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野球、バドミントン・・・賭博問題で抜けている「ギャンブル依存症」という視点。

 プロ野球選手の問題の後に、バドミントン選手の賭博関与問題が続いてメディアを賑わわせている。

 この問題には、人それぞれの感想なり、心情を持っているだろう。

 メディアに現われる内容には、主に次のような指摘や感想があるように思う。

(1)本人の責任
 つい、海外で「合法」賭博を経験し楽しい思いをしていたので、軽い気持ちで、
 「違法」賭博に手を出した、本人の問題である、という指摘。
  
(2)協会など周囲の管理不行き届き
 国際試合などへの参加に税金が使われていることもあり、所属する協会に、
 選手の日常行為についても監督し、また、行動について教育する義務があるのに、
 それを怠った、という指摘

(3)賭博を合法化しないことが問題
 賭博を合法化しないから、違法賭博がはびこる。積極的に合法化し、国の管理下に
 おくべきだ、という主張

(4)情状酌量して良いのでは、という擁護論
 日々辛い練習に明け暮れ、世界レベルの緊張感の高い試合に臨んでいる選手には、
 そういう気晴らしも必要。今回の罰則は厳しすぎるのではないか、という主張。

 私には、何か重要な視点が抜けている気がしてしょうがない。

 「ギャンブル依存症」という病気に関する視点である。

 若手の後輩を誘った先輩のバドミントン選手は、ほぼ間違いなく、この病気だと思う。
 プロ野球選手で罰則を受けた人の中にも、患者がいたと察する。

 今回の一連の問題、「病気」という認識を持つことも、重要だと思っている。
 もちろん、病気だから仕方がない、ということではなく、この病気の患者を増やさないためにどうしたらいいか、という議論が必要だと思うのだ。

 プロスポーツ選手や、アマチュアでも世界的レベルの戦いに明け暮れる人は、たしかに、その緊張感の「オン」を緩和する「オフ」の必要性も高いだろう。
 また、気質として、スポーツ選手にギャンブル好きが多いという指摘も、あたっていると思う。

 しかし、「ギャンブル依存」という病気は、スポーツ選手に限った疾病ではない。

 過去に、この問題を真正面から取り上げたテレビ番組もあった。
 この4月から大幅に装いが変わり、民放のような軽い番組になってしまった感のあるNHKの「クローズアップ現代」だが、かつては実に良い内容を放送していた。数少ないジャーナリスティックな報道番組として、録画してよく見たものだ。

 その中に、2014年11月17日の「“ギャンブル依存症” 明らかになる病の実態」がある。
 NHKのサイトに過去の放送を紹介するページがある。
NHKサイト「クローズアップ現代」過去の放送の該当ページ

 一部引用する。
 まず、ギャンブルにのめり込むことで、脳の活動そのものが変わる、という専門家の指摘。
 画像は、ぜひリンク先でご確認のほどを。


いったんギャンブルにのめり込むと、なぜやめられなくなるのか。
右側の画像は、一般の人の脳が周囲の刺激に対し、赤く活発に活動している様子を示しています。
一方、左側の依存症患者の脳では活動が低下しています。
ギャンブルにだけ過剰に反応するようになり、脳の機能のバランスが崩れてしまったのです。

京都大学大学院医学研究科 医師 鶴身孝介さん
「意志の問題で片づけられてしまいがちだが、脳にも明らかな変化が起きている。
(ギャンブル依存症の)影響は大きい。」
 
 これは、間違いのない「病気」である。

 他の専門医師の証言もある。

本人の資質の問題とされがちだったギャンブル依存症。
これを精神疾患と捉え本格的な治療を訴えてきたのが、精神科医の森山成彬(なりあきら)さんです。
精神科医 森山成彬さん
「なまやさしい病気じゃないんです。ギャンブル障害になったら脳が変わる。」

森山さんは9年前、正確な実態を知ろうと、患者100人に対して日本で初めてのギャンブル依存症の調査を行いました。
平均的な姿は、20歳でギャンブルを始め、28歳で依存症の兆候である借金をし始めます。
ところが、病院で受診したのは10年余りあとの39歳。
周囲の人が依存症の兆候にいち早く気付き、本人に治療を受けさせることが重要ですが、見過ごされているのが実態です。
依存症患者がつぎ込んだ金額は平均1,293万円。
中には1億円を超えてもなおやめられない人もいました。

 ごく「普通の人」でも、この病気になるのだ。
 
 「クローズアップ現代」は、たしかに「やらせ」が存在した放送もあったのだろう。
 しかし、その一部をもって、あのシリーズを有害とするには、あまりにも惜しい番組だった。

 病気を発症した人がのめり込んだギャンブルは、パチンコ・パチスロという「合法」駅な遊戯も含んでいる。

 プロスポーツ、あるいは、世界トップレベルのスポーツ選手たちには、他の人よりも、気質的にギャンブルが好きな人の割合が高いと思うし、活躍している時期には収入も多いだろうから、「違法」賭博関係者からの誘惑の手が伸びやすいだろう。

 しかし、「ギャンブル依存症」という病気は、誰にでも発症の可能性がある。

 これは、「違法」を「合法」化したら、その患者を増やす可能性は増えても、減らす方向には進まないに違いない。

 そうなると、病人を増やし健康保険に税金の投入を増やすだけではないか。

 親や親戚、所属団体といった周囲の人からの管理や教育的指導も必要かもしれない。

 しかし、「病気ではないか?!」という視点があれば、その病気を「治療」させようという方向に行動は進むはずではなかろうか。

 韓国では、パチンコ(名称は「メダルチギ」)を、贈収賄などの犯罪の温床になっていることと「ギャンブル依存症」となる国民が増えたことを踏まえ、2006年に全廃した。

 日本でも、まったく同様の問題を抱えている。

 精神科医で作家でもある帚木蓬生は、自分の医者としての経験を元に「ギャンブル依存症」の実態を明らかにし、警鐘を鳴らす本を何冊か書いている。
 昨年『ギャンブル依存国家・日本』(光文社新書)を上梓し、光文社のニュースサイト「NEWSポスト・セブン」の2015年2月の記事に、「著者に訊け」という記事が掲載されている。
NEWSポスト・セブンの該当記事

 この記事から引用したい。
 ギャンブル依存は本人の性格でも自己責任でもなく、「脳内の報酬系神経伝達物質ドパミンが異常分泌する精神疾患であり、病気。ピクルスが胡瓜、たくわんが大根には戻れないように、本人の意志ではどうにもなりません」と、作家で精神科医の帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)氏は言う。

 その実態を広く訴えたのが、『ギャンブル依存とたたかう』(2004年)や『やめられない』(2010年)だとすれば、本書『ギャンブル依存国家・日本』の主語は国や社会。つまり日本では患者以前に社会そのものがギャンブルなしでは生きられない、またはそう思い込む、依存体質に陥っているというのだ。

 昨年、厚労省が発表した国内全成人の有病率は4.8%(男性8.7、女性1.8%)。この数字は米国1.6%などと比べて圧倒的に高く、実数にして536万人もの患者を日本は国ぐるみで放置してきたのである。その背景には各種公営競技やパチンコまで、持ちつ持たれつの利権構造が絡み、国や自治体は経済振興や雇用対策を今なお口実にする。

 福岡・黒崎駅前から南は筑豊直方まで、かつて炭鉱で栄えた町々を結ぶ線路を、二両編成の車両がゴトゴト行き交う筑豊電鉄・通谷駅。無人駅のホームを出てすぐの線路脇に『通谷メンタルクリニック』はあり、帚木氏はここで2005年以来、依存者の治療にあたっている。

「元々は以前勤めていた八幡厚生病院でギャンブル依存の患者と出会い、このクリニックを開業したのが10年前。ここなら患者さんも来やすいですし(笑い)」

 現在、福岡県内には専門病院が5軒、自助グループ(通称〈GA〉)も15あり、比較的先進的環境と言える。が、全国に目を移すとGAが計146、岩手・岐阜・鳥取の3県はそれすらなく、わざわざ本州から足を運ぶ患者も少なくないという。

「この病気は薬が効かないから、知らん顔する医者も多いとですよ。いくら専門外だからって風邪の患者を断る内科医はいないわけで、精神科医なら全員、ギャンブル障害を診ないと駄目! ましてギャンブル障害の8割はパチンコやスロットによるもので、パチンコ店は全国に約1万2000軒とコンビニ並みにある。市場規模も約20兆円ですよ」

 薬の効かない病気・・・とは、実に厄介だ。
 
 もちろん、そんな病気にならないための予防段階では、行動や倫理面の指導は必要である。
 しかし、一線を越えて病気が発症したら、専門家による治療がなくては、治すことはできない。
 その施設は、上の記事にあるように、実に少ないのが実態だ。

 今回の一連のスポーツ選手の賭博問題を良い契機としなくてはならないのではないか。

 根本的な問題解決のためには、個人や周囲の努力だけでは済まない、構造的な、国家レベルの取り組みが必須であろう。

 しかし、「ギャンブル依存症」問題を議論したくない人がたくさんいることが、メディアの報道には影響しているに違いない。
 それは、違法ギャンブルに関与する「反社会的」組織だけではない。
 パチンコ・パチスロ業界に関与する人たちは、この問題をあからさまにはして欲しくないに違いない。
 そういう立場にいる人は、本人の責任や周囲の教育の問題に転化しようとするだろう。
 まったくの、誤魔化しである。
 また、「違法」を「合法」にすべき、と主張する人たちは、この病気の蔓延による問題には関心がなく、「経済効果」という名で特定組織・個人の利益を狙っているだけのことであると、私には思える。

 プロスポーツ選手や世界レベルのアスリートの賭博問題に関し、その表層のみをなぞるようなニュースやコメントが多い。
 この「ギャンブル依存症」という病気の視点に立ち、経済、社会福祉などの仕組みを含む構造的な問題としての議論がないことこそ、私は問題だと思っている。

p.s.
ようやく朝日に、「ギャンブル依存症問題を考える会」代表・田中紀子さんの記事が掲載された。
朝日新聞の該当記事
Commented by saheizi-inokori at 2016-04-13 00:58
依存症、きっとそうだと思います。
私の場合はアルコールと本・活字でしょうね。
薬は効きません。
Commented by kogotokoubei at 2016-04-13 08:43
>佐平次さんへ

メディアに、「バドミントンのT選手はギャンブル依存症の疑いがあるので、至急治療するよう家族や周囲は考えるべきだろう」なんていう論調の内容が出てこないのは、実に不思議です。
この病気のことを、話題にして欲しくない陣営(?)からの圧力を感じます。
Commented by kousagi at 2016-04-13 12:35 x
クローズアップ現代は劣化と軟化が激しいNHKの最後の砦のようでした。国谷キャスターと共に終わったはずなのに、「女子アナ」を並べた広告写真は、番組の遺産への冒涜です。
やる以上はスピリットを受け継いでほしいですが、見る気はしません。
Commented by kogotokoubei at 2016-04-13 12:47
>kousagiさんへ

お久しぶりです。
おっしゃる通りで、別な名前にして欲しいですね。
実態は「+(プラス)」ではなく「-(マイナス)」ですから。
昨夜、あのオネイ言葉の教育評論家とやらが出ていて、すぐにチャンネルを替えました。
別に差別ではなく、彼が常に問題の表層のみを見て、誰もが同意できそうな批判しかしないので、好まないのです。
スケープゴートづくりがうまいだけ。
あの人のやっていることは、橋下によく似ています。
まったく、違う番組です。

国谷さん、良かったなぁ。
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by kogotokoubei | 2016-04-12 12:43 | 幸兵衛の独り言 | Trackback | Comments(4)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛