噺の話

kogotokoub.exblog.jp
ブログトップ

インパール作戦における“組織の失敗”ー『失敗の本質』より。


 前の記事で、吉村昭の『東京の戦争』について書いたが、つい、前日に見たNHKスペシャル「戦慄の記録 インパール」のことにも、ふれてしまった。

 あの作戦について、ずいぶん前に読んだ本をあらためて読み直した。

e0337777_13471400.jpg

『失敗の本質』

 その本は、『失敗の本質』。
 私が本棚から引っ張り出したのは、昭和59(1984)年に発行されたダイヤモンド社の単行本。単行本もよく売れたようだが、平成3(1991)年に中公文庫で再刊されてからも、ベストセラーになっている。

 執筆者は次の六名。( )内は、生年と単行本発行当時昭和59年の職務。

 戸部 良一(昭和23年、防衛大学校助教授)
 寺本 義也(昭和17年、明治学院大学教授)
 鎌田 伸一(昭和22年、防衛大学校助教授)
 杉之尾孝生(昭和11年、防衛大学校助教授)
 村井 友秀(昭和25年、防衛大学校講師)
 野中郁次郎(昭和11年、一橋大学教授)


 購入当時、野中郁次郎の名だけは、知っていた。
 その野中も、本書執筆に至る研究会が発足した昭和55年当時には防大に籍を置老いていたので、防衛大学の四十歳前後の先生たちが中心になって出来上がった本と言えるだろう。

 牟田口第十五軍司令官の無謀なインド侵攻作戦が、なぜ組織の中で止めることができなかったのか。

 当時の牟田口の上下の組織は次のようになっている。

・大本営参謀本部 参謀本部総長 杉山  元元帥(陸軍士官学校12期)
・南方軍総司令官        寺内 寿一元帥(陸軍士官学校11期)
・ビルマ方面軍司令官      河辺 正三中将(陸軍士官学校19期)
・第十五軍司令官        牟田口廉也中将(陸軍士官学校22期)

 まず、直属の上司がどうであったか、本書から引用したい。
 部下の反論に耳をかさない牟田口の積極論を現地で制止しうるのは、河辺方面軍司令官のみであった。しかも河辺は蘆溝橋事件当時、連隊長牟田口の直属の上司たる旅団長であり、それ以来両者はとくに親しい間柄であった。しかし牟田口がインパール攻略論を唱えたとき、河辺は「何とかして牟田口の意見を通してやりたい」と語り、方面軍高級参謀片倉衷少将の言葉を借りれば、軍司令官は私情に動かされて牟田口の行動を抑制しようとしなかった。

 では、河辺の上司、寺内はどうだったのか。ほとんど、寺内は黙認に近い状況であった。
 そして、大本営の判断はどうなったのか。
 文中の綾部は南方軍司令部総参謀副長の綾部中将のことであり、「ウ号作戦」はインパール作戦のこと。

 大本営の中枢、参謀本部作戦部長真田穣一郎少将は、ビルマ防衛は戦略的持久作戦によるべきであり、危険なインパール作戦のような賭に出るべきではないとみなしていた。したがって昭和十九年一月初旬、綾部が上京して「ウ号作戦」決行の許可を求めたときにも、真田は、補給および制空権の不利と南部ビルマの憂慮すべき事態を指摘して作戦発動不可を唱えた。綾部は、この作戦は戦局全般の不利を打開するために光明を求めたものであり、寺内南方軍司令官自身の強い要望によるものである、と大本営の許可を懇請したが、真田はそれに答えて、戦局全般の指導は南方軍ではなく大本営の考慮すべき任務であると反論した。ちょうどそのとき、杉山元参謀総長は、寺内のたっての希望であるならば南方軍のできる範囲で作戦を決行させてもよいではないか、と真田の翻意を促し、ついに真田も杉山の「人情論」に屈してしまう。


 この後、東条首相から補給問題などいくつか質問を受けても、すでに決行を決めた大本営は、問題なし、として無謀な作戦が実施された。

 インパール作戦の失敗については牟田口一人にばかり矛先が向かうように思うが、その上司たちや、ブレーンであるべき参謀の責任者たちにも、次のような犠牲に対して責任がある。

 戦死または行方不明2万 2100人,戦病死 8400人,戦傷者約3万人。
 まったくの、無駄死にだ。

 『失敗の本質』では、組織が「人情」に流されてしまった、という指摘をしている。
 それも大きな原因だろうが、私は、理性的に考えれば不合理である部下の判断を、人情に流されて許してしまった、その誤った判断の背景も考えるべきだと思う。

 それこそが、戦争が人間を狂わせる、ということであり、私が反戦を訴える、もっとも根底にあることだ。

[PR]
Commented by saheizi-inokori at 2017-08-19 23:06
事柄は小さいけれど、今の会社や政治も同じような忖度、人情論で動いていますね。
そして責任はどこへともなく消えていく。
Commented by kogotokoubei at 2017-08-20 16:11
>佐平次さんへ

まさに、誤った判断を、集団の仲間意識が支え合う構図は一緒です。
義理人情、忖度・・・日本人は永遠に変わらないのかなぁ。
名前
URL
画像認証
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by kogotokoubei | 2017-08-19 10:35 | 今週の一冊、あるいは二冊。 | Comments(2)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛