噺の話

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『四段目』ー国立劇場は、「仮名手本忠臣蔵」の通し公演中。


 昨夜は、落語愛好家仲間、いわゆる「居残り会」の仲間六人が集まった。
 とはいえ、落語会の後の「居残り」ではなく、仲間に二人、「横浜DeNAベイスターズ」の熱狂的なファンがいらっしゃるので、関内のスポーツカフェで、「ベイスターズファンを囲む夕べ」という趣向での集まり^^

 お店のテレビで「日本ハム vs. 広島カープ」を観ながら、野球のことや落語のことなど、久しぶりに集まった同好の士、四方山話で盛り上がった。
 その話題の中で、国立劇場開場50周年記念ということで、今月から三ヵ月かけての通し公演が始まった「仮名手本忠臣蔵」のことも、酒の絶好の肴になった。

 同劇場のサイトにあるように、今月は「大序」から「四段目」まで。
国立劇場サイトの該当ページ

 昨夜の話題の一つは、先日観に行かれたKさんの悲惨な(?)体験。
 「四段目」のラスト近くを固唾をのんで観ていたら、近くの席の女性の携帯が鳴ってしまい、大星由良之助役の松本幸四郎から、まるで自分が睨まれたようだった、という話。

 Kさん、どうしても残念でならず、もう一度隼町に行っている。

 休憩中に携帯やスマホをONにして、そのままにしている人って少なくないと思う。
 その結果、肝腎な場面で携帯を鳴らしてしまうのは、中年から高齢の女性が多い。

 寄席や落語会でも携帯の音には困ったものだが、歌舞伎で、それも「四段目」だよ。
 「出物止め」だし、もちろん、「鳴り物止め」だろう!
 この人の名前を記録し、劇場が出入り禁止にしても、不思議はない。

 それにしても、居残り会の皆さんは、落語に限らず伝統芸能がお好きで、行動力もある。
 昨夜のメンバーでは、M女史もI女史も、我らがリーダー佐平次さんも、すでに国立劇場で観劇して、感激しているのだ^^

 何と言っても「四段目」の最後の場面が良かった、と佐平次さん。

 そんな名場面での携帯とは・・・・・・。
 Kさんが仕切り直しした気持ちも分かるなぁ。


 さて、『四段目』(よだんめ)は、ご存じのように落語になっている。

 仕事をさぼって芝居小屋で「仮名手本忠臣蔵」を観ていた定吉が、主人に蔵に閉じ込められて、つい、観てきたばかりの「四段目」を一人で演じる場面が、とにかく楽しい。

 柳家喜多八の「落語研究会」でのネタを調べた際にもお世話になった、「手垢のついたものですが」さんのサイトに「落語はろー」というコーナーがあり、「落語速記編」として、さまざまな落語全集の内容が掲載されている。

 私が大好きな八代目春風亭柳枝の『四段目』も、弘文出版の全集を元に掲載されているのが嬉しい。
「手垢のついたものですが」サイトの該当ページ

 同サイトから、引用させていただく。なお、ルビを少し割愛している。

「(べそをかいて、大声で)旦那ァッ、相すいません、明日っから一生懸命に働きますから勘忍してください。
ねえ旦那ァ……気味《きび》が悪いなァこのォォ蔵ァ――嫌《や》だなァ本当にィ……
第一《だいち》ィあのォ朝おまんまァ食べたっきりでお腹ぺこぺこなんです。
こん中ィ入れなきゃァ気がすまないと思ったらば、表ェ出してご飯を食べさして、あらためてこん中ィこうしまってもらうような具合にならないんですか旦那ァ?……旦那ァ……勘弁してくれねえなァ。
けェどもいくら小言をいわれてもやまないのが芝居。どうしてあたしゃァこんなに芝居が好きなんだろうなァ……
(太鼓の口真似で)てん、すってん、てん……着到を聞くってえとぐうゥゥッと体が吸込まれるようだ。
何度見ても飽きがこないのが忠臣蔵、大序から幕数《まくかず》が、十二段目までずいぶんあるけれども気が入って見るのがたった二幕。四段目に六段目《むっつめ》、六段目《むっつめ》のほうは小身者の腹切りだけに、楽屋で三味線弾いたり笛が入る。
そこいくてえと四段目、これァご大身《たいしん》の切腹だけに、出物止《でものど》め。合間に太棹《ふと》が(口真似で)でえーんでえーんッとあしらうだけだ。
一杯の見物人手に汗を握って、幕の開くのを待っている。そのうちに三っつめの拍子木《つけ》がちょーんと鳴ると、柝《き》なしでもって、幕がつつつつつつつつつ、平舞台周囲《しらぶたいぐるり》に襖《ふすま》、丸に違い鷹の定紋、下手に、斧九太夫《おのくだいう》原郷右衛門《はらごうえもん》上使《じょうし》受けに出る。
そのうちに揚《あ》げ幕の内《うち》で上使触《じょうしぶ》れてえのがある。出て来るのが、石堂右馬之丞《いしどううまのじょう》薬師寺次郎左衛門《やくしじじろうざいもん》、石堂ってえ人《しと》ァ色白ないい男だ、薬師寺てえ人ァ真ッ赤な恐い顔ォしてえる。
上手へ直る、正面の襖を開けて、出ていらっしゃるのが塩冶判官高貞《えんやはんがんたかさだ》。
黒二重《くろはぶたい》の五所紋付《いつところもんつき》、同じ羽織を着て、『(芝居調で)これはこれは、ご上使とあって、遠路のところご苦労に存じたてまつる。
なにはなくとも粗酒《そしゅ》一献《いっこん》。たそあるか、酒《ささ》の用意』、『(大声で)なに酒? こりゃよかろう、この薬師寺もお相手《あいて》ないたそう。が、今日《こんにち》の、上使の趣うけたまわりなば、酒も咽喉ィは、通りますめえ』――憎《にく》らしいことをいう。
これに構わず立ちあがるのが石堂右馬之丞。懐から書付《かきつけ》のお父《と》ッつァんみたいのを出してな、『(扇子をばっと広げて声を張り)上意《じょうい》』ッという――座がしいーんとするなァ。
『しとつこの度、伯州《はくしゅう》の城主《じょうし》、塩冶判官高貞儀、私の遺恨により、執事たる師直に傷を負わせ、殿中を騒がしたる科《とが》により、国郡家《くにこうりいえ》没収《ぼっしゅ》し、その身切腹、申しつくるものなり』、読みあげといて判官さんのほうィきっと見せる。
心得《こころい》たという思《おも》い入れがあって、『お役目相すまば、まずゥうち寛《くつろ》いで粗酒一献』、『(大声で)黙れ伯州! またしても酒々と、自体、この度の科というのは、出頭《しゅっとう》たる師直に傷を負わせ、縛《しば》る首にも及ぶべきところを、格別の憐愍《れんびん》をもって、切腹仰せ付けらるるを、ありがたし、かたじけなしと三拝なし、早速用意もあるべき筈を、見れば、当世様《とうせえよう》の長羽織、ぞべら、ぞべらとしめさるるは、うん、よめた、おん身は血迷うたか、いやさ狂気召されたか?』

 定吉の文字通りの一人芝居によって、結構、その映像が浮かんでくるではないか。

 「ぞべら、ぞべら」という科白、結構インパクトあるなぁ。

 続ける。
『あいや、伯州の城主《じょうし》、塩冶判官高貞、血迷いもせず、まった狂気もつかまつらん。今日《こんにち》お上使とうけたまわるより、かくあらんとはかねての覚悟』、すばやく着物を脱ぐ、下《した》ァ無紋の上下《かみしも》。
見ている者《もん》も驚いたが薬師寺てえ小父さんいい過ぎたもんだから目ばかりぱちくりやってる。これを見るなり石堂右馬之丞が、『ご用意のほど感じいったり、いい残さるることあらば、うけたまわるものもあり』、『こは、ご親切なるお言葉、ただ恨《うら》むべきは殿中にて、(力入れて)本蔵ッとやらに抱き留められ、(膝をうって、身をかきむしって)無念――』 
『ああいや……ご用意よくはお心静かに』。
所司《しょし》が畳を二枚、裏返《うらがい》し、白木綿、四隅《よすみ》に樒《しきび》。その上に判官さん、ぴしゃりっと座を構いる。
上手《かみて》から大星力弥、九寸五分を三方《さんぼう》の上へ乗せて、検使の前《まい》へ出す。目でよろしいと知らせる。判官さんの前《まい》へ据えて、下手へさがる……いいとこだなァ
(太棹の口真似で)でえーん――こら一人《しとり》で忙しくなってきたなァこらァどうも……でえーん……でえーん……肌を脱いでお腹をこうさするんだ――(と仕草をする)固いと切り担《そくな》うといけないッてなもんでな。九寸五分を半紙ィくるくるッと包ンで、三方を押し戴いてお尻《けつ》ィ支《か》う。お腹を切っても形のくずれないよう――細かいとこィ注意するもんだなァ……でえーん。
『力弥、力弥』『はァはァ』、『由良之助は?』、『いまだ参上、つかまつりませぬ』、『由良之助まいりなば、存生《ぞんじょう》に対面せで、残りおおいッと申し伝えよ』――
いいとこだなァどうもな……(べそをかいて)お腹がへっちゃァしょうがねえなァどうも……(声を張って)旦那もういいでしょ――いいかげんにおまんまァ食べさしてくれてもォ……先ァ演《や》っちゃうぞォ畜生《ちきしょう》……『力弥力弥由良之助は?』言葉せわしゅう問いかける。力弥もたまりかねて花道の附際《つけぎわ》、揚《あ》げ幕をきっと睨ンで、『どうしてお父ッつァんがこんなにおそいのだろう』て思い入れがあって、『いまだ参上』、つッつッつッと元ィ来て、『つかまつりませぬ』。『ご検使、お見、届けくだされ』。(力を入れて)右の手へ刀を持ちかいる。もうこれで口のきけないのが法だそうだなァ。
脇腹ィぶすっと刺すのがきっかけ、揚げ幕からばたばたばたばたッ、出てくんのァ大星由良之助、七三《しちさん》のとこまで来てひょいッと見ると検使がいるので、思わず平伏『はァッ……由良之助ただいま到着』。これを見ンなり石堂右馬之丞、舞台|端《ばた》までつかつかッと出て、
『おお、国家老、大星、由良之助とはその方か、苦しゅうない近う、近う』、
『はァはァ、はァァ』……じいっと頭を上げる。ご主人はお腹《はら》召されたあと、
『(膝を打って)ああおそかったか』という思い入れがあって、懐《ふところ》ィ手を入れるてえと腹帯《はらおび》をぐうゥッと締めて、すり足で、つッ、つッ、つッ、つッ、つッ、つッ、つッ、つッ、つッ、つッ……
『ごぜん』、
『由良之助かァ』 
『はァはァァ』、
『待ちかねたァ……』、(と急に力がぬけて) つ、つ、つ、つ、つ、つゥ……
(べそをかいて)いいとこでお腹ァへっちゃァしょうがねえなァどうも……
(声を張って)旦那もういいでしょ――ずいぶん入ってるんですからァ……ご飯食べさしてくださいよおまんまをォ……

 この後、蔵の中にあった本物の刀を使って切腹の芝居をしている定吉を女中が見かけて・・・・・・。

 私は、生の歌舞伎を観たことはないし、今回の通し公演も、諸般の事情で行かないだろう。

 歌舞伎は、あと数年したら、連れ合いと一緒に行こうか、などと思っている。
 しかし、あのお方は、落語に何度も連れて行ったが「何が面白いか、分からない」ということで、同行するのを諦めた過去がある。歌舞伎も・・・・・・。
 
 『四段目』は、柳枝が私にとってベスト音源だが、大須での志ん朝の音源もある。
 最初の年、平成2(1990)年の三日目の高座で、まくらを含め50分を超える。これは、まくらがとりわけ楽しいのだ。そのうち、書き起こそうと思っている。

 今年の通し公演には縁がないが、『四段目』に限らず『七段目』や『中村仲蔵』『淀五郎』など、落語で忠臣蔵を楽しむことができるから、私は今のところ不満はない^^


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Commented by saheizi-inokori at 2016-10-27 22:20
反芻できました、ありがとう。
ただ、判官が「すばやく」着物を脱ぐというのは定吉の見間違いか、役者の間違いじゃないかな。
由良之助がくるまでの時間かせぎをしているのだから、酒を薦め、服もゆっくり脱ぐのでしょう。
Commented by kogotokoubei at 2016-10-28 08:48
>佐平次さんへ

なるほど、たしかにここは時間稼ぎのためですから、ゆっくりなのですね。
定吉は国立劇場では観ていないのでしょう^^
大須の志ん朝の音源をあらためて聴いたのですが、まくらのみならず、本編も実に良かった。
52歳の時で、噺に勢いがある。
四段目を語る定吉が、実に楽しそうなんです。
よほど、歌舞伎役者になりたかったんだなぁ、と思いました。
Commented by ほめ・く at 2016-10-28 10:09 x
昨夜、雲助の素晴らしい『淀五郎』を聴いてきたばかりです。なかでも中村仲蔵が淀五郎に、判官を演ずるにあたっての役者の心構えを諭す場面が圧巻で、息を呑む思いでした。
同じ仲蔵でも、売り出しの頃と座頭になってからでは、人物の大きさが違います。その点も雲助の高座は説得力がありました。
Commented by kogotokoubei at 2016-10-28 12:27
>ほめ・くさんへ

らくだ亭、最近は縁がなく久しく行ってないんです。
ちなみに、26日は、関内に居残りメンバー集合でした^^
雲助の『淀五郎』は良かったのでしょうね。
円生の高座をテレビで観たことがありますが、仲蔵が淀五郎に切腹の場面を演じさせて注視している場面が、印象に残っています。
『中村仲蔵』は円生より正蔵が好きなのですが、『淀五郎』の円生は実に素晴らしい。
次第に忠臣蔵の季節になってきましたね。
Commented by 麻生 at 2016-10-31 07:26 x
しばらくまえにお邪魔した麻生です。
御連れ合いさまに、まず
「ラスト・ナイツ」
という映画をすすめてみてはどうでしょう。なかなかの迫力でした。で、この映画の元ねただよと口説いて…・・
Commented by kogotokoubei at 2016-10-31 08:57
>麻生さんへ

貴重な情報ありがとうございます。
まず、その映画について知らないので、調べて検討しますが、あの方の感性ハードルはなかなか高いので・・・・・・。
Commented by 麻生 at 2016-11-01 18:23 x
「ラスト・ナイツ」
おそらく
「ラスト・サムライ」
を意識して名づけられたのでしょう(監督さんに尋ねてみたいものです)。

数年前、ちょっと事情があって西南戦争について調べたのです。驚きました。あの戦争に、日本政府は六万人少々を投入したのです(資料によって微妙に違うのですが)。そのうち、なんと、六千人が討ち死に・・・・・・・。日本史上最後の武士団は、激烈に抵抗したのでしょう。
そうだ。気が向いたら、東郷隆の
「香水」
という短篇小説を読んでみてください。
Commented by kogotokoubei at 2016-11-01 20:37
>麻生さんへ

「ラスト・ナイツ」の公式ホームページは見ました。
なかなか興味深い映画ですね。

西南戦争は松井今朝子の「銀座おもかげ草紙」シリーズの『西南の嵐』が印象深い小説です。
侍社会に蓄積した「ガス抜き」とも言えるのかもしれませんが、実に悲惨な内戦でしたね。
『香水』、記憶に留めておきます。


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by kogotokoubei | 2016-10-27 21:18 | 落語のネタ | Comments(8)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛