噺の話

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むのたけじさんのご冥福をお祈りします。


 むのたけじさんが、21日に101歳の天寿を全うされた。

 以前に黒岩比佐子さんの聞き書きによる本『戦争絶滅へ 人間復活へ』から、むのさんが五代目柳家小さんについて語られた内容を紹介した。
2013年10月20日のブログ


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むのたけじ『99歳一日一言』(岩波新書)

 2013年11月に、同じ岩波新書で発行された『99歳一日一言』という本の成り立ちについて、巻末にご子息の武野大策さんが、次のように書かれている。

この本作りにつながって

 この本を作る直接のきかっけは、父、むのたけじが眼底出血を患い、その治療を終えて、横手の実家に送っていった2008年8月31日に、長いいわれを付けて渡された100枚近い色紙にあります。その力強い字体に驚いて、その中の36枚を取り出して、これをこのまま複写して本にできるのではないかと提案しました。私は、10歳くらいですでに父親とは別の道を行くと決めていたこともあり、それまで父親の著作を読むこともほとんどなかったから、父親はそうした提案に驚いたかもしれません。その話はすぐに実現されることはありませんでしたが、こうすれば息子に自分の考えを伝えられると思ってか、折に触れて父は色紙を私に渡すようになりました。その様子の典型的なものを紹介します。
 私は、日ごろの運動不足を解消させるために、隣町にある川越の喜多院というお寺に月に1~2回くらい自転車で行っていました。そのようなサイクリングをしたある日の夕方に、この本で一月一日に紹介した「拝むなら自分を拝め。賽銭出すなら自分に渡せ・・・・・・」という色紙が何枚かのものと合わせて渡されたのです。私のお参りは人並みで特に信心が深いから行くのではないとわかっていながらこのような色紙を渡すかと、それを見た瞬間は反発を覚えましたが、それでもていねいにそれを袋に入れて保存しました。
 こうしたことで保存がしっかりしていると思ったのか、その後渡されるものが増え、「語録」と書かれた大判のノートも加わりました。色紙も増え、渡されるようになって5年近く経過した2013年2月には確実に1100枚を超えましたが、ただこのまま保存しておくのでは埋没させるだけのような気がしました。
 (中 略)
 私はいままで、生物が行っている一つか二つの生理現象を科学的に説明する研究に従事してきました。それは、人間をはじめとする生物の内部で行われていることを明らかにすることで、とりわけ20世紀になって飛躍的に躍進し、細部にわたってまで解明されました。ただ、いまだに「いのち」とは何かは解明されているわけではありません。こうした知識で、人間生活の便利さを増やすことはあっても、本質的な生き方を問うことはほとんどありませんでした。この本作りにかかわって、私はこうした科学研究で得られた知識が人間の生き方そのものを考えさせることに結びつく必要性を痛切に感じたことを話しました。それに対して、父が私に言ったことは、「生命科学のその『いのち』とは何かを問え」です。
 私の子ども時代には家庭生活を顧みることもなく社会活動だと言って外に出ていた父・むのたけじと、この本作りにつながって、そのことの親父の年を超えてから親子の会話・交流が出来たように思います。いずれにしろ、先の世代が後の世代にその経験をキチンとした情報として残すことができるのは、あらゆる生き物でおそらく人間だけが持っている能力です。だから、この能力を存分に利用することが大切です。この本がそうしたものとして受けとめてもらえることを願っています。

 私と年齢の近い大策さんは、次の埼玉新聞の記事にあるように、お父上の最後を看取られた方。
埼玉新聞の該当記事

 色紙や大学ノートでご子息に渡された言葉は、大策さんのおかげで、広く日本国民にとって有益な、硬骨のジャーナリストむのたけじさんの遺言集という財産となった。

 大策さんは、残された数多くの言葉から感じる季節感に従って、365の珠玉の言葉を並べてくれた。
 それらは、「人間がどのような生き方をすればよいか、問うているように思いました」と大策さんは記している。


 本書から、命日となった8月21日の「一日一言」を紹介したい。

八月二十一日

 戦時中、軍の輸送船でボルネオ海を渡ったとき、ひどい嵐にぶつかった。泳げない私は死ぬしかないと腹を決めたら、不思議と心は落ち着いていた。けれど最後に残った残念・無念は、この私が、いつ、どこで、何ゆえ、どんな有り様で死んでいくか。それを妻と子らに知らせる術がないことだった。戦場で死んだ多くの人たちは同じ思いでなかったろうか。

 幸運にも、むのたけじさんはボルネオ海に沈むことなはく、天寿を全うされ、ご家族に見守られて天国へ旅立たれた。
 そのおかげで、残された著作や珠玉の言葉を、大切にしたいと思う。

 合掌
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Commented by saheizi-inokori at 2016-08-23 09:48
松明の火を絶やさないようにしましょう。
Commented by kogotokoubei at 2016-08-23 12:05
>佐平次さんへ

おっしゃる通りです。
その火が、間違いなく「夜の終わりに朝が来る」ことにつながると信じます。
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by kogotokoubei | 2016-08-22 12:47 | 幸兵衛の独り言 | Comments(2)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛