噺の話

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『源平盛衰記』で、大事な噺家を忘れていた。

 旧暦一月二十日の義仲忌に関し、『源平盛衰記』を含んだ矢野誠一さんの『落語歳時記』の記事を紹介したが、あのネタを十八番とする大事な噺家さんのことを忘れていた。

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矢野誠一著『落語讀本』(文春文庫)


 同じ矢野さんの本、『落語讀本』の同ネタの内容から引用する。

味わい
 落語は耳学問。むかしのひとは、うまいことをいった。ありとあらゆる教えが、落語のなかにこめられているのだが、歴史だってそうで、あの膨大なる源平の合戦の模様をば、わずか二十分そこそこで林家三平が語ってくれちゃったのである。
『源平盛衰記』は、林家三平の数少ない古典落語のレパートリーのひとつであった。やはりごくたまに演じていた『浮世床』『反対車』『湯屋番』などと同じく、父親ゆずりのネタなのである。1949(昭和24)年に没した三平の父、七代目林家正蔵も三平に劣らぬ人気者だった。その父親の十八番だった『源平盛衰記』が子に伝えられる。源平の合戦に限らず、歴史というものは、古来親から子へと伝えられたものだろう。
 林家三平の高座を「あんなもの落語じゃない」の一言でかたづけてしまうことを悲しむ。三平のためにではない。落語のためにである。誰もが、物語のはこびのほうに汲々として、かんじんの豊かな語り口の創造を忘れてしまっていたとき、十年一日のごとき高座ではあったが、ただその場の客を楽しませることに徹しきっていた林家三平が、いま、とてもなつかしい。


 私は生で三平の源平を聴いてはいないが、テレビでは何度も見た記憶がある。
 NHKで過去の三平の落語の映像としてこのネタの高座がよく使われるので、お馴染みの方も多いだろう。

 『源平盛衰記』は『平家物語』の異本とされるが、実は、どっちが歴史上先に世に出たかは、諸説あって定まっていない。
 そのあたりは、Wikipediaに詳しいのだが、「語り物」が『平家物語』で「読み物」が『源平盛衰記』とされる。
Wikipedia「源平盛衰記」

 Wikipediaには、「読み物」であった源平の落語版について、次のような説明があった。

元々は「源平盛衰記」といえば7代目林家正蔵の十八番であり、これを東宝名人会で聞き覚えていた息子の初代三平が後輩の柳家小ゑん(後の談志)に伝授した。これにより、「源平」は多くの落語家に演じられるようになった。 演者ごとのストーリーの例を大まかに記すが、実際には筋はないので、口演ごとに異なっていた。特に談志のものは初代三平から教わった「源平」に吉川英治の「新・平家物語」のエッセンスを加えたものである。
林家三平版…平家物語冒頭→平家追討令下る→義仲入京→義経頼朝黄瀬川対面→義仲討ち死に→オイルショックの小噺→扇の的→交通事故にまつわる小噺→壇ノ浦合戦[3]
立川談志版…マクラ(歴史上の人物の評価の変遷について)→平家物語冒頭→平清盛と常盤御前→袈裟御前と文覚→平家追討令下る→義仲入京→義経頼朝黄瀬川対面→義仲討ち死に→扇の的→ソビエト崩壊についての小噺→壇ノ浦の戦い

なお、談志が演じた源平盛衰記にはサゲが無く平家物語の冒頭部分を最後に再び語るが、元の三平や文治が演じた源平盛衰記には地口落ちのサゲが存在する。

派生の噺として那須与一の屋島の戦いでの扇の的の下りを詳しく話す春風亭小朝の『扇の的』という演目がある。この噺の場合、サゲは初代 林家三平が演じるサゲと同じである。

上方落語では『袈裟御前』という演目の落語があり、その名の通り袈裟御前に焦点を当てた形となっているが、挿話の方に重点が置かれる地噺という点では『源平』と同じである。笑福亭鶴光が得意としている。
 
 そうなのだよ、談志には三平から伝わっているのだ。
 私の記憶では、三平が高座で演じようとして、談志に逆に教わりに行ったはず。

 一時、三平を義理の父としていた小朝の『扇の的』、鶴光の『袈裟午前』は、生で聴いている。

 さて、当代の正蔵や二代目の三平が、源平を演じるのかどうかは知らない。

 しかし、必ずしも血筋のみならず、こういう噺は、途切れることなく語られ続けて欲しいと思う。

 『平家物語』や『源平盛衰記』は、能や文楽、謡曲など幅広い芸能で演じられるが、壮大な歴史絵巻を、その時代に応じたクスグリを交え、聴く者が笑いながら短時間で学ぶことができるのは、落語だけである。
 
 そして、この矢野さんの文を読んで思うのは、「豊かな語り口」のこと。

 三平の語り口を「豊か」と表現できる落語評論家は、そう多くないだろう。

 しかし、それこそ、落語というものを知っている者の証なのだと思う。
 単に、ギャグを飛ばしまくることを言うのではない。

 あくまで、リズムがあって心地よく、味わいのある・・・なかなか形容が難しい。

 とにかく、なかなかいないのだよ、そういう噺家さん。
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Commented by at 2017-02-19 19:49 x
三平は「祇園精舎の」を朗々と語り、「まんざら三平も馬鹿じゃない」とやってますね。
談志版は人名の宝石箱、ジンギスカンなど歴史上の人物から松山恵子などの現代人まで出てきます。
他にも筋にひっかけて「セントルイス・ブルース」やら「お熱いのがお好き」やらが登場。脱線してまた戻る、という進行ぶり。

Commented by kogotokoubei at 2017-02-19 20:32
>福さんへ

NHKの映像では、マクラ途中でお客さんが入ってきて、いらっしゃるんじゃないかとお待ちしてました、といじって大爆笑ですね。

地ばなしはどれもそうですが、噺家それぞれのクスグリのセンスの度合い、エスプリがどれだけ効いているか、などが勝負ですね。
噺家の引き出しの多さ、深さ、そして権力との向き合い方なども表現できるのではないでしょうか。

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by kogotokoubei | 2017-02-19 17:38 | 落語のネタ | Comments(2)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛