噺の話

kogotokoub.exblog.jp

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。

大西信行、逝く・・・・・・。

 昨日は大寒。

 三年前の大寒の日、大鵬の訃報に接し、次の虚子の句を含む記事を書いた。
2013年1月20日のブログ

大寒の埃の如く人死ぬる

 「大寒の埃」とは、寒く乾燥したこの時期に、人が少し動いただけでも埃がたち、ガラス窓から刺す陽に、無数の埃がキラキラと舞っている様子を表す、とどこかで読んだ気がする。

 それだけ、多くの人の訃報に、この時期の虚子は接していたのだろうか。

 この句は、昭和15年、高浜虚子が六十六歳の時の作。
 太平洋戦争開戦の前年、盧溝橋事件以降の日中戦争が泥沼になっていた時期だ。虚子の知り合いの死を想ってなのか、戦争の犠牲者を想定したのかは分からない。あるいは、一年でもっとも寒い季節ということが背景にあるのだろうか。

 
 そんな寒い季節、今年も残念な報に接してしまった。

 正岡容門下生で、東京やなぎ句会の一員でもあった大西信行が、今月十日に旅立っていたらしい。
 時事通信の記事を引用する。
時事ドットコムの該当記事

脚本家・劇作家の大西信行氏死去

 大西 信行氏(おおにし・のぶゆき=脚本家、劇作家)10日、膵臓(すいぞう)がんのため静岡県長泉町の病院で死去、86歳。東京都出身。葬儀は近親者のみで済ませた。
 文学座の「怪談牡丹灯籠(ぼたんどうろう)」など多数の劇作を執筆、「御宿かわせみ」(NHK)、「大岡越前」「水戸黄門」(TBS)など人気テレビ番組の脚本も手掛けた。昨年の歌舞伎「怪談 牡丹灯籠」の脚本が最後の仕事となった。(2016/01/21-22:56)

 先週の三代目に続く訃報だが、亡くなった日は、一日違いだ。

e0337777_12255238.jpg

大西信行著『落語無頼語録』

 大西信行のプロフィールは、著書『落語無頼語録』(芸術生活社、昭和49年初版発行)の内容が、もっとも相応しいと思うので、引用したい。間違いなく、自分で書いたのだろう。
 ちなみに、Amazon唯一のレビューは、ブログを始める前に私が書いたもの・・・・・・。
 二年後の昭和51年に角川で文庫化もされているが、古書店でさえめったに見かけない。
 この本、ぜひ再刊して欲しいものだ。

大西信行

 1929年 東京神楽坂で生まれた。
 1932年 麻布中学に入学して、小沢昭一、加藤武、堺正俊
     (フランキー)たちふしぎな級友おおぜいを得た。
 1946年 正岡容のもとへ出入りするようになる。
 1949年 早稲田大学文学部国文科に入学。今村昌平、北村和夫たち
      いい友だちがふえた。・・・・・・だのに大学はやめた。
 1954年~65年 NHK芸能局勤務。
     以後、劇作、演出、シナリオライターを業とする。
 著書 「中学生日記」(NHK出版)
     劇作集「牡丹燈籠」(三一書房)

 なんとなく、あったか~い、内容。
 本の著者略歴として、こういう内容は結構稀有だと思う。

 『落語無頼語録』は、昭和48年から『話の特集』に連載された内容が中心。

 この本を書く背景について、「その人たち-あとがきに代えて」から引用したい。
「落語のことを、このへんでまとめてみなさいよ」 
 と、小沢昭一が言った。
 昭ちゃんにすればぼくが中学以来とっぷりと落語に溺れこんでいながら、落語についての発言もいろいろとしていながら、なんらそれについてのまとまったものを残せずにいることを、焦立たしくきっと思っていてくれたのだろう。「ぜひこれを機会に、ねえ、そうするようになさいよ」と、かさねて言ってくれた。
 だがぼくにとっての落語は、それをまとめるといった筋合いのものではないと、ぼくは考えている。大袈裟に気どって言えばバック・ボーン、ふるさと、基盤、なんでもいいや、つまりそうしたものなのであって、それをまとめるよりはそれを土台に据えてその上へぼくなりの仕事を花咲かせ実らせもしたい場である。
 第一器用にまとめるのは苦手だし、悪くまとめるにはなんにつけても嫌いな性質だから、
「まとまらないと思うけど、では落語と落語家のことを毎月書かしてもらいます」
 と、ぼくは言った。
 たしか第一回の「六輔その世界」というバラエティ・ショーを新宿の厚生年金ホールで開催した、その慰労パーティ、朝鮮料理屋の入口に近いテーブルで-だったと記憶している。
 永六輔さんと昭ちゃんが雑誌『話の特集』の矢崎泰久編集長をぼくに紹介してくれて、矢崎氏が『話の特集』にぼくの書いたものを連載してあげましょうということになり、なにを書くかの相談を四人でしていたのである。
「ぼくは・・・・・・」
 と、永さんが、落語と落語家のことを書くとぼくが言ったあとすぐ、
「大西さんがなにかに対して怒っている時が好きだな」
 と、そう言ってくれた。連載するに当ってのぼくの姿勢をそういう言い方で示唆をしてくれたものと承知をして、わかりましたとうなずいてから、
「精いっぱい怒りながら書くことにします。落語にも落語家にも怒りたいことはたくさんありますから-」 と、ぼくは答えた。

 このあとがきから、大西信行にとって落語がどういう存在であったかが、深く伝わる。
 本書、ご本人がこう書いているほど「怒り」は見受けられない。

 麻布、そして早稲田の級友であった小沢昭一さんが、本書の仕掛け人だった、ということだ。
 
 今思うと、私が小言幸兵衛などという名を使って、やや批判的精神で落語や落語会のことを書こう、などと偉そうにブログを始めた時、この大西信行の「怒り」ながら書くという言葉を、少し意識していたのかもしれない。

 ある大ホールでの落語会への小言から、このブログは始めている。

 寿命が長くなった今でも、八十六歳なら往生と言ってもよいのだろう。

 昨年10月5日に、加藤武の文学座劇団葬があった際、最初にお別れの言葉を述べたのが大西だった。
 産経のサイトにある「終活WEB ソナエ」に、その時のことが掲載されている。
 最後の言葉のみ、引用。
産経新聞サイト内「終活WEB ソナエ」の該当ページ
 加藤さん、私もすぐそっちへ行きます。そうしたら、早稲田にいたあの時と同じように、みんなを今いるところへ連れて行ってくださいね。それを楽しみに、逝(ゆ)く日が来るのを待っていますからね。加藤さん、タケちゃん、本当に長い友情をありがとうございました。さようなら。

 天国では、加藤武を含め麻布の級友、早稲田の仲間たち、そして落語家など多くの人々が、「遅かったじゃないか」とばかりに待ち受けているのだろう。

 第二回が放送されたNHK BSプレミアのBS時代劇「大岡越前 3」でも脚本を担当されていた。
NHKサイトの該当ページ
 先ほどまで観ていたが、「うそつき女と若様」は、客演が浅野温子と贅沢。
 冒頭タイトル表示の後のクレジットロール最初に、「脚本 大西信行」と出ていたのを見て、なんとも言えない気持ちになった。

 それにしても、新聞などのメディアでの大西信行の訃報の扱いは、私が思うに、実に小さい。

 「芸能」担当記者は、あの五人組のことやら不倫タレントのことで忙しいのかもしれないが、「芸能」とは無縁の、まったく些末なことでしかない。

 「芸能」ニュースは「タレント(芸能人)のゴシップ」、ではない。
 
 芸能とは何かを勘違いしている今日の芸能記者たちは、彼を語るだけの経験や知識など持っていないのだろう。

 芸能を語れる人があまりにも少なくなってきた今日だから、なおさら大西信行の存在は大きかった、と私には思える。

合掌

[PR]
Commented by 創塁パパ at 2016-01-23 13:07 x
残念です。三代目といい、どんどん大好きな方が。でも思い出は残りますね。
Commented by kogotokoubei at 2016-01-23 19:38
>創塁パパさんへ

正岡容の『東京恋慕帖』の巻末に、大西さん、小沢さん、米朝の鼎談が載っていて、今日は読んでいました。
まだ、正岡容のことを書いた本を読んでいないので、神保町で探そうと思います。
Commented by 創塁パパ at 2016-01-24 07:01 x
正岡さんの本。いいですよ。
Commented by kogotokoubei at 2016-01-24 15:27
>創塁パパさんへ

この本も、ブログを書く前にAmazonのレビューを書いていました。
鼎談だけでも価値がある(^^)
Commented by さすらい日乗 at 2016-02-02 15:09 x
大西さんは大変優れた方で、円朝の『牡丹灯籠』を劇化して文学座のレパートリーにしたのは、大西信行さんです。ただ、間違いはあり、三一書房版の『古典落語体系』の解説で「醤油賭け」について書いておられ、山本周五郎の芝居と書かれていますが本当は吉川英治なのです。人には間違いはいくらでもあるものですが。
Commented by kogotokoubei at 2016-02-02 16:30
>さすらい日乗さんへ

コメントありがとうございます。

「醤油賭け」は、たぶん吉川英治の著『醤油仏』にある内容ですよね。

もちろん、大西さんに限らず、間違いはあります。
私なんか、しょっちゅうです(^^)

今後も、気軽にお立ち寄りください。
名前
URL
画像認証
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by kogotokoubei | 2016-01-22 21:36 | 幸兵衛の独り言 | Comments(6)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛