噺の話

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米朝の自筆原稿発見ー三代目に伝えた『親子茶屋』。

 米朝が三代目春団治に宛てた『親子茶屋』の自筆原稿が、三代目の遺品から見つかったとのこと。
 共同通信の配信が、各紙で取り上げられていた。
47NEWSの該当記事
米朝さんの落語自筆原稿発見
春団治さんにネタ伝える
2017/1/11 16:46

 人間国宝の落語家、故桂米朝さんが、「上方落語四天王」と並び称された故桂春団治さんにネタを伝えるために書き起こした古典落語「親子茶屋」の自筆原稿が見つかり、米朝事務所などが11日、報道陣に公開した。

 戦後、上方落語の復興に尽力した四天王の交流を物語る資料で、米朝さんの長男で弟子の桂米団治さん(58)は「4人はライバルで、仲も良かった。父も春団治師匠には一目置いていた」と話している。

 米朝さんが春団治さんに宛てた原稿用紙は計8枚。春団治さんの遺品から見つかった。
 動画も配信されていて、他に『一文笛』の原稿も見つかったらしい。


 『親子茶屋』の原稿に、「御身 御大切に」と書かれているのが、印象的だ。

 1月28日から兵庫県立歴史博物館で開催される特別展「人間国宝・桂米朝とその時代」で公開されるらしい。
兵庫県サイトの該当ページ
 

 この『親子茶屋』が米朝から三代目に伝わることになった背景には、ある逸話があった。

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小佐田定雄著『米朝らくごの舞台裏』(ちくま新書)

 小佐田定雄さんの『米朝らくごの舞台裏』は、全270頁のうちの250頁が「第一章 米朝精選40席」である。

 昭和41(1966)年から京都東山区の安井金毘羅宮の境内にある安井金毘羅会館で始まった「米朝落語研究会」の座談会や反省会の内容、毎日放送の「特選!!米朝落語全集」の「こぼれ話」で知り得た逸話、雑誌「落語」のインタービューの内容などを交え、米朝落語のネタ40席ごとに、得難い情報が提供されている。

 その「精選40席」を、並べてみる。
足上がり/愛宕山/池田の猪買い/一文笛/稲荷俥/馬の田楽/親子茶屋/怪談市川堤/景清/かわり目/胆つぶし/くしゃみ講釈/けんげしゃ茶屋/高津の富/小倉船/仔猫/こぶ弁慶/堺飛脚/算段の平兵衛/鹿政談/地獄八景亡者戯/しまつの極意/除夜の雪/疝気の虫/代書/たちぎれ線香/茶漬間男/つる/天狗さし/天狗裁き/動物園/ぬけ雀/猫の忠信/はてなの茶碗/百年目/坊主茶屋/本能寺/まめだ/らくだ/禍は下

 『親子茶屋』はしっかり入っている。
 
 さて、このネタを含めていくつかの噺が米朝から春団治に伝わったのだが、そのいきさつについて本書から引用する。

 春團治師が前名の福團治から春團治を襲名したのは1959年3月。まだ二十九歳であった。襲名直前のこと、いっしょに酒を飲む機会のあった米朝師は、酔った勢いもあって福團治時代の春團治師に、
「福さん。あんた、今のネタ数で春團治を継いでええと思うてんのか」と意見したのだそうだ。福團治は、その場は黙って聞いていた。その翌朝、米朝師が自宅で目を覚ますと枕元に誰かが座っているので、驚いて飛び起きると福團治師が座っていたそうだ。
「なんや。来てたんやったら、起こしてくれたらええのに」
「いや、寝てるのん起こしたら悪い思うてな」
「なんやねん?」
 ゆうべネタ数が少ないということを言われてむかついたけど、よう考えてみたら言うてもろうたとおりやと思う」
「わし、そんなこと言うたか?」
「おぼえてへんのか!今日来たというのは、ネタを付けてもらおと思うてお願いに来たんや」と一升瓶を差し出したのだそうである。
 その心意気に打たれた米朝師は、この『代書』と『親子茶屋』、『皿屋敷』、『しまつの極意』などを教えたという。この中で『代書』、『親子茶屋』、『皿屋敷』は春團治師の十八番として完成品となった。そして、春團治師が演じるようになると同時に、米朝師はこれらのネタをあまり高座にかけなくなった。『皿屋敷』と『親子茶屋』はたまに演じることもあったが、私が米朝師の『代書』に出会うには1973年10月13日に大阪の朝日生命ホールで開かれた独演会の高座まで待たなくてはいけなかった。

 昭和34(1959)年、米朝は三十代前半、春団治は三十路手前という若い時分の逸話である。

 『親子茶屋』は、後半の茶屋遊びの場面が楽しいのだが、演じ手には「狐釣り」などを含め、実に難しい内容。
 実際に茶屋で遊んだ経験などがないとなかなか味わいが出ない噺だと思う。
 以前、桂かい枝が横浜にぎわい座で演じた際に少し小言を書いたら、ご本人からコメントをいただき恐縮したものだ。

 米朝や春団治、文枝、松鶴の四天王は、そういった茶屋遊びの経験を噺に生かすことのできた最後の世代ではなかろうか。

 そして、遊びの附き合いのみならず、戦後の上方落語低迷期に一緒に切磋琢磨してきた仲間同士だからこそ、米朝も酒の勢いを借りて、思ったままのことを言ったのだろうし、その場ではムッとしたであろう春団治も、きっと父親から大きな名跡を継ぐにあたって米朝が指摘するようにネタ数が少なすぎることを感じていて、きっと眠られないまま、米朝の家に向かったのだろう。

 自筆原稿が見つかったことで、上方落語の歴史や、あらためて四天王のことなどが話題になることは大いに結構。

 そういえば、昨年11月に、毎日放送(MBS)の「茶屋町劇場」で、“芸術祭参加”と謳った「上方落語四天王 さえずり噺〜ああ、青春の上方落語〜」が放送された。

 録音したものを後から聴いたが、なかなか楽しい内容だった。
 台本は小佐田定雄さん。四天王の役は、それぞれの弟子筋の方が演じた。
 結構、よく似ている人もいたし、そうでもない人もいた^^

 残念ながら芸術祭受賞は逃したらしい。

 桂かい枝のブログに、収録時の写真などが紹介されている。
桂かい枝のブログの該当記事


 今や「天国寄席」は、大盛況だろう。

 東京の四天王も上方の四天王も、そして昭和の名人たちも楽屋に控えている。

 昨今、落語ブームと言われており、東西の噺家の人数は史上最多かと思う。
 しかし、その量は質を伴っているのだろうか・・・・・・。

 もし、先人たちが苦労して蓄えた財産を食いつぶすだけならば、空の上から、「なにしてんのう!」と小言を言われるかもしれない。

 最後は、つまらない地口でのサゲになってしまった^^



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Commented by ばいなりい at 2017-01-13 14:59 x
ネタの継承って、口伝だけではないんですね。知りませんでした。

米朝師の師匠、先代米團治作の名作「代書」。三代目も絶品ですが、噺自体は省略なしのフルバージョンでないとオチがつきません。とは言っても今日の高座ではとても演れない内容なのでCD化も難しそうだし、YouTubeで録音を聞くしかないのが残念です。それにしても、噺を「代書」で落とすとはよく出来てます。

虎は死して皮を留め、人は死して名を残す、噺家死してなお落とす。(お粗末・・・)

Commented by saheizi-inokori at 2017-01-13 17:12
米朝全集、4期全部聴くことができるのかちょっと心もとないです。
Commented by kogotokoubei at 2017-01-13 18:03
>ばいなりいさんへ

この件、昨年11月、下記の日刊スポーツのように、予定としてメディアには掲載されていました。
http://www.nikkansports.com/entertainment/news/1734506.html

台本だけではなく、口伝による稽古をした上でのト書き入り台本ですね。
三代目襲名直前の日付になっていますが、なんとか披露目までに間に合わせようと米朝が頑張ったのではないかと察します。

米朝の原作者である師匠米団治譲りの『代書』は音源ありますね。
三代目は、自分の噺にするため、刈り込み、磨き上げたと思いますが、どちらも楽しい。

「なお落とす」・・・座布団一枚!
Commented by kogotokoubei at 2017-01-13 18:06
>佐平次さんへ

私のように携帯音楽プレーヤーで通勤時間に聴けば、結構早く走破できるでしょうが、佐平次さんには合わない^^
じっくり聴くのも、後に楽しみがたくさん残って良いのではないでしょうか。
大丈夫ですよ、百まで生きますって!

Commented by ほめ・く at 2017-01-15 10:08 x
落語に出て来る若旦那は大抵が遊び人で、親旦那から小言をくうと言うのが一般的パターンですが、『親子茶屋』はその親旦那が倅に負けず劣らの道楽者だったと言う点で珍しい噺の部類に入るでしょう(他に『不孝者』がある)。
演者としては「狐釣り」をどう演じるかですが、ここは茶屋遊びを経験しているかどうかが大きなポイントだと思います。そういう点で米朝のは絶品ですが、これから後に続く人にとっては難しい演目です。
東京に移せないネタなのも、その辺りに原因があるのでしょう。
Commented by kogotokoubei at 2017-01-15 19:03
>ほめ・くさんへ

ハメモノが入り上方らしい茶屋の場面がヤマ場ですが、前半、若旦那が大旦那をやり込める部分も可笑しいですよね。

東の噺家さんでこの噺を演じてもらうなら、まずは小満ん、そして雲助、さん喬あたりでしょうか。

東西にかかわらず、若手には荷が重いでしょう。
Commented by 山茶花 at 2017-01-15 22:07 x
親子茶屋、三代目が演じられる物が一番好きでした。勿論米朝さんが演じられるものも良いのですが、三代目の何となく弱々しい感じの大旦那が実は遊び人という雰囲気が何とも良いのです。小米朝時代の米団治さんや三代目一門の春之輔さんらが演じておられるのも見ましたが、やはり三代目の演じる「狐釣り」のシーンが思い浮べてしまいます。

それにしてもYoutube動画に登場する双子の弟さんが米朝さんにそっくりなのには、笑ってしまう程。歴史研究家弟さんの方かな?もう一人は高校の教師をされているそうですが。
Commented by kogotokoubei at 2017-01-16 12:04
>山茶花さんへ

茶屋遊びの数、三代目の方が勝っていたのではないでしょうか^^

動画で米団治の隣にお座りの弟さんは三男の渉さんで、今回の特別展の開催を担当した学芸員の方です。
このイベントの背景には、不思議な親子の縁があることを、次の記事でご紹介します。
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by kogotokoubei | 2017-01-13 12:18 | 上方落語 | Comments(8)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛