て行く型も多いらしいし、実際、かい枝もそうだった。
 かい枝の高座は、泣きの場面にも程よく笑いどころを挟みながら、上方の噺家さんとしては(?)、落ち着きのある、人情噺に仕立てていた。
 中でも、熊と寅との再会、そして、サゲ前の復縁の場面が秀逸。
 わざとらしくなく、くどすぎず、親子、そして、男女の情愛のふれあう姿が描かれていたように思う。
 こういうネタも、しっかりこなすのが分かると、なおさら、文枝の名はこの人が継ぐべきだったなぁ、と思わずにはいられない。
 芸の幅広さを示した高座、今年のマイベスト十席候補とする。

桂かい枝『京の茶漬け』 (17分)
 仲入り後は、私が米朝の音源をよく聴いている、この噺。
 四代目春団治襲名披露のことを、マクラで少しだけ語ったが、内容は秘密^^
 神戸、大阪、京都の気質の違いから本編へ。
 なんとか「幻」の京の茶漬けを食べようと京都まで電車賃を払ってまでやって来た大阪男と、京おんなのバトルを楽しく聴かせてくれた。
 かい枝の大阪の男の描写が秀逸。その家の主人を鯛の刺身と灘の生一本でもてなした様子を、くどいくらいに演じる場面、席の近くの女性のお客さんが凍えで「いやらしい・・・」って呟いていた。かい枝の芸の巧みさが、推し量れる証拠。
 この噺の可笑しさ、学生時代に京都にいた私は、よくわかるのだ。一度も京の茶漬けは、食べたことがないからねぇ。

三遊亭兼好『品川心中』 (43分 *~21:29)
 「上」のみかと思っていたら、工夫した「下」につないだ「通し」。
 この人の大きな持ち味の一つだと思うのは、古典落語の古い内容の理解を助けるための“譬え話”が巧みなことだろう。
 板頭は、キャバクラのナンバーワンに置き換えて笑いをとるし、お染と悪口を言うライバル達の関係は、会社のOLたちの関係に譬え、女性同士の争いの怖さ、惨さを表現してみせる。
 そして、兼好が描くお染も、そういうしたたかな女性として見事に造形されていた。
 前半は、そのお染と、実に軽いノリの貸本屋金蔵とのやりとりの楽しさで一気に進む。
 特に、お染が邪険に金蔵を扱ってきたのは、「本気になるのが、怖かったからだよ」と言うのを真に受けた金蔵の、舞い上がり方が、なんとも可笑しい。
 金蔵が、自分で用意した、頭には三角、下はツンツルテンの死装束を着たままお染に背中を押されて品川の海にドボン。
 この衣装の仕込みがあったので、改作の「下」にすんなりとつながった。
 そう、通しだったのだ。その遠浅の海から抜け出し、親分の家にやって来た場面あたりで約30分だったろうか。だから、例のドタバタでさげるかなぁ、と思っていたのので、驚きながら、嬉しい誤算。
 親分はじめご一行が協力して、早桶に金蔵を入れて白木屋に連れて行き、「金蔵が幽霊で現れた、線香の一本も上げて供養しないと浮かばれない」、とお染に迫る、という展開になった。
 こういう下の描写、いったい誰の型なのか・・・オリジナルかな。
 私は聴いていて、『幕末太陽傳』の小沢昭一さんの金蔵役の姿を思い起こしていた。
 さて、事の次第を妓夫太郎がお染に伝えると、「幽霊・・・あたしは、オアシのない人は嫌いだよ」と会わない。この科白でも、結構、笑いがあったなぁ。
 怒った親分が金蔵に、「さぁ、幽霊になって、お染の部屋に行け」と言うが、その後に金蔵のサゲの言葉。なるほど、とは思ったが、サゲは、もっと工夫の余地があるかな。
 この時間で、改作とはいえ通しで演じた好高座、今年のマイベスト十席候補としたい。
 
 終演後、いつものように兼好が外でお客さんをお見送り。かい枝は、先に移動だったのかな、姿は見かけなかった。それとも、見逃したか。

 途中に間は空けているが、長年、この会に来ている。来る度に、二人が着実にネタも増やし、芸も磨いていることが実感できる。

 兼好は、持ち味の滑稽噺の上手さのみならず、この人ならではの個性で人情噺もものにしつつあるのは、この『品川心中』で十分に理解できた。
 かい枝も、この日の『子は鎹』で、芸の幅広さを示していた。もちろん、師匠五代目文枝の十八番も、新作も含め、引き出しの多さでは、上方でも上位に入るのではなかろうか。

 にぎわい座には、今回でスタンプが10個となった特典としてチケットを入手できた会に、また来ることになる。
 その会とは・・・それは、記事をお楽しみに願いましょう。

 久しぶりの落語、そして、この二人会、大いに楽しんだ。
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Commented by saheizi-inokori at 2018-02-14 22:14
なるほどね、落語研究会の継続、ますます迷います。
Commented by at 2018-02-15 06:57 x
板頭についてはある落語家(誰かは失念)がAKBのセンターだって言っていました。
『品川心中』を通しで演ると、どこかでダレるもんですが、兼好はそのきらいがなく演じたようですね。
追伸 小沢昭一の金蔵はたしかに強烈な印象でした。
Commented by kogotokoubei at 2018-02-15 08:53
>佐平次さんへ

迷わせてしまいましたか。
たしかに、あの会って、他の魅力的な会と日程がかぶることが多いですしね。
Commented by kogotokoubei at 2018-02-15 08:57
>福さんへ

AKBのセンター・・・やはり、キャバクラの方が比喩として相応しいでしょう^^
まったくダレませんでした。
この人だけでも、寄席で聴きたいと思うのですがね。
「下」では、小沢さんが幽霊に扮し、早桶で白木屋に運ばれた場面がしっかりと目に浮かんだのです。名演でした。
Commented by ほめ・く at 2018-02-15 09:38 x
私もこの日は国立の文楽とかぶってしまい、見送っていました。
兼好の『品川心中(下)』の演じ方は珍しいですね。以前に雲助と喬太郎で聴いていますが、いずれもオリジナルの型でした。やはり『幕末太陽伝』の影響でしょうか。
喬太郎のサゲは、親分たちがお染に「尼になれ」と迫ると、追いかけられたお染が品川の海に飛び込み「海女(アマ)になりました」でした。
兼好は着実に芸域を拡げていますね。
Commented by kogotokoubei at 2018-02-15 19:58
>ほめ・くさんへ

私の『品川心中』の通し体験は、県民ホール寄席で、さん喬(なんと75分)と、同じ県民ホール寄席ですが、場所は関内ホールで昨年聴いた、むかし家今松、そして、その今松は、末広亭で短縮版も聴いています。
それぞれ、オリジナルの「下」でしたが、兼好は工夫しましたね。
滑稽噺の兼好が、人情噺まで芸域を広げていることを実感しました。
そのうち、『文七元結』あたりを、ぜひ聴きたいものです。
声の質に好き嫌いはあるかもしれませんが、あのスピード感や古典を現代に通じさせる工夫、そして、少しブラックなマクラ、なかなか魅力的な人です。
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by kogotokoubei | 2018-02-14 12:39 | 寄席・落語会 | Comments(6)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛